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駆け抜けました、2度目のインターハイ!

先月より公開されている「ツール・ド・東北2019」の羽生結弦氏×『弱虫ペダル』のコラボポスター。そのコラボへの理解を深めるため、僕は漫画喫茶での『弱虫ペダル』読破に挑んでいました。はた目には漫画を読んでいるだけの暇人ですが、僕は真剣そのもの。ドリンクバーと自席、本棚を高速で周回しながら、ゴールを目指していました。

そしてたどりつきました。遥かな頂点、ゴールへと。漫画喫茶に置いてあった第62巻を読み終えたとき、まさか「えぇっ…この長く激しい戦いの決着は、まだ漫画喫茶に入荷されていない、先週金曜日発売の最新第63巻に載ってるんですかぁ!?」とあまりにタイミングのいい途切れ方に唸り、しかし本屋へと走りました。「ここまできたら読まずに終われないショ…」と。

↓買わずに済まそう精神で漫画喫茶にいたはずなのに、何故か一冊だけ買ってしまった…!

30巻ぶんつづいた2度目のインターハイがこの巻で終わるんだもの!

そこまで読まないとスッキリしないでしょ!



外伝作品などは未読であるものの、ようやく作品の全体像を把握することができました。そのおかげで先週公開分のコラボポスター4枚、そして本日公開分の最後の1枚についても、自分なりの解釈が持てるようになったと思います。改めて見る2週目のコラボポスターは、まさにこの2度目のインターハイを総括するような、そんな作品群でした。

↓ということで、改めて2週目公開の4枚について見ていきます!
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先々週の4枚が主に「絆」をフィーチャーしたものだったとすれば、先週の4枚は「復興」…傷つき敗れた痛みから再び立ち上がる強さ、そして以前にも増して強くなる「成長」を描いたものなのかなと感じます。

1枚目に描かれた風景はまさにそうです。背景となる女川町は、現実の駅舎を描き「まるでカフェのような」美しさと新しさを備えた街並みですが、むしろここは震災によって大きな痛みを負った場所です。住宅の7割が流出、人口の8.3%にあたる命が失われ、文字通り「壊滅的」と言ってもいい被害を受けた場所でした。

しかし、だからこそ人間は強く反発し、絶対にこの街を甦らせる、ただ甦らせるだけでなく新しくて素敵な街にするという気概で、「復興のトップランナー」と呼ばれるほどの目覚ましい再興を果たしています。そのシンボルである駅舎と広場。「オシャレな場所」としか見えない風景は、傷つき立ち上がる人間の強さを示す風景なのです。

そこに並ぶ『弱虫ペダル』の世界の3人。一番左の黒髪は、作中2度目のインターハイで王者・箱根学園のキャプテンをつとめる泉田塔一郎。中央でオニギリを持つのは総北高校の青八木一、そして右で素足の人物が総北高校でキャプテンをつとめる手嶋純太です。

彼らは有り体に言って「弱キャラ」です。

相応に活躍の場面はあり、いわゆる必殺技的なものも備えてはいますが、登場以来の描かれかたは「弱キャラ」そのものでした。泉田は鳴り物入りのスプリンターとして登場した作中1度目のインターハイ、鍛え上げた筋肉(※筋肉にそれぞれ名前をつけて呼ぶなどの筋肉愛の持ち主)で主人公チームである総北高校の前に立ちはだかります。

しかし、優勢に進めていたレースの終盤、足元に転がってきた障害物を「反射的に避けてしまった」ことでタイムロスし、スプリント区間での勝利を失いました。「ビビッて負ける」は少年漫画において「キャラクターの死」とも言える描写です。泉田は初登場時の描写で「弱キャラ」の烙印を押されたのです。

それは青八木、手嶋も同じこと。作品の主人公である小野田坂道ら総北1年生部員とインターハイ出場の枠を争い、このふたりは敗れました。2年生が1年生に負ける。しかも、「チーム2人」とまで自称するコンビネーションを繰り出してなお負ける。それはまさにふたりの凡人ぶりを描き出すものでした。特別な能力はない、「弱キャラ」であることを。

その目線は読者はもちろん、作中でも変わりません。世代交代後、泉田は「スプリンター」がキャプテンに就任することそのものを疑問視され(※スプリンターは山登りが苦手なので、ゴール以前の平坦区間で役目を終えることが多い)、自信を失いかけています。手嶋はメンバー入り最後の枠を争う「実力不安」の立場であり、青八木はその寡黙な性格も相まって後輩からも敬意を持った接し方はされていません。

しかし、彼らは作中2度目のインターハイで再興します。泉田は箱根学園のキャプテンとして。手嶋・青八木は総北のキャプテンと副キャプテンとして。決して「強キャラ」になったわけではありません。作中では何度も「な!」とか「う!」とか言いながら、強キャラたちの威力に翻弄される、その姿・立場は変わりません。

それでも彼らは自分の努力を糧に、弱キャラであった自分自身を上書きしていきます。泉田はさらなる筋肉と、「不意の障害物」にも負けない勇気を備えて。手嶋と青八木は「無理をする」という凡人に遺された最後のチカラと、ふたりだけのコンビネーションをもって、強キャラたちに立ち向かいます。

冷静にインターハイの結果だけを見れば、泉田はチーム内でも下位の入線であり、手嶋・青八木はリタイアです。それぞれ個人の見せ場は作りましたが、強キャラになったわけではありません。それでも手練手管を使い、驚き慄きながらも、喰らいついて喰らいついて喰らいついて「見せ場」を作ったのです。「弱キャラ」のまま、理由なく強い生まれながらの神々に立ち向かって。

ともすれば血脈と天才性によって序列が決まる少年漫画の世界。そこで何のボーナスも追加オプションもなく、最初に与えられた「弱キャラ」という立場を覆すわけでもなく、弱さの上に努力を重ねて見せ場を作った人物たち。そんな3人がこの1枚目には描かれています。そんな3人が羽生氏を見送っています。

「お前ならできる」

きっと彼らはそう言うでしょう。それは自分自身がそうであったから。そして、今いる場所が「できる」と信じられるような場所だから。どんな苦境からでも這い上がり、「できる」と。もしかしたらコラボポスターにおいて羽生氏は主人公・小野田坂道らと同学年という設定なのかもしれません。この1枚目のひとつ学年が上の3人は自転車を降り、これからもうひと走りへ駆け出す羽生氏を見送るかのようでもありますから。だとすれば、この「できる」は「もっとできる」なのでしょう。自分たちが1年をかけて努力を重ね、自分に与えられた運命を打ち破ったように。

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つづく2枚目、コチラに描かれているのは箱根学園の黒田雪成。作中2度目のインターハイを3年生で迎えるキャラクターで、チームでは先行して他車を引っ張り、エースをゴールに送り届けるアシスト役をつとめる人物です。実は僕は黒田というキャラクター、30巻読破時点ではモブ相当(特に活躍のない無名のキャラ)だと思っていました。

どんなスポーツでも華麗にこなす「天才」としての背景を持ちつつ、黒田は後輩に敗れて作中初回のインターハイ出場を逃したキャラクターでした。負けた相手は、作中のラストバトルに登場する最大のライバルキャラ・真波山岳。作中で主人公と最後まで戦うキャラクターにアッサリと負けた…いわゆる「噛ませ役」なのだろうと。

そんな印象は多方面に広がっていたのか、アニメ化されたときには髪の色が原作と違う形に改変されてしまったり、昨年のツール・ド・東北のコラボポスターではレギュラー格のメンバーでありながら登場させてもらえなかったりと、かわいそうな扱いもされている模様。

しかし、作中2度目のインターハイではそうした扱いをも跳ね返す形で活躍を見せています。アシストという立場上、自分がゴールを狙うわけではありませんが、強さ・技術・知略そして勇気を備え、倒れるまで走ることで味方のタイムを押し上げていきます。そこにはエースを必ずゴールに届ける「運び屋」としてのプライドがありました。

それは「スポーツの天才」でありながら、決して「自転車の天才」ではないことを見せつけられ打ち砕かれたプライドを、努力と成長によって再構築した本物のプライドでした。一番嫌いな相手にも頭を下げて教えを請い、「1番」ではない自分を認められるようになった黒田。自分より強い者を認め、敬意を払うことができる、より成長した男の姿でした。

黒田が先行しているということは、この2枚目でゴールを狙うのは羽生氏のほうなのでしょう。ゴールを狙うエースは華やかな仕事ですが、ゴールに至るまでにはそれを支えアシストするたくさんの仲間がいて、それぞれが誇り高く仕事をしています。自分が速く、強くなれば、そのぶんエースはさらに先に行ける。そんなプライドをもって支える人々が。強くなった黒田と、その支えを受けてさらに強くなるエース・羽生氏。このアシストがあれば必ずゴールに行ける、そう信じられる場面です。

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そして、作品世界を踏まえるともっとも異質なのが3枚目でしょう。ここに描かれているのは先行する羽生氏と、作中でもっとも不気味でもっとも手強いライバルのひとり御堂筋翔、総北高校・鳴子章吉、主人公・小野田坂道、総北の後輩・鏑木一差という顔ぶれ。

羽生氏のコメントにも登場した御堂筋クンは、とにかく不気味です。何故か巨大化したゾンビのような描写で追走してきたり、感情のこもらない巨大な黒目で描かれたり、バッタのような脱皮で成長を表現されたりと、まぁ気持ち悪い。言動も歪んでおり、相手の感情を逆なでし、「キモキモキモキモ!」とか「ブアッ!」とか「ベンジョバエ!ゴミバエ!」などと罵詈雑言を叫びながら競りかかってきます。

ただ、その行動というのは「勝利」という1点に向かって純粋です。それは幼い頃に生き別れた母親に誓った「勝つ」という約束であり、「勝利」にフォーカスしつづけることで「孤独」から目を背けるかのようでもあります。他人の感情を逆撫でするのも「勝利」への手練手管であり、チームメイトをザク(雑魚)呼ばわりで軍隊式に服従させるのも勝利への統率です。「勝つ」ためにすべてを捨てることができるキャラクターです。逆に敗戦を味わえば、レースごと捨ててしまいかねないほどの傷つき方も見せるのですが。

それを追走する鳴子章吉も「勝利」にフォーカスしたキャラクター。誰よりも目立つために赤毛と真っ赤な自転車を操り、デーハーな勝利を目指す。勝利のためにはスプリンターとしての己の矜持も捨て、脚質変更も辞さない。それはやがて、作中2度目のインターハイにおける御堂筋翔との決着戦という形で描かれていきます。

目指すは勝利、そのためにたくさんのものを捨ててきた両者。鳴子はボトルを捨て、サドルを捨て、間もなく訪れる自分の限界へと燃え尽きようとします。そのとき鳴子に残った最後のチカラは「友情」でした。仲間のために走ることで、限界を超えたチカラを出せるのだと。

一方の御堂筋も勝利のためにたくさんのものを捨ててきましたが、彼が一番初めに捨てたとするのがまさにその「友情」でした。作中では示されませんが、おそらく鳴子も御堂筋も「友情」に極めて重きを置いたキャラクターなのでしょう。だからこそ鳴子は常日頃自分こそが1番だと標榜しつつも、最後のチカラは「仲間のため」にこそ出す。御堂筋は、1番を取るためには自分以外を全員負かさないといけないという現実を前に、真っ先に「友情」と決別する。大事だから最後まで残す、大事だから最初に捨てる。向き合い方こそ違えど、ふたりは同じものを別の角度から見ている似た者同士なのでしょう。

そんなふたりはまさにその「友情」によって作中2度のインターハイでいずれもリタイアしています。鳴子は仲間を先に進ませるために2度燃え尽きました。御堂筋は個としてのチカラは備えつつも、京都伏見というチームに彼以外の「強キャラ」がいないというメンバー不足により、最後は独力での走りを強いられ2度力尽きました。2度目のインターハイなどは、手塩にかけて育てた後輩が身勝手な理由で先頭争いから離脱していくという事態すらありながら、それをも受け入れて。

そんなふたりが、やはり「勝利」というものにフォーカスし、それを現実につかんだ羽生氏と協調して走っていく。1番を争うライバルと、己の勝利のために競り合える。それはまさに「花畑」のような場面、レースの喜びを感じられるような場面でしょう。「友情」とは言えないかもしれないけれど、御堂筋クンも羽生氏との走りには「共感」を得られるに違いありません。勝つためにすべてを捨てる覚悟、それを持つ者同士として。

↓御堂筋クンも羽生氏と戦ったら「キミィはキモくないね…」と思うでしょう!

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御堂筋クンにあとひとり強キャラの味方がいればもっといい結果を取れるのに!

何故「チーム戦」のロードレースを始めてしまったのか!


残る4枚目、そして9日にWEBで公開された最後の一枚には総北、箱根学園のメンバーたちがそれぞれ描かれています。4枚目には主人公・小野田坂道、そして坂道ともっとも強く結びついた総北の同級生である今泉俊輔・鳴子章吉のトリオが。そしてWEB公開画像には箱根学園のメンバー葦木場拓斗、銅橋正清、新開悠人の3人が。総北の3人に添えられたメッセージは「言葉なんて、必要ない。」。ハコガクの3人に添えられたメッセージは「進もう。ペースは自由だ。」でした。

総北の3人は作中で最初から結びつき、きっと最後まで結びついているであろう一番強固なユニットです。主人公の願いでもあり、作中最大の勝利でもあるのが「この3人で肩を組みながら並んでゴールするワンツースリーフィニッシュ」です。ロードレースの性格上、それは極めて困難…というか無理難題なのですが、いつかそんな日が来ると彼らは信じている。「極めて難しいけれど、いつかそんな日が来る」と信じています。

ハコガクの3人は紆余曲折を経てレースに参加した「いわくつき」の人物たち。問題児と言ってもいいキャラクターたちです。ある者はレース中の不祥事で「無期限謹慎」を申し渡され、ある者は部内で揉め事を起こし「入退部」を繰り返し、ある者はレース中に接触プレーを仕掛けるなど歪んだダーティさを見せます。それは「自分の価値が認められない」というコンプレックスだったりからくるものなのですが、そんな彼らも作中2度目のインターハイではしっかりとメンバーに加わり、成長と活躍を見せています。「今は辛くとも、道が開ける時は来る」と身をもって示しています。

初週公開分が「天才性」を備えたキャラたちの集いだったとすれば、2週目以降の公開分は「挫折」と「努力」を感じさせる集いだったように思います。スポーツマンガである以上、どのキャラクターを切り取っても「頑張って強くなる」というメッセージにはなるのでしょうが、よりそれを際立たせるのが後半分だったように思うのです。それは、漫画ではない現実の人間である僕らであったり、震災によって今なお苦しむ人々にとって、より近い位置から発信されるメッセージのように思います。痛みを負った、決して強くはない人たちに、寄り添うような。

↓WEB限定版はこんな感じでした!

登りにかかってるんでしょうね!

悠人が引いて、銅橋が後ろにつく形!




2週間に渡り、漫画を読みふけるという時間、駆け足ではありましたが充実したものでした。なかなか新しいコンテンツを取り入れるのもサボりがちで、特に何十巻も進んだあとの作品に追いつくのは心理的にも負担があるのですが、走り出せば何とかなるものです。1000キロと聞くと絶対ムリに思えても、走り出せばいつかはゴールにつく。ロードレースのようにして駆け抜けた63巻。これから先はチャンピオンで楽しみな漫画が増えると思うと、長く役立つ経験でした。東北ペダルのコラボ、いいキッカケでした。ありがとうございます!


久々に漫画引用ゼリフのストックが増えた気がするので、ときどき使いたいです!