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12:00
ピン芸人ならぬピンバレエ団!

本公演から若干タイムラグはありますが、「驚愕の新ナンバー」「衝撃のプログラム」こと町田樹さんの新プログラムを見ました。最終的に中継での形容詞は「異次元の超大作」までアップグレードされ、スターウォーズの新作みたいな感じになっていましたが、前評判に違わない大作となっていたと思います。

9日にテレビ東京で録画中継されたカーニバルオンアイスの公演、その舞台裏で町田さんは伝統的な白タイツ姿でアップに臨んでいました。本公演にあわせて更新された本人サイトでの解説によれば、今回は「白鳥の湖」の演目で、王子ジークフリードに焦点を当てた作品であるとのこと。

フィギュア界隈でも数多く演じられてきた「白鳥の湖」ですが、基本的には白鳥か黒鳥を演じるものです。黒鳥が魅せる32回転のグランフェッテ・アン・トゥールナンなどをやってこそ白鳥の湖っぽいし、スピンという技があるスケートだからこそ、その難技に挑戦しやすくなるという側面もあります。

そこで、あえて王子という選択。「女装じゃないのか…」「女装で白鳥かと思ったが…」「女装で白鳥と黒鳥を一人二役じゃなくてホッとしたような不安なような…」と心をザワつかせます。バレエに関して取り立てて知識もない素人が、王子中心の話でついていけるのだろうか、と。

↓すぐ横でテレビカメラがレポートしているなかでも一瞬も集中を途切らせることはない!

「氷上の哲学者・町田樹登場です!」
「自ら振り付けを行ない」
「想いをこめたプログラム!」
「今回は新作の白鳥の湖を披露します!」
「一体、どんなストーリーになっているのでしょうか!!」

いやいや、ストーリーは白鳥の湖なんじゃないの?

そこも違ってたら、もう誰もついていけないよ!

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そして始まった公演。「氷上舞踊劇」と名づけられた演目は、前作ドン・キホーテの経験を活かし、さらに進化させた形で始まります。暗転した場内で、ただひとつ明るく浮かぶ氷上のスポットライト。それは湖なのか、あるいは呪いを解く月の光か。序曲が鳴り響くなか、町田さんは30秒あまりも姿を見せません。そして町田さんが出てこないまま序曲は終わりました…。

すでにフィギュア界隈では絶対にできない白鳥の湖がそこにはありました。ショートプログラムなら2分40秒、フリーでも4分半ほどの制限のなかで、30秒を本人不在の序曲に当てる選択というのは氷上舞踊劇ならではのもの。ディズニー・オン・アイスみたいなものにじょじょに近づいて行く町田・オン・アイスの発展形です。

そして舞踊は第一幕「独白――王子の孤独」へ。結婚を命じられながら、それを嫌い、そのさなかに白鳥たるオデットに出逢う場面を描いているとのこと。白タイツに合わせた白いスケート靴が、バレエ的な舞踊の美しさをさらに際立たせています。もともとが2時間あまりの尺がある物語ですが、要所要所でジェスチャーが入り、素人にもわかりやすく圧縮再構成されています。

第一幕の最後では誰かを抱き締めてゆーらゆーらしていたので、「出逢ったな…」ということがバレエ素人の僕にも伝わってきました。白鳥の湖では、悪魔ロットバルトの呪いによって白鳥に姿を変えられたオデットが、月の光のなかで真の姿に戻るとされます。光によって夜と月の光を作り出し、そこにいないオデットを浮かび上がらせてみせた。なかなか効果的な演出です。

暗転を挟んで第二幕「偽りの愛」へ。オデットの呪いを解くためには、誰もまだ愛したことのない男性による愛の誓いが必要だと知った王子は、舞踏会にオデットを招きます。しかし、悪魔が差し向けた瓜二つの女性・黒鳥のオディールと出会い、それが罠とは知らず、愛を誓ってしまう王子。これによりオデットの呪いを解くことはかなわなくなってしまうという大失態の場面です。

舞踏会での朗らかな笑顔と、それが偽りであることを知った後の激しい焦燥。「やってしまった…」という絶望は、頭を抱えるようにして激しく回転する絶望ツイズルによって力強く表現されていました。客席からも大きな拍手が。

そして第三幕「ジークフリートの死――あるいは永遠の誓い」へ。オデットへ自らの裏切りを詫び、悪魔と対決する王子。悪魔を討ち果たすものの、呪いが解けることはなく、オデットは身を投げ、王子もまたそれを追うという悲劇の結末。

その結末を表現するため、スポットライトの光は赤へと転じさせ、さらにクライマックスの名曲が流れるなかで場内は暗転。そこで町田さんは姿を消し、身投げすなわち死を表現します。次に現れたときは一転して笑顔となり、白鳥の羽を手に取っている。そして町田さんはリンクに落ちたスポットライト、すなわちオデットに寄り添い、光の周囲をめぐりながら最後は中央へ。オデットを見つけ、抱きしめる流れを光によって表現しました。ひとり三幕構成、堂々のフィナーレです。

↓だんだん時間が伸びてきたし、だんだん話が複雑になってきた!



「曲の解釈」とか「振り付け」なんてレベルじゃない!

セリフとか歌がなくて時間が短いだけのバレエをやろうとしている!

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序曲まで含めれば8分近くに及ぶ超大作。光と音楽と自分自身と、限られた装置をフル活用して大作「白鳥の湖」をひとりでやり切って見せた。もうここまできたら共演者を立てて、大道具でも使ったほうが手っ取り早いんじゃないかという気もしますが、そこはあくまでもフィギュアスケーターであるというところのこだわりなのでしょう。ほかの演者と同じ環境でどこまでできるのか。制限のなかでの挑戦にこそ燃えるという部分も含めて、どこまでやれるのかという。

公演後には、演技の解釈・考察でSNSが賑わいを見せるなど、新たな楽しみ方というものも見られた今回のプログラム。最終的にはノーヒントというか、バレエにおける原典のないオリジナル作品というのもアリかもしれません。公式サイトの解説を手がかりに、実演とインタビューで謎を解いていくような。考察を積み重ねたファンに、町田さんによるストーリー脚本が最終的に与えられ、「そういうことか」「まさかあの一瞬がこんなに長い話だったとは」「ここは宇宙戦争を表現してたのか…」などと答え合わせができたなら。ひとつのプログラムで何回も驚きが体験できる、さらなる新世界への道も見えてくるはずですから…!


監督・脚本・演出・振り付け・主演・歌、いつかすべてをその手に!