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07:00
もう残している褒め言葉がない!

絶対王者、史上最高、空前絶後のフィギュアスケーター・羽生結弦氏の五輪シーズンの幕開けは、さらなる進化をまざまざと見せつけるものとなりました。いきなりのショートプログラム世界最高記録更新。痺れるようなプロローグ。これを小説にしたら、きっとスーパーヒーロー過ぎるとけなされるでしょう。しかし、これが現実、今ここにある、ファンタジーを上回るリアルです。

僕は不安です。書き出しの時点ですでにサンシャイン池崎ばりの四字熟語を並べてしまっていますが、僕はこれ以上の褒め言葉を手持ちに備えていません。最後に残すのは、未来永劫残りつづける伝説を讃える「永久不滅」のみ。彼の演技に僕は最後までついていけるのだろうか。もしかしたら、この旅のどこかで沈黙することになるのかもしれません。永久不滅以上の価値を見た、何も言えない塊となって。

羽生氏は決して本調子でも本気でもありません。

練習における動きや、演技中のひとつひとつの所作の力感、そして演技を終えたあとの「ふむ」とでも言うような感情の起伏を伴わない表情。彼が本当に魂を燃やしたとき、こんなおすまし顔ではいられないことを誰もが知っているはず。五輪というピークを見据えた、シーズン初戦なりのテンションで臨んでいたことは疑いようがありません。

しかも、事前情報ではいくつものネガティブな報せがありました。右ひざに軽い痛みがあること。体調は「まぁまぁ」であること。今大会は構成を下げた演技で臨むこと。僕はそれは事実なのだろうと思います。小さな嘘で見栄を張ったり、ハッタリをきかせたりするような小細工を弄するタイプではないのです。クチにする以上は、それが事実なのだろうと。

だからこそ、末恐ろしい。

だからこそ、夢が彼方へと飛んでいく。

「本調子」でも「本気」でもない状態で、過去のすべてを一蹴してみせた。少年漫画では主人公が修行の末に大きな成長を果たしたとき、過去に苦戦した敵を一撃で叩きのめし、その成長度合いを見せつける演出がありますが、羽生氏はシーズン初戦でそれをやってみせたのです。2015年の羽生結弦に対して。

軽く、緩く、手探りで繰り出した一撃で、あの伝説の「2015年GPファイナルのバライチ」を超えていった。「普通」とか「まぁまぁ」の次元が飛躍的に上がってしまった。一体どれほどのチカラを隠して帰ってきたのか。人類の歴史で誰ひとり超えられていない「2015年GPファイナルのバライチ」を右ひざが痛くて、体調まぁまぁの、構成を下げた選手が超えていくなんて。

きっと本人も驚いていることでしょう。「このくらいで、こうなるのか」と。それは、ショパンのバラード第1番という同じものさしだからこそ感じられるものだったかもしれません。70%なのか、80%なのか、あるいは50%なのか。余力を残したなかで、アレを超えられるほどに、僕は成長していたのか、と。わかっていたことだけど、やはりこうなってしまったか、と。

↓シーズン初戦にして、早くも史上最高の羽生結弦のさらに先へ!


どれだけ期待をかけても構わない、決してかけすぎにならない、そんな人!

好きな人が強い人って、何てありがたみ!

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感想(0件)




史上最高の演技に臨む羽生氏の姿。衣装はどこか変わっているのかもしれませんが、2015-16シーズンと総じて同じ印象。漏れ聞こえる情報では「勝ち色」の衣装を用意しているという話だったのですが。もしかしたらこれはまだ正式なお披露目前の「ジャージ」のような扱いなのか。こうした演出面からも、まだ上があるなと思わずにはいられない滑り出しです。

身体になじんだ音楽と連れ添って、まずは冒頭の4回転サルコウへ。今回は右ひざの痛みがあるということで、仮に4回転ループを入れる予定の場所があったとしても、そこはやらないということのよう。高く、美しく、流れるようなサルコウジャンプ。もはやジャンプの成否を語る時期は過ぎました。跳べて当たり前。その先が大事です。ジャッジ全員からGOE「+3」を獲得した、このジャンプのように。

2季前はここでさらに4回転のコンビネーションジャンプにつなげたわけですが、今季はより得点を伸ばせる演技後半の時間帯にジャンプを送り込みました。その関係で、構成も変わって先にフライングから入るキャメルスピンを入れ、さらに足換えのシットスピンへとふたつのスピンをつなげる格好に。

以前はステップで魅せる振りからジャンプの着氷タイミングをピアノの打鍵に合わせていた部分も、今季はスピンの回転で合わせてくる。「タァン」と鳴った音で、同じ方向に顔が向く。高度な音ゲーでもやっているようなハメ具合。このあたりは昨季プリンスという強烈な個に合わせて、自分のほうが対応して近づいていくという、難しい音ハメを体験してきたからこその軽やかさかもしれません。馴染んでいる曲に合わせるのなら、どの要素がどこにきたって問題ないね、といったところ。

ちなみに、足換えのシットスピンはひとりのジャッジがGOE+2をつけたのみでしたので、満点となる1.50点の加点を獲りました(※最低点・最高点はカット)。今大会はジャッジが7人なので、より大きな大会ではもうひとりふたりと+2をつける可能性もあり、喜びすぎは禁物ですが、これはまたひとつ自分史に残る経験になるはず。おそらく本人にとっては初、ほかに誰かいたっけレベルの素晴らしい実施だったと思います。

そして演技は後半へ。まずは得意のトリプルアクセル。こちらは何の不安もなく、軽く、簡単に、出来栄えを含めて満点のジャンプで決めます。以前のバージョンであれば跳んだあとに腕を振り上げてドヤァッという「沸く」タイミングがあったのですが、そのぶんは次のジャンプに新たな技としてお引越ししていました。

最後のジャンプ、4回転トゥループから3回転トゥループにつなげるコンビネーションでは、セカンドジャンプを両手をあげて跳び、俗に言う「タケノコ」のタノジャンプとしてきました。これはジャンプの加点要素のひとつでもあるものですが、加点うんぬんを抜きにして、ひとつの動作としてとても美しい。「手をあげればいいんでしょ」のタノジャンプではなく、キレイなコマでも回っているかのような軸の美しさ。回転するヒジの間から覗く顔が、明滅するさまがとても面白いものでした。工作用ドリルとかネジ回しのCMオファーでもきそうな美しさです。

そして、きっと歓喜に向かっていく滑走路となるであろうステップは、振り付けは2季前のもとは大きく変わり、キレイに音にハマっていた一部を残して、アップデートしてきました。特に印象的な差となったのは「緩急」。高密度に詰め込まれたステップのなかにも、パッと動きを止める瞬間がいくつも見られます。

激しく動くだけではなく、心に残る瞬間を。観客席とジャッジへ視線を送る瞬間や、イーグルで流れてみせる瞬間など「止め」の部分が絵となって残るステップ。「得点を獲る」と「美しく舞う」というふたつのことを、「得点」だけを考えても誰も責めないところを、諦めずにふたつを追っていく誇りのようなものを感じたくなる演技。何やかんやでレイバックイナバウアーやハイドロブレーディングが大好きなお客の心、きっと知っているのでしょうね。

昨今のフィギュア界では「技術的要素」と「芸術的要素」を別種の種目としようなんて動きもあるようですが、史上最高の選手はそういうことの先にすでにいます。技術がなければ競技ではないし、美しくなければ演技ではない。あんこと餅を切り離したら大福にならないように、ふたつセットでなければつまらないと、この演技は雄弁に語っています。美しい体操、美しいフィギュア、本物はいつもそこにたどりつく。答えは結局「全部」なのです。全部やるから尊いのです。

↓尊い、ただただ尊い!これで盛り込んでいない要素や、出し切っていないチカラがあるなんて!


もう言うことがない、早くも!

爺様と婆様が何かを拝みだすときの気持ち、今ならわかる気がする!

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とかく世間ではライバル関係を煽りますので、競い合う相手は敵であるかのような論調も見られます。しかし、僕は常に言っていますが、五輪で目指すべき目標はただひとつ「自己ベスト」だと思います。人生で最高の瞬間をそこで迎える、そのための生き様こそが五輪の輝きであり、価値なのです。4年に一度だから捧げられる、4年に一度だから到達できる、そんな高みが五輪にはある。

すべての選手に、自分を超えていってほしい。今の自分が世界大会のメダリストなら当然「金」が目標となりますし、今の自分が世界記録保持者ならその更新が目標となる。それぞれの立場で目指すモノは変わるでしょうが、心の向きはひとつなのです。

だから、羽生結弦というすでに史上最高の選手には、史上最高、空前絶後、そして「永久不滅のこの世の果てに至る」ことが求められる。これから先、どんな競技性になったとしても、どんな採点基準になったとしても失われない不変の価値を、そこに刻みつけてきてほしい。モーツァルトやダ・ヴィンチがそうであるように、未来の誰かが目指し、愛しつづける存在になってほしい。

その可能性を、順調に感じることができました。

現時点でこれなら、五輪ではきっと、そうなるはずだと。

信じた人が応えてくれるありがたみ、感じます。


このテンションで何回褒めることになるのか、今季が怖いです!