このエントリーをはてなブックマークに追加
Clip to Evernote
08:00
そして誰もいなくなった!

日本スポーツ界を揺るがした前代未聞の薬物混入スキャンダル。ドーピング問題としての話はひとしきり済んだのですが、僕には非常に強い違和感が残っていました。カヌー連盟から発表された筋立てには、何かスッキリしない、よくわからない、そんなモヤモヤを感じていたのです。何故、被害者から真っ先に相談の連絡がくるような仲良しさんをわざわざ選んで標的としたのか。率直に言って不思議でした。

そんななか、僕なりの検討を重ねた結果、自分のなかで納得のできるストーリーをようやく組み立てることができました。真実は当然知る由もないのですが、こう考えれば僕はこの事件を納得できるという想像です。みなさんももしかしたらスッキリするかもしれませんので、しばしお付き合いください。


そもそも、鈴木さんは本当に衰えていたのか?

カヌー連盟が発表した内容によると、鈴木さんは「若手(小松選手)の実力が伸びてきて勝てなくなってきた」ことから東京五輪への出場が危ういと考え、このような行為に及んだことになっています。一旦、引退していた鈴木さんが競技復帰を果たしたのも、東京五輪にはカヤック4人乗り500メートル(K4-500)の種目が新たに採用されたので、その種目での五輪出場を目指していたのである…といった筋立てになっています。

確かに2017年の日本選手権では鈴木さんは小松選手にカヤック一人乗り500メートル(K1-500)の種目で負けています。小松選手が3位で、鈴木さんは5位ですから、4人乗りのメンバー入りは危ういかもしれません。かもしれませんが、一応K1-500の国内主要大会での戦績を見ていきます。

●2016年10月:国民体育大会
<K1-500の結果>

1位:藤嶋大規(1分47秒365)
2位:水本圭治(1分48秒250)
3位:鈴木康大(1分48秒386)
4位:近村健太(1分48秒549)
5位:小松正治(1分48秒966)

●2017年3月:海外派遣選手選考会
<K1-500の結果>

1位:水本圭治(1分47秒386)
2位:小松正治(1分48秒023)
3位:鈴木康大(1分48秒383)
4位:高谷琢人(1分50秒790)
5位:宮田悠佑(1分50秒790)

<K1-1000の結果>

1位:鈴木康大(3分57秒125)

●2017年9月:全日本選手権 
<K1-500の結果>

1位:水本圭治(1分40秒756)
2位:藤嶋大規(1分41秒145)
3位:小松正治(1分41秒262)
4位:宮田悠佑(1分41秒367)
5位:鈴木康大(1分41秒870)

<K4-500の結果>
1位:鈴木康大、水本圭治、小松正治、新岡浩陽組(1分25秒266)

<K1-1000の結果>
1位:鈴木康大(3分34秒871)

●2017年10月:国民体育大会
<K1-500の結果>

1位:水本圭治(1分41秒882)
2位:宮田悠佑(1分42秒979)
3位:鈴木康大(1分43秒674)
4位:小松正治(1分44秒767)
5位:高谷琢人(1分45秒716)

これらの成績からわかるのは「500メートルに関して鈴木さんは小松選手と勝ったり負けたりである」こと、「1000メートルに関して鈴木さんは国内のトップ選手である」こと、そして「4人乗りに関して鈴木さんと小松選手は同乗して結果を出したこともある」こと、です。若手に勝てなくなりチカラが衰えたことで錯乱するほどには、鈴木さんは弱くなっていません。

それに4人乗りで五輪を目指すというのが本心の場合、ただただ頭数が減ればいいというものではないでしょう。全日本では同乗しなかった宮田選手に盛るほうがロスも少ないのではないか。あるいはK1-500に関してトップ選手である水本選手に盛って確実に1枠空けたほうがいいのではないか。あえて小松選手を選ぶ理由は見いだせない状態。ていうか、4人集めないといけないのにメンバーを減らして本当に大丈夫なのか。減らすにしても、小松さん以外に誰か、仲良しでない相手がいるんじゃないのか。ちょっと釈然としないものが残ります。



カヌーはどうやったら五輪に出られるのか?

先ほどの大会結果を見ると、鈴木さんは若手の台頭に焦るよりも得意の1000メートルで五輪を目指したほうがよいように思われます。1000メートルに関しては鈴木さんは現在も国内第一人者なのですから、東京五輪なら開催国枠で出られそうじゃないですか。リレー専門メンバーにありがちな「個人種目では実力が足りないので4人のメンバーにギリギリ滑り込みたい」というのとはワケが違います。

しかし、必ずしもそう上手くいくとは限りません。実は五輪の開催国枠は必ずあるわけではなく、国際連盟の考え方によっては「開催国枠ナシ」というケースもあるのです。まずはカヌー競技の五輪出場枠について知ることから始めます。リオ五輪のケースを見ていきましょう。

カヌーの場合、権利獲りのチャンスは2回です。種目によって枠数は異なりますが、「世界選手権上位国の一定数」&「大陸選手権上位国の一定数」が出場枠を勝ち取ることができます。たとえばカヤック一人乗り種目の場合、世界選手権の上位国(8)+欧州(2)+南北アメリカ(1)+アジア(1)+アフリカ(1)+オセアニア(1)の14ヶ国が出場枠を得られる…といった具合。

今回問題となったスプリント種目とは若干異なりますが、リオ五輪でメダルを獲ったカヌー男子スラローム・カナディアン一人乗りの羽根田卓也さんも同様の仕組みで権利獲りに挑み、世界選手権の上位入賞で権利を獲っています。

一応、開催国枠も「ほんの少しだけ」あります。一般にイメージされる「全種目に必ず1艇エントリーできる」という仕組みではなく、リオ五輪のカヌー・スプリントでは「男子カヤック、男子カナディアン、女子カヤック」というスプリント種目の大きなグループ分けにおいて開催国から1艇のエントリーを保証するという仕組みでした。(※ちなみにカヌー・スラロームでは、実施全種目に開催国が必ず1艇エントリーできた)

これは固定の枠が与えられるということではなく、「各グループ分けにおいて」「開催国が1艇も権利を獲れなかった場合に(救済的な意味合いで)」「各グループの一人乗り種目の一番長い距離のレースに」「開催国から1艇の出場を認める」という仕組みです。

リオ五輪の場合、ブラジル代表は男子カヤックと男子カナディアンでは自力で枠を獲りましたので、開催国枠としてリザーブされていた枠はほかの国の繰り上げにまわりました。一方、女子カヤックでは1艇も権利を獲れなかったため、一人乗り最長距離の種目「カヌー・スプリント女子カヤック一人乗り500メートル」に開催国枠としてブラジル代表がエントリーしています。

もし、東京五輪も同じ仕組みだとした場合、開催国枠としてリザーブされるのは「男子カヤック一人乗り1000メートル」「男子カナディアン一人乗り1000メートル」「女子カヤック一人乗り500メートル」「女子カナディアン一人乗り200メートル」になると思われます。鈴木さんが得意とする「男子カヤック一人乗り1000メートル」は、開催国枠としてリザーブされている枠と見込まれるのです。



鈴木さんが一番確実に東京五輪に出られる方法は?

ところで、日本のカヌー・スプリントはどの程度のチカラがあるのでしょうか。有り体に言うと弱いです。日本のカヌー・スプリント男子カヤックで五輪に出場したのは、近年はロンドン大会の松下桃太郎選手・藤嶋(渡邊)大規選手だけで、それ以前だと1984年のロサンゼルス大会までさかのぼります。五輪の権利を獲れないのが普通、というチカラです。

鈴木さんがメンバー入りを狙っていたとされる男子カヤック4人乗り500メートルについても、2017年の世界選手権では日本代表(小松正治、水本圭治、松下桃太郎、新岡浩陽)はB決勝(10位〜18位争い)にも進めず、準決勝敗退でした。昨年10月のアジア選手権で日本代表(小松正治、松下桃太郎、藤嶋大規、水本圭治)は銀メダルを獲っていますが、金メダルのカザフスタン代表に対しては1秒半ほど離されるチカラ負けでした。これでは自分が代表に入れるかどうかだけでなく、権利が獲れるかどうかという点もアヤしい。

しかし、リオ五輪の出場枠の仕組みからすると、東京五輪でも「もしもカヌー・スプリント男子カヤックで日本から1艇も出場権を獲れなかった場合、救済措置的な開催国枠として男子カヤック一人乗り1000メートルに日本から1艇が出場できる」と見込まれます。その場合、日本からK1-1000出場に相当する選手は誰か。現在の第一人者である鈴木さんが選出される可能性は相当に高いでしょう。

その際に重要なのは、「カヌー・スプリント男子カヤックで日本から1艇も権利を獲れなければ」という点です。ならば、自分がメンバーに入って権利を獲るよりも、むしろ日本人が全員コケたほうが、自分が五輪に出られる可能性が高まる…そのような道筋が見えてくるのではないでしょうか。

「1艇も獲れなければ」ですので、鈴木さんと直接バッティングしない短距離種目の選手にも注意しないといけないわけです。東京五輪のカヌー・スプリント男子カヤックは3種目。「K1-200」「K4-500」「K1-1000」です。まず一人乗り1000メートルは自力で勝つことを目指す。4人乗り500メートルは、自分がメンバーに入れれば勝っても負けてもどちらでもOKなので、誰でもいいから自分が上位4人に入れるだけの頭数を消せばいい。

さて、それでは一人乗り200メートルは誰が強いのだろうか、ソイツにも負けてもらわないと困るのだが……となるわけです。ここで改めて近年のK1-200の成績を見ていくと、25歳というまだまだ伸びる年齢でありながら、2014年にはアジア大会で銅メダル、2017年9月の全日本選手権K1-200を制し、2017年のアジア選手権では同種目で銀メダルを獲得した有望株がいるじゃないですか。ちょっと早めに潰しておきたくなるじゃないですか。で、その選手こそが…

↓今回の被害者の小松正治選手でした!


なるほど、これは真っ先に狙いたくなる!

まだまだココから伸びそうだし!

ついでに4人乗りの頭数も減らせる!



理由のない恨みや嫉妬、ましてや錯乱などではなく、ちゃんと理屈のうえに行なわれたことであったのなら、友情をも飛び越えていくのは納得です。友情は友情として、真っ先に小松選手を狙うだけの理屈はあった。最終的には全員やっつけないといけなくなったのかもしれませんが、その順番がランダムだったりではなく「やっつけるべき順」をちゃんと考えていてくれたことには、僕もようやくスッキリする想いです。一粒で二度美味しい。一発の弾で二頭仕留める。納得感強みです。

カヌー連盟にも、その辺をもう少し丁寧に説明していただけるとありがたかったなと思います。謎が謎呼ぶ不思議事件みたいになっちゃってましたからね。パドル隠したり、GPS装置隠したり、小銭隠したり、パスポート隠したり、4人乗りのメンバーに入るためだけにしちゃ、いろいろやりすぎだなぁと思ったのです。最終目標が「全部やっつけること」だとすれば辻褄も合いそうですよね!

みなさま、本当にお疲れ様でした。


せっかくカヌー場作るんだから全種目開催国枠くれればいいのに!