白竜の肋骨

白竜の肋骨 : SF小説サイト「レザラクス」管理人 岩倉義人のブログ

フラスコの中に
架空の星を一つ閉じ込めて
空中に張り巡らされた
糸の上を歩いていく

本物の星が眠った時にも
仮想の星は歌い続ける

RGBで投影された心にも
林檎の星は転がり落ちていく

鋼鉄の機織り機は光を紡ぐ
別れを紡ぐ遠い世界の
七夕の夢を



後ろ歩きをする
黒猫を見ていたら
星空に街は
吸い込まれていく
始まりの言葉を
閉じたノートに隠して
降り始めることもない
水晶の雪を待っていた

開かれゆく夜を感じて
ひんやりとした手のひらの
感触を求めていた
言葉をなくした小鳥のように
羽ばたくことで空を作りたいんだ

雪の静寂は道を隠して
平らになった雪の水平線を
綱渡りをするように
雪の上を滑っていく

暗闇に染み込んでいく
インクの色を味わう夜に


静かなる風の調べは
閉じた月の瞳を
こじ開けて
見果てぬ夜に
星を捨てて
焼却のささやきを
星雲の焚き火の中に
聞いていた

静けさの磨く海の鏡、
最果ての光をミルクに溶かして

乳の香りの絶えぬ花びらを
雪の道の足跡のくぼみに

しんと青くなるくらいの
暗がりに鳴くアオジという
小鳥の響きを

辞書に載っていない言葉で
風の眠る夜を表す

虚空に浮かぶ花の城には
一角獣が住むという
角で刺された林檎の汁は
滴り落ちて新しい花に
虚栄の森の滅びるままに
葉の一枚に心を浸して

浸食される銀の浜辺に
銅貨を隠して埋め込んで
砂の城に財宝を隠して
価値なき夢の途切れ落ちるまで
三日月の揺りかごから
花が零れ落ちるまで

一角獣の蹄の夢を
覚めてしまうと崩れゆく
虚空の城には羽を預けて
羽無き白馬は歩いていく

羽鳴きの風を聞いていた
ちぎれ飛ぶ雲の一片を
あたたかなスープにひたして
パンのように貪る闇夜

疑いの花びらを湖面に落として
揺らめく波紋に彼岸花を逃がす
傷ついたレモンの表面に
錯覚の指先を這わせて
心を決める、星の重みは
レモンよりも少しだけ軽くて
湯船の中に沈みゆく
レモンの体は

湯冷めする前に
星雲で包んで
言葉通りの
レモンをかじる

心を決める音は
ドアを閉める衝撃の
ほんの一秒前の
風の揺らめき



光の望む影のささやき
ウスバカゲロウの羽を透かして
影絵の街に星は降りてくる
雑踏の中に面影を探して
くるりと裏返しにされた
夜の帳には
銀細工の蛾が集まる
鱗粉の光、露光された
モノクロの粒子は
たった一粒でも
無限の花びらに染み込んでいく

光の蜜は太陽を濡らして
甘くなりすぎた言葉を洗う
ストローで吸おうとしても
凍り付いた光は
いつまでもコップの中に
居座っている

光の望む歌は静かに
だれのものでもない、
星々を見ていた

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