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10:30
こういうのを防ぐのがシステムの仕事です!

13日に行なわれた新潟競馬第6競走で珍事が起きました。ダート2500メートルで争われるこーのレース、2番人気の9番ペイシャエリート号はスタートから素晴らしい加速で先頭に抜け出すと、そのまま逃げのレース展開へ。先頭でスタンド前の直線に入ると、ムチを使って一気の加速。大きくリードを広げてゴール板を駆け抜けると、コース外側へふくらみ、騎乗する山田敬士騎手はゆるやかな手綱さばきへ。2度、3度と後方を振り返りながらそのままズルズルと後方へ下がります。やがてペイシャエリート号は最後方まで下がると、大きく離されて二度目のゴール板前へ到達しました。騎手がレースの距離を間違えていました…。

「2周のレースだったか…」
「1周だと思ってた…」
「だから1周目で全力出してしまった…」
「馬、すまん…」
「距離を間違えた…」
「私、山田敬士騎手が、距離を間違えた…」

↓レースビデオには1周目の半ばでムチをふるう全力の山田騎手の姿が!


「オイ、騎手!」
「ここなのか!」
「ここでええのんか!」
「まだ1000メートルくらいしか走ってないぞ!」
「ワシ、基本1800メートル以上の長距離馬やぞ!」
「ほんまにココでええのんか!」
「ワシ、急に短距離路線になったんか!」
「隠れた才能を見い出されたんか!」
「来年のフェブラリーSを目指すんか!」
「高松宮記念を駆け抜けるんか!」
「やるで、ワシは…!」
「自分の才能を信じるで…!」
「見てみい!誰もついてこれへん!」
「影も踏ませぬ独走や!」
「ワシは新たな馬生を切り拓くで!」
「憧れのGI馬にワシはなる!ドン!」

「って、ちがうやないかーい」
「みんな2周走っとるやないかーい」
「意味なく疲れたやないかーい」
「そのムチよこせ、殴らせろ!」

すまん、馬!

しかし、わかっていたならお前にも指示を無視する自由がある!

一流馬は得てしてそういうものだ!

責任はハーフハーフでお願いしたい!


↓「私が競争距離を間違えました!」「どうも、競争距離を間違えた山田です」


顔写真のキャプションで「ダート2500メートル戦のためコースを2周するレースにも関わらず、1周でゴールしたと勘違いしてしまった山田敬士騎手」と煽るのをやめろ!

顔写真の説明だけで記事が終わってるやないかーい!

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これは確かに問題があるとは思います。2周2500メートルだって言ってるのに、1周目の半ばでゴールしちゃったわけですから、騎手は怒られるでしょう。騎乗停止くらいはあるのかなと思います。ただ、こうした勘違いとか物忘れというのは得てしてあるものじゃないですか。財布を忘れて買い物に出掛けたり、人間にはミスはつきものです。

ミスはあるものとして、それを防ぐように周辺のシステムを整えるのが人間の英知ではないでしょうか。たとえば競馬のレース中、「あれ?何メートルだっけ?」と思ったとき、ジョッキーにはそれを具体的に確認するすべがない、そのことに問題の本質があるのではないかと僕は思います。

たとえば場内の大型ビジョンに「このレースは2500メートル」って書いてあったら、チラッと目に入って気づいたかもしれないでしょう。あるいはレースの先頭でなければ、前の馬の動きを見て「おかしいな」と気づいたり、もっと観察力があれば競馬場のオヤジのいきり立ち具合で「まだかも?」と気づいたりすることはできるかもしれません。しかし、それはあくまでも本人任せであって、何もかも忘れてゴールに一心不乱の場合、気づきようがないだろうと思うのです。

「大人なんだからわかるだろ…」
「どう考えても空気が違うだろ…」
「ゴール前まで行ったらオヤジが叫ぶだろ…」
「気づくとか気づかないとかじゃねぇよ…」
「自分でアタマに入れておけや…」
「何のために馬の背中に人間乗せてんだよ…」
「馬じゃわかんねぇだろうからだろ…」
「馬と一緒になってポケーっとしてどうすんだ…」
「ただの荷物じゃねぇか…」
「あだ名、『ハンデ』にするぞ…」
「金返せ!」(←最終的な客の主張はコレ)

レース実況も冷たいなと僕は思います。実況は場内に響いており、ジョッキーにとっても貴重な気づきのチャンスなわけじゃないですか。「押しています!(驚)」なんて控え目な疑念を示してどうするのかと。その時点でオカシイなと気づいていたなら「まだ1周目ですが押しています!」「まだ1周目なのに!」「これは意外なレース展開です、まだ1周目なのに!」と言ってくれれば、騎手のほうでも「あ!」となったでしょう。

システム、システムが必要です。

アホが完全に何かを忘れても気づかせるシステムが。

モータースポーツを参考にするなら、たとえば馬の頭にGPS連動のモニターがついていて「ノコリ1200メートル」とか出ていれば「まだだな」って思うじゃないですか。あるいは直線に入ったところで調教師とかがボードを出して「残り1ラップ、5馬身差」とか情報をくれれば「まだだな」って思うでしょう。スピードスケートではリンクの内側をコーチが滑って逐一指示を与えているでしょう。聞く余裕なんてないかもしれないのに。マラソンや競歩・駅伝では沿道に係員が立ってコースの誘導をしているじゃないですか。「道くらい覚えろ」なんて言わずに。それでも選手はときどきコースを間違えるのです。

そして、公営ギャンブルと言えば鐘があるじゃないですか。競輪(あるいは陸上の長距離トラック走)のように「ジャン」の打鐘があれば、今が最後の1周だなとわかるでしょう。あれだってちゃんと覚えとけって話ですが、一応ジャンジャンするわけじゃないですか。山田騎手のケースでは最初から本人が1周のレースだと思ってる時点で鐘があろうがなかろうが関係ないかもしれませんが、「3周のレースで2周目に全力ゴール」のパターンは防げるでしょう。鐘打もない状態で山田を責めてどうするというのか。「山田、ダメダ」じゃないのです。

中山グランドジャンプなどは4250メートルの長距離で、コースを8の字にグルングルンするコースレイアウトですが、ゴール板前を通過するのは1回だけ。ゴール板前を何度も通過するコースレイアウトにおいて、今が「1周目だっけ2周目だっけどっちだっけ」とわからなくなる仕組みそのものに根源的な問題がある状況を無視して、山田ひとりを責めることに僕は反対です。今のままのシステムでは第2・第3の山田は生まれます。

↓ていうか山田自体が第2・第3の存在!1998年ステイヤーズSでは、橋本広喜騎手が「まだ1周目なのに」ムチをふるっていた!(1分55秒頃から)


本人曰く「馬が止まりそうだったので気合を入れ直した」だそうですが!

止まりそうだったかどうか、それは馬にしかわからないのでセーフ!


↓1993年のジャパンカップでは青の勝負服・7番のコタシャーン号に騎乗するデザーモ騎手が、残り100メートルのところに立っていたポールをゴールだとカンチガイ!(6分30秒頃から)


すごい脚で2着まで順位を上げるも、ゴール位置カンチガイで追うのをやめた騎手!

一度立ち上がってから、気づいて再び慌てて追い出す!




このように実際のレース中というのはわけわからなくなるものなのです。山田だけが悪いのではなく、みんなそうなのです。いつまでも騎手の記憶だけに頼るシステムでよいのでしょうか。現代の技術、たとえばプロジェクションマッピングなどを使えば、芝生やフェンスにいろいろな情報を出すことも可能でしょう。目の前の芝生にプロジェクションマッピングで「ノコリ1200メートル」と出ていたら、山田は生まれなかったのではないか。僕はそう思います。システムを憎んで、山田を憎まず。山田の罪は何十年も同じシステムで騎手の記憶に頼り切っている、我々の罪でもあるのです!


以上、山田弁護団からの口頭弁論でした!寛大な処分をお願いします!