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07:00
4年越しの続編は歓びの物語!

大きな満足と安堵。今大会にあたり心に秘めていた願いのひとつが叶いました。高梨沙羅さん、スキージャンプ女子ノーマルヒルでの銅メダル獲得。高梨さんがメダルを獲れたこと、それも2本とも素晴らしいジャンプでチカラを示して獲れたこと、4年前のあの姿がようやく上書きできるような、前を向けるような気持ちです。


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今大会、高梨さんの下馬評は力量に比べて低かったと思います。前回大会では金確実と言える圧倒的成績での大会入りでしたので、それよりも下がるのは仕方ないとしても、どこか「高梨さんは勝負弱い」というイメージが広まっていたように思います。それは4年前のあのメダルを獲り逃したせいかもしれませんが。

スキージャンプというのはとても難しい種目です。才能と技術を兼ね備えた選手でも、気まぐれな風に翻弄されてメダルを逃すことも多いもの。たとえば男子でワールドカップ歴代最多勝利を記録しているオーストリアのシュリーレンツァウアーは、オリンピックで個人の金はありません。自分に不利な風が吹かず、他人に有利な風が吹かない。実力を備えたうえで、都合のいい運を引き寄せた人にだけジャンプの金は渡ります。何もかもが上手くいって初めて獲れる、不都合なメダルです。

そういうメダルですから、獲れないことはあるのです。

前回ソチでは、高梨さんは重圧もあったのでしょうが、それとは別に2本のジャンプどちらもが不利な追い風を受けてのものという悪条件もありました。空中で叩かれるようにして落ちた高梨さんは、勝負の2本目ではテレマーク姿勢を入れられず飛形点もロスしました。結果的にはその差がなければ金はともかく銀には届いていた僅差でした。

それぐらい本当にちょっとしたことで何もかもが変わってしまう競技で、それでも自分の望む結果を引き寄せようとする。「もしかしたら自分だけ追い風になるかもしれない」と思いながら、それをも跳ね返せるように4年間のすべてを懸けて、わずか10秒ほどの試技に臨む。その重さを、「勝負弱い」なんて言葉で片付けられるのは不愉快だったでしょう。誰にとっても難しいことをやっているのに、そんなタグ付けをされるだなんて。

もしもあのとき銀か銅があれば、再度頂点を目指す五輪を前にしてこんなに軽んじられたりはしなかったはず。心ないインターネットで並ぶ「2000万円ベンツ」などのやっかみも、偉大な選手が得るべき当然の環境として受け入れられていたでしょう。ほんの少しのことで、すべての責めを負う理不尽さ。それはまさにスキージャンプのように不都合な風が吹いた4年間だったと思います。

しかし、この日、高梨さんは自分に克つ姿を全世界に見せました。終わってみれば、今季のワールドカップランキングそのままのルンビ(ノルウェー)、アルトハウス(ドイツ)、高梨(日本)という固定メンバーでの決着。それは成り行きでそうなったのではなく、三人ともが自分を乗り越え、不運をかわし、チカラを示したからこそこうなったのです。「こうなるだろう」の通りになったというのは、スーパーハイレベル決着である。理不尽をたくさん見てきたマニアとして、僕は強く主張します。この戦いを演じた全員が強かった、いい戦いだったのだと。

↓みんなが強かったから、こうなった!こうなるだろう結果を4年に一度の五輪で出せるのは、とてつもないことです!


この2本を御するために「ひとつも楽しくなくていい4年間」を過ごしてきた証!

雪辱の大ジャンプ!!



ワールドカップランキングに沿って高梨さんが最後から3番目、アルトハウスは最後から2番目、そしてルンビが最後に飛ぶという流れでの1本目。高梨さんの順番では、風はわずかな向かい風でした。条件はまずまずといったところ。そこで高梨さんはヒルサイズに迫る103.5メートルのジャンプ。テレマーク姿勢もしっかり入れて120.3ポイントを得ます。よし、悪くない。

それでもライバルも強い。つづけて飛ぶアルトハウスは高梨さんを模した姿勢でのアプローチから、素早く空中姿勢に移行。高梨さんよりやや強い向かい風を受けた大ジャンプで暫定トップに躍り出ます。さらにそれをルンビが上回って、三強がそのままトップ3を形成して2本目に向かいます。1本目を終えての差は距離にして3メートル弱。2本目のデキで全員が入れ替わる程度の差です。

じょじょに雪が降り始めたアルペンシアスキーリゾート。ジャンプ台ではシュプールに溜まった雪を取り除く処理も盛んに行なわれます。風は相変わらず気まぐれで、強い。日本の伊藤有希さんなどは、追い風に叩かれて手前に落下する不本意なジャンプとなりました。

そんな環境でも受け入れて飛ばなくてはならない。その理不尽を受け止めるために日本のコーチは、スタートの合図を送る道具を「旗」ではなく「板」にしています。旗を持てば、その揺れが選手に風を伝え、不安や不満も生んでしまうかもしれない。だから、風で揺れない「板」で合図を送る。例え理不尽な追い風であったとしても、コーチはそれを飲み込んで「今がベスト」のタイミングを伝え、選手は信じて飛ぶ。これぞチームという信頼関係です。

そして迎えたトップ3。スキージャンプでは2本目は1本目の成績の逆順に飛びますので、高梨さんが最後から3番目、アルトハウスは最後から2番目、そしてルンビが最後に飛ぶという流れです。高梨さんは自分が飛んだ時点でトップであればメダル確定という状況。風はほんのわずかに向かい風が吹いています。よくもないが決して悪くもない。

勝負のジャンプ、高梨さんは世界最速とも言われる踏み切りから空中姿勢への移行をスパーンと決め、飛び出した瞬間から浮力をつかまえます。そしてどんどん伸ばしていく。暫定トップの目安距離を大きく超えてヒルサイズ付近まで。テレマーク姿勢での着地から広げた両手を突き上げてのガッツポーズ。103.5メートルの大ジャンプは、誰の負けも利せず、自分の克ちだけでメダルを確定させる4年越しの雪辱でした。最高の笑顔がマスク越しに見えました。



飛距離が伸びてきたということで、ゲートを下げての残り2人。アルトハウスは高梨さんよりも強い向かい風を受けて、高梨さんのラインを越えていきます。さらにルンビはこの日一番のビッグジャンプで金メダルへの飛行を決めました。結局、三強はそのまま崩れませんでした。

2本目での高梨さんのウィンドポイント(※向かい風が強いほど減点幅が大きくなる)が-2.0、アルトハウスが-9.0、ルンビが-11.0というのを見ると、今回も一番いい風は高梨さんには吹かなかったのかなという気もしますが、それをも含めて獲れそうな銅をしっかりとつかみとった。素晴らしい戦いでした。誰も応援していない身であれば、もっと気持ちよく、強い者たちの美しい戦いに拍手喝采していたような。

試合後のインタビュー、高梨さん自身は「自分はまだ金メダルの器ではない」と語りましたが、僕はそうは思いません。器は十分にあった。ただ、ほかにも金の器を持った選手がいて、ひとつの金メダルを奪い合っただけです。誰かが取りこぼしたものではなく、奪い合った末の銅なら、それが愛すべき自分のメダルでしょう。こぼれてきたのではなく、つかみとったものなのだから。

どうぞ色ではなく、自分を誇ってください。

4年前よりも強く、美しくなった自分を。

17歳のときよりもずっと大きくなった自分を。

今の高梨沙羅のほうが「4年分」素晴らしいのだから、今の銅メダルのほうが4年前の金メダルよりも、きっと思い入れも深くなります。愛せるはずです。

この素晴らしい続編を、見せてくれてありがとう。

「いい日はいつかちゃんとくる」んですね!

↓笑顔のクオリティも4年前より格段に上がってると思います!

4年前は実力者が泣いて終わる不完全燃焼な戦いだったけれど、今回はチカラでチカラを上回るいい戦いでした!

そんな戦いへ、そんな素晴らしい競技へと導いたのは、この競技を牽引してきた高梨さんです!

スキージャンプ女子、これからも楽しみです!

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次回北京での続編にも期待しています!次は団体戦も見たい!