「クマゼミから温暖化を考える」(沼田英治)
 岩波ジュニア新書
 価格=820円+税

今回はこの本の紹介です。
西日本の都会では、クマゼミが急増し、夏の朝から迷惑なほど騒音とも言える鳴き声が響き渡ります。
さらに、近年は神奈川県や東京都でもクマゼミの声が聞かれるようになってきています。
かつて珍しかったクマゼミの生息域の広がりは地球温暖化のせいでしょうか?
仮に結論はそうであっても、真の意味の研究者は緻密な調査や実験による証拠を確実なものにしてからでないと、容易には結論を出しません。この本の著者も、長い年月と労力をかけて研究をしています。

身近に居るセミの生態について、もう少し知りたいという人には最適の一冊であり、セミに限らず、科学的研究への入門書です。
地球温暖化とは何なのか、ヒートアイランド現象とはどういうことかをもう一度確認してみる機会にもなります。


kumazemi

数十年前、大阪近辺の都市部ではアブラゼミやニイニイゼミが一般的で、クマゼミはあまり見られませんでした。たまに見つけても木の上の方に止まっていて、子供にはなかなか捕らえられるものではありませんでした。
ところが、最近では木の低い所や金網、壁といった所にまで止まっていて、簡単に素手で捕まえることができるようになりました。この予想できなかった変化は何が原因なのか。

この本の著者は、原因を簡単に温暖化のせいにするのではなく、いろいろな要因について先入観を持たずに研究を続けています。
セミは地上で飛び回るのは生涯のうちの1%ほどで、残りの99%は卵か幼虫になって地面の中で暮らしています。つまり、卵や幼虫を知ることなくセミの実態を知ることはできないのです。
木の枝に産み付けられた卵は雨が降った後などに孵化し、土中に移動するのですが、この時期が最もひ弱で危険な時期で、その大半がアリやクモの餌食になってしまうそうです。
そしてクマゼミの場合、7年間は土の中で木の根から汁を吸いながら行き続けるのですが、冬の寒さに耐えなければいけません。土の中でも、アリやカビが原因で死に絶える幼虫もいます。

里山よりも、都会の住宅地や公園の方がクマゼミが多いのは、温暖化だけでは説明がつきません。
そこで、実験を重ねた結果、土の硬さによってセミの種類に違いが出ることが分かったのです。
(こんなところにまで目を付けて確かめる研究をするのが研究者の偉大さです。)

公園のように人によって掃除され、踏み固められた固い土でも、卵から孵化した後、土にもぐれるのはクマゼミが最も可能性が高く、その他のセミは固い土が苦手で、もたついている間にアリやクモの犠牲になってしまう。そのために、クマゼミが増えただけでなく、アブラゼミやニイニイゼミなどが都会では減少してしまったと考えられるのです。

つまり、クマゼミが急増した要因は、簡単に温暖化のせいで終わってしまうのではなく、
湿度(雨の降る時期や多い少ない)、土の硬さ、公園などに植えられている樹木の種類など
あらゆる条件を徹底して研究する必要があることがよく分かります。

◆夏休みの自由研究に最適
 セミの成虫の生態を調べるのは比較的やりやすい自由研究の一つです。
 場所=自分が住んでいる家の近くの公園の樹木にもセミが見つけられるでしょう。
    ただそれだけでなく、近くに神社や雑木林などがあれば、そこに行ってみるのもいいでしょう。
    里山が近くにあれば、少し高い場所に居るセミに違いがあるか確かめてみるのもいいでしょう。町中と山道、さらに山の高い所ではセミの種類が違ってくることにも気がつくはずです。
 時期=7月頃からセミの声が聞こえ始めますが、1週間、2週間と経つにつれ、違った種類のセミの声が聞こえることに気がつくはずです。
    限られた場所ですが、4月末から6月にかけてハルゼミの声を聞けるかも知れません。
 時刻=クマゼミは朝早くから鳴き始めますが、午後になるとアブラゼミ、ニイニイゼミやツクツクボウシなど、時刻によっても鳴くセミの種類が違うことも確かめることができるでしょう。
 樹木=公園などに植わっている樹木の名前が分かれば、どんな木にどのようなセミが多いのか調べることもできます。

木の高い所に居るセミの種類は目で確かめるのが難しければ、セミの抜け殻を集めてきて、図鑑やネットでどのセミの抜け殻か調べるのもいいでしょう。
鳴き声の区別が分からなければ、ネットで鳴き声を確かめておくこともできます。
いろいろなセミの鳴き声を収めたCD付きの図鑑も出版されています。
  ●「日本産セミ科図鑑」(誠文堂新光社)
    ¥4600円+税    


◆一般市民の情報提供で調査に協力
 昆虫・鳥や外来生物がどこにいつどれくらい居るかという調査は、少数の研究者だけで調べ尽くすのは不可能ともいえます。
 そこで、研究者の中には一般市民の情報提供を歓迎している人たちもいます。
 たとえば、この本の著者とも協力して研究を続けている大阪市立自然史博物館の初宿(しやけ)成彦さんは、ハルゼミやヒラズゲンセイなどの分布の調査をされています。
珍しい生き物に出会った時に、情報提供することによって協力できるだけなく、正しい知識を教えてもらえる機会にもなります。

初宿さんのホームページ》



ジュニア新書のシリーズは読みやすく、ちょうど夏休みの自由研究の課題に悩んでいる人には最適な本ではないでしょうか。この本で読書感想文も書けば、一石二鳥とも言えますね。

◆「セミの生態を調べて何の役に立つの?」
 科学者の研究の中には(ほとんどと言ってもいいほど)すぐには役に立たないものがある。確かに、セミの研究をしたからと言ってすぐに日常生活で役に立つわけではない。
 ファラデーが電磁誘導の研究をした時にも同じような評価しかされなかった。しかし、もし人類が電磁誘導を見つけ出すことができなかったら今の生活はどうなっていたでしょうか。発電はまさに電磁誘導を知ることができたから実現できたことです。今や電気のない生活が考えられるでしょうか。Icoca や Suica といった便利なカードも電磁誘導を利用しています。
すぐには、役に立たないように思われても、先入観に頼らず、地道な調査・実験を続けることによって、だれも気づかなかったことが分かり、いずれ人類の生活を豊かなものにしてくれる。あるいは、間違った危険な方向に進むのを軌道修正することができる。
そんな科学研究の必要性を教えてくれる1冊です。


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