2006年01月23日

スネオの夏 7


でも、そうじゃない。
そんなことはない。
無償の友情は、きっとある。
無償の愛だって、きっと。
僕はそれを教えるために今、スネオと対峙しているのだ。

「……もういいだろ。もう昔の僕じゃないんだよ。
君らとこうして話してるのだって、正直辛い。
だから、さっさと道具出してくれよ。
一人で生きれるための、道具をさ」

そう言ってスネオは、ドラエもんに向かって、手を差し伸べた。
ドラエもんは困ったような顔をして僕を見る。

僕はドラエもんの目を見て、こくり、とうなずいた。

ドラエもんがポケットに手を突っ込む。




ポケットから、一体のロボットが、現れた。


「ミクロス……」

「そう、鉄人兵団との事があった時……君が作った、ロボットだ」


ミクロスは表面上は単なるラジコンロボットだ。
でも、ドラエもんの道具により知能を与えられ、自身で考え、活動ができる。
しかしロボットが勝手に動き、喋るその姿は、世間的にあまりにも不自然であったため、
鉄人兵団との一件からしばらくして、ドラエもんが預かることになった。

そのロボットが、今、スネオの眼前に、いる。


ミクロスはスネオの下に、静かに歩み寄った。

「スネオサン」

「……」

スネオは、何も答えない。

「スネオサン、オヒサシブリデス」

「……」

スネオは何も、答えない。

「オゲンキデシタカ?」

「……元気なわけ、ないだろ」

やっと、答えた。



「ソウデスカ。デハ、アソビマショウ」

ミクロスは、無邪気に喋る。
ロボットらしく、平板な口調で。
その口調が、その言葉が、スネオの神経を逆撫でした。

「……うるさいんだよ!放っておいてくれよ!
ロボット風情に……ロボット風情に僕の気持ちが、分かってたまるか!」

スネオが、ミクロスを突き飛ばした。
瞬間、弾かれたようにジャイアンがスネオに殴りかかったが、
僕とドラエもんで必死に止めた。

「スネオサン、ドウシタノデスカ?」

ミクロスは、相変わらず呑気に聞いている。


「スネオサン、スネオサン」

ミクロスは立ち上がり、スネオの周りに纏わりついた。
スネオはまたミクロスを突き飛ばす。

ミクロスは、何度でも立ち上がる。
スネオは、何度でも突き飛ばす。

「スネオサン、スネオサン」

ミクロスの、平坦な声だけが夜の高井山に響いた。

「……なんなんだよ!!」

はあはあと息を荒げて、スネオは言った。

「なんで僕に構うんだよ!
何度も何度も突き飛ばされて!
痛いだろ!ムカつくだろ!
なんなんだよ!なんなんだよお前は!!」

ミクロスはまた立ち上がり、きょとんと――表情のないはずの彼は、確かにきょとんとして、
スネオを見つめた。

「ダッテ、スネオサンハ、ボクヲツクッテクレタ」

平板な声、でもそこには確かに、感情が込められていた。

「ボクハ、スネオサンノオカゲデ、セカイヲシリマシタ
スネオサンノオカゲデ、ソラヤ、ツチヤ、ハナヲシリマシタ
スネオサンハ、ボクノスベテデス。
ナニガアッテモ、ナニヲサレテモ、ボクハズット、ソバニイマス」

見上げると雲はもうなく、満天の星空が、僕らを包んでいた。


「ロボットが……ロボットが分かったようなことを……言うな!!」

ミクロスの言葉は、スネオに届かなかったのだろうか。
スネオは、振り上げた拳をミクロスに叩きつけた。
がしゃん、という音がして、ミクロスは遥か後方に弾け飛んだ。

瞬間、僕の横を大きな影が過ぎ去った。
ジャイアンだ。

平手で、スネオを横殴りにはたくと、そのまま馬乗りになって、殴りつけた。

「おめえは…いつまでそうやって!
いつまでそうやって文句言ってるつもりなんだよ!」

ジャイアンは、泣きながらスネオを殴った。
スネオも泣いていた。
僕も、そしてドラエもんも。


ジャイアンは、何度も、何度もスネオを殴りつけた。
口は切れ、鼻血が流れ、スネオの顔中が腫れていく。
それでもジャイアンは、殴るのをやめなかった。
そして、誰よりも痛そうな顔をしていたのもまた……ジャイアンだった。


どのくらいの時間が過ぎただろうか。
はあはあと肩で息をしているジャイアン。
顔を真っ赤に腫らし、ぼろぼろと泣いているスネオ。

静寂だけが、あたりを包んでいた。


その時だった。
ジャイアンの左方からミクロスがやって来て、ジャイアンを殴った。
あまりにも非力なそのパンチは、しかし、ジャイアンを止めるには十分すぎるほどだった。

「スネオサンカラ、テヲハナシテ……」

ジャイアンはバツの悪そうな顔をしながらも、わかったよ、と呟いてスネオから離れた。
ジャイアンはスネオを上から見下ろしながら、静かに言った。

「スネオ、これでも、こいつがロボットだからお前の気持ちが分からない、
とか言うのか……?」

スネオは、もう何も言わなかった。
何も言わず、ジャイアンの方に近づく。
刹那、スネオは―――ジャイアンを突き飛ばして、山を駆け下り始めた。

「追おう!」

僕らも、後を追って全力で走った。


ミクロスの気持ち、そして言葉は、確かに伝わったはずだ。
スネオの涙を見れば、分かる。そのくらいは。

しかし……それでもなお。
スネオのトラウマは克服できなかっただろうか?


(もう、失いたくないんだ)


スネオの発した言葉が、耳に残る。
頼む、スネオ。
もう一度、僕らと―――


山を降りると、目の前には国道が広がっていた。
スネオは―――いた。前方50mほどの場所を、ひた走っていた。
その姿を見るが早いか、僕らは駆け出した。

「スネオくん!」

ドラエもんが叫ぶ。

「スネオ!!」

ジャイアンが大声で呼ぶ。

「スネオーー!!」

そして僕もまた。

しかしスネオは止まらない。
何かを振り切るように、懸命に走っている。

そしてスネオは―――赤く光る横断歩道に、飛び込んだ

vip9 at 21:05│Comments(2)TrackBack(0)

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この記事へのコメント

1. Posted by 土屋直毅   2006年02月03日 16:04
あたっしゅ
2. Posted by かなこ   2008年06月30日 16:29
続きはあるのですか?

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