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07:00
なおみを誇りに思います!

遠い世界の物語であったテニスの天上世界、グランドスラム。その頂点に、日本の心と誇りを連れて行ってくれた選手、大坂なおみさん。狭い日本にとってはまだまだ新しいタイプのアスリートかもしれません。育った場所や暮らした環境が似ていない、ということに日本に住む僕らは不慣れです。けれど、彼女と僕らは同じ日本という国でつながっている。世界のスターであることは承知のうえで、僕らのスターとして一層の強さで誇りたい。大坂なおみが全豪オープンに勝ったぞ、世界ランク1位になったぞ、と。

全豪オープンの決勝、対戦相手はペトラ・クビトバ。左利きの選手ということで、慣れないボールが返ってくるやりづらさがあります。グランドスラムの制覇は都合2回。最高ランクは世界2位。大坂さんも昨年の全米オープンを制したとは言っても、この舞台には格上しかいません。手強い相手です。

そして、クビトバの強さはテニスだけのものではありません。2016年、自宅で強盗に襲われ、利き手である左腕に重傷を負ったクビトバが再びこの場所に立っている。テニスはおろか日常生活を同じように送れるかも危ぶまれた怪我を乗り越えてここにいる、その事実だけですべての敬意をもって相対しなければいけない強敵であることがわかります。簡単に勝てるはずがありません。

↓ここまで来ると偶然や間違いなんて選手は誰もいない!強者だけがここにいる!

勝たせてあげたい気持ちもわくけれど、それはそれ!

テニスの勝負はテニスでつけましょう!



試合展開としては大坂さんが押し気味です。両サイドのワイドへと打ち込むサーブは非常に強力で、ファーストサーブが決まればほとんどすべてがポイントにつながります。ストローク戦に回っても、左右に振って仕掛けていくのは大坂さんで、常に深いところへと打ち込みクビトバの前進を許しません。

第1セット第7ゲームでトリプルブレークのピンチを迎えた際も、セカンドサーブからの攻防でクビトバを左右に振り回し、見事にピンチを脱しています。強打でラクに決めるのではなく、振って、振って、相手を動かしてから「その逆を突くように手元でクッとコースを変えて」仕留める。サーブでもラリーでも得点を奪えるトータルパッケージでの強さがあります。

クビトバのサービスゲームでも、左利きからワイドにスライスしていくサーブにはやや手こずるものの、試合のなかで修正し、第1セット中に「ワイドに逃げていくボールを待ち構えて、逆に相手のバック側へのダウンザラインでリターンエースを奪う」ところまで対応してみせました。

ストローク戦で優位に立つ大坂さんに対して、クビトバとしてはまずサーブで攻めていかないと勝負になりません。大坂さんはそれを待ち構えていることがわかっていても、より厳しいコースへ打ち込んで主導権を取らないといけない。自分の強みで相手を打ち砕く、返せるものなら返してみろ、そんな戦いぶり。「女王」を争おうという戦いだけあって、「退く」というところがありません。

第1セットは互いに一度もブレークを許さずタイブレークまでもつれますが、勝負所で大坂さんはクビトバのワイドへのスライスサーブを読み切ってリターンで仕留め、相手の「強み」ごと打ち砕きました。サーブでもここぞという場面でのエースが生まれ、このセットを大坂さんが取ります。何もないフラットな状態で戦えば大坂さんのほうが強いだろうな、という手応えを覚える見事な立ち上がりでした。

↓このリターン、狙って決めた!タイブレークを制する大きな一本!

タイブレークではクビトバの強みを完封!

全豪優勝、世界1位まであと1セット!


個人競技はどれも孤独なものですが、テニスのシングルスというのは一際そうです。1万人からの大観衆の中心で、2時間あるいは3時間とたったひとりで戦います。コーチから指示や激励を受けることもできず、すべてを自分で律しなければいけない。ミスも、際どいジャッジも、不運も、観衆のため息も、すべてを自分ひとりでじっくりと噛み締めるようにして受け止めなければいけないという厳しさがあります。

サービスゲームは「ほぼ勝って当たり前」というゲームバランスも、心の乱れを生む要因です。「勝って当たり前」と思ってしまっているゲームを落とせば、それは単に1ゲームを失ったというだけではない意味を持ちます。痛恨、悔恨、失着。ミスや不運を引きずって、別のゲームにまで影響してしまう。テニスでよく見られる「流れ」という不思議な現象は、あらゆる名選手を飲み込んできました。

その意味で「何もないフラットな状態では上回る」ことは、必ずしも試合の勝敗とは一致しません。ひとつのプレー、ひとつのミスで心は乱れ、フラットではなくなってしまうのです。ましてやここはグランドスラムの決勝。すべてが異次元であり、「普通」なものなど何ひとつとしてありません。ミスは「普通のミス」ではなく「生涯のミス」であり、不運は「よくある不運」ではなく「天にも見放された不運」となります。ひとつひとつが重苦しい。

そして大坂さんは試練を迎えます。

第2セット、優勢に進める大坂さんは順調にゲームを積み重ねていきます。「第1セットを取った試合は59連勝中」というデータも紹介されました。第2ゲームこそ初めてとなるブレークを許しますが、すかさず第3ゲームでブレークバックすると、第4・第5・第6ゲームもつづけて奪い、第8ゲームを終えた段階でゲームカウント5-3とリードします。

迎えた第9ゲームはクビトバのサービスゲームですが、ネットに当たったボールが相手側に落ちるようなツキもあり、「ここぞ」で狙っているスライスサーブのリターンでのダウンザラインも決まり、40-0とリード。ここからの3ポイントのどれかひとつでも取れば、全豪オープン優勝&世界ランク1位となるトリプルチャンピオンシップポイントを迎えます。

油断や慢心はなかった…とは思いますが、ここまで状況ができあがったことで、大坂さんは勝ちを意識してしまったでしょうか。「サービスゲームを0-40から逆転でキープ」というのはテニスではよくある場面であるにもかかわらず、実際にそれが起きたとき当たり前のこととして受け止められず、急に苛立ちを見せ始めてしまいました。「キープすれば優勝」となる第10ゲームでは、それまでの粘り強いラリーが見られなくなり、一発ですぐに決めたいという焦りの打ち回しが目立ちます。ダブルフォールトを犯した場面ではラケットを足に打ちつけ、ゲームを落とした際にはボールを地面に叩きつけました。

さらに第11ゲームでは、ようやく流れを切るいいプレーとなりそうだったポイントが、クビトバのチャレンジの結果アウトに判定が切り替わるというイヤな展開も。流れを切りたい、しかし切れない。粘るクビトバは、第9・第10ゲームにつづいて第11ゲームも取ると、第12ゲームでは再び大坂さんのサービスゲームをブレークし、逆転で第2セットを奪います。

↓上手くいきそうなときに上手く行かない、苛立ちが苛立ちを呼ぶ展開!

決まったと思ってからのチャレンジでのアウト!

「ラケットを壊したくなる」のはこんなときなんでしょうね!


↓イライライライラする大坂さんをさらに煽っていくクビトバの顔!

口開けてからが予想の倍くらい長いwwww

世界基準の煽りGIFじゃないですかwwwww




タオルをかぶってトイレットブレークをとる大坂さん。ココが女王とそうでない人をわける分岐点だな、と思いながら僕は見守ります。テニスに限らずスポーツ・勝負はえてしてこんなもの。ずっと上手くいくなんてことはありません。女王とか王者というのは、上手くいかないときにそれでも勝つ人のことです。苦しいときでも強いから、ずっと頂点にいつづけられるのです。

確かに第2セットは悔しい展開でしたが、冷静になれば1セットずつ取り合って第3セットに入るだけの話です。「互角」の状況を、さも自分が何かを失ったかのように勘違いして勝手に崩れるようなら、それはそこまでの器だったということ。大坂なおみの器が試される、女王にふさわしい人物かを試される、そんな第3セットです。

第3セット第1ゲーム、クビトバはサービスゲームをキープ。大坂さんはチャレンジに失敗し、ひとつ権利を失いました。まだまだ苛立ちや焦りの色が見えます。しかし、第2ゲームはエースも決まって久々にゲームを取りました。心が苦しいときに強い身体が助けてくれた、そんなゲームでした。

そして第3ゲーム、大坂さんは自らが犯したエラーを、いつものようにうつむいて静かに受け止める「平静」を取り戻していました。そういうこともある、という静けさ。少し時間はかかりましたが、「グランドスラムを逃した」という失意をコントロールして、強い大坂なおみが戻ってきました。このゲームをブレークして優勝&世界一へと再び前進します。

すると動きもガラリと変わって軽やかになり、相手のセカンドサービスを前に出て叩きにいくようないい意味での積極性も甦ります。早く決めたい焦りのプレーとは違う、積極的に奪いにいく攻めのプレー。クビトバの流れを断ち切ると、試合は一気に大坂さんに傾きます。ダウンザラインのショットが次々に決まり、大事なところでのサービスエースも生まれます。ゲームカウント4-2とし、勝利が見えてきました。

第7ゲーム、まるで第2セットの繰り返しのように「トリプルブレイクポイントのチャンスからゲームを取れず」という惜しい場面もありましたが、大坂さんの「平静」は変わりません。静かにうつむいて、受け入れる。悔しくないわけではないのでしょうが、それもまた試合の一部として、一喜一憂せずに淡々と過ごす。それはいかにも「日本的」だなと感じる大坂さんらしさかもしれません。吠えて叫んで強くなるタイプもいれば、静けさのなかに凛として強さが宿るタイプもいる。侍、あるいは撫子。そんな佇まい。

大坂さんの試合になる、それを確信したのは第8ゲームの2ポイント目。すでに二度チャレンジに失敗しており、このセットはあと1回失敗したらチャレンジの権利を失うという場面で、大坂さんはためらいなくチャレンジをしました。「あと1回しかない」という不安よりも、「決まった」という自分の確信に寄り添った勝負のチャレンジ。「自分を信じる」という、当たり前でとても難しいことをこの場面でも遂行できた。これならもう大丈夫。勝ち負けはともかく、もう自分で勝手に崩れることはない。さぁ、この第8ゲームをとってゲームカウント5-3、あと1ゲームです。

クビトバがひとつしのいで、ゲームカウント5-4で迎えた第10ゲーム。第2セットは自らの苛立ちで逃した「サービングフォーチャンピオンシップ」の機会が再びやってきました。1ポイント目、素晴らしいコースへのサービスエース。2ポイント目、この日よく決まっていたフォアハンドのウィナー。3ポイント目、相手のボディを狙って決めた。そして最後の1ポイントは、ド真ん中に打ち込んだ強烈なサーブ。この試合のなかで大きな試練を迎え、それを乗り越えて強くなった「女王」誕生の瞬間でした。

↓大坂さんは叫ぶでも拳を突き上げるでもなく、感極まってうずくまると静かに泣いた!

スタンドの全員が立ち上がるような場面でうずくまる!

そんななおみらしさ、とても愛らしいです!


↓厳しい試合を乗り越えて、「女王」の器を示した日本の大坂なおみ!


ありがとう、なおみ!

日本をそこに連れていってくれて!




メンタルに課題がある、そんな自覚もあるといいます。それを克服したからこその今がある、そんな分析もあります。確かに恐怖や不安を打ち砕いていくような、わかりやすい「強さ」を備えるタイプではないかもしれません。しかし、大坂さんには静かにそれを受け入れる別の意味での強さがあり、それが発揮された決勝だったなと思います。「しなやかさ」とでも言えばいいでしょうか。ミスや不運もあり、それに翻弄された自分もいるけれど、「そういうこともある」と静かに受け入れることができる…曲がりはするけれど折れてはしまわないような強さが。

大会期間中にはスポンサーのCMをめぐって、試合とは無関係な騒動に巻き込まれもしました。そのとき大坂さんが発した「次は私に相談をするべき」というメッセージもまた、しなやかさだったと思います。憤りはあるでしょうし、そのことについては苦言を呈してもいるわけですが、すべてを断ち折るのではなく「私に相談をする」という道を示してくれている。ミスや失敗はあっても、その先にも道があるのだというマインドを、大坂さんがごく自然に自身の性質として持っているからこそ出てきた言葉のように僕は思うのです。

女王は一度なって終わりというものではありません。

今まさに始まり、そしてこれから長くつづいていくものです。強い挑戦者があらわれ、世界のライバルに研究され、ときに強すぎる女王には「負けろ」という反発まで向けられます。その道は孤独で辛いことも多いでしょうが、大坂なおみはそうした試練を乗り越えていくことができるのだと、この決勝の戦いぶりは示していたように思います。不安はありません。そして希望ははてしなく大きい。

心技体のトータルパッケージの強さをもってすれば、もっと大きな夢が見られるかもしれない、今はまだまだ通過点、そう思います。2020年は日本の東京で五輪があります。シュテフィ・グラフ以来の「四大大会と五輪を同年に制するゴールデン・スラム」だってないとは言えない。極めて困難ではありますが、グラフという名前を挙げることを恥じらう必要がない、それぐらい大きな可能性を感じさせる選手だと思います。

選手たちが入場し、帰っていく通路「ザ・ウォーク・オブ・チャンピオンズ」。

壁に掲示されたセリーナ・ウィリアムズやシュテフィ・グラフ、クリス・エバート、マルチナ・ナブラチロワといった歴代の名選手たちの名前の列に、来年からは「ナオミ・オオサカ」が加わります。その栄光が一時のものではなく、長くつづくものになるよう祈りたいと思います。テニスという天上世界を我が事としてともに歩める選手を持てたこと、そのてっぺんからの景色を見せてくれる選手を持てたこと、日本人のひとりとして感謝します!




世界中になおみ、素晴らしい君のその名よ轟け!