この記事は、テトリス Advent Calendar 2017の12日目の記事です。
「Classic Tetris World Championship」(略称:CTWC)とは、NES(任天堂)版『TETRIS』の世界大会です。
ゲームは1989年に発売されましたが、第1回大会は2010年8月開催と、じつは歴史が浅い大会です。その後は年1回のペースで開催されており、今年は第8回大会が行われました。
今回は、その大会が開催された経緯や、ルールの変遷などについて、説明したいと思います。
【前史】
NESテトリスが発売された翌年の1990年、アメリカ全土にて「Nintendo World Championships」が開催されました。
この大会は、『Super Mario Bros.』、『Rad Racer(ハイウェイスター)』、そして『TETRIS』(任天堂版)の3作品を制限時間付きのメドレー形式でプレイし、各ゲームの得点にゲーム毎の係数を乗じた合計点を争うものでした。
まず各都市ごとに年齢別(11歳以下、12〜17歳、18歳以上)のチャンピオンを決め、そのチャンピオンの中から世界王者を決める、という形式でした。
12〜17歳部門の世界王者となったThor Aackerlund(ソール・アッカーランド)氏は、左親指を高速連打する"Hypertap"の使い手で、3種目のゲームうちで最も得点比率の高かったテトリスで、無類の強さを発揮していたとか……
【大会開催の経緯〜第1回大会】
それから20年が経った、2010年。
かつて「Nintendo World Championships」で世界3位の成績を残したRobin Mihara(ロビン・ミハラ)氏は、「世界で一番NESテトリスが上手いプレイヤーは誰なのか?」という疑問から、NESテトリスの世界大会を開くことを考案しました。それが、「Classic Tetris World Championship」の第1回大会だったのです。
じつは、この大会が行われるまでの経緯が、「Ecstasy of Order: The Tetris Masters」というドキュメンタリー映画として作成されています。そのトレーラーがこちら。
この映画は現在、DVDとして販売されている他に、公式サイト上で、ネット視聴権を購入($9.99)orレンタル($2.99/3日間)出来ます。
もちろん全編英語で、支払いにはクレジットカードが必要ですが、日本からでも視聴することができますので(今回実際にレンタルして確認しました)、興味のある方は是非ご覧になってください。レンタルなら3ドルです!
さて、その第1回大会はカリフォルニア州ロサンゼルスで開催され、出場者は、あらゆるゲームの世界記録を管理する「Twin Galaxies」に登録された、得点またはライン数の上位記録を持つ4名、そして「Nintendo World Championships」の世界王者であるThor Aackerlund氏を含めた5名が選抜という形になりました。残りの3名は、B-TYPE(Lv18-0)のスコアによる予選で決定しました。
8名で行われた準決勝ラウンドは、A-TYPE Lv9を一斉にプレイし、1戦目はライン数、2・3戦目はスコアで争われました。得点は各戦のトップ成績を100点とした割合で決定し、3戦合計スコアの上位2名が決勝進出となりました。
決勝戦は2名同時スタートによるA-TYPEのスコア争いで、この1vs1の試合形式が、現在の大会でも引き継がれているフォーマットとなっています。当時はLv9スタートの2本先取で、Jonas Neubauer(ジョナス・ニューバウアー)氏が、Harry Hong(ハリー・ホン)氏を2-0で降し、記念すべき第1回世界王者に輝きました。優勝賞金は$1,000、当時のレートで約8万5千円でした。
(参考記事:ファミコン版『テトリス』の世界王者が誕生 - インサイド)
【第2回大会〜第6回大会】
◼︎第2回(2011年)
昨年に続き、ロサンゼルスで開催。
一部メンバーを選抜により決定した昨年とは違い、この年から全選手が予選から参加する形式になりました。予選はB-TYPEが使われましたが、昨年とは異なる形式だった模様(Lv19まで選択可能だったようですが、詳細は不明)。
本戦進出は予選上位8名で、1vs1のシングルエリミネーション・トーナメントにより準々決勝〜決勝まで実施されました。全戦2本先取。
優勝は、Jonas Neubauer氏でした(2年連続2度目)。
また、この年からサイドトーナメントが行われるようになりました。今回はPS3版のテトリスが採用され、"Blink(ブリンク)"ことJohn Tran(ジョン・トラン)氏が優勝しました。
◼︎第3回(2012年)
この年から、大会の舞台がオレゴン州ポートランドに移り、レトロゲームイベント「Portland Retro Gaming Expo」内のイベントとして開催されるようになり、現在に至ります。
大会期間は2日間となり、初日の予選では、A-TYPEによるハイスコアで上位32名が本戦進出、2日目の本戦は1vs1のシングルエリミネーション・トーナメント5回戦、2本先取(決勝戦のみ3本先取)、というフォーマットとなり、この予選・本戦形式が、現在まで引き継がれています。
優勝は、Jonas Neubauer氏でした(3年連続3度目)。
◼︎第4回(2013年)
この年は、なんと優勝・準優勝賞金が例年の2倍の$2,000/$1,000となりました。
欧州はフィンランドから、ヨーロッパ版NESテトリス(註:アメリカ版と落下スピードなどの仕様が異なる)の(元)世界記録保持者であるJani Herlevi(ヤニ・ハーレヴィ)氏が初参加。
優勝は、Jonas Neubauer氏でした(4年連続4度目)。
◼︎第5回(2014年)
ベスト4に進出したEli Markstrom(イーライ・マークストロム)氏を追った、BuzzFeedによるドキュメンタリービデオ:
優勝は、Jonas Neubauer氏……を決勝で3-1で降したHarry Hong氏が、悲願の初優勝を達成しました。
◼︎第6回(2015年)
準優勝に輝いた"Quaid(クエイド)"ことSean Ritchie(ショーン・リッチー)氏を追ったドキュメンタリービデオ:
大会運営に、第1回大会からのプレイヤーでもあるTrey Harrison(トレイ・ハリソン)氏が加わり、彼の技術により会場スクリーンおよび配信映像が大幅にパワーアップ。
ゲーム画面をPCで取り込み、プレイヤーを映したカメラと合成した映像を流すだけではなく、プレイヤーのテトリミノの引き(ツモ)をリアルタイムで映像解析し、連続13手以上棒が来ない場合はその手数(drought)を表示するという、無駄に豪華な画面となりました。
優勝は、Jonas Neubauer氏でした(2年ぶり5度目)。
サイドトーナメントには『Tetris Ultimate』が採用され、"Blink"氏が優勝しました。
【第7回大会〜:日本人プレイヤー参戦】
◼︎第7回(2016年)
筆者コーリャンの初参戦となった大会。結果は4位(予選2位)でした。
この年から、純正のNESテトリスソフトではなく、大会用の特別仕様版のソフトが使用される事になりました。乱数シードを入力することで同じツモを再現できるもので、全く同じツモによる1vs1対戦が可能になりました。
また、大会のレベルアップに応じて、初期選択レベルが本戦1回戦のみ15or18、2回戦以降は18で固定となりました(以前は1・2回戦は9〜18から、準々決勝以降は15〜18から選択)。
優勝は、Jonas Neubauer氏でした(2年連続6度目)。
サイドトーナメントには、初めてTGMシリーズのTAPが採用されました。MASTERモードのノーアイテム対戦で、コーリャンがAlex Kerr(アレックス・カー)氏を3-2で破り優勝しました。
◼︎第8回(2017年)
この年は、2年連続参戦となるコーリャンと共に、NESテトリスを日本に持ち込んだ元凶張本人であるSQRさんが日本から参戦。
コーリャンは、予選でMax-outを2度達成して本戦第1シードを獲得するも、本戦2回戦で敗退し9位、無念の結果に。
今回は実況陣に、「EVO」「Capcom Cup」の実況でおなじみのJames Chen氏がはじめて加わりました。
また、謎のプレイヤー・Qua...Hauser(ハウザー)氏が4強進出し、大会を沸かせました。
優勝は、Jonas Neubauer氏でした(3年連続7度目)。
サイドトーナメントには初代TGMが採用され、4人一斉スタートのポイント制レースでした。決勝ではコーリャン・SQR氏・KevinDDR氏の3人が合計ポイントで並ぶ大接戦(最終戦は必見!!)となり、クリアタイム合計によりコーリャンの優勝となりました。
#tgm_series
【総括】
Jonas Neubauer氏はバケモンだ。
これまでの記事でも述べたように、NESテトリスはツモが調整されておらず、運の要素に大きく左右されるゲームです。特に2015年以前はそれぞれ独立した不公平なツモでの対戦形式でした。
そんな中で、8回中7度優勝に輝き、残る1度も準優勝という、とてつもなく安定した成績を残されています。
大会の黎明期は実力が突出していたのかもしれませんが、30人近くのMax-outプレイヤーが誕生し、プレイヤー全体のレベルが底上げされた2017年の決勝戦も、最初の2戦とも劣勢な状況からの逆転勝利で、精神的な強靭さを見せつけての優勝でした。
いまのところ、CTWCは彼のために存在する、といっても過言ではない状況でしょう。
私はこの2年弱の間、Hypertapを習得してNESテトリスでトップクラスの成績を出せるようになったものの、今年の大会では思うような成績を残せませんでした。
見た目は現代のテトリスのような速さは無く、ともすると簡単なゲームに見えてしまいますが、Jonas氏を倒す事は決して容易な事ではないと、私が断言します。
「Classic Tetris World Championship」(略称:CTWC)とは、NES(任天堂)版『TETRIS』の世界大会です。
ゲームは1989年に発売されましたが、第1回大会は2010年8月開催と、じつは歴史が浅い大会です。その後は年1回のペースで開催されており、今年は第8回大会が行われました。
今回は、その大会が開催された経緯や、ルールの変遷などについて、説明したいと思います。
【前史】
NESテトリスが発売された翌年の1990年、アメリカ全土にて「Nintendo World Championships」が開催されました。
この大会は、『Super Mario Bros.』、『Rad Racer(ハイウェイスター)』、そして『TETRIS』(任天堂版)の3作品を制限時間付きのメドレー形式でプレイし、各ゲームの得点にゲーム毎の係数を乗じた合計点を争うものでした。
まず各都市ごとに年齢別(11歳以下、12〜17歳、18歳以上)のチャンピオンを決め、そのチャンピオンの中から世界王者を決める、という形式でした。
12〜17歳部門の世界王者となったThor Aackerlund(ソール・アッカーランド)氏は、左親指を高速連打する"Hypertap"の使い手で、3種目のゲームうちで最も得点比率の高かったテトリスで、無類の強さを発揮していたとか……
【大会開催の経緯〜第1回大会】
それから20年が経った、2010年。
かつて「Nintendo World Championships」で世界3位の成績を残したRobin Mihara(ロビン・ミハラ)氏は、「世界で一番NESテトリスが上手いプレイヤーは誰なのか?」という疑問から、NESテトリスの世界大会を開くことを考案しました。それが、「Classic Tetris World Championship」の第1回大会だったのです。
じつは、この大会が行われるまでの経緯が、「Ecstasy of Order: The Tetris Masters」というドキュメンタリー映画として作成されています。そのトレーラーがこちら。
この映画は現在、DVDとして販売されている他に、公式サイト上で、ネット視聴権を購入($9.99)orレンタル($2.99/3日間)出来ます。
もちろん全編英語で、支払いにはクレジットカードが必要ですが、日本からでも視聴することができますので(今回実際にレンタルして確認しました)、興味のある方は是非ご覧になってください。レンタルなら3ドルです!
さて、その第1回大会はカリフォルニア州ロサンゼルスで開催され、出場者は、あらゆるゲームの世界記録を管理する「Twin Galaxies」に登録された、得点またはライン数の上位記録を持つ4名、そして「Nintendo World Championships」の世界王者であるThor Aackerlund氏を含めた5名が選抜という形になりました。残りの3名は、B-TYPE(Lv18-0)のスコアによる予選で決定しました。
8名で行われた準決勝ラウンドは、A-TYPE Lv9を一斉にプレイし、1戦目はライン数、2・3戦目はスコアで争われました。得点は各戦のトップ成績を100点とした割合で決定し、3戦合計スコアの上位2名が決勝進出となりました。
決勝戦は2名同時スタートによるA-TYPEのスコア争いで、この1vs1の試合形式が、現在の大会でも引き継がれているフォーマットとなっています。当時はLv9スタートの2本先取で、Jonas Neubauer(ジョナス・ニューバウアー)氏が、Harry Hong(ハリー・ホン)氏を2-0で降し、記念すべき第1回世界王者に輝きました。優勝賞金は$1,000、当時のレートで約8万5千円でした。
(参考記事:ファミコン版『テトリス』の世界王者が誕生 - インサイド)
【第2回大会〜第6回大会】
◼︎第2回(2011年)
昨年に続き、ロサンゼルスで開催。
一部メンバーを選抜により決定した昨年とは違い、この年から全選手が予選から参加する形式になりました。予選はB-TYPEが使われましたが、昨年とは異なる形式だった模様(Lv19まで選択可能だったようですが、詳細は不明)。
本戦進出は予選上位8名で、1vs1のシングルエリミネーション・トーナメントにより準々決勝〜決勝まで実施されました。全戦2本先取。
優勝は、Jonas Neubauer氏でした(2年連続2度目)。
また、この年からサイドトーナメントが行われるようになりました。今回はPS3版のテトリスが採用され、"Blink(ブリンク)"ことJohn Tran(ジョン・トラン)氏が優勝しました。
◼︎第3回(2012年)
この年から、大会の舞台がオレゴン州ポートランドに移り、レトロゲームイベント「Portland Retro Gaming Expo」内のイベントとして開催されるようになり、現在に至ります。
大会期間は2日間となり、初日の予選では、A-TYPEによるハイスコアで上位32名が本戦進出、2日目の本戦は1vs1のシングルエリミネーション・トーナメント5回戦、2本先取(決勝戦のみ3本先取)、というフォーマットとなり、この予選・本戦形式が、現在まで引き継がれています。
優勝は、Jonas Neubauer氏でした(3年連続3度目)。
◼︎第4回(2013年)
この年は、なんと優勝・準優勝賞金が例年の2倍の$2,000/$1,000となりました。
欧州はフィンランドから、ヨーロッパ版NESテトリス(註:アメリカ版と落下スピードなどの仕様が異なる)の(元)世界記録保持者であるJani Herlevi(ヤニ・ハーレヴィ)氏が初参加。
優勝は、Jonas Neubauer氏でした(4年連続4度目)。
◼︎第5回(2014年)
ベスト4に進出したEli Markstrom(イーライ・マークストロム)氏を追った、BuzzFeedによるドキュメンタリービデオ:
優勝は、Jonas Neubauer氏……を決勝で3-1で降したHarry Hong氏が、悲願の初優勝を達成しました。
◼︎第6回(2015年)
準優勝に輝いた"Quaid(クエイド)"ことSean Ritchie(ショーン・リッチー)氏を追ったドキュメンタリービデオ:
大会運営に、第1回大会からのプレイヤーでもあるTrey Harrison(トレイ・ハリソン)氏が加わり、彼の技術により会場スクリーンおよび配信映像が大幅にパワーアップ。
ゲーム画面をPCで取り込み、プレイヤーを映したカメラと合成した映像を流すだけではなく、プレイヤーのテトリミノの引き(ツモ)をリアルタイムで映像解析し、連続13手以上棒が来ない場合はその手数(drought)を表示するという、
優勝は、Jonas Neubauer氏でした(2年ぶり5度目)。
サイドトーナメントには『Tetris Ultimate』が採用され、"Blink"氏が優勝しました。
【第7回大会〜:日本人プレイヤー参戦】
◼︎第7回(2016年)
筆者コーリャンの初参戦となった大会。結果は4位(予選2位)でした。
この年から、純正のNESテトリスソフトではなく、大会用の特別仕様版のソフトが使用される事になりました。乱数シードを入力することで同じツモを再現できるもので、全く同じツモによる1vs1対戦が可能になりました。
また、大会のレベルアップに応じて、初期選択レベルが本戦1回戦のみ15or18、2回戦以降は18で固定となりました(以前は1・2回戦は9〜18から、準々決勝以降は15〜18から選択)。
優勝は、Jonas Neubauer氏でした(2年連続6度目)。
サイドトーナメントには、初めてTGMシリーズのTAPが採用されました。MASTERモードのノーアイテム対戦で、コーリャンがAlex Kerr(アレックス・カー)氏を3-2で破り優勝しました。
◼︎第8回(2017年)
この年は、2年連続参戦となるコーリャンと共に、NESテトリスを日本に持ち込んだ
コーリャンは、予選でMax-outを2度達成して本戦第1シードを獲得するも、本戦2回戦で敗退し9位、無念の結果に。
今回は実況陣に、「EVO」「Capcom Cup」の実況でおなじみのJames Chen氏がはじめて加わりました。
また、謎のプレイヤー・
優勝は、Jonas Neubauer氏でした(3年連続7度目)。
サイドトーナメントには初代TGMが採用され、4人一斉スタートのポイント制レースでした。決勝ではコーリャン・SQR氏・KevinDDR氏の3人が合計ポイントで並ぶ大接戦(最終戦は必見!!)となり、クリアタイム合計によりコーリャンの優勝となりました。
#tgm_series
【総括】
Jonas Neubauer氏はバケモンだ。
これまでの記事でも述べたように、NESテトリスはツモが調整されておらず、運の要素に大きく左右されるゲームです。特に2015年以前はそれぞれ独立した不公平なツモでの対戦形式でした。
そんな中で、8回中7度優勝に輝き、残る1度も準優勝という、とてつもなく安定した成績を残されています。
大会の黎明期は実力が突出していたのかもしれませんが、30人近くのMax-outプレイヤーが誕生し、プレイヤー全体のレベルが底上げされた2017年の決勝戦も、最初の2戦とも劣勢な状況からの逆転勝利で、精神的な強靭さを見せつけての優勝でした。
いまのところ、CTWCは彼のために存在する、といっても過言ではない状況でしょう。
私はこの2年弱の間、Hypertapを習得してNESテトリスでトップクラスの成績を出せるようになったものの、今年の大会では思うような成績を残せませんでした。
見た目は現代のテトリスのような速さは無く、ともすると簡単なゲームに見えてしまいますが、Jonas氏を倒す事は決して容易な事ではないと、私が断言します。