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白鵬、みなまで言うな!気持ちはわかった!

世間はすべて敵にまわった今、僕がフワッと立ち上がるしかありません。逆風にさらされる人を擁護することを趣味とする僕は、敢然と白鵬に寄り添います。大相撲九州場所十一日目、立ち合いの成立・不成立をめぐって1分あまりも抗議をつづけた「態度の悪い横綱」白鵬のそばに。

問題の取組はこの日の結び、嘉風との一番でした。白鵬はここまで全勝、後続とは星2つの差をつけています。このままなら十三日目にも優勝が決まりかねないという「つまらない」状況です。そのせいか館内の空気も嘉風を応援するようなムード。地元力士ということもあって、手拍子が起こり、嘉風への声援が飛びます。白鵬はこの日も「負けろー負けろー」と思われながらの土俵です。

伊之助の仕切りでの立ち合い、嘉風は先に両手をついて待っています。白鵬は自分のタイミングで手を地面にすり、いつものように左から張り差しの構え。しかし、この日はスピード自慢の嘉風が立ち遅れたような中途半端な動きだったことで、張り手はすかされます。その一瞬の隙に、スポーンと嘉風がもろ差しに入ります。

両者とも完全に腰が伸びたゆるい態勢に、白鵬は「待った」だとでも思ったのか、嘉風の肩を叩いてアピールをします。しかし、伊之助は動かず。逆に嘉風は猛然と動きます。この緩みこそ勝機と一気の寄り。白鵬は土俵際で観念して小手投げを打ちますが、時すでに遅し。嘉風の勢いによって、土俵下まで落とされました。

しかし、そこからが異常事態。白鵬は右手をあげて物言いを要求するような構えを見せます。かつて控え力士として物言いをつけた経験もある白鵬ですが、自分自身の取組に対して物言いをつける仕組みは相撲にはありません。10秒、20秒、30秒、40秒、50秒、白鵬は戻らない。1分をまわろうかという頃、式秀審判(元北桜)にうながされて土俵にこそ戻りますが、勝ち名乗りを嘉風が受けてもなお、土俵の上で抗議の姿勢をつづけます。

↓立ち合い不成立を主張するには、あまりにもしっかりと立っている両者!


アナ:「白鵬戻らない」
アナ:「これはダメです」
アナ:「もう勝負は成立して(います)」
アナ:「こんなシーンは見たことありません」
アナ:「これはいけません」
アナ:「こんなことはあってはならないことです」
アナ:「まだです、まだ白鵬納得できない」
アナ:「この姿は大横綱いけません」

いけない、これはいけないよ!

いけないのはわかるのだが、ひとりくらい擁護したっていいはずだ!

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相撲としては、これは成立です。白鵬の待ったは完全にカンチガイであり最後まで相撲を取り切った嘉風の勝ちです。自分自身も「後の先」などと言い、微妙に横にズレたり、微妙に手つきのタイミングをズラしてきた力士が、今さら「相手がフワッと立ったので」などと言うのはみっともない。その点では僕も擁護するつもりなどありません。

ただ、白鵬という力士の心にたまった「澱」のようなものもまた、見過ごすことはできません。稀代の悪役・朝青龍に代わるヒーローとして、過剰に清廉を求められてきた白鵬は、何につけても難癖をつけられることが多かった。やれ仕切りのときに土俵を踏むなだの、やれ懸賞金を振り回すなだの、どれも日本出身力士もやっていることなのに、何故か白鵬だけはネチクチと難癖をつけられる。

「それが横綱というものである」

それはもちろんそうなのですが、横綱と言えども神様でないことはわかるでしょう。人間臭い瞬間があるのは当たり前。白鵬は低迷する大相撲を支え、再び隆盛に導いた大功労者である。個人的には谷風・小野川の時代から通じても、史上最強の力士であろうと思っています。にしては、「白鵬に対する敬意が薄くありませんかね?」とは思うのです。

横綱に神のごとき生き様を求めるなら、我々にも相応の態度というものがある。健康優良児を上から見下ろす体育教師のように、ご指導・ご鞭撻・ご注意など難癖をつけるばかりが見守り方ではないはずです。天皇陛下のお言葉を聞くときにスマホいじりをしないように、大横綱の説教を受けるときにスマホいじりはしないのです。

白鵬は、繰り返される難癖をチカラでねじ伏せてはきたものの、心には「どうも俺は大切にされていないようだ」「俺の気持ちは忖度されないようだ」「俺にだけ判定が厳しいのではないか」という「澱」を静かに溜めてきたのではないか。それがときに、立ち合い不成立を主張する見苦しい抗議や、「子どもでもわかる」発言のような形で露わになる。そのように思うのです。

↓際どい勝負で取り直しとされたときには「子どもでもわかる」と審判批判の発言をしたことも!


前人未到の33回目の優勝を何とか阻もうとする「日本人ども」の小賢しい動きでも感じたかな?

まぁ、本人的には取り直すまでもなく自分の勝ちだと思っても不思議はない相撲だが!

※なおこのときは「白鵬の足の甲が先に返っているよ」「右足の甲がガッツリこすれてるよ」「むしろ負けてるよ」と指摘され、サーセン状態になりました。

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問題の取組で、立ち合いが不成立だったのが稀勢の里だったらどうだったろう、そんなことを思います。「一応ビデオだけでも見ますか」という歩み寄りがなかっただろうか。立ち合い不成立を正面から問うことはないとしても、寄りと小手投げでどちらが早いかを見るついでに、立ち合いを見たりしなかっただろうか。

稀勢の里の場合には「そもそもそういう抗議をしない」という清々しさがあるので比較はできませんが、長い時間をかけて溜まった「澱」からすれば、「稀勢の里だったら」という考えを持っても不思議はなかろうと思います。「もっと俺の言葉に耳を傾けてくれてもいいのではないか」と。

見苦しい抗議ではあるし、横綱としてあり得ない態度ではあるけれども、少しだけ歩み寄って理解を示すようなところがお互いに必要だと、僕は思うのです。白鵬はよくやっています。白鵬がいなかったら大相撲は大きく傾いていたことは間違いありません。弟子死亡、大麻、八百長、野球賭博、朝青龍……その全部を「すごい相撲を見せる」ことで乗り越えてきたのは白鵬なのですから。

そして、もうひとつ。この抗議からは別の主張というのも、静かに漂ってきます。

ちょうど同じような取組が先場所あったばかりです。九月場所三日目の結び、日馬富士と琴奨菊の一番。三横綱・一大関が休場する場所をひとりで支える日馬富士は、立ち合いで先に立つも、琴奨菊は明らかに手つきナシで立ってきました。その噛み合わなさで日馬富士は「不成立」と判断し、決して不利な態勢ではありませんでしたが、肩を叩いてアピールをしたのです。

ところが、伊之助は止めない。完全にチカラを抜いた日馬富士が寄り切られていくのをただ見ているばかり。日馬富士は少しだけ右手を挙げましたが、また静かに土俵に戻り、礼をして下がりました。「まあ見ての通りです」というコメントには、悔しさを見せつつも、潔い態度というものが現れていました。

この一番は、「審判の笛があるまで動きを止めるな」という大原則から言えば日馬富士が負けです。負けなのですが、相撲としては止めていい一番でした。立ち合いすぐに片方の力士がチカラを抜いている取組を、そのままつづけさせても面白くないのですから。琴奨菊の手つき不十分で止めることには、理があったはずです。

しかし、NHKの中継で解説をつとめた貴乃花親方は「待ったなら大声で言わないといけない」と突き放し、伊之助は「待ったって言いました?分からなかったです」とすっとぼけ、山科審判長(元小結大錦)は「言葉は悪いけど、(琴奨菊に)入られたから待ったをしてみたという感じ」とむしろ日馬富士を責めた。冷たかった。

↓止めないという判断もあるだろうが、これは止めてもよかった相撲だと思う!


手はつこう!しっかりと!

「空中仕切り」をやっていた昭和の相撲じゃないんだから!

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白鵬が同じシチュエーションで繰り出した「見苦しい抗議」には、俺の話を聞けという文字通りの抗議もありつつ、同じような立場になったときの日馬富士という男の潔さというものを思い返してみてもらえないだろうかという、そんなメッセージを感じたくなるのです。同じ状況で日馬富士の態度はどうでしたか、見苦しい白鵬とは大違いだったでしょう、という。

「殴った」ということが変わらない限りは日馬富士を救い出すことはできないのですが、日馬富士という素晴らしい力士の活躍や功績まで霧散するような、そんな扱いをしてはいけないと僕は思います。児童ポルノDVDを所持していた漫画家が責められたとしても、作品まで責めるのはオカシイのと同じ。

「白鵬のことは嫌いでも、日馬富士のことは嫌いにならないでください!」

二周くらい遠回りで、そんな声が白鵬の見苦しい抗議から聞こえてくるのです。

はい、もちろん、空耳です。


協会よりも警察の捜査に委ねたほうが可能性がある、それが一縷の望み!