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12:00
強すぎても、弱すぎても、揉める!

混迷つづく日本マラソン界。大会ごとの恒例ではありますが、またも代表選考をめぐってマラソン界は揉めています。女子では選考会となる大阪国際女子マラソンで設定記録を突破したうえで勝利した福士加代子さんが、内定が出ないことに対する反応として、最終選考会となる名古屋ウィメンズマラソンにエントリー。陸連からは「出ないで」というお願いもされるものの、陣営は「じゃ内定を出せ」という態度で突っぱね、本番当日まで駆け引きがつづきそうです。

そして、男子では選考会となる東京マラソンで日本男子が惨敗。日本人トップの選手が「一般参加」「2時間10分台」「全体8位」という体たらくで、陸連からは「誰も選べへんで…」という率直な反応もあがっています。海外招待枠が10人いて、中・長距離主体から距離延長でマラソンに転向してきたエリトリアのメディンと、世界陸上13位が主な結果でベストが2時間9分台というスペインのハビエル・ゲラをかわすのがやっという状態では、陸連の反応も致し方ないところでしょう。

しかも、レース展開も非常に悪かった。海外招待勢が先頭集団を形成して抜け出していくのに、そこに食らいついていったのが村山謙太さんひとり。日本勢が第2集団を作って、日本人トップ争いに終始しました。もちろん代表争いなので悪いことではありませんが、そういう展開での競り合いを制しても「世界には通用しない」という判断が下されるのは当たり前。代表争いのためだけのレースとなっては、プラスアルファの期待感が生まれるはずもありません。

僕は基本的に、陸連の選考というのには一理あると思っています。過去の経緯を振り返ったとき、すべてが同じ意見ではありませんが、陰謀論などというものに与するほどメチャクチャな選考だとは思いません。過去において女子マラソンの選考が揉めたのは「強すぎたから」であり、男子の揉め事は基本的に「弱すぎたから」です。順当にコイツとコイツとコイツが1・2・3だなというイメージ通りに結果を出してくれれば、揉めるはずもないのです。ただ、女子は5人くらいの有力候補がせめぎ合うからまとまらず、男子は選びたい選手がパッとしないから揉めてきただけ。

とかく過去の揉め事があるので、「陸連=悪」というイメージもあるのでしょうが、決してそんなことはありません。選んだ選手がダメだったパターンは数知れませんが、選ぶ段階でまったくもって素っ頓狂だったわけではありません。鈴木博美さんの落選も、高橋尚子さんの落選も、それなりに仕方ない選考であったのです。改めてその辺りを整理しつつ、今回の選考揉め事について検討していきたいと思います。



何故、「一発」選考ではダメなのか。

とかく選考で揉めると出てくるのが「一発勝負にしろ勢」。一発勝負で1・2・3を選べば何の揉め事も起きないだろうという意見です。しかし、それは「選考で揉めない」ことだけを考えた意見であって、本当に派遣すべき選手を見極めるための方法ではありません。根本的に間違っている。

何故かと言えば、マラソンはコースも環境もレースごとに異なる競技だからです。アップダウンの具合や、曲がり角の具合、路面の材質すら保証されない歪な戦い。レース展開も遅かったり早かったり、そのときによってマチマチ。とある一発のレースだけでは、その環境に強いメンバーしか選べない可能性が高まります。揉めないことを優先して、対応力を減ずるのは本末転倒です。

じゃあ、もちろん本番の環境を想定して、それに合った大会で一発にしろという話も出るかもしれませんが、そんなに上手くいくわけないでしょう、と。夏の大会に合わせるために1年前の夏に全員の内定を出すのか、と。残り1年で高橋尚子が出てきたらどうするのかと。季節を合わせるだけでも大変なのですから、何もかも本番に合わせるなど到底無理な話。夏に強い選手という意味では、一応、前年の世界陸上での内定枠を用意していますし。

競馬だってダービーの1・2・3が世代最強馬ではなく、ジャパンカップとか有馬記念の1・2・3が現役最強馬ではないでしょう。そこそこの割合で駄馬が混じっているものです。短距離走とか競泳のように、いつも大体同じ環境でやるから大体同じ選手が勝つ競技とは根本的に違う。展開や環境に左右される競技に「一発」は向いていません。

そして日本マラソンに関しては「人気」が一発を難しくしている側面もあります。全国各地でレースが行なわれ、ときにそれがテレビ中継されもするほどのマラソン人気。マラソンという種目を支える「人気」を育み、応援してくれる人に還元していくためにも「選考会」というのは極めて大事な要素です。

この大会から五輪代表が出るかもしれない、というレースは「内容」面で大きな魅力があります。毎年コースを用意し、警備を準備し、中継を手配してくれる人々に対して、「今後の選考は一発にしますんで、おたくのレースからはもう選びません」なんて言えるワケがない。それをやったら、結果的に自分たちのクビを締めるだけです。支えてくれる人があってこその競技活動です。


じゃあ、何故、こんなに揉めるのか。

端的に言えば、最大4回の選考会で3人を選ぶからです。選考会の数のほうが枠より多いのですから、もともと揉める構造はあるわけです。ただ、そこはマラソン人気の醸成との兼ね合いもあって、無下に1個減らすようなこともしたくない。それに世界選手権の枠は埋まらないかもしれない。「国内3レースで3枠」という状態はキープしておきたいのです。

女子に関して言えば、数を揃えるチャンスはありました。今年の選考会は例年であれば横浜国際女子マラソンであったところが、さいたま国内マラソンに鞍替えされています。実は横浜国際女子マラソンは財政難によってなくなったのです。そこに、さいたま側の大きな大会を開きたいという熱い気持ちが重なり、第1回さいたま国際マラソンを選考会とする運びとなった、と。(※「東京マラソンで選べ」「昔は東京国際女子マラソンで選んでたろ」「東京で選ぶほうが絶対盛り上がる」という意見は一旦置いておきます)

もし、横浜国際女子マラソンがなくなったことを受け、「世界選手権+国内2レース」ということにしておけば、世界選手権の最上位者と、国内2レースの優勝者には「内定」を出しても揉めなかったでしょう。ライバルは負けた選手しか残りませんから。ただ、世界選手権+国内3レースだと、世界選手権で枠が1つ埋まれば、仮に優勝したとしても国内レースで内定は出せません。優勝が3人出たらやっぱり揉めますので。

もし今後、マラソンが不人気となり各地のレースが廃止されていけば、世界選手権+国内2レースというスッキリした選考になるかもしれませんが、それは良いことだとは思えません。揉めて、話題になるくらいのほうがマシです。


過去の揉め事はどうだったのか。本当に「悪の陸連」はあるのか。

これまでの揉め事の経緯を踏まえれば、それがどれぐらい揉めそうな内容だったのかがわかります。代表的なところで、「有森裕子が悪の陸連によって選ばれた」バルセロナ・アトランタ両五輪の女子マラソン選考と、「高橋尚子が悪の陸連によって落とされた」アテネ五輪の女子マラソン選考と、「選考会優勝者が悪の陸連によって落とされた」2015北京世界陸上女子マラソン選考を見ていきます。

<バルセロナ五輪・女子マラソン選考>
世界選手権+国内レースという大枠は変わらずも、選考会は5大会と今よりもさらに多く、選考基準についてはあいまいだった時代。陸連側の総合的な判断によって派遣選手が選ばれることで、有名な松野明美さんの「私を選んで」アピールが生まれた大会。以下、選考会上位者の記録です。

●1991年北海道マラソン:岩下里美(2時間35分1秒/全体3位)
●1991年世界陸上:山下佐知子(2時間29分57秒/トップと4秒差の銀メダル)⇒内定
●1991年世界陸上:有森裕子(2時間31分08秒/全体4位)
●1991年東京国際女子マラソン:谷川真理(2時間31分27秒/優勝)
●1992年大阪国際女子マラソン:小鴨由水(2時間26分26秒/有森が持つ当時の日本記録を更新/優勝)

●1992年大阪国際女子マラソン:松野明美(2時間27分2秒/日本新記録相当/2位)
●1992年名古屋国際女子マラソン:大江光子(2時間31分04秒/優勝)
※1992年名古屋国際女子マラソン:谷川真理(2時間31分09秒/2位)

世界陸上銀の山下さんは早々に内定となり、その後の枠をまず日本新記録の小鴨さんが占める展開。実績の有森とタイムの松野という構図で最後の3枠目を争い、有森さんを選出します。松野さんのアピールで揉め事感は倍増したものの、勝負が掛かった世界陸上と、日本新記録が出るほどのタイムレースとなった大阪なら、世界陸上を重視しても何ら不思議はない選考。タイム重視という意味では、初マラソンで実績ゼロの小鴨さんがちゃんと選ばれているので問題ありません。誤算は、その後の小鴨さんが大成しなかったことだけ。

<アトランタ五輪・女子マラソン選考>

この大会も、世界陸上+国内4レースでの選考。選考基準はひきつづきあいまいながら「2時間26分〜28分台で外国人選手に勝つ」という目安の提示があった。

●1995年北海道マラソン:有森裕子(2時間29分17秒/優勝)
●1995年世界陸上:盛山玲世(2時間33分07秒/9位)
●1995年東京国際女子マラソン:浅利純子(2時間28分46秒/転倒を乗り越えての優勝/1993年世界陸上優勝)
●1996年大阪国際女子マラソン:鈴木博美(2時間26分27秒/2位)
●1996年名古屋国際女子マラソン:真木和(2時間27分32秒/優勝)
●1996年名古屋国際女子マラソン:盛山玲世(2時間27分41秒/2位/世界陸上、大阪女子につづく3大会目の選考会挑戦)


世界陸上金の実績と東京優勝という結果で、浅利さんは順当に選出。残る枠を有森・鈴木・真木で争うも、優勝を重視する選考となり、タイム的にはもっともよかった鈴木博美さんが落選。のちに有森さんはアトランタで銅メダルを獲得。鈴木さんはのちに1997年の世界陸上で優勝。「真木ぇ…」と多くの人が唸る結果になりました。優勝すればいいってもんじゃないということを学んだ大会。

<アテネ五輪・女子マラソン選考>
何度かの揉め事を経て、現在に近い選考基準となったアテネ大会。世界陸上+国内3レースを選考会とし、「世界陸上でメダル&日本人最上位は内定」とし、その他のレースでは「日本人上位の競技者の中から本大会でメダル獲得または入賞が期待される競技者を選ぶ」とした。

●2003年世界陸上:野口みずき(2時間24分14秒/2位)⇒内定
●2003年世界陸上:千葉真子(2時間25分09秒/3位)
●2003年世界陸上:坂本直子(2時間25分25秒/4位)
●2003年東京国際女子マラソン:高橋尚子(2時間27分12秒/2位)
●2004年大阪国際女子マラソン:坂本直子(2時間25分29秒/優勝)
●2004年大阪国際女子マラソン:千葉真子(2時間27分38秒/2位)
●2004年名古屋国際女子マラソン:土佐礼子(2時間23分57秒/優勝/2001年世界陸上で銀の実績)


世界陸上で野口さんは早々に内定を獲得。残る2枠を高橋さん、坂本さん、土佐さんで争う格好になりますが、選考会優勝&タイムでも上回るということで、坂本さんと土佐さんが選出。実績では高橋さんが上回るも、坂本さんも世界陸上4位、土佐さんも世界陸上2位の実績があり、フロックとは言えない選手。五輪後に「天満屋はコレだから…」と言われる結果にはなるものの、選考自体はムチャクチャではなく、むしろフェアと言えるものでした。

<2015年世界陸上・女子マラソン選考>
2014年アジア大会+国内4レースで選考。アジア大会の優勝者には内定を出し、その他の選考会で上位の選手から「派遣記録2時間22分30秒を満たした者(最大1名)」を優先して選考する。ちなみに、この大会ではナショナルマラソンチーム(日本代表)の競技者を優先するとの但し書きアリ。

●2014年アジア大会:木良子(2時間25分50秒/2位/ロンドン五輪代表)⇒内定取れず
●2014北海道マラソン:野尻あずさ(2時間30分26秒/優勝)
●2014年横浜国際女子マラソン:田中智美(2時間26分57秒/優勝)
●2015年大阪国際女子マラソン:重友梨佐(2時間26分39秒/3位入選も上位者がドーピング違反で失格による2位/ロンドン五輪代表)
●2015年名古屋ウィメンズマラソン:前田彩里(2時間22分48秒/2位)
●2015年名古屋ウィメンズマラソン:伊藤舞(2時間24分42秒/3位)


記録で突出するものがあった前田さんが最有力となり、残る2枠をどうするかが悩みどころとなった選考。まず選考会のタイムで大きく上回る伊藤さんが抜け出し、最後の1枠を田中さん・重友さんで争います。ここで陸連は、手薄の招待選手が集った横浜で「先頭集団を追うことなくマイペースの逆転劇」で優勝した田中さんよりも、「ロンドン5位のガメラとともに先頭集団を引っ張って競り負けた3位」の重友さんを選ぶ判断。田中さんはコレが2回目のマラソンという実績面での薄さや、持ちタイムの悪さ(自己ベストが2時間26分台)も響きました。揉めることは揉めるのだろうけれど、正直なところどっちでもいい世界。重友さんを選ぶのにも一理あり、こうした選び方で過去には有森さん選考などの好結果も出ています。「何で天満屋は予選だけ強いねん」という天満屋体質が問題であり、選考自体は問題ない範囲でしょう。

これらの「揉めた大会」も、よくよく見れば「なるほど」と思う選考になっています。意見がわかれる部分はもちろんあるでしょうが、少なくとも「天満屋を選ぶために陸連がムチャクチャをしている」ということはありません。北京五輪の野球日本代表の4番を新井がつとめたような暴挙とも言える個人的感情での選考とは違うのです。「悪の陸連」というのは、世間が肥大化させたイメージに過ぎません。「誰がどう見ても選ばれる」であろう人は、ちゃんと選ばれています。

そして、揉めた大会を踏まえての改善も施されてきています。「総合的に判断するだけでは揉めるな」「いくらタイムがよくても実績がない選手はやっぱりアテにならない」と学んだバルセロナ。揺り戻しで「優勝」という実績を重視したら、鈴木博美を取りこぼして「やっぱりタイムも大事やな」と反省したアトランタ。ハイレベルな選考争いを成績順に3人が抜け出したシドニーを経て、高橋尚子であっても落選してしまうほどフェアになったアテネ。

過去の積み重ねがあったことで、「世界陸上での最上位(勝負/実績/環境/レベル)」「設定記録突破(タイム)」「総合的判断」という3種の方向性での選考をしているのが現在のやり方。内定が出ないことでヤキモキする選手は出るでしょうが、それはどうやったって仕方のないこと。新たに「内定」基準を設けるには、選考会の回数を減らすしかありませんが、現実問題としてそれは難しいでしょう。「タイム順」だけでは出場レースの展開次第ですべてが決まってしまいますし、「勝負」だけでは相手関係による内容面が考慮されない以上、このような複数回&複数方向性になることは避けられず、そうするほうがベターなのです。




ちなみに、今回の選考基準はどうなっていたのか。

つづいてリオ五輪へ向けての陸連の定めた選考方法を見ていきます。選考会は男女とも4回。世界陸上+国内3レースです。世界陸上では「8位入賞かつ日本人1位」のひとりに内定が出され、その基準にハマらなかった場合は世界陸上の結果は関係なくなります。極端な話、日本人が世界陸上でワンツースリーフィニッシュしたとしても、内定が出るのは「ワン」だけです。

残る枠は国内の3レースで、「日本人3位以内」の者から選びます。陸連が設定した派遣記録を満たした者(最大1名)が優先され、それ以外は総合的に勘案して決定します。ただ、派遣記録はかなりレベルが高い記録となっており、女子で派遣記録2時間22分30秒を切った福士加代子さんは、野口みずきさん以来10年ぶりの好記録となるものでした。男子の派遣記録2時間6分30秒というのは、過去を遡っても高岡寿成さんの日本記録2時間6分17秒の1回しか出たことがないレベルのもの。基本的に、「絶対出ないやろ」と思っている記録です。

ただ、もしもそのぐらいの記録を出した選手がいるなら、「環境だの展開だのを全部無視してでも選ぼう」という意味合いでの設定です。福士さんはそれをクリアしたのだから、あぐらで待っていればいいのです。名古屋でそれを上回る選手は99.99%出ません。名古屋は全盛期の高橋尚子さんでも2時間22分19秒かかったレースなのです。それが最低2人は出ないと、「派遣記録突破かつ優勝」の福士さんを上回ることは不可能でしょう。あるワケない。

陸連の「内定は出せないけど、名古屋には出るな」という主張は至極ごもっとも。内定は出せないのです。名古屋まで選考会がある以上、そこに出る選手のことを考えれば、内定は出せないのです。99.99%福士さんが落ちることはないと思っても、奇跡の奇跡で「世界記録でワンツー」とかあるかもしれないじゃないですか。可能性的には。先走って内定を出すほうがムチャクチャです。

今回、福士さんが暴れているのは、それだけの好結果を出したにも関わらず「内定」が出ないことへの不服によるものでしょう。腹の底には、「私のことを嫌っているから、きっと選ばないと思う」という陸連への不信感があるのかもしれません。ただ、これまでのマラソン界の輝かしい実績を思えば、特に女子は、派遣記録程度のタイムで「内定」を出すような基準は作れないでしょう。高橋尚子や野口みずきを輩出した国で、2時間22分台ごときで1枠獲れるなどと思ってもらっては困る。

この基準ごと変えさせたいなら、せめて「日本記録」を出してから吠えましょう。



今後の代表争いの展望について。

女子は内定済みの伊藤さん、福士さんまでは99.99%決定。さいたま国際での最上位者・吉田香織さん(2時間28分42秒/2位)はパッとしない内容であり、まずもって選出はないでしょう。名古屋の最上位者がおそらくは代表となります。吉田さん自身もそれを自覚して名古屋ウィメンズにエントリーしていますが、これについて陸連は「出場しないで」とは言っていません。福士さんについては「選ぶ」と思えばこその制止であり、吉田さんについては「選ばない」と思えばこそのスルーなのです。

なお、今回の基準では「設定記録突破による最大1名の選手以外は、初回の選考会の結果だけを見る」と明記されています。これは公務員ランナー・川内優輝さんのように、何回も選考会に出てくる選手が「1回だけイイ結果を出した」パターンに備えるもの。大会への調整力を重視するための規定です。五輪本番じゃなく、1か月後にピークがくるような調整力では意味がないですから。

したがって、福士さんは名古屋に出場したとしても、タイムでの選出でなければ大阪の結果だけが考慮されることになり、名古屋の内容は意味がないということになります。もし福士さんがタイムで選ばれないような事態になったなら、それは名古屋でものすごい好記録が出たということですから、福士さんが連投でエントリーしたとしてもまず勝てないでしょう。その事態は「高橋尚子と野口みずきがいっぺんに生まれた」に匹敵するようなレアケース。99.9999999%起こりません。

男子は世界陸上での内定者はナシ。すでに終わった福岡国際では佐々木悟(2時間8分56秒/2位)、高田千春(2時間10分55秒/4位)あたりが候補となり、東京マラソンでは高宮祐樹(2時間10分57秒/8位)が候補。一応、下田裕太(2時間11分34秒/10位)、一色恭志(2時間11分45秒/11位)も大学生ということを考えれば、将来性への期待感もわきますが、この程度の順位・タイムであれば東京8位の高宮さん、福岡4位の高田さんを優先すべきでしょう。タイムも順位も引っくり返して将来性だけをとるのは、さすがにフェアではありません。

正直、現時点で「選べる」と思えるのは福岡国際の佐々木さんただひとり。あとは「数合わせ」でしか選べない結果です。なので、最後の選考会となる3月6日のびわ湖毎日マラソンでロクな候補が出なかった場合、「枠を使いきらないかも」という発言につながってくるのです。青学の原監督は「枠を使い切らないくらいなら下田を出せ」と言っているようですが、それは身勝手な言い分です。その主張は、東京マラソンの日本人最上位になってから言うべきものです。調子に乗りすぎでしょう。

びわ湖毎日には藤原正和(2015世界陸上代表)、山本亮(ロンドン五輪代表)、前田和浩(2015世界陸上代表)、中本健太郎(ロンドン五輪6位)らがエントリーしており、この大会からの複数選出は十分にあり得るところ。むしろ、ここから2人をすんなり選べる感じでなければ、非常にパッとしない代表団となるのは確実です。何とか頑張ってもらいたいものです。



このように、ちゃんと見れば「悪の陸連」などと言うものはなく、誰もが納得するような選考もないというのがご理解いただけるのではないでしょうか。納得の選考となるのは、3人ピッタリの数で突出した成績が出たときだけ。それ以外は構造的に揉めるようになっており、それを直すのも簡単ではないのです。

個人的には、世界陸上での内定は「メダル」を必須としてほしいという想いはあります。メダルはうっかりでは獲れませんが、入賞はときとして上位が全滅するようなレースではうっかりがあります。誰しもを納得させるには「メダル」ぐらいはあったほうがいい。シドニー五輪の女子マラソン選考が揉めなかったのは、先に内定を獲った市橋有里さんが「前年世界陸上の銀メダリスト」だったからです。今回の最大の反省点はソコでしょうし、「世界陸上8位」で内定を出すほどに日本女子のレベルが下がったことの残念な証左でもあります。

福士さんを応援する心情がわくのは理解できますが、福士さんの行動は「悪の陸連」幻想をいたずらに加速させるだけで、誰にとっても得のない行為。福士さんがなすべきは「リオへの万全の準備」のみ。内定ごときを争って揉めるのは小者感が出るだけで、本人にとってもバカバカしい。内定ではなくメダルを争うために、少しでも乳首を引っ張って伸ばしてほしい。僕は、心からそう思うものです。


極端な話、乳首が42.195kmあれば、何もかもを無視して代表に選ぶぞ!