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負けてやらないことを考えていたら、相手が先に負けていた!

平昌五輪もいよいよ佳境。過去最高の個数のメダルを獲得する実り多い大会の最後に、日本をパッと明るくする眩しい銅メダルが届きました。カーリング女子日本代表、ロコ・ソラーレ北見の日本カーリング競技史上初のメダル獲得。事前にある程度メダル獲得の見込みを立てていた僕の想定でも、このメダルはカウント外でした。世界選手権・銀のチームへの敬意がないわけではありませんが、もし獲ることがあれば「サプライズ」だなと。

とにかく明るかったこのチーム。トリノ五輪以降、カーリングは少なからず明るく楽しいイメージを定着させてきましたが、そのなかでもとにかく明るかった。特にサードをつとめた吉田知那美さんの太陽のようなにっこにっこにーの笑顔。「とにかく明るい吉田知那美」だった。人生をかけた緊張の戦いのなかで、こんなに素敵な笑顔が見られるなんて、何だかとてもうれしくなるくらいの。

試合が始まるときはいっぱいの笑顔のロコ・ソラーレ。

でも、試合が終わるとよく泣いていたロコ・ソラーレ。

予選リーグの最終戦・スイス戦でチカラ及ばず大敗を喫したあと、知那美さんはやっぱり泣いていました。ずっと記憶に残っていたソチのあとの悲痛な涙、チームから戦力外通行を受けたときと同じ泣き顔で。でも、最後の最後、3位決定戦が終わったあとに知那美さんが、藤澤さんが、夕梨花さんが、鈴木さんが、本橋麻里さんが流した涙は嬉し涙でした。笑って泣いて笑って泣いたチームが、最後の最後に笑いながら泣くなんて!


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「そだねー」「いいと思うー」「ナイスー」…この大会を通じて聞いたたくさんの言葉。彼女たちの言葉は誰かのアイディアや誰かのプレーを決して否定しません。別案があれば「こういうのもいいんじゃない」と問い掛け、みんなが最後は「そだねー」で終わる。決してそれは馴れ合いではなく、みんなが「そだねー」と思える決断でなければ本当の意味でいいプレーにはならないから、最後まで「そだねー」を模索するのです。

カーリングはひとりでストーンを投げるスポーツではありません。みんなで立てたプランに沿って、ストーンを投げる者、そのライン…つまりコースを見定める者、ウェイト…つまりストーンの速さや届く距離を見定める者、ブラシでスイープする者、プランに変更があればそれを改めて指示する者、みんながたくさんの役割を同時並行でこなしながら、一瞬ごとに変わっていく状況に対応するのです。単なる共同作業ではなく全員参加のひとつの作業です。

その「息」をぴったり合わせるには、お互いへの深い理解がなければ無理であり、それができるチームが強い。だから、カーリングにおいて選抜チームは組まれないのです。みんなができることできないこと、得意なこと苦手なこと、間違えやすいこと信頼できること、それを互いに知って、信じて、決断する。それが最終的に「そだねー」になる。よし、それでいこう。そんな決断の言葉として。

だから、ひとりのミスが必ずしもミスになるとは限らないし、むしろ仲間を頼ることを前提に組み立てていいのです。「強い」ことよりも、少し「弱い」くらいがちょうどいい。強すぎるストーンは仲間が手を出すことはできません。スイープをすればストーンは滑り、より遠くまで伸びていってしまいます。しかし、短いぶんには助けられる。ひとりで決めてやろうと投げたストーンよりも、怖くて萎縮したストーンのほうが手の施しようがある。

「ヤーーープッ!(ゴメン、短い!)」「ヤーーーーーーップ!!(掃け!)」「ヤップ!ヤップ!ヤップ!(掃け!掃け!掃け!)」、大声が飛び交う懸命のスイープはストーンの距離を数メートル伸ばし、ストーンの曲がりを遅らせてガードをすり抜ける。「私がやるしかない」ではなく「私が終わらせさえしなければ、まだできることはある」という気持ちが、カーリングにはちょうどいい。

スキップの藤澤さんのプレーにもそれがよく表れています。僕はずっと藤澤さんはドローショット…置きに行くショットが苦手だと思っていました。しかし、今大会はここ一番のドローがよく決まっている。いや、藤澤さんのドローが決まっているというよりは、全員のチカラを使って決めるというプレーになっているのかなと思います。決まればみんなのチカラ、外れればみんなのミス。だから、責任を背負うこともないし、自分を責める必要もないし、スーパーショットは必要ない。微調整ありき、ピッタリでなくてもいい、そんな意識で。


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ロコ・ソラーレの使う言葉で「そだねー」が人気ですが、もうひとつ僕の印象に残ったのは「やらせよう」です。相手はきっとこうしてくるだろうけれど「やらせよう」。それはなかなか出てこないというか、普通は「やらせまい」とするのが当たり前だと思うのです。でも、彼女たちはより幅広い可能性というか、自分たちが上回ることだけでなく、相手が下回ることもちゃんと念頭に置いている。

サッカーで言えば、コースを切って最後まで身体を寄せることのような、完封できないまでも、少しでも難しくさせていれば、何かが起きるんじゃないかというしつっこさ。そのしつっこさがときに驚くような相手のミスやラッキーを生み、絶体絶命の状況からの粘りを演出してきました。そして、そんなときロコ・ソラーレは「これがカーリングだね」と言いました。

予選リーグ・スウェーデン戦の第10エンドスチール、準決勝韓国戦での9エンド・10エンドの連続得点。「勝とう」という気持ちより、「できるだけ負けてやらない」という戦いぶり。その粘りがつながって届いた3位決定戦、そして敗戦と延長戦を五分五分で覚悟したなかで生まれた、まさかの相手の銅メダルミスショットでした。ミスショットは相手がしたことですが、それも含めて「やらせよう」を仕掛けたのはロコ・ソラーレだった。

3位決定戦イギリス戦は、最初から最後までしびれるロースコアの展開でした。それぞれが相手の後攻めエンドになんとか1点を取らせようとし、それに抗ってブランクエンド(0点エンド/有利な後攻めの権利を持ったまま次のエンドに入る)にしようとし、互いにプレッシャーをかけ合いました。前半の5エンドを終えてキレイに1点ずつ交互に取り合う2-3。長い長いプレッシャーの掛け合いは剣豪のにらみ合いのような雰囲気でした。

後半に入っての6エンド、7エンド、日本はブランクエンドとしてロースコアの展開を継続していきます。その緊張のなかで、序盤は苦しんでいたアイスの読みがじょじょにハマりはじめ、正確なショットを連発できるように。あやふやなときに勝負をかけるのではなく、粘って粘って慣れるまで粘った。1点を取らされて先攻めとなった第9エンドは、日本が縦に真っ直ぐストーンを並べ、プレッシャーをかけていく展開。「ここ」に置かなければゲームプランが崩れるというショットを、何度も、何度も、何度も決めていきます。

そして、スキップ藤澤さんに残った最後の2投。相手のガードストーンの裏にピッタリと隠し、強烈なプレッシャーをかけるナイスショット。それが結果的に相手に「自分の石を含めたトリプルテイクアウト」のミスを誘い、1点スチールにつながった。終始先行される展開で、初めてスコア上のリードを奪った。しかも相手のミスを突いて奪った。守り合いのなかで、初めて攻撃の牙を見せたエンドでした。

そして10エンド。基本線の目論見としては、スチールできれば最高だけれど、相手に1点を取らせて延長エクストラエンドで決めればOKというところ。5投ずつを終えて、日本がナンバーワンとナンバーツーのストーンを持っている状態で、チームはコーチを含めてのタイムアウトに入ります。ここから最後のストーンまでのイメージをすり合わせ、最後の勝負に臨みます。

最終盤、藤澤さんの最後のストーンは自分たちの石に当たって、狙いよりも少し短いところで止まります。端的に言えばミスショットですし、ラインのコールもミスでした。最低でも相手は1点取れそう、上手くしたら2点取れそう。そんな場面です。しかし、これがまさに「やらせよう」の道だった。

もう少し奥に行けば相手は逆サイドからビリヤードのような玉突きで比較的狙いやすい局面を作れましたが、安易に叩きやすい場所にはおかず、難しいショットならやらせてもいい。コースだけでなく、強さも、カーブも含めて気を遣う「全員ショット」ならやらせてもいい。そんな心持ちが、重圧を自分たちを追い詰める方向ではなく、相手を追い詰める方向へと動かしていった。そして、相手のラストストーンは自分たちの石をすべて押し出し、日本のストーンだけをハウスの中心部に残しました。ミスだった。けれど、それは難しいことなら「やらせてもいい」の先にあるミスだった。

↓たたいて弾いて残った石は日本の黄色!しびれる試合を連続スチールでものにした!


相手も「延長はイヤ」だから2点で決めにきた!

10エンドかけて「イヤだな」と思わせた!

「イヤだな」よりも「いいと思うー」が強かった!

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カーリングではハウスの中心から後ろにいったストーンは、もう戻ってくることはありません。でも、短くてハウスに届かなかったストーンは、あとで別の石で押すことができる。そして、何かを起こすことができる。ロコ・ソラーレはみんなのチカラを信じることで、誰かひとりがチカラを出し過ぎず、「短くなったとしても、まだ使える場所に留まる」という簡単には負けてやらない戦いをしました。簡単に負けてやらないことで、いくつかあった相手の自滅を自分の勝ちにしっかりつなげられた。相手のチカラをも「可能性」のひとつとして使い切った。そこにこの銅メダルまで届くサバイバルがあったように思います。

五輪で辛い想いをした人に、五輪が最高の喜びをくれた。

頑張った人に五輪が微笑むような銅メダルでした。

おめでとう、そしてありがとうロコ・ソラーレ北見!

すごく楽しい平昌五輪になりました!


あぁ、これでカーリングは完全に冬季五輪の花になった!満開の!