人間関係

人を自殺させるだけの簡単なお仕事です 5

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人を自殺させるだけの簡単なお仕事です 4

624 :1:2012/08/08(水) 22:36:27.35 ID:p/vEXlSh0
今までのあらすじ
・松山と吉高とかどこのGANTZだよ!

625 :名も無き被検体774号+:2012/08/08(水) 22:42:59.20 ID:p/vEXlSh0
当てもなく車を走らせました
途中で寄ったCDショップで青空が買った
「ラバーソウル」がカーステレオから流れています

山道に入ると、急カーブが多くなり、
貧弱な青空は左カーブに入るたびに
「わー」と運転席に倒れ込んできます
いつの間にかベルトを外しているのです

一度は間違えて、右カーブなのに
運転席方向に倒れてきました

「さて」と青空が切り出します
「いまから、身勝手な話をします」

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人を自殺させるだけの簡単なお仕事です 4

361 :名も無き被検体774号+:2012/07/31(火) 17:56:22.52 ID:eery24b20
「奇声をあげて敵を威嚇するだけのお仕事です」だっけ?
最後の瞬間に居合わせて泣きそうになったぜ
これもそんな気がする

362 :名も無き被検体774号+:2012/07/31(火) 18:01:21.45 ID:L3gTQZh30
>>361
そういうのは言わない約束

365 :名も無き被検体774号+:2012/07/31(火) 20:17:55.81 ID:DgfHb8Lt0
奇声のと同じ人なん?

面白さそのまま文章力が格段に向上されてなさる



369 :名も無き被検体774号+:2012/07/31(火) 22:34:33.50 ID:rIGoNaRq0
ひょっとすると、僕はもう、二度と青空に
会うことはないのかもしれないな、と思います

向こうがなりふり構わずに来れば、
僕たちがちょっとやそっと抵抗したところで、
速いか遅いか程度の差にしかならないでしょう

どうせなら部屋を思いっきり汚しておこう、
そう僕は思います
片付ける人の苦労を少しでも増やすために

それから二週間が過ぎます

397 :1:2012/08/01(水) 10:50:19.65 ID:o8xWRF6G0
なんかおかしいと思ったら
>>369と>>371の間に本来これが入るはずだったんだな



その日、喫茶店で本を読んでいると、
自分の名前が呼ばれたような気がしました
もちろん、”くもりぞら”ではない方の

顔を上げると、店員が僕の顔を覗き込んで、
「やっほー」と手を振っていました

同学部の先輩、顔を合わせれば
挨拶はする程度の仲の人です

しばらく、スクリプトに従ったような
様式に忠実な会話を僕らは交わしました

398 :名も無き被検体774号+:2012/08/01(水) 10:51:36.47 ID:B/UX+8cL0
>>397
おかえりー
納得です

399 :1:2012/08/01(水) 10:54:16.50 ID:o8xWRF6G0
>>398
暑さで俺の頭がいかれちまってるらしいんです
ここ三日くらい、自分でも何を書いているのかよくわからない

371 :名も無き被検体774号+:2012/07/31(火) 22:42:27.33 ID:rIGoNaRq0
不自然でない程度の時間が経つと、
先輩に気付かれないよう、そっと店を出ます

この店にくるのはもうやめにしよう、と僕は決めます
結構お気に入りの場所だったのですが、
知人がいるとなると、どうしようもありません

次の店を探さなきゃな、と溜息をついたとき
ふいに僕は体をのっとられました

遅かったじゃないか、と僕は思います

どうくるのかと自身の体の様子を見ていると、
まっすぐどこかへ向かって歩きはじめます

372 :名も無き被検体774号+:2012/07/31(火) 22:48:32.83 ID:rIGoNaRq0
これから味わうであろう痛みを想像しながら、
僕は操作に抵抗して、口を動かします

自分を殺そうとしている相手との
コミュニケーションを試みます

「二分でいいから、話を聞いてくれ」

しかし僕の体は構わず動きつづけます

「あんたにも関係のある話なんだよ」

舌は思い切り攣ったような痛みが走り
唇の端が切れて血が垂れてきます

376 :名も無き被検体774号+:2012/07/31(火) 23:06:14.80 ID:rIGoNaRq0
「なあ、そもそも、どうして自殺させるべき対象が、
 頭にぱっと浮かんでくるんだと思う?」

慎重に言葉を選びながら、僕は言います

「俺はこれまで、六人の標的を自殺させてきた。
 たぶん、お前と同じようなやり方で。
 だが七人目を殺すことが出来なかった」

「そうして今、お前に命を狙われてる。
 以前自分が他人にしていたことを、
 今度は他人に自分がされているわけだ」

378 :名も無き被検体774号+:2012/07/31(火) 23:13:54.91 ID:rIGoNaRq0
「操られる側になって分かったことだが、
 『人の体をのっとって操れる人がいる』
 ということを前提として知らない限り、
 自分が操作されている事実には、
 なかなか気付けるものじゃないらしい。

「それくらい自然に感じられるんだ、
 体をのっとられて動かされるってことは。
 あるいは、起こっていることが不自然すぎて、
 事実を受容できないのかもしれない」

「そこまではいい。しかし、ここから俺が言うのは、
 証拠はないし、論理が飛躍しているし、
 何より自分にとって都合がよすぎる考えだ」

379 :名も無き被検体774号+:2012/07/31(火) 23:20:40.79 ID:rIGoNaRq0
「でもな、仮にだ。人の体をのっとる俺たちもまた、
 実に自然に、体をのっとられているんだとしたら?
 俺たちは自分で考えて人を殺しているように感じているが、
 実際のところ、操られているだけだったとしたら?」

そこまで言って、僕は限界を悟ります
これ以上喋ることは出来なさそうです

足が止まる様子はありませんでした

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人を自殺させるだけの簡単なお仕事です 3

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312 :名も無き被検体774号+:2012/07/30(月) 19:11:17.00 ID:e6Xcvivh0
僕はなにか意地悪なことを言ってやろうとして
そのとき、不意に、「のぞかれた感じ」がしました

のぞかれた感じ。

「青空」僕は早口で聞きます
「一度、俺に遺書を直させようとして、
 ものすごい力で抵抗したことがあったよな。
 どうすればあれほどの力で抵抗できる?」

青空は「それはですね」と言いかけた後、すぐに勘付き、
「もしかして、のっとられてます?」と聞いてきます

314 :名も無き被検体774号+:2012/07/30(月) 19:24:58.55 ID:e6Xcvivh0
「いや、まだ大丈夫だけど、一瞬、覗かれたような感じがした」

「ああー。あれ、確かに覗かれてる感じしますよね」
青空はなぜか、はにかむように笑います
「ついにあなたも標的になっちゃったわけですね。なかまー」

「まだ決まったわけじゃない。俺の気のせいかもしれない」

「でも、仮に狙われ始めているんだとしてですよ、
 なんで私より先にあなたを狙うんでしょう?
 前回の経験から言うと、先に私を殺すはずなのに」

「俺もそう思ってたんだが、考えてみれば、今この場には、
 『死ぬべき人間』が二人そろってるわけだ。つまり――」

316 :名も無き被検体774号+:2012/07/30(月) 19:31:28.47 ID:e6Xcvivh0
「つまり、『お前を殺して俺も死ぬ』の形式が、
 いちばん手っ取り早いということですね」

納得したように青空がうなずきます

「相手の人、良い判断なんじゃないですかね。
 私と違ってくもりぞらさんは操られるの初めてだから、
 うまく抵抗することができないでしょうし。
 そっかー、私はくもりぞらさんに直接殺されるのか」

「さっさと言え、どうすれば操作に抵抗できる?」

青空はそっぽを向いて、つんとした態度で言います
「教えてあげません。教えて欲しそうだから」

317 :名も無き被検体774号+:2012/07/30(月) 19:40:57.75 ID:e6Xcvivh0
僕たちはちょうど、街の広場に着いたところでした
木陰に入ったところで、僕は青空の後ろに回り
青空の細くてひんやりした首に、右腕を巻き付けます

青空は力を抜き、黙ってそれを受け入れます
”気をつけ”の姿勢のまま、後ろの僕に体重を預けます
僕の腕は少しずつ青空の首を絞めていきます

体を乗っ取られるのは初めての経験でした
あまりにも違和感がなくて、最初は自分の意思で
自分を動かしているかのような錯覚を受けました

おそらく今僕の脳は、「腕が動いたということは、自分から
腕を動かそうとしたということだ」と解釈しているのでしょう

318 :名も無き被検体774号+:2012/07/30(月) 19:49:51.79 ID:e6Xcvivh0
青空の首に絡み付いた僕の腕に、徐々に力が入ります
やむを得ないと思い、僕は青空の体を乗っ取り、
自分(曇り空)の体を突き飛ばそうとします

しかし、僕と違い、青空には抵抗ができます
僕の操作に逆らって、一歩も動こうとしません
なるほど、青空は本当に僕に殺されたいようです

ですが、その抵抗から、僕はなんとなくヒントを得ます

青空の体がぐったりしてきたあたりで
僕の腕は徐々に青空の首から離れていきます
青空は僕の腕をすり抜け、地面に倒れます

319 :名も無き被検体774号+:2012/07/30(月) 20:03:19.17 ID:e6Xcvivh0
無理に操作に逆らった僕の腕は
いったん全体の皮膚をひっくり返されて
硬いもので万遍なく殴打されたように痛みます

両手が自由に動くことを確認すると、僕は
眠そうな目で僕を見上げている青空に話しかけます

「つまり、『操作に抵抗しよう』とするんじゃなくて、
 『操作の上書きをしよう』とすればいいってことか」

青空は不機嫌そうな顔で、小さな咳をします
「惜しかったなあ。気付くの早すぎですよ」

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人を自殺させるだけの簡単なお仕事です 2

人を自殺させるだけの簡単なお仕事です 1


204 :名も無き被検体774号+:2012/07/27(金) 13:05:48.39 ID:H0TWczxL0
それからも毎日、僕は青空が知人と出会うたびに
礼儀正しく挨拶させ、時には会話までさせました

周りが少しずつ、青空が口を開いても
違和感を覚えなくなってきたところで、
惜しくも課外授業が終わってしまいます

最期の授業が終わった後、
青空はまっさきに教室を出ると思いきや、
ノートの隅に、おそらく僕に向けた
メッセージを書きはじめました

205 :名も無き被検体774号+:2012/07/27(金) 13:14:34.69 ID:H0TWczxL0
青空は、以前僕がそうしていたように、
ブランコに腰掛けて待っていました

「こんばんは、くもりぞらさん」

真夏日の昼間で、ブランコの椅子は
ひどく熱を持っていました

カーティシーの育て方について、
今のやり方で合っているのか確認したい、
というのが青空の要望でした

話を聞く限り、青空の育て方に
特に間違った点はなさそうでした

207 :名も無き被検体774号+:2012/07/27(金) 13:19:49.56 ID:H0TWczxL0
「こんばんは」じゃなくて「こんにちは」だね
俺あたまおかしい

208 :名も無き被検体774号+:2012/07/27(金) 13:21:41.16 ID:H0TWczxL0
「糞暑いな」と僕は汗を拭います

「落としてあげましょうか、川とかに。涼しげですし」

僕は無視してシーブリーズを体に塗ります

「いつか落としてやりますからね」
青空は僕に小石を定期的に投げてきます

僕は青空の体をのっとり、水飲み場で
おでこで水を飲ませてやります

制服までびしょ濡れになった青空は、
「涼しげでいいです」とブランコに座って言います

209 :名も無き被検体774号+:2012/07/27(金) 13:34:42.99 ID:H0TWczxL0
「お前はもう夏休みか。残念だな」と僕は言います
「もっと色々やらせようと思ってたんだが」

「夏休み大好きです」と青空はばんざいします
「人と会わなくて済むし、家にいられるし。
 お酒は誰かが捨てたから飲めませんが」

「人と会うのも、外に出るのも嫌なのか」
僕がそう聞くと、青空は「しまった」という顔をして、
「ええと……どちらかと言えば」と濁します

青空の体をのっとり、僕はポケットをまさぐります

ところが目当てのものは見つかりません
しかたなく、操作をいったん解除します

210 :名も無き被検体774号+:2012/07/27(金) 13:43:03.33 ID:H0TWczxL0
「お前」僕は聞きます、「携帯はどうした?」

「携帯? 持ってませんよ、そんなもの」

「携帯電話を持ってない? 今時の女子高生が?」

「必要ないことくらい見ればわかるでしょう。
 いままで気付かなかったんですか?」
前髪をしぼりながら青空は言います

確かに、青空が携帯電話を持っても、
目覚し時計と化すのが目に見えています

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人を自殺させるだけの簡単なお仕事です 1

編集元:http://hayabusa3.2ch.net/test/read.cgi/news4viptasu/1342927743/
1 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:29:03.95 ID:4S5e64sI0
僕の仕事は、主に、部屋の掃除でした

なぜ他人の部屋をわざわざ掃除するのかと言うと
自殺には身辺整理がつきものだからです

きちんと掃除して、遺書を残して死ねば
その人の自殺を疑う人は、まずいません
とにかく綺麗にすること、それが大事なのです

手順は以下の通り定められています

①その人の体をのっとる
②辛そうに振る舞う
③身の回りを綺麗にする(これが一番大変)
④遺書を書く
⑤死ぬ

5 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:34:14.68 ID:jwqGr8xe0
>>1
スタンド使いか? 魔法使いか?
その両方か?

8 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:35:58.42 ID:4S5e64sI0
>>5
職業特権です

2 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:31:11.64 ID:qBMIlllg0
今まで何人くらい?

4 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:33:23.11 ID:4S5e64sI0
>>2
この女の子が七人目となる予定でした

3 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:31:34.87 ID:4S5e64sI0
そのとき標的となっていたのは
神経質そうな目をした女の子でした
結果的には、これが僕の最後の仕事となりました

それまで僕が自殺させてきたのは
いかにも悪いことをしていそうな人たちで
こんなに若く、無害そうな標的は初めてでした

華奢で色白で、視線は常に下を向いていて、
笑い方がとっても控えめな女の子でした

9 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:38:14.18 ID:4S5e64sI0
それでも標的とされている以上
悪い人間であることに間違いはありません

人の二、三人、平気で殺しているのでしょう

僕は目を閉じて、遠く離れた場所にいる
標的の顔を思い浮かべ、体をのっとりました

八月の、よく晴れた日のことです
最後の仕事が始まりました

10 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:43:16.07 ID:4S5e64sI0
標的は、窓の外を見ていました

場所は高校の教室で、授業中のようです
誰しも黒板とノートを交互に見て
忙しそうに板書を取っています

その中で、標的の女の子だけは、
のんびり外を眺めていたのでした

外は、特に面白いものがあるわけでもありません
バス停、ローソン、薬王堂、ジョイス、
やけに目立つボンカレーの看板、
いかにも田舎っぽい風景が広がっています

11 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:47:23.12 ID:4S5e64sI0
試しに、標的の手を動かしてみました
ペンが妙に大きく感じるのは
この子の手がそれほど小さいということなのでしょう

教師の板書を丁寧に写してみます
すらすら動いて、調子はよさそうです
標的が抵抗してくる様子もありません

ふと教師の顔を見ると、こちらを見て
驚いたような顔をしていました
その意味はもう少し後になってわかります

12 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:50:59.04 ID:4S5e64sI0
標的の女の子の出方をうかがうために
僕はノートに「はじめまして」と書きました

そこで一旦、操作を解きます
標的は自分の手を開いたり閉じたりして
自由になれたことを確認していました

自分が操作されている自覚はあるようです
人によってはそれさえも気づかないのですが

標的は、自分の書いた「はじめまして」を
興味深そうにじっと見つめていました
それ以上の反応はありませんでした

13 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:55:26.54 ID:4S5e64sI0
授業が終わり、昼休みが始まります
再び標的の体を乗っ取ります
ここからが本番です

まずは標的の知人に対して、
標的が辛そうにしている姿を見せる必要があります

ためいきを増やしたり、口数を減らしたり、
いつもと違うことを言わせたり

そうすることで、「自殺の前兆はあった」と
周りが思い込み、自殺にリアリティが出るのです

15 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 12:58:04.71 ID:4S5e64sI0
僕は教室を見回して、標的の友人を探しました

しかし、話しかけてくる人どころか、
こちらに視線を向ける者さえいません

皆、それぞれに固まって、昼食をとりはじめます
僕は誰かが声をかけてくれるのを待っていました

16 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 13:03:57.55 ID:4S5e64sI0
昼休みの半分まで来ても
標的は取り残されていました

僕はそこでようやく気付きます、
この教室で、この子(標的)が孤立しているのは
とっても自然な状態なのだということに

どうやら標的は、いわゆる「ひとりぼっち」のようでした

18 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 13:09:07.84 ID:4S5e64sI0
困ったことになったと思いましたが、
良く考えてみると、好都合なことでした

周りと接点のない人物というのは
いつ死んでも説得力があるからです

インタビューされた同級生に
「無口な人だった」の一言で片づけられるような
「その他」のカテゴリーに属する人種

19 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 13:13:39.53 ID:4S5e64sI0
しばらく放っておくことにしました
なにせ、することがありません

標的は、理想的な「自殺しそうな人」を、
黙っていても演じてくれるようでした

僕は標的の操作を一時的に解除しました

20 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 13:19:20.98 ID:4S5e64sI0
僕はアパートの一室から標的を操っていました
顔さえ知っていれば、どこからでも操れるのです

目覚ましを合わせ、僕は昼寝を始めました
人を操るには体力がいります

次の仕事は、一番大変な「身辺整理」です
それまでに体調を万全にしておく必要がありました

21 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 13:25:06.51 ID:4S5e64sI0
目を覚まして標的の様子をうかがうと、
ちょうど最後の授業が終わり、標的が、
誰よりも早く教室を出るところでした

部活には入っていないようです
ウォークマンのイヤホンを耳に差し込むと
標的の女の子はまっすぐ家に帰しました

彼女が帰宅し、自室に入ったところで
僕は再び体をのっとりました
標的の目を通して部屋を見渡します

「なんだこれは?」というのが
僕が最初に抱いた感想です

22 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 13:31:22.68 ID:4S5e64sI0
しばらく途方に暮れてしまいました

だって、身辺整理しようにも、
最低限の家具と教科書類以外
その部屋にはなんにもないのです

雑誌も、本も、テレビも、パソコンも、
クッションも、ぬいぐるみも、観葉植物も、
その部屋には、なーんにもないのです

25 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 21:55:54.06 ID:4S5e64sI0
慣れた僕でも、人によっては
五時間くらいかかる身辺整理が、
この子だと、二分で済んでしまいました

唯一のゴミは、酒瓶でした
一番下の引き出しに、いくつか入っていました

僕は嬉々として瓶を袋に詰めましたが、
よくよく考えると、酒瓶に関しては、
置いてあった方が自殺者らしくなるので、
もとあった場所に戻しておきました

26 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 22:01:42.56 ID:4S5e64sI0
唯一、人間性を感じさせるものとして、
棚に無造作に置かれたCDがありました
それを聞くためのプレイヤーと、ヘッドホンも

アレサ・フランクリン、ジャニス・ジョプリン、
ビリー・ホリデイ、ベッシー・スミス
いかにも憂鬱な人間のチョイスでした

これに関しても、部屋に置いてあった方が
自殺者らしくなるので、放っておきました

27 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 22:04:02.98 ID:4S5e64sI0
こんなに楽な仕事は初めてでした
お膳立てされていたといってもいいくらいです

今すぐ自殺させても、何の問題もないくらいでした
下手に僕が手を加えないほうがよさそうです

拍子抜けと言うか、騙されているような気さえしました
とは言え、楽であるに越したことはありません

28 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 22:15:55.96 ID:4S5e64sI0
仕上げに、標的の手で、遺書を書かせます

世界史の教科書の端を破り取って、そこに
「むなしいので死にます」と書きました

多分、この女の子が遺書を書くとしたら、
ごくごくシンプルで、誰のせいにもせず、
それでいて案外切実なことを書くと思ったのです

29 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 22:43:01.15 ID:4S5e64sI0
遺書をポケットに入れて、
家を出ようとしたときでした

標的の女の子が、初めて反抗しました
それも、信じられないほど強い力で、です
危うくコントロール権を奪回されるところでした

「待って」と標的は口を動かしました
無理に動かしたので、唇が切れ、
そこから血が流れだしました

驚く半面、僕は安心してもいました
このままだと、上手く行き過ぎて
逆に気味が悪いと思ったからです

30 :名も無き被検体774号+:2012/07/22(日) 22:53:10.22 ID:4S5e64sI0
標的の女の子は、こんなことを言いました
「遺書の文面を、少しだけ、弄らせてほしいんです」

32 :名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 00:17:38.19 ID:Ngo8f8dj0
僕は自分で言う代わりに少女に喋らせます
「どういうことだ?」
傍から見ると、女の子の独り言です

少女は答えます
「『面倒なので死にます』に変えさせてくれませんか?」

「どうして?」

「こいつなんか、死んだ方が良かったんだ、
 って思わせたいんです。できることなら」

33 :名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 00:23:19.80 ID:Ngo8f8dj0
僕はしばらく黙っていましたが、
それくらいはいいか、と思い、
文面を彼女の言う通りに直しました

標的の口が、「ありがとうございます」と
言おうとしたのが分かりました

結局、命乞いは一度もされずに終わりそうです
いったいこいつは何を考えているんだろう?

そこで僕はふと、あることに気付きます

37 :名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 00:43:15.07 ID:Ngo8f8dj0
ひょっとするとこの女の子は、初めから
自殺する気でいたのではないでしょうか

身辺整理も済んで、遺書の内容も決めて、
ただ、踏ん切りがつかずにいたのではないでしょうか

だとすると、僕のやっていることは
自分では決心をつけられずにいた自殺志願者を
望みどおりに殺してやる、というだけのことになります

38 :名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 00:54:46.70 ID:Ngo8f8dj0
そういうのは、僕の望むところではありませんでした
死にたがっている人を殺すのはつまらないことです

殺す前に少し、この女の子をいじめてやろう
そう僕は思ったのでした

標的の体をのっとり、遺書とは別の書き置きを用意し、
それを居間のテーブルに置いて、僕は家を出ました

女の子には、これから一晩中歩いてもらうことにします

46 :名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 12:35:35.16 ID:Ngo8f8dj0
そこは非常に坂の多い街です
階段や段差がそこら中にあり
自転車に乗る人はめったにいません

傾斜が20%をこえるところも多くあり
また、狭く曲がりくねった道が多いところです

その中を、転べば折れそうなほど華奢な足で、
どこまでもどこまでも歩いてもらいます

47 :名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 12:49:05.04 ID:Ngo8f8dj0
キリギリスやコオロギの鳴き声が響いていました
ひどく蒸し暑い夜でした
たちまち女の子は汗だくになります

靴のせいもあり、三時間ほど歩いた辺りからは、
脚全体がひどく痛むようになります

特に土踏まずとふくらはぎには激痛が走り
一歩一歩に苦痛を感じるようになってきます
顔を上げることもままならない状態です

48 :名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 13:19:22.22 ID:Ngo8f8dj0
どうしようもなく喉が渇いたときには
自販機の前でコントロール権を渡してやります
小銭だけは持たせてきたのでした

ポイントは、彼女が自分の意志で
飲み物を買って飲むということです

それでも疲労はどんどん溜まり
痛みはどんどん増してゆき
お腹はどんどん空いていきます

49 :名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 13:27:07.54 ID:Ngo8f8dj0
八時間ほど歩いたところで
標的はようやく目的地につきました

そこは、街を一望できる展望台です
螺旋階段をのぼりきったところで
僕は標的の女の子の操作を解除します

体力の限界を超えて動かされていた彼女は
途端にその場に崩れ落ちますが
彼女の体は、あらかじめ準備しておいた
椅子の上にちょうどおさまります

テーブルをはさんで、向かい側に僕が座っています

51 :名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 13:37:07.69 ID:Ngo8f8dj0
たかだか数百円のカップラーメンを
汁も残さず食べきった卑しい標的は、
自分が死にたがっていたことも忘れて
手摺に肘を乗せて、街を見下ろして
「きれいー」とはしゃいでします

物を考える力がなくなっているらしく
普段のように表情に抑制がありません

向きを変えようとして、足を絡ませて、
おもいっきり笑顔で転んでいます

52 :名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 13:48:27.84 ID:Ngo8f8dj0
「ところで、私のこと、殺さないんですか?」
標的は振り返って僕にたずねます

僕は説明しようとしますが、上手く言葉が出てきません
僕自身も物を考える力がなくなっていました

標的は八時間歩いて疲弊しきっているわけですが
こちらとしても、八時間標的を歩かせ続けるのは
自分で歩くのと同じか、それ以上に疲れるものなのです

53 :名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 13:58:30.99 ID:Ngo8f8dj0
面倒なので、いったん標的を家に帰すことにしました
今日のところは、飲み食いする喜びを
身体に叩き込むだけで勘弁してやろう、というわけです

僕が手招きすると、標的は黙ってついてきました
よく分かりませんが、従順で扱いやすい子です
どうせ操られるだろう、という諦めでしょうか

僕たちはふらつきながら螺旋階段を下りました
車のドアを開けて、運転席に乗り込むと
突然、猛烈な眠気に襲われました

55 :名も無き被検体774号+:2012/07/23(月) 14:11:23.44 ID:Ngo8f8dj0
標的が車の前で困ったような顔をしているので
助手席を開けて「乗れ」と言います
標的は「失礼します」と言って乗り込んできます

とても眠気に耐えきれそうもないので
十分ほど寝てから出発しようと決め
携帯の目覚ましをセットしている最中に
僕は眠りに落ちてしまいました

64 :名も無き被検体774号+:2012/07/24(火) 00:00:26.11 ID:Ngo8f8dj0
暑くて目が覚めました
車内には容赦なく朝の光が差し込んでいます

左に目をやると、女の子が眠っていました
僕はドアを開けて外に出て
展望台の下にある水道で顔を洗いました

体もずいぶん汗でベタついていたので
車に戻ってタオルを取りに行くと
ちょうど標的が目を覚ましたところでした
眠そうな目でこちらを見ていました

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