小学校低学年の頃から、作文の宿題を出されて、
「なんでも思ったことをそのまま書きなさい。」と言われたものの
何をどう書いていいのかまったく分からずに困った経験というのは
ほとんどの人にあるのではないでしょうか。
やがて、読書感想文を書きなさい、中学・高校では税の作文や人権作文の宿題を出される。が、いっこうに作文の指導はしてもらえない。
作文の書き方を適切に指導してもらえた経験のある人はごく限られているでしょう。学校の教師自身が、十分な作文指導の教育を受けていないことが一因です。
さらに、授業のカリキュラムを消化することに追われて作文指導に時間を取っていられないということもあって、
「思ったとおりに素直に書きなさい。」
とでも言うしかない。
作文コンクールなどで、毎年同じ学校から優秀な作文が入賞しているのは、力のある指導者が居るからでしょう。私自身、ある年度に集中的に読書感想文の指導をしてあげて、某出版社のコンクールに応募すると、3人の中学生がこぞって入賞した経験があります。つまり中・高校生も少し指導をすれば入賞できるくらいの感想文を書ける素養は備わっているのです。
しかし、そんな環境に恵まれなかったら、作文の技法を自分で勉強するしかなさそうです。そんなとき、中学生・高校生(興味がある小学生も)にとって最適な本があります。

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「日本語のレトリック」
--文章表現の技法--
著者=瀬戸賢一
岩波ジュニア新書(本体840円+税)

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作文に上達するには、
「いい文章をたくさん読んで参考にしなさい。」と言われることもあるでしょう。
確かに、楽器を習得しようとする人にとっては、きれいな音楽を聴くのも大切、スポーツで上達しようと願う人にとっては、上手な選手のプレーを見るのも大切。しかし、それだけで楽器が上手に弾けるようになったり、プレーができるようにはなりません。
音楽でもスポーツでも、正しい練習方法を繰り返すことによって身につきます。

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「日本語のレトリック」を読み始めると「はじめに」から快いリズムのある文章に引き込まれます。この「はじめに」は単なる前書きではないので、しっかりと読んでおく必要があります。
最後のまとめと言える「レトリックを文章に生かす」の単元で「はじめに」自体がさまざまなレトリックを駆使して書かれている文章だということに気づくはずです。

本編は最初に【レトリックとは何か】から始まりますから、詳しい説明はここでは省略しますが、
「あらゆる話題に対して魅力的なことばで人を説得する技術体系である。」
と広い意味で定義しています。
そして、レトリックを30に分類して解説し、巻末には親切な早見表で整理してくれてあります。

レトリックのうち、隠喩・直喩・擬人法などは学校でも習っているはずですが、
それぞれの違い程度で、実際にそれらを使いこなせる段階までは到達していないでしょう。
「日本語のレトリック」では隠喩と直喩の中間形態があることなどを、例文を掲げて詳しく説明してくれています。
それだけではなく、換喩・提喩・誇張法・・・と30に分類されたレトリックの説明が、読む人に伝わりやすい文の技法があることを納得させてくれます。

では、この本を読めばすぐに上手な作文が書けるかというとそんなことはありません。こんな大工道具があるよと教えられても、急に家を建てられないのと同じことです。もちろん楽器演奏やスポーツと同じように、身につくまでの練習が必要です。
しかし、この本を読み終えた後、作文の練習をする明るい道が開けた気持ちになれるだけでなく、読解力も身についていることを感じるはずです。
小説を読みながら、この作家のこの表現は「換喩」を利用しているなとか、今まで読み過ごしていた表現が「誇張法」だったことに気づいたりします。あの小説はとってもおもしろかったなとか、感動したなと思っていた文章には実はさまざまなレトリックが用いられていたことを実感させてくれるはずです。
そのように意識しながらいい文章を読むうちに、自分が作文を書くときにも身についてくるのを感じることができるのです。

レトリックと言うと少し難しく聞こえますが、日常会話の中にもごく自然に含まれています。ただ意識せずに使っている表現方法をすっきりと整理して、今度は意識的に活用できるようになればいい訳です。
文章に慣れた人は、さらに意識せずにレトリックを最大限に利用して素晴らしい文章を書いています。
そこに到達するには、かなりの練習と場数を踏む必要があります。

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 レトリックの例を見てみましょう。

◆共感覚法・・・五感を結ぶ
 テレビの食レポの番組を見ていると、
 「とってもジューシーですね。」
 「不思議な食感ですね。」
 のようなありふれた(陳腐な)表現をよく耳にします。
 なんだか分かったようで、どんな味なのかよく伝わってきませんね。
 では、共感覚法の例として引用された文章はどのようになっているか;
「〔その春巻きは〕歯にあたるとサクリとして脂のいい香りがした。中の具は竹の子の千切りと真紅の海老で、なんだか分からないが舌の味蕾(みらい)をくすぐる香ばしい下味が染み通っている。醤油なぞつける必要はない。」
ここでは、味覚以外の感覚がいくつも動員されていて、
触覚=「歯にあたる」「くすぐる」
嗅覚=「いい香り」
視覚=「下味」「染み通って」
聴覚=「サクリ」
「おいしい」とか味に関する言葉は直接使われていないのに、五感を総動員させて伝わってくるものがあります。

◆修辞疑問法・・・疑問文で叙述する
 形は疑問文なのに、意味は平叙文に近い表現法。
 ただ単に平叙文になるだけでなく、より意味を強めることもできます。
「誰がこんな事態を予想できただろうか」は、形の上では疑問文だけれども、「誰にも~できなかった。」というむしろ強い否定文になっています。
論説文などにもよく見られる表現方法で、マスターすると読解にもおおいに役立ちます。
この技法は英語など外国語にも見られますが、単調になりがちな日本語の文には効果的な表現に利用できます。
日本語の文は動詞か助動詞の終止形で終わる場合が多いので、文末が単調な繰り返しになりがちです。そんな中で、疑問文で終わる文が適度に変化をつける役割もしてくれます。

◆換喩(かんゆ)
「横断歩道を黄色い帽子の一団が渡って行った。」
と言うと、帽子が勝手に歩くはずはないので、幼稚園児か小学生のグループが歩いて行く様子を表現できます。
また、与謝野蕪村の俳句の
「春雨やものがたりゆく蓑と傘
では、人間そのものを書いてはいないのに、情景が鮮明に描かれています。
このように、ある文脈のなかで、もっとも目立つところを表現することによってより印象的に情景を伝えることができる技法。


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「日本語のレトリック」は図書館にも置いてあるでしょうが、自分で購入して手元に置き、必要に応じて見直しできるようにする方がいいでしょう。
それだけの価値がある本です。

レトリック



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