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3回転を超えるしかないという覚悟!

薄々わかっていたことではありますが、改めて数字として突きつけられると決定的な結果。フィギュアスケートGPシリーズ・ロシア杯女子シングルの結果は、女子の4回転時代の始まりではなく「3回転時代の終わり」を示すものでした。3回転では勝てない、そのことを受け入れ、諦めざるを得ないような。

地元ロシアの観衆の前で表彰台の頂点を争ったふたりのスケーター、アレクサンドラ・トゥルソワとエフゲニア・メドベージェワ。複数種類の4回転を引っ提げて新時代の旗手のひとりとなったトゥルソワと、世界選手権2連覇・平昌五輪銀など「3回転時代」を代表するスケーターであるメドベージェワ。

両者の演じたロシア杯での戦いは「3回転で勝つ」ための道のりをほぼ完璧にトレースしたものでした。机上の計算ではあるけれど、コレをこうして、コレがこうなって、コレがこうなったら勝てるのではなかろうかと想定していたほぼすべてが現実になりました。

ルール上4回転を使用できないという条件のもと、3回転での争いとなったショートプログラムでは見た目にもスコアでも「ほぼ完璧」な演技でメドベージェワが首位発進。そしてフリーでもエッジエラーこそあるものの課題であったルッツジャンプの導入とセカンドジャンプでのトリプルループという引き上げを行ない、見た目にも「ほぼ完璧」な実施で、ガッツポーズが飛び出す会心の演技としました。「ジェーニャ!ジェーニャ!」の大歓声も引き出しました。できることはやりました。

↓ショート、フリー、両方揃えた会心の大会!


総合での自己ベストも更新!

ようやく環境を変えた成果が実感できてきた!




しかし、それでも届かなかった。そして「ほぼ完璧」が「文句なく完璧」であったとしても届きませんよということが数字で示されました。優勝したトゥルソワとの8.71点差は、エッジエラーとなったトリプルルッツがプラスの出来であと3点ほどを取り、ショートとフリーでもう1本ずつトリプルルッツを増やして基礎点をさらに2点ほど積んだとしても、届かない差でした。

そして、その「届かない差」は、3回転選手の「ほぼ完璧」な実施と、4回転選手の「2回転倒、PCSでも上限制限付き」という状態でのものだった。机上の想定どおりの「コレをこうしてコレがこうなったら」が現実になったうえで、なお負けた。これ以上を求めるなら相手が勝手に自滅してくれるくらいしか道はありません。「通常の範囲の下目」ではなく「よもやの大過失」という状態でないと届かず、「普通にやればどうやっても勝てない・負けない」がハッキリと示されてしまった。

演技と数字とを交互に見返しながら改めて「無理だな」と思いました。心理的にも「普通にやればどうやっても負けない」と思ったら大過失どころかむしろいい演技になるでしょうし、「普通にやられたらどうやっても勝てない」と悟ったらモチベーションを保つことすら難しいだろうなと。

崩れつつある「TESとPCSのバランス」という問題。

技術点と呼ばれるTESと、演技構成点と呼ばれるPCS。いわゆる「技術」と「芸術」の二本柱のように思われている(実際はすべてが技術の上に立つものではあるけれど)それぞれの評価項目について、建前としてはバランスを取ることになっています。女子シングルでPCSの各項目に「×0.8」「×1.6」の係数をかけているのも、バランスを取るための措置だったはず。

しかし、もはや女子も4回転選手たちによって「TES100点」が現実にあり得るものになってきています。「TES80点満点+PCS80点満点くらいの勝負やろ…」ではなくなり、PCSの数字上の満点である80点を取る選手がいたとしてもTESの差によって到底及ばなくなっているのが現実。短期的には「係数を変える」ことで調整もできるかもしれませんが、それも焼け石に水でしょう。

それがハッキリと示されたのがロシア杯フリーでのトゥルソワとメドベージェワのPCSだったと思います。メドベージェワが各項目9点台を並べても、トゥルソワが8点台でまとめればPCSは大した差にはなりません。これを係数×1.60から係数×2.0としたとしても詰まる差は1〜2点といったところ。しかも両者「ほぼ完璧」というわけではなく、「ほぼ完璧」VS「2転倒でPCS上限制限付き」でこれなのです。

今季からさらに強化された「プログラム・コンポーネンツとGOEに関する追加の諸注意」は、転倒などがあった際にPCSが最高にいいはずはないですよね…ということで、重大なエラーがあった際にPCSに上限を設けるというルール。しかし、結局コレはPCS重視の選手が一方的にマイナスの可能性を持つだけで、TES重視の選手には痛手がない運用となっています。このルールの無意味さ一方的さが、まさにこのロシア杯女子シングルで「決定的」となりました。もはや「コレがこうしてこうなったら」はナイかな…という感じで。

↓一応ルール上は「コケたら最高に素晴らしい演技とは言えないでしょ?」という制限があるが……!
IV.プログラム・コンポーネンツとGOEに関する追加の諸注意

プログラム・コンポーネンツ

転倒が1回あるいは重大なエラーが1つあった場合,下記を最高点とする.

スケーティング技術,トランジション,構成:最高9.75.
パフォーマンスおよび音楽の解釈:最高9.50.

転倒が複数回あるいは重大なエラーが複数あった場合,下記を最高点とする.

スケーティング技術,トランジション,構成:最高9.25.
パフォーマンスおよび音楽の解釈:最高8.75.

重大なエラーとは,プログラムが中断されるものや技術的なミスで,構成および/または構成と音楽の関係の健全性/連続性/流れるような美しさに影響を与えるものを言う.

この制限は,稚拙なスケーターから卓越したスケーターまで,あらゆるレベルのスケーターに適用する.

https://www.fsk-results.com/s/mHXR5eerwqCajAq?path=%2F01%20ISU%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%8B%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%2F01%20%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%9A%E3%82%A2#pdfviewer


↓その文字通りの運用をしても「もともと上限を超えるか超えないか」くらいの選手に対しては無意味!普通に上限付近が出るだけだから!
gv
最初からPCSでは「制限付き上限」あたりを狙って、TESを限界まで追及したほうがトータルバランスがいい!

回転不足転倒4S(実質2.88点)でも成功3S(5.00〜6.00点程度)と大差ないわけだし!

コケるかもしれないことを前提に大技を組み込み、PCSは無理に極めずに「コケたときの制限付き上限」程度で止めておくほうが、練習も試合も効率がいい!




個人的にはやはり「より高難度」で「舞踏としても美しい」選手が勝ち、すべての選手がそれを目指す状況であってほしいと思います。両方をやり切ってこそ真の勝利があるのであると。それが、2回の転倒を含み「PCSの上限制限付き」となる実施であったとしても、難度の差で勝ちようがないほどの「高難度」1本柱が成立してしまうと、真の勝利を目指す意味がなくなってしまいます。難度1本に振り切ったほうが勝てる。

1本柱ではまだ怪しく、2本柱でようやく勝利が安定する、目指すべきそのバランスが崩れつつあることへの不安と、目の前に迫った北京五輪を考えると跳ぶしかないなという現実を強く感じるこの結果。この競技の将来にとって、4回転を表現する新たなシステムがどんな影響を及ぼすかはまだわかりませんが、ひとつだけ言えるのはメダルが真の願いなら「北京では跳ぶしかない」ということ。その先はわからないけれど、北京までに「今認められているもの」をどうこうすることはできないでしょうから。

覚悟はなるべく早く決めたほうがいい。

わかってはいたことですが、そう叩き込まれた気分です!

↓ショートでの演技開始前の転倒ぶんを「減点」してもなお届かない差!


「むしろ加点やろ」
「ウン、あれは加点」
「かわいい加点+5ですわ」
「パフォーマンスも10.00点あげる」
「記者会見で犬撫でてたぶんであと5点」





ショートの4回転解禁も時間の問題!3回転ではプレッシャーもかからない!