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走るのは「人間」です!

話題の厚底シューズに規制がかかりそうです。一部報道によれば、陸上長距離走で好記録を連発しているナイキ社の厚底シューズ「ヴェイパーフライ」が国際陸連によって禁止される見通しであるとのこと。このシューズに埋め込まれたカーボン製のプレートは、かねてより「推進力を生んでいる」のではないかと疑念が持たれており、いわゆる「技術ドーピング」として禁止する方向に傾いた模様です。

↓「履いた瞬間全然違う」「エネルギーの反発性や弾みを高めている」って言っちゃってますしね!


↓マラソン日本記録保持者の大迫傑さんは、「どっちでもいいからさっさと決めてくれーい!」とのご感想!

ありがたいですね!気軽に感想をタダで発信してくれるトップ選手は!

では、どっちでもいいとのことなので、禁止しますね!



これまでもスピードスケートでバイキング社が開発したバネ付きシューズ「スラップスケート」や、競泳でスピード社が開発した高速水着「レーザーレーサー」、あるいはスキージャンプでのモコモコスーツなど、さまざまな用具が開発され、議論され、禁止されたり認められたりしてきました。とりわけ印象深いのは高速水着問題でしょう。

北京五輪当時、世界記録を連発した高速水着レーザーレーサーは「身体を強く締め付ける」「撥水性の高い特殊な素材」「特殊な接着による抵抗の少なさ」などいくつもの新技術が盛り込まれ、多くのトップ選手に支持されました。一方で、製造に時間と手間がかかることから、すべての選手に行き渡らせるのが困難であるという問題や、価格も高かったことで経済的な格差が競技力の差に直結するという問題点も挙げられました。

レーザーレーサーとヴェイパーフライを比較したとき、当時レーザーレーサー禁止の「理由」とされた部分については大いに改善があります。ヴェイパーフライは一般向けの製品であり、箱根駅伝でも多くの選手が着用したように、トップ選手以外でも「買える」ものです。耐久性の問題もあって、頻繁な買い替えでコストがかかるという点は残るものの、現行品の「ネクスト%」でも3万円程度。「みんなが公平に使える」という方向にグッと近づいています。草ランナーでさえ、この新技術の恩恵を受けられるのですから。

となると、やはり問題となるのは靴底に仕込まれたプレートでしょうか。日本陸連による競技規則においても「競技者は、裸足でも、また片足あるいは両足に靴を履いて競技をしてもよい。競技の時靴を履く目的は、足の保護安定とグランドをしっかり踏みつけるためである。しかしながら、そのような靴は、使用者に不公平となる助力や利益を与えるようなものであってはならない」とあります。陸上界は、ドクター中松のジャンピングシューズを認めるつもりはハナからないのです。

↓そのほかにも靴底に「いろいろ仕込むなよ?」の規程は多数設けられています!
●技用靴の靴底および踵は、11本以内のスパイクを取りつけられる構造とする。11本以内であればスパイクは何本でもよい

●競技用靴の靴底または踵から突出した部分のスパイクの長さは9个鯆兇┐討呂覆蕕覆ぁまた走高跳およびやり投の場合は、12个鯆兇┐討呂覆蕕覆

●靴底または踵には、うね、ぎざぎざ、突起物などがあってもよいが、これらは、靴底本体と同一もしくは類似の材料で作られている場合に限る

●走高跳と走幅跳における靴底の厚さは13舒米癲∩高跳の踵は19舒米發任覆韻譴个覆蕕覆ぁ その他の種目における靴底と踵はどのような厚さでもさしつかえない

●底と踵の厚さは靴の内部にある靴底の最上部と靴の外部にある靴底の最下部で計測され、これには前述の構造、または取り外し可能な中敷も含まれる

●競技者は、靴の内側、外側を問わず、靴底の規定の厚さを増すような効果があったり、 前項で述べたタイプの靴からは得られない利益を与えたりするような仕掛けをしてはならない

https://www.jaaf.or.jp/pdf/about/rule/1910.pdf

じっくり読むと厚底シューズの「うまいこと潜り抜けてる」感が増してきます!

走る競技では靴底の厚さは自由ですし、反発力を得ることは「ほかの靴でもできる」ことですから!



技術の進歩は、自由で無制限です。そもそもの靴を履くことだって、スペシャルドリンクを飲むことだって、アリ・ナシで記録は劇的に変わるでしょう。100年前のランナーに言わせれば「それあったら、ワシもっと速かったわー」という技術はたくさんあります。それらは認められて、靴底にプレートを仕込むのはダメというのは、一貫性はないかもしれません。従来の靴だって裸足よりは反発力があるわけですから。

一方で、何でもOKとはならないのも当たり前。かかとからロケット噴射をして一歩で5メートルずつ進みます…みたいな靴があったら「それ完全に鉄腕アトムですよね」となるでしょう。「機械にも人格を認めるべき」「差別よくない」「彼は僕らにとって家族です」とか言い張りながらサッカーのGKに「ボールを絶対跳ね返すロボット」を置いておくなんてこともダメだろうと思います。どこからダメかはハッキリ言えないけれど、どこかに「ダメのライン」はあるのです。

僕はその曖昧なラインを「人間ってスゴイなぁ!」と感じられるかどうかだと思っています。

何故なら、それこそがスポーツの醍醐味だからです。

「AI将棋」のことを考えてみてください。技術の進歩と研究によって、もはや人間よりもコンピューターのほうが将棋が強いのではないかと言われています。そうした状況下で「スマホでコンピューターの指し手を見ながら指す棋士」がいたらイカサマな気がするでしょう。しかし、コンピューターのほうが強いとなっても、棋士と棋士が勝負をする対局の面白さは変わらないのです。何故なら、対局は「人間が戦っている」からです。その棋士が家ではコンピューター相手に練習をしていたとしても、です。

走るよりクルマのほうが速いけれど、走るのを見て盛り上がる。ジャンプするより飛行機のほうが高く跳ぶけれど、走り高跳びの鳥人に憧れる。機械がどれだけ進歩しようとも、「人間ってスゴイなぁ!」と思う気持ちや、憧れる気持ちは変わらないのです。「人間ってスゴイなぁ!」と思う素晴らしさによって、スポーツは人々を惹きつけているのです。「人間ってスゴイなぁ!」と思いたいのです。

その意味において、ヴェイパーフライは不幸にも「靴のスゴさ」が過剰に持ち上げられてしまいました。誰が好記録を出しても「靴でしょ?」となる本末転倒が生まれていました。箱根駅伝の好記録連発の際も、選手の努力、気候やその他の条件があってのことなのに、最終的には「靴でしょ?」が世間の受け止め方でした。技術面や規定がどうこうではなく、そのスポーツを見た人々が素直に「人間ってスゴイなぁ!」と思えなくなってしまったという情報の伝わり方や印象こそが、技術を禁止するに足る理由であろうと僕は思います。

これがスケート靴やスキー板や自転車だったら、ここまで気にはならないのです。スケート靴やスキー板や自転車は「なければそのスポーツができない」ものですから。人間のスゴさとは無関係な部分ですから。飛躍的な新技術が含まれていても、公平でさえあればいいだろうと。しかし、水着や靴は「なくてもそのスポーツができる」ものです。全裸素足でも「マラソン」「競泳」はできる。スキージャンプも板は必要だけれど、スーツは着なくてもできる。なくてもいいものだからこそ、人間の存在を超える印象を抱かせる用具は問題なのです。

スポーツは徹頭徹尾「人間」であるべきもの。

北京五輪当時、まさにそこが疑念を持たれ、そういう疑念を持たれているという空気を察した選手が反発を見せました。逆説的に言えば、そういう反発をしたくなるような状況こそが「この技術はダメ」とする唯一最大の理由でもあろうと思います。「お気持ち」みたいで恐縮ですが、スポーツというのはすべて「お気持ち」です。スポーツのルールなんて「面白くする」ために考えられているもので、公平性も「面白さ」を守るためにあるのであって、すべては「お気持ち」なのです。何の生産性もなく、機械に遠く及ばない無駄な行為をやっているのは、すべて「お気持ち」のためなのです。「お気持ち」を損ねるようなら、禁止も致し方なしと僕は思うものなのです。

「プレート入りの靴」は、まだ人間には早かったかもしれませんね。

全部の靴にプレートが入る時代がきたら、OKになると思います!





「スゴい靴だ」はOKだけれど「靴がスゴい」はダメというフワッとした感覚!