ストーリー

ベジフルストーリー12-2

 店主が若者の前に差し出したのはタマネギだった。

「新タマネギです。これで一品作ります。」 店主は言った。

「新タマネギを私のような新人に見立てたのですね。普通のタマネギとは違うのですか?」
 若者が尋ねた。

「はい。普通のものは収穫したあと乾燥したもので、これは収穫したままで、春だけ楽しめる
ものです。」

 店主は続けた。

「新タマネギは軟らかく水分が多いので、一般的には加熱する料理とかには普通のタマネギの
方が良いかも知れません。しかし、辛みが少なく甘味もあるので生食には良いのです。また、
その辛み成分は熱に弱いので、生食の方が効率良く摂取できるのです。」

「へぇ、そうなんですか。」 若者は素直に感心していた。そして、店主はさらにつけ加えた。

「新タマネギには新タマネギにしかないものがあります。それをいろんな食材と合わせてみること
が楽しみでもあります。」

「なるほど。それは自分にも言えることですね。おそれずに何事にもぶつかっていこうと思います。」

「頑張ってください。」

ベジフルストーリー12-1

 とある料理店。ある若者が一人で飲食をしていた。真新しいスーツが着慣れていない、
見るからにどこかの会社の新入社員だった。

 お酒の飲み方もぎこちない。少しオドオドしている感じで落ち着かなさそうだ。

 (そんなに緊張しなくてもいいのに…) 店主はたまらず声をかけた。

「今日の料理はいかがでしょう?」

「えっ、あぁ、美味しいです。」 若者は話しかけられて驚いたようだ。

「月末でにぎやかではありますけど、くつろいでいってください。」

「ありがとうございます。実は4月から勤め始めて今日が初月給だったのです。テレビ番組で
出演者が酒場を飲み歩く企画のものを観て、自分もやってみたいと思ってここに来たのです。
ですから、雰囲気に慣れてないというか…。」

「そうだったのですか。環境が変わって慣れないことばかりで大変なのでしょうね。」

「そうですね。覚えることがたくさんありすぎて…この先うまくやっていけるのか不安です。」

「私には良いアドバイスとかは出来ませんので、その代わりに特別料理を作ります。これは
私からのサービスです。」

「本当ですか? 是非お願いします。」

 店主はある食材を若者に差し出した。

 …続く

ベジフルストーリー11-2

 店主は調理する前の食材を男に差し出した。

「山ウドと軟白ウドです。」

「ほぅ、ウドにもいろんなものがあるのですね。」 男が少し興味ありげに言った。

「ウド栽培は親株を育てるところから始まります。親株は冷涼なところが適することから、こちらで
作られ、それが東京に行って軟白ウドに育てられます。一方、こちらで育てられたのが山ウドです。」

 店主はそう説明すると、さらに続けた。

「軟白ウドは白くて軟らかくクセが少ない、山ウドは香りが強く歯応えが良いのが特徴です。まぁ、
どちらも個性があって料理しがいがありますね。」

「ウドは漢字で書くと“独活”、これから独り立ちして活きていく息子たちへ、はなむけになりそうだ。」
男は嬉しそうに言った。

「山菜には活動的になる春に向けて代謝を高める作用があるといわれていますので、息子さんたち
にもお勧めです。」 店主がそう言うと、

「あぁ、そうしよう。」 男はそう答えた。

ベジフルストーリー11-1

 とある料理店。50才前後の身なりの良い男が一人で飲食をしていた。グラスの冷や酒を
ちびちびとやっていたが、楽しげな様子で時折ニヤついていたりする。

 人寂しくなったのか、店主に話しかけた。

「双子の息子がいるのですが、この春に二人とも大学を卒業しまして…。」

「それはおめでとうございます。」 店主は調理の手を止めて男の方を向いて言った。

「小さいときは仲良く一緒に遊んでいたのですが、中学生になると思春期だからでしょうか、
お互いあまり口を利かなくなり、別々の高校に行き、大学は一人は地元に残りましたが、
もう一人は東京に行きました。」

「学校とかで何かあったのでしょうかね…。」

「そうかも知れない。からかわれたりして傷ついたのかもね。二人の仲をずっと心配していたの
だけれど、離れて暮らすようになったら、いつの間にか仲直りして連絡を取り合うようになってた
みたいで…。」

「良かったですね。」

「えぇ、そうしたら突然、二人して卒業後には私の仕事を継いで、会社を大きくするとか言い出し
まして…。生意気ですがね。」

 男はグラスの酒を飲み干すと、もう一杯おかわりし、おまかせでつまみも注文した。


 …続く

ベジフルストーリー10-2

「トマトです。本来は夏野菜ですが、春の寒暖の差がつきやすい時期が美味しいのです。
まあ、春というには少し早いですが…。」 と店主が言った。

 二人の客のうち、後輩の方はうつむいていて話が聞こえてない感じで、代わりに先輩の方が
「そういうものなんですか。」 と答えた。

 店主はさらに語り出した。

「トマトは世界中で最もポピュラーな野菜の一つです。このように広まった理由の一つは中にあるゼリー
が関係しています。野生では動物が実と一緒に種を食べて遠くへ運びます。たどり着いた先では、種が
発芽に適した状態になるまで待つのですが、ゼリーに発芽抑制物質が含まれているのです。」

 店主は最後に一言つけ加えた。

「果皮はさほど硬くはないから外敵に弱そうですが、それも織り込み済みで、したたかさがあるのです。」

 それを聞いて先輩はうなった。そして後輩に向かって言った。

「おい、このトマトはお前が食うんだ。トマトの教訓に学べ。明日からがんばるぞ。」

「は、はい !?」 我に返った後輩はワケが分からなかったが、トマトを食べ始めた。

ベジフルストーリー10-1

 とある料理店。カウンターでは二人の男が飲食をしながら話をしている。仕事帰りなのか
スーツ姿。職場の先輩と後輩らしい…。

「もう少しで契約が取れたのに…、何でこんなことになったのか。」 後輩がつぶやいた。

「たまたま運が悪かっただけだ。くよくよしても仕様がない。」 先輩は励ましてはいたが、
冷めた目で後輩を見ていた。

 いつかはこんなことにもなるとは思っていた。

 彼は物腰が柔らかくて人当たりも悪くはない。プレゼンもそつなくこなす。それだから最初の
うちは取引先の受けは良いが、段々相手にされなくなる。万事スマートな感じなので印象が
薄いのだ。

 今回は商談がまとまりかけたところで、ライバル会社が急きょ参入してきて強引に奪われて
しまった。

 話がもれたのか、取引先が情報をライバル会社にリークさせて好条件を引き出したのか、
真相は不明だが、彼のパーソナリティの弱さも一因だと思っている。

 とはいえ、彼がミスをしたわけではなく、こうしたことも時折あるので、攻めることは出来ない。
落ち込む彼にかける言葉を見つけられずにいた。

「何かお出ししましょうか?」 突然、店主が話しかけてきた。

「それじゃあ、サッパリするものを…。」

「はい。」 そう言うと店主はある食材を二人の前に差し出した。


 …続く

ベジフルストーリー9-2

 店主が男に差し出したのは細長いニンジンだった。

「細長い…。こんなニンジン初めて見ました。」 男が言った。

「国分ニンジンといいます。甘味や香りが強くて美味しいニンジンです。」

 そう言うと、さらに店主が説明しだした。

「かつては広く作られていたようですが、使い勝手の良さから短根の品種に代わっていきました。
それが、何年か前からこのニンジンを守っていこうということになり、消費者も収穫体験に加わったり
しているようです。伝統は受け継がれていきそうです。」

「そっちの方が良い話ですね。まぁ、うちの子にも楽しい思い出になってくれれば伝統を受け継いだこと
になるのかな…。」 男は自問自答するように言った。

 しばらくして…

「そろそろ帰ります。サンタになって子どもにプレゼントを渡さないと…。サンタといえば、繁華街では
たくさんのミニスカサンタが客引きやってましたよ。」 そう言うと男は帰っていった。

「…今日は早じまいしようかな。」 店主がつぶやいた。

ベジフルストーリー9-1

 とある料理店。今日はクリスマスイブ。店の雰囲気とはそぐわないが、それが話題となっても
おかしくはない日である。

「クリスマスはやはり楽しい気分になりますね。」

 30代半ばの男性。仕事を終えたが、夕食時は過ぎていたので、腹ごしらえをしてから帰宅と
いったところか…。

「実家では特別なことはあまりしなかったけど、子どもの頃、プレゼントをもらったことがあります。」

「へぇー、どんなモノですか?」 店主は手を動かしながら聞いた。

「仮面ライダーの変身ベルトです。スイッチを入れると変身する時の音が出て、真ん中の風車が回転
するやつです。しばらくは遊んでいましたが、すぐに飽きてしまって…。でも、プレゼントをもらってうれし
かったことは今でも覚えているんですよね。」

「そういうものなんですか。」

「で、うちには小さい子がいるのですが、その子が仮面ライダーの変身ベルトが欲しいと言ってたので
買ってきたんです。」

 男はとなりのイスに置いてある、キレイに包装された箱を指さした。

「今のモノは、アイテムを差し込んだり色が変化したりして複雑になりましたね。時代は違えども親子で
趣味は同じだなんて…。良いことなのか悪いことなのか…。」

「良い話ですね。お礼に一品お出しします。ささやかながら私からのクリスマスプレゼントです。」

 店主はある食材を男に見せた。

 …続く

ベジフルストーリー8-2

「お待ちどおさまでした。」 店主は小鉢に盛った料理を青年に差し出した。

「これは…シイタケ? これが元気の出る料理?」 青年は不思議そうに料理を見つめた。

「はい、シイタケです。ちょっと仕掛けがありまして、調理をする前に天日で干したものです。」

 店主はさらに話を続けた。

「シイタケは天日で干すことによってビタミンDが増加します。乾燥させただけではそうならない
のです。まるで太陽のエネルギーを享受しているかのようです。」

「なるほど、今の自分にはピッタリの食材ですね。」

「それと、宇宙飛行士は宇宙に長らく滞在していると骨量が減少するそうですが、ビタミンDは
骨を強くするために必要な栄養素なのです。」

「うーん。そこまで考えていたとは…恐れ入りました。では、いただくとします。それと日本酒も
ください。」


 小一時間ほどして…。その間、飲み食いし続けていた青年がふと一言。

「宇宙遊泳しているみたいだ。」

 それを見た店主はつぶやいた。 「それはただの飲み過ぎ !! 」

ベジフルストーリー8-1

 とある料理店。20代後半の青年が一人、ビールとともに食事をしていた。

「ここのところずっと夜勤が続いてたんですよ。」 青年が店主に話しかけた。

「夕方から早朝までの勤務。朝食を食べてから寝て、起きるのは昼過ぎ。最近は日が短く
なってきたので、お天道様を拝んでないような気がする。」

「大変そうですね。寒くなってきたし…。」 店主はそうは言ったが、さほど心配をしている様子
ではない。会話はするが、深くは入り込まない。その辺をわきまえている。

「まぁ、大変ではあったけど、静かな中で作業をするので仕事は昼間よりはかどったりするん
ですよ。それと、休憩時間なんかに外に出て、星空を見るとキレイなんですよ。」

「へぇー、何か良いですね。」 店主は青年の話に興味を示した。

「子どもの頃はSF小説が好きで、夜空を見ながらいろんな空想をしてました。宇宙飛行士に
なって異星人と遭遇したりとか…。」

「そのうち、自分でそういった小説を書くようになって、文芸誌の懸賞小説に投稿したりしてます。
自己表現が目的なので賞とか期待はしてませんが…。」

 青年はグラスのビールを飲み干すと、ふと思いついたように店主に言った。

「何か元気の出るものをください。夜勤明けに良いものを…。」

 店主は少し困った顔をして考えていたが、ニコリと微笑み、「かしこまりました。」と言って調理に
取りかかった。

 …続く
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オーちゃん
日本野菜ソムリエ協会認定
野菜ソムリエプロ
アスリートフードマイスター2級

 野菜や果物に関わる発見や私的な楽しみを伝えて行く他、地元の「農」といかに関わっていくかをテーマに、思いつくことを書いていきたいと思います。

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