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「這い上がった」ってのは、どの時点か抗争!

獅子は千尋の谷に我が子を突き落とし、這い上がってきたものだけを育てる…それは我が埼玉西武ライオンズ伝統の選手育成方針です。高額の契約金で親御さんの目をくらませ、その金を使う場所もない僻地にお子さんを連れ去り、昭和の長屋に放り込む。そこから脱出した者だけがモーニング娘や乃木坂46との交際が許される。厳しい育成環境です。

その方針自体は全員共通のビジョンなのですが、実は若干のイデオロギー抗争があります。それは「這い上がった」の定義。一般的なゴールライン到達という事象を考えると、「先端到達」こそがゴールという事例は多いもの。競馬なら鼻なり頭の到達ですし、スキーなら板の先っぽの到達こそがゴールです。一方で、「末端到達」という考え方もあります。サスケ的なレースでは完全に障害を乗り越えて、全身がセーフティまで到達しなければクリアとはなりません。

獅子のなかでも意見は割れています。

野手陣は「先端でいいだろ、ガオー」と言っている。

投手陣は「末端まで認めん、ガオー」と言っている。

それが埼玉西武ライオンズ内での育成イデオロギー抗争。野手陣はかわいい我が子を何とか育てようと、崖のヘリに前足が掛かったらヒョイッと持ち上げようと待ち受けています。一方で投手陣はその辺の小石を蹴って遊びながら、全身が崖の上にのぼりきるのをジッと見ています。ときおり蹴った小石が若獅子の鼻っ柱に当たってしまう事故を起こしては、「ゴメンゴメン」と言っている。それは悪意ではなくスタンスの問題です。悪意ではなく。

25日、獅子たちは育成大抗争を繰り広げました。もう少しで崖から這い上がりそうな若獅子をそれぞれのスタンスで見守り、厳しく育成しました。ある者は先端到達派の先輩によってお立ち台にのぼり、ある者は末端到達派の後輩によってもう一回崖の下に突き落とされたりしながら…!

↓この日の育成対象はプロ7年目の24歳、2012年ドラフト2位の相内誠!人呼んで「暴走のダルビッシュ」です!

野手陣:「相内を立派な獅子にするぞガオー!」

投手陣:「獅子になれるかな相内?ガオー!」

ファームでの投球をすれば1軍でもローテーションを守れる、そこまできています!

崖をもうすぐのぼりきるところまできています!



今季1軍初登板に臨む相内は、ゆるく大きなカーブ、長身から投げ下ろすストレート、落差の大きなフォーク、チェンジアップを繰り出し、走者こそ背負うものの無失点の立ち上がりを見せます。チームとしては昨年から年跨ぎで連勝中という相性のいいロッテが相手。今日こそはこのワケありの才能にプロの勝ち星をつけてやりたい、スタンドも親のような気持ちで見守っています。

3回表、野手陣は早い回での援護で相内を助けようと奮起します。自身も苦労人であり、投手から野手への転向を経験しながらなんとかプロ野球に喰らいついている木村文紀のヒットを足掛かりに、入れ替わった走者・金子の盗塁、源田坂46のタイムリーとつないで先制点。野手陣が「もう少しだガオー」と相内を励まします。

しかし、そう簡単に初勝利はつかめません。直後の3回裏「人生の大事なところでスンナリいかない」という天運が首をもたげたか、逆転のツーランホームランを浴びた相内。5回裏にも一発を浴び、これで1-3。相内は天を仰ぎ、一言ふたこと叫びます。出会い頭の事故への恨み言か、制御が効かなかった自身への嘆きか。5回という目安のイニングでは勝利投手に手をかけることができませんでした。

「絶対に相内を勝たせるぞ、ガオー!」

5回3失点、よくはないけれど決して悪くもない粘投。このくらいの試合を打棒で勝たせてやらなくて何が山賊か。先端到達派の野手陣は燃えました。「俺は今年で辞めるけど、みんなにレガシーを遺したい」と奮起するキャプテン秋山は、不振から脱出の兆しを見せるクリーンヒット。「俺が満塁ホームラン打つから4点までは取らせていいぞ」と大きな懐を見せる山川は、フェンス直撃のタイムリーで1点差に。そして、「投手の勝ちは俺の勝ち、俺の勝ちは俺の勝ち」と投手を盛り立てる女房役・森は、バックスクリーンへ飛び込む会心の逆転ツーラン。「相内を絶対に勝たせる」という想いが、房総の空に花火を打ち上げました!

↓相内を勝たせたいという獅子たちの想い、時速109キロで海ほたるまで飛んでいけ!

ゴルフかよ!天才バッターかよ!

相内、崖の上に頭が出たぞ!


これでスンナリ勝てるようなら7年も無勝利のままではいないか。直後の6回裏、相内はこの日3本目となる痛恨の同点弾を浴びます。「低めに投げろ」「低く投げとけば痛打はないんだ」「ま、俺は低めでも打つけどね」と懸命にサインを送っていたキャッチャー森は、打たれた瞬間にホームベース上でガックリ。ただの同点弾ではない、そんな落胆ぶり。

一度は頭まで崖の上に出た若獅子が、崖に手をかけたままのぼれず、再び落ちようとしている。それを先端到達派の野手陣は何とか救い上げようとします。勝ち投手の権利を手の下にねじ込もうとします。相内を勝たせるにはこの回しかない7回表、一死一塁から苦労人・木村が二塁打を放ち、チャンスを広げます。

自身も投手時代にはひとつ勝つのにさんざ苦労し、故障もあって野手転向をした男が、まるでかつての自分に重ね合わせるように燃えていました。守備では普段ならやらないような無理目のダイブでピンチの芽を摘もうとし、攻撃では何とか援護点を挙げようとバットを振るう。「相内頑張れ」「這い上がれ」「お前は投げろ、俺が打ってやる」と。

金子が勝ち越しの犠牲フライを、源田坂46が追加点のタイムリーを、ラストイヤー秋山がダメ押しのタイムリーを放つ…この光景をベンチで見守る相内はどれほどの涙を心で流したでしょう。仲間がいる。ひとりじゃない。俺、プロ野球選手になってよかった!そう思っていたに違いない。

「これは勝ち投手とは言わないガオー!」

しかし、末端到達派である投手陣は「マウンドを降りたあと打線が勝ち越したパターンは、真の勝ち投手と言えるのか?」と問い掛けてきます。「9回まで完全試合でも延長で負けたらやっぱり負けなんだぞ」「最後の最後、試合が終わるまで何が起こるかわからないのが野球」「何かを起こすのは、そう俺たち」とプロ野球の厳しさを叩き込もうと燃えています。「先発完投」以外は甘えなのである、と真っ赤に燃え上がっています。

7回裏、末端到達派の刺客・佐野は二死を取るも走者をふたり出して降板。一打同点のピンチを築いて、3番手・平井に「教育」を託します。平井は1球で簡単に1点を失うと、さらにタイムリーを浴びて都合2失点。「オイ相内、さっきお前が打たれたバッターな、俺も打たれたぞ」と余計な報告をしてくれました。

点差縮まって1点リードで迎えた8回裏には、4番手・野田が「教育」を買って出ます。二死二塁と得点圏までランナーを進め、一打同点のピンチ。コーチとナインがマウンドに集まり、勝負への意思統一をはかって臨んだロッテ鈴木との対決。しかし、鈴木の打球は前進守備の頭を越え右中間へ。ライト木村は絶対に届かない距離にも関わらず、この打球にスライディングで飛び込みました。10メートル以上も落下点から離れているような無駄滑りでした。でも、どうしても取りたかった。これを取れば、相内に初勝利がつく可能性が残ったから。しかし、打球には遠く及ばず、相内の勝ちは消えました…。

↓「むーーーーー、せめて試合だけは勝つぞ!」と燃える木村文紀、追いつかれたあとの9回表に怒りの勝ち越しホームラン!

ホームランラグーンに飛び込んだ!

せめて気持ちよく勝って終わるぞ!


↓「そう簡単に勝てると思うんじゃない、今日も終電までやるぞ!」と燃える5番手・増田は、あわや逆転サヨナラの場面をつくる!


「試合は終わるまでわからんぞ!」
「俺がマウンドに上がっても」
「そこからもうひと悶着する」
「そういう覚悟で試合に臨むんだ!」
「そーれ、二死一・三塁から打たれたぞ!」
(パカーン)
「くっそー!パカスカ打たれやがって!」
「何点取りゃ勝てるんだよ!」
「怒りの中継プレーじゃ!」

ライト木村⇒セカンド外崎⇒キャッチャー森とつないで同点で止めた!

ストライク返球連発からのサヨナラ阻止!

「せめて、勝って、気持ちよく終わるぞ!」の心!




怒りの野手陣、10回表の攻撃。先頭の山川がヒットで出塁するも、つづく森はつなげずファーストゴロとなります。しかし、ここでロッテは慣れないファーストに入ったバルガスの送球が逸れ、ゲッツーを取り損ねます。記録に残らないエラーでした。つづく外崎は三振に倒れ、二死一塁。ここで打席に入るのは、代走から指名打者に入っていた愛斗。4年目、22歳。昨季はファームでホームランを量産した期待の若手。いまだ1軍でのヒットはない打者を「代打は送らず、打席に送る」その期待、その重圧。

それに若獅子は応えます。大きくグラつきながらも三塁線に運ぶと、ライン際まで寄って待ち構えていたはずのロッテ鈴木はこれを捕れず、ボールはレフトファウルゾーンを転々。「若獅子が打ったぞ!」「よく打った、あとは俺に任せろ!」「絶対にお前をヒーローにしてやる!」そんな先輩が激走していきます。この試合、相内に勝ち投手を一瞬にぎらせる逆転ツーランを放ち、見事なホームクロスプレーでサヨナラを阻止してきた森友哉が、ホームに突っ込んでくる。

↓愛斗プロ初ヒット!森の激走!タイムリーとなって決勝点に!

よーーーーし、よく打った!

ネックレスの主張が気になるけれど、今日はOKです!


これが野手陣の育成です。プロ初安打を決勝のタイムリーにしてくれた森の激走。再び試合をもつれさせかねないような10回裏の大飛球も、フェンスをよじのぼってキャッチしてしまう「守備範囲めちゃ広」金子の好守。苦闘の末にようやく勝利をつかんだとき、お立ち台にはプロ初安打を放った男が立っていました。相内に勝ちはつけてやれなかったけれど、初安打で崖上に手をかけた男をヒョイッとお立ち台に上げてやれました。なんだかちょっと胸が熱くなるようなバカ試合でした!

↓ヒーローインタビューに臨んだ愛斗は、喜びいっぱいで大きな夢を語った!


「今はチャンスも少ないんで…」
「チャンスをものにして」
「球界を代表する選手になりたいです!」

チャンスが少ないんで球界を代表したいって、待てーーー!

途中、途中、途中の具体的なビジョン!

レギュラーを取りたいとか、1軍に定着したいとか、そういう段階はないんかーーーい!!


↓なお、試合後には「何で三塁狙わないんだよ!」と怒られたそうです!

ガッツポーズに忙しくて忘れてました!

ガッツポーズに忙しくて!




次は相内も崖上にのぼれるよう頑張れ野手陣!ヒョイっと上げてやれ!