「国際学習到達度調査」(PISA)【2012年】の国別の結果は
次のようになっています。
PISA_6H
※(朝日新聞の記事より)2014.4.2

◆最新追加データ◆
 同じくPISAの2015年に実施された調査の結果は次のとおり。
  (文部科学省・国立教育政策研究所 HPより)

 【数学的リテラシー】
 1.シンガポール
 2.香港 
 3.マカオ
 4.台湾
 5.日本
 6.北京・上海・江蘇・広東
 7.韓国

 8.スイス
 9.エストニア
 10.カナダ

 【科学的リテラシー】
 1.シンガポール
 2.日本 
 3.エストニア
 4.台湾
 5.フィンランド
 6.マカオ

 7.カナダ
 8.ベトナム
 9.香港
 10.北京・上海・江蘇・広東
 11.韓国 
※2015年調査からはコンピューター使用型調査に移行した
 ことによる順位の変化も考えられる。
※中国の上海だけから北京・上海・江蘇・広東の4地域に
 広がったことによる順位の下降が考えられる。


上のデータから何を読み取るかは、いろいろな視点からできるものですが、
私見では言語体系による違いが大きいのではないかと考えています。

上記のデータで一目瞭然なのは、ヨーロッパ言語の国が1つも6位以内に入っていないということです。
青色で太字の国は中国語・日本語・韓国語が主な公用語になっている国です。

まず、シンガポールは中国系の人口が多く、英語と共に中国語が
公用語になっています。
Data Book of The World 2015 によるとシンガポールの人種別の
人口比は次のようになっています。
SINGA

ここで特筆すべきは、フィンランドとエストニアです。
位置的にはヨーロッパなのですが、フィンランド語はウラル語族の系列に属し、
エストニア語もフィンランド語に近く、他のインド・ヨーロッパ語と異なっているということです。

特に重要なのは、数の表現です。中国語・日本語・韓国語は数表現が十進法になっています。
ベトナム語もやはり十進法、そしてフィンランド語・エストニア語は11~19に於いて十の位と一の位が逆になりますが、それ以外はやはり十進法になっています。
それに対し、英語やフランス語では十進法にはなっていません。
 英仏数字

日本語の感覚から言えば、11は ten-one のはずなのですが、そうはならない。
特にフランス語では91が 4×20+11 (quatre-vingt-onze) というかなり複雑な表現になります。
ドイツ語も21位以上は十の位と一の位が逆になります。
※スイス、カナダの一部で使用されているフランス語では元のフランス語
 とは違って、70,80,90それぞれ別の表現を用いているようです。  
 スイス、カナダが上位に入っていることと無関係
ではないのでは?

一方、日本語では、かなり大きな数字になっても、
 65321=6×万+5×千+3×百+2×十+1 という発想で数を読みます。
これらの違いが数的な学習には大きな影響を及ぼすのではないかと予想できます。

また、分数は中国語・日本語・韓国語では分母→分子の順に言うのに対し、
インド・ヨーロッパ言語では、分子→分母の順に言い、しかも分母は序数を使い、
単数と複数の区別もするという複雑なことになります。
分数に関しては、フィンランド語・エストニア語も私が調べた限りでは(英語などと同じように)分子→分母の順に言い、分母には序数を用いるようです。

たとえば、2/3(3分の2)の場合、日本語で「3分の・・・」と言った時点で3分割したイメージを描くことができ、「・・・2」といい終わった時点で3分割したものを2つ取り出すというイメージの作業が行われます。
ところが、英語で two thirds の場合、"two ・・・" と聞いた時点ではまだ大きさも分からずイメージが描きにくい。"・・・thirds"と聞き終わった時点で初めてその2個は実は3分割した大きさのものだったということになります。
さらに 5/12を five twelfths というのは、native speaker でも発音しづらく、子供にとってはなおさらです。つまり、学習の段階でストレスを感じてしまうのではないかと考えられます。

【漢字の有用性?】
数だけでなく、読解力一般について言えることですが、中国語・日本語とその他の言語との大きな違いは、表意文字かそうでないかです。
漢字はそれぞれの文字が意味を表しているので、一度習得すれば、意味の理解が早くできるという利点があります。
たとえば、数字の「 - 」という区別も一目で理解できますが、英語では large - small と表現することになります。アルファベットのような表音文字は一つ一つの文字が意味を表していないからです。
さらに、数学の図形の学習においては、漢字文化圏では「円O」「角ABC」「弧AB」のように簡潔に表すことができるのに対し、アルファベットのように、文字の種類が少ない場合は、circle, angle, arc のように表さざるを得なくなり、それでも同じような文字が並んで読みづらくなります。
そのため、高校数学のようになるとギリシャ文字を借りてきたり特殊な記号を約束事として使用することになります。
さらにもっと基本的な数の表現と読み方にしても、漢字を使用することによって、
「十・百・千 ・万・億・兆・・・」と一文字で単位を表すことができ、発音も1音節に近い2~3音節で済まされます。これに対して、英語では hundred, thousand,  million ・・・と小学生ならつづりを間違いそうな複雑な表現が必要になります。
このように、漢字の利点による読解力やリテラシーについては研究の余地があるかと思われます。
実際に、表意文字である漢字が各科目での理解に有用であるとすれば、漢字教育についてのあり方も再考する必要があると考えられるからです。

以上のように見てくると、PISAのデータを分析して、教育政策や学習方法を考える際には言語体系による違いを考慮する必要があるのではないかということです。

もちろん、言語体系を変えるということは非現実的でその必要もありませんが、教育政策の中に言語体系の違いを踏まえた上でどのように反映させるか。
もし、不利な点があるのであれば、それをどのように克服するかという視点が必要なのではないかと考えています。
そして、日本の場合には、そのような利点があるのであれば、それを更に利用し伸ばす方向を考慮すればいいのではないでしょうか。
PISAが対象としているサンプリング数や生徒の層がどのようになっているのかは定かではありません。
もし、言語体系による違いに助けられて、日本が高順位にあるとしたら、検査方法によっては急に順位が下がってしまうことがありうる訳です。
PISAの問題自体が中国語・日本語・韓国語に有利な傾向にあるのかも知れない
そのことも踏まえて、PISAのデータを分析し、今後の教育政策を考えて行く必要があるのではないでしょうか。

もう一点、気になるのは、上位になる国々の共通点として、外国人労働者が少ない国だといいうことです。
アメリカ合衆国・イギリス・ドイツのように外国人労働者の率が高い国は上位に入ってこないという傾向も見られます。日本も人口減少によって、外国人労働者に頼る必要が出てきたときの教育の問題が考えられます。
が、ここでは少し主題が異なりますので、別の機会に譲りたいと思います。

【ノーベル賞】
 一方で、ノーベル賞受賞者の数は、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスに
 比べ、日本、中国、韓国が圧倒的に少ないのは、一つの原因として言語の
 違いにあるとも考えられます。

★結論として最も念頭に置いておかなければいけないことは、PISAの結果データから安易に東アジアの教育が特別に優れているとか、人種的に優位にあるというような間違った判断をしてはいけないということです。

私自身、すべての言語に熟知している訳ではありませんので、間違いがあるかも知れません。
他の言語、特にフィンランド語・エストニア語に詳しい方がおられましたら、ご意見・ご指摘もいただきたいと思っています。

また、PISAの問題がそれぞれの国の言語に翻訳されたものを読んだわけでもありませんので、その翻訳の違いによる影響の大きさについて分析した訳でもないことをお断りしておきます。


MKJ_BTN

================================