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12:00
下町ボブスレーセーフ!セーフ!セーフ!

関係者にとっての大朗報が飛び込んできました。町工場のチカラを結集してソリだけ五輪出場を目指す下町ボブスレープロジェクトが支援し、決別し、金だけ吸われた相手・ジャマイカの女子ボブスレーチームが平昌五輪前に実施されたドーピング検査にて陽性反応を示したというのです。



検出されたとされるクレンブテロールは蛋白同化薬、いわゆる筋肉増強剤の一種で、陽性ということになると4年資格停止となる違反です。元記事であるロイター通信の報道では、まだB検体のテストはされていないということですので、確定までには少し時間がかかるでしょうが、同じタイミングの尿なのですからA検体で出てB検体で出ないということは基本的にないのがドーピングテストです。早晩、資格停止並びに平昌五輪からの記録抹消がなされるでしょう。

これは日本からソリだけ五輪を目指していた下町ボブズレープロジェクトにとっては大朗報と言えるものでしょう。「あぁなんだ、どっちみちダメだったやん」という決着は、自分たちの能力不足・努力不足・運不足を悲嘆させることなく、いっさいがっさい「なかったこと」にさせてくれます。それはさながら寝坊して慌てて駅に向かったら電車が止まっていたときのような気持ち。「すみません、電車がクソでして…」と会社に電話をするとき、そこに寝坊したかどうかは関係なくなります。寝坊ノーカウントです。

これにより、一旦は頓挫したプロジェクトにも再度やる気というものが生まれます。「ジャマイカはクソだったわけであるが…」から始まるプロジェクト再決起集会では文字通りの怪気炎が上がり、「もっとまともな国を見つけよう」「まともで貧乏でスポンサー企業が存在しない国がいい」「いやむしろ、30人以下の国際大会に出場しつづけて出場権だけ獲るみたいなクソルートで五輪を目指してくれる国を見つけよう」などと、ソリをどうこうではなく、国をどうこう議論で盛り上がるはず。

ちなみに、ボブスレーの出場権は基本的に世界ランクで決まりますが、大陸からひとつも出場国が生まれなかった場合に「大陸枠」として与えられる枠があります。ろくすっぽ国数がないわりに大陸然としているオーストラリアとか、平昌大会でも明らかに一大陸だけチカラが劣っていたアフリカ大陸の国とかを狙っていくとクソルートの開拓ができるかもしれませんね!やっちゃダメな気がしますが、可能・不可能で言えば「可能」ですよね!

昔のエラい人は言いました。二度あることは…じゃなくて、「三度目の正直」と。

ソチと平昌はダメでしたが、五輪はこれからもつづきますし、下町もなくなったりはしません。2022年北京五輪へ。二度目の挑戦では限りなく五輪に近づき、ソリも関係者も現地までは行ったのですから、三度目ではもっと近くまでいけるはず。僕はそういう諦めない姿勢に共感する者であり、諦めずに努力をつづける姿にこそ真実の愛は宿ると理解する者です。

ここで諦めれば「所詮は自己顕示欲か…」「部品にも製造者名を入れたい派…」「日本人ボブスレー選手はひとりも知らないけれどソリを製造しているグループの人間には見覚えがある不思議…」と思っている世間も、何度も立ち上がる姿には共感してくれるでしょう。そして、そういう姿にこそ「物作り」の精神は宿るはずです。できなくても、できなくても、できるまで諦めない。不可能を可能にしてきた職人魂が。

先日放映されたテレビ東京系の報道風企業宣伝番組「ガイアの夜明け」にて、下町ボブスレー関係者はジャマイカ女子チームの元コーチからこんなことを言われていました。「あなたはソリに乗ったことがないでしょう?まずはその経験が必要ね」「ボブスレーのことを知っている人の話をもっと聞きなさいよ」と。

それを言ったのはボブスレー大国ドイツで五輪の金・銀を獲ったサンドラ・キリアシスさん。番組では陰謀論の首謀者みたいな取扱いをされていましたが、少なくとも日本人の誰よりもボブスレーを知っている人物です。製造者がソリに乗ったこともなく、ソリに乗ったことのある人が誰も五輪用に選んだことがないソリをどうして信用できるのかというサンドラ氏の指摘は、全世界共通でまっとうな話のはずです。

使う人があってこその道具であり、人が使ってこそ道具の完成というものはあります。「ガイアの夜明け」内でも下町のソリをテストした「ジャマイカ代表女子選手」「オーストリア人のジャマイカ代表メカニック」「オーストリア代表女子選手」からレビューがなされていましたが、三者に共通していたのは「下町のソリはハンドルが敏感である」ということ。

好意的にとれば繊細なコース取りが可能であるということでもありますが、端的に言えば「ちょっとした操作で左右にブレやすく、少しでも操作をミスすればすぐに壁にぶつかる」という意味でもあります。ボブスレーのレースで差がつくのは壁にぶつかったかどうかです。壁に接触して氷を削れば、それでテキメンにタイムは遅くなります。ちょっとぐらい最高速が速くても壁に当たれば意味がなくなるのです。それは特に、操縦が下手な選手にとっては重要なポイントでしょう。

それこそまさに「ユーザーの声」であり、ユーザーの声に対応できないのは、用具メーカーの能力不足・努力不足なのです。今大会で結果を残した選手からの用具メーカーへの感謝の言葉は、何度も何度も微調整に対応してくれたことや、自分好みのものに仕上げてくれたことなど、性能面だけでなくサポート力についてのものが多く聞かれました。自分の作りたいものではなく、選手の欲しいものを提供する、それがアスリートファーストの精神。選手は「私が乗ったときに速いもの」が欲しいのです。性能や仕組みやらはどうでもよく、「私が乗ったときに速いもの」が。

たとえ扱いが難しくても、使ってみて「これは速い」と思えば使うのです。「扱いは難しい」「大して速くもない」であれば使わないのは当然です。その「ユーザーの声」を吸い上げるタイミングが、出場権を獲りにいくワールドカップや、五輪本番直前の試走では遅すぎるのは当たり前の話。もっと早い段階で、もっとたくさんの声を聞かなければ、使いたいと思われるソリはできません。

幸いなことに、今回の挑戦失敗は「性能云々ではなく不可抗力的にどのみち失敗であった」という話におさめられそうです。これはノーカウント。ノーデス。ノーゲームオーバーです。北京までは4年あり、まだまだ十分な時間が残されています。ぜひ、自分たちのソリを北京に送り込むためではなく、選手を…できれば日本のボブスレー選手を北京に送り込むために頑張ってもらいたいもの。

長野五輪のレガシー・スパイラルが運営を休止したことにより、日本のボブスレー選手は国内で練習することができません。彼らを海外に送り込み、練習を支援するサポートを行ない、その代わりと言っちゃなんですが下町に対するたくさんの「ユーザーの声」をもらっていきたい。そして、日本の選手たちが「このソリなら出場権が獲れる」と思える製品になっていきたい。

僕は下町ボブスレーについてなまあたたかい視線で6年見守ってきていますが、日本のボブスレー界にとって下町は貴重なチカラなのです。「ボブスレーなどあってもなくてもどうでもいい」というのが国民の全体的な気持ちであるなかで、下町にはボブスレーへの情熱があり、それを支えるスポンサーもいるのです。日本に残った最後のボブスレーの火と言ってもいい。ぜひそれが、同じ日本の選手のチカラになるような形で、燃えつづけて欲しいと思います(※炎上を期待しての嫌味ではなく)。

「日本のソリに乗る日本の選手が、日本のソリがめっちゃ速いことで大活躍」というストーリーのほうが、単にソリが出場するよりも何倍も感動的な物語のはず。そんな物語があってこそ、このプロジェクトが真にボブスレー界からも愛されるものとなるはずです。もっと大きなストーリーと、そこに向かうもっと大きな情熱で、頑張っていってもらいたい。「ジャマイカはクソであったわけだが…」から始まる再起に、僕は期待しています!

↓なお、本件とは全然関係ありませんがボブスレー関係ではロシアの選手もドーピングで陽性だったそうです!
<ドーピング検査で陽性反応を示したロシアのボブスレー女子代表チーム>


<その陽性反応を示した選手がロシアに対する処罰への不服を示すために着ていたメッセージシャツ>

こりゃロシアへのソリ提供は止めたほうがいいですね!

ま、向こうも日本のソリには興味ないでしょうが!




「絶対バレないクスリを下町の技術で作ろう!」という超展開にも期待!