この記事は、テトリス Advent Calendar 2017の5日目の記事です。

突然ですが、皆さんはこの動画を観たことがありますか?

これは「Classic Tetris World Championship」という大会の2016年決勝戦の動画なのですが、なんと現在670万再生されています。
大会については後日説明するとして、今日はこの大会に使われているゲームについて説明します。


「NESテトリス」。
正式には、アメリカ版のファミコンにあたる「Nintendo Entertainment System」、通称「NES」用に発売された『TETRIS』というソフトです。

このゲームが発売されたのは1989年末頃ですが、じつはそれ以前(同年春頃)に、テンゲンから同じ名前の『TETRIS』がNES用ソフトとして発売されていました。しかし、任天堂が大元の権利を抑えてテンゲン版を販売中止に追いやったので、現在中古で流通している殆どのNES版テトリスは、この任天堂版となります。
(その辺の詳しい話はここでは割愛しますので、「テトリス・エフェクト」を読むなり、ググるなりしてください)


いま、なぜアメリカのプレイヤーを魅了し、毎年世界大会が行われるのか?
そのあたりを、ゲーム内容を掘り下げて紐解いていきましょう。

◼︎GB版を踏襲した基本的なルール
細かい違いはありますが、基本的には、日本で1989年6月に発売されたGB版『テトリス』を踏襲したルールとなっています。
特に、ツモ調整がされている現在のテトリスとは違って、テトリミノの順番(ツモ順)はほぼランダムで、同じブロックが3〜4個連続で来たり、棒(Iミノ)が30〜40手来ないのは当たり前に起こります。当然HOLDなんてものはありません。
そのため、どんなツモにも対応できるような地形を組み、反応し、時にはNEXTを見てから置き場所を変える、などの適応力が必要になってきます。

◼︎接着時間/AREがほぼ無し
テトリミノの落下速度は、俗に「20G」と言われる現在のテトリスの秒間2〜3ミノ(以上)よりもかなり遅いので、現在のテトリスを遊んだり、動画を見た事がある方には、一見物足りない速度に見えてしまいます。
しかしこのゲームには、セガのAC版『テトリス』から存在する、ブロックが地形に接してから動かせなくなるまでの「接着時間」という概念がありません。1マス落下するのとほぼ同じ時間でブロックが動かせなくなります。
加えて、ブロックが固まってから次のブロックが落ちてくるまでの、俗に「ARE(あれ)」と呼ばれている時間もほぼありません。
そのため、見た目以上に咄嗟の判断力を必要とし、特に意図しない配置をしてしまった時からの復活を難しくしています。

◼︎熟練することで、横タメ移動を駆使できる工夫が凝らしてある
横タメ時の移動速度は秒間10マス、すなわち6フレーム(0.1秒)に1マス移動です。
GB版では9フレーム(0.15秒)に1マスで正直使い物になりませんでしたが、そこからは改善され、ある程度使える速度になりました。
しかし、先述のようにこのゲームにはARE時間が無いので、その間に横タメを溜めるという事ができません。
「じゃあ無理ゲーじゃん!」となる所なんですが、実はこのゲーム、上手く操作することで、横タメ状態を維持する事が可能なんです! タメ状態を維持したまま、左タメから右タメに切り替えることも可能なんです。
これには様々なテクニックが存在するのですが、詳細は次回説明します。

◼︎永遠にプレイすることはほぼ不可能
GB版は最高レベルは20、最速落下速度は1/3G。フィールド高、出現位置などがNES版よりも厳しいとはいえ、プレイできない速度ではないため、テトリスは無理でも、シングル消しをひたすら続けていればいつかはカンスト(999,999点)が達成できます。
しかし、NES版ではレベル19〜28が1/2G、レベル29になると1Gになります。横移動が遅く、接着時間の概念も無いこのゲームでは、人間はレベル29以降せいぜい10ライン前後しか消す事ができません(10ライン消してレベル30に突入したプレイヤーは、世界に3人しか居ないと言われています)。
そのため、レベル29は俗に「killscreen」と言われており、到達してしまう前にいかにスコアを稼げるか、というのが重要になる訳です。

◼︎レベルアップの絶妙な設定
GB版では、スタートレベルは0〜9から選択可能で、ハイスコアを狙うにはレベル9スタート一択になります。ハートモードも存在しますが、スコアに影響しませんでした。
NES版では、スタートレベルが0〜19の中から選択でき、スコアもそのレベルに準じたスコアが入るように改善されました。
しかし、GB版ではレベルアップが一律「(現在レベル+1)×10ライン消去時」だったのに対し、NES版では、
  • Lv0〜9の時はレベルの上がり方はGB版と同じで、290ラインでkillscreen
  • Lv9〜15の間は、100ライン消去でレベルが上がり始めるため、killscreenライン数が可変
  • Lv15〜19の間はまたレベルの上がり方が同じようになり、230ラインでkillscreen
という調整がされており、簡単にカンスト(999,999点)できないようになっていました。
もしこの調整がされていなかったら、レベル18スタートのカンスト難易度はかなり下がってしまうので、スコア争いがここまで盛り上がることは無かったでしょう。


…これらの要素が絶妙に重なりあって、「カンストできそうでできない」「でも何とかカンスト狙えそう」というゲームバランスが出来上がったのではないかと言えます。

実際、カンストの999,999点……現地では「Max-out」と呼ばれていますが、これが公式な記録として達成されたのは、なんとゲームが発売されてから20年後の2009年の事となります(但し、非公式にはそれ以前に2人がMax-outを達成していたと言われてもいます)。

その後、2010年から毎年世界大会を開くようになり、プレイヤーのレベルも上がって、現在は世界に30名前後のMax-out達成者が存在するようになりました。

日本のプレイヤーには馴染みの薄いシステムで、また環境を揃えることも簡単ではありませんが、一見動画では分かりにくいNESテトリスの魅力が、これらの要素に詰まっているのではないかと思います。
私も、いつのまにかNESテトリスに魅了されたプレイヤーのひとりになってしまいました。