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内村さん、東京五輪へ一歩前進!

16日に行なわれた体操NHK杯は男子の団体メンバー4名のうち、2名がここで決まる重要な大会でした。仕組みとしては4月に行なわれた全日本選手権の予選・決勝の得点、そしてこのNHK杯での得点を合計して多い順に2人までが代表入りするというもの。代表の座を勝ち取ったのは、順天堂大学で「伝説のアテネメンバー」冨田洋之さんの指導を仰ぐ橋本大輝さんと、前回リオの悔しさを胸に現在の体操日本を牽引する大黒柱・萱和磨さん。

高いDスコアと美しい実施で個人総合の金にも届き得る若きエースと、強い精神力で絶対に失敗をしない安定感を見せる先輩。まずは素晴らしいふたりが代表メンバー入りをしてくれました。ここまでの結果を踏まえれば、3人目には跳馬・平行棒で抜群の強さを見せる谷川航さん(NHK杯時点では総合3位)が入ると見込まれ、あとはその3人との組み合わせで最高スコアを狙える選手が加わります。谷川航さんまで含めた内定メンバーの持ち点からは、あん馬・鉄棒にやや穴があるので、NHK杯時点での個人総合では6位だった杉野正尭選手あたりがポンと入ってくる可能性もありそうです。

近年はロシア・中国の後塵を拝するような状況であった体操ニッポンですが、反撃態勢が整ってきたなと感じます。これもまた1年延期の影響でしょうか。ライバルたちも当然強くなっていることでしょうが、2019年時点の日本より今の日本のほうが確実に強い。そう言えるだけの布陣にはなってきました。もちろん五輪の経験がない点など、かつての栄光のメンバーには及ばない部分もありますが、自国開催という地の利をチカラに替えて、さらに今を超えていってほしいものです。期待感、高まっています!

↓「冨田洋之の薫陶を受ける19歳の五輪代表」なんて、まるで体操漫画の主人公のよう!


さて、その団体戦メンバーを後押しするためには、やはりあの人のチカラを借りたい。内村航平、世界のレジェンド。自国開催で受ける巨大な重圧が誰に向かうかによって、パフォーマンスは大きく変わってきます。「あらゆる重圧をチカラに替える」タイプの真の王ならばいいですが、普通はある程度で苦しくなってくるもの。もしも同じチームに内村さんがいれば、たとえ団体メンバーには加わらずとも、日々の練習のなかでの声掛けや佇まい、取材・重圧の分散などで陰日向にチームの助けとなるはず。ということで、どうなったら内村さんが東京五輪に出られるのかを整理したいと思います。

まず東京五輪でひとつの国が得られる出場枠は最大で6です(※男子のぶんのみの話)。日本は2018年世界選手権の団体銅メダルによって団体戦出場資格とメンバー4人ぶんの出場枠を得ています。現在、橋本さんや萱さんが勝ち取ったのはこの「4人」の枠です。それとは別に個人として最大「2人」の枠を取ることが可能です。さまざまなルートで獲得できる枠がありますが、日本はすでにこの枠をひとつ確保しています。本来なら取れなかっただろう枠ですが「2020年の個人総合ワールドカップシリーズ4戦での上位3名」に与えられるはずだった枠が、大会キャンセルによってシリーズ自体が成立しなかったため、2019年世界選手権の団体上位3ヶ国に振り分けられたのです。内村さんはその確保済み枠での出場を目指しています。

ほかにはアジア選手権で取れたかもしれない枠(※大会キャンセルにより振り分け済/日本は獲得ならず)と、種目別ワールドカップシリーズで取れるかもしれない枠があります。種目別ワールドカップシリーズでは各種目の最上位の選手が枠を取ることができますが、内村さんはコチラにはそもそも出場していませんのでこの道はありません。日本からはあん馬の亀山耕平さん、跳馬の米倉英信さんがこの枠での出場を目指していますが状況は不透明です。あと1戦、あるかもしれないと言われているドーハでの大会が延期されており、これがあれば逆転を目指した挑戦が可能ですが、このまま中止となれば現時点でのランキングで枠が振り分けられ、その場合日本からの出場は叶わなくなります(※現時点で1位の選手がいない)。

つまり、今、確実にある枠は「1」のみです。

その「1」はすでに実施済の全日本選手権予選・決勝、NHK杯、6月の全日本種目別予選・決勝の計5回の演技の結果で決まります。日本体操協会では19年世界選手権などのスコアをもとに独自のランキング表を作成しており、そのランキング表のどのあたりに入る得点を出したかでポイントを獲得し、その合計ポイントが多い選手を個人枠として東京五輪に出場させるとしています。ランキング表に対して「1位より0.2点上回れば40ポイント」「1位相当なら30ポイント」「2位相当なら20ポイント」「3位相当なら10ポイント」「4位相当なら5ポイント」「NHK杯で5位以内の選手も5ポイント」ということで、要するに「種目別でメダルが獲れそうな人を選びましょう」ということです。

↓肝心のランキング表について情報が出てまいりましたのでコチラをご覧ください!



検討にあたって難しい点がいくつかあります。ひとつは、これは内村さんが目指す鉄棒だけの話ではなく、6種目全部からひとりを選ぶという話であること。ゆかで強い選手、跳馬で強い選手などがいれば、内村さんが最高の演技をしても選ばれるとは限りません。また、このランキングは未完成であるという点も見通しを不透明にしています。実はこのランキングには「日本のメンバーの国内選考会でのスコア」も加えたうえで完成させ、ランキング表が完成した時点で初めて誰が何ポイントかわかるのだと言います。つまり、「日本の団体メンバーに誰が入るかによって得られるポイントが変動する」のです。

たとえばリンク中の記事にある鉄棒のランキング表では「1位14.933」「2位14.900」「3位14.900」「4位14.866」とあります。これは2019年の世界選手権で唐嘉鴻が出した14.933点、19年世界選手権でブラジルのアルトゥール・マリアーノが出した14.900点、2020年のワールドカップメルボルン大会でオランダのゾンダーランドが出した14.900点、19年世界選手権でアメリカのサミュエル・ミクラックが出した14.866点がランクされている模様です。世界ではほかにもワールドカップシリーズで14.933点を出している日本の宮地秀享さんなどもいますが、「その選手は五輪に出る見込みがまだない」とわかっている選手は外しているようです。つまり、その逆に「その選手が五輪に出る見込みだとわかった日本の団体メンバー」の得点は、最終的にその表に組み入れられるようなのです。

↓たとえば、内村さんの獲得ポイントはNHK杯開始前と終了後でこう変わります!
【鉄棒のランキング表/NHK杯前時点】
1位:14.933
2位:14.900
3位:14.900
4位:14.866

【内村さんのスコアと獲得ポイント】
全日本予選:15.166点(40P)
全日本決勝:15.466点(40P)
※14.933点より0.2点上回っての1位なので


【鉄棒のランキング表/NHK杯終了時点】
1位:15.000
2位:14.933
3位:14.900
4位:14.900
※1位に代表内定した橋本さんが全日本で出したスコアを追加

【内村さんのスコアと獲得ポイント】
全日本予選:15.166点(30P)
全日本決勝:15.466点(40P)
NHK杯:15.333点(40P)
※1位スコアが15.000点になったので全日本予選での獲得ポイントが30ポイントに減る

あーーーー、こういうことか!完全に理解した!

これは最後までわからないですねぇ!



このランキングで照らしつつ、現時点でこの枠を争いそうな選手をチェックしていきましょう。まず「ゆか」では種目別ワールドカップにも出場していた南一輝選手が有力でしたが、こちらはNHK杯を負傷欠場したため大きく代表争いからは後退しました。白井健三選手もスコアが伸ばせず獲得ポイントはごくわずか。あん馬では種目別ワールドカップで上位につける亀山耕平さんがいますが、ランキングのスコアを上回れていないため獲得ポイントはありません。また、つり輪・平行棒から選出される可能性はなさそうです。内村さんが引きつづき同じくらいの演技をつづけた場合、対抗できそうなのは跳馬の米倉英信さんだけ。

跳馬のランキング表は現時点で「1位14.966」「2位14.933」「3位14.933」「4位14.883」となります。米倉さんは全日本予選で「15.366点(40P)」、全日本決勝で「15.266点(40P)」、NHK杯で「15.050点(30P)」を獲得し、内村さんと同じ総計110ポイントとしています。この時点ではまったく互角なわけですが、ここに「全日本種目別を経て団体メンバー入りした選手のスコアがランキング表に加わる」と状況がまた変わってきます。

NHK杯で代表入りを逃した選手のなかには、跳馬が非常に得意な谷川航選手がいます。谷川航選手は全日本予選・決勝では15.266点・15.333点と非常に高い得点を記録し、NHK杯でもリ・セグァン2を美しい実施で決めて15.533点を記録しています。全日本種目別の跳馬にエントリーし、跳馬で高得点を出して団体メンバー入りした場合、谷川選手のスコアがいきなりランキング表の上位に飛び込み、大きく獲得ポイントが変動する可能性があるのです。(※谷川航さんはこれまで個人総合形式の試合をしており、種目別の形式に沿った跳馬の2本目の試技をしていないので、現時点ではランキング表には影響していない)

このあたりは体操協会からハッキリとしたアナウンスがなく不明瞭なのですが、「跳馬のランキング表に団体メンバーのスコアは影響するのか」という点と、「もしも獲得ポイントで複数名が並んだ場合、どうやって決めるのか」という点は、事前に告知があるべきだろうと思います。通例、体操において複数名が並んだ場合は、「いくつかの演技の合計点の多いほう」「Eスコアが高いほう」「Dスコアが高いほう」などという決め方をしていくのですが、スコアの出し方がまったく違う鉄棒と跳馬を比べる仕組みはありません。協会はどのように決めるつもりなのか。仕組みがハッキリとわかったほうが見ていても面白いですし、大事なことは事前に明らかにしておくべきだろうと思います。一番理想的なのは、ドーハのワールドカップが開かれ、そこで米倉さんが素晴らしい記録の優勝で個人枠を取り「考えなくて済むようになる」ことですが、ドーハがあるのかないのかまったくわかりませんので。

以上のことから見守る側としては、「内村さんが15.200点以上を出すかどうか(※全日本種目別での橋本大輝さんの得点により変動あるかも)」「跳馬の米倉さんが15.166点以上を出すかどうか(※全日本種目別での谷川航さんらの得点により変動あるかも/2本跳ぶ種目別決勝では2本の平均を見る)」「もしも両者が並んだら協会を詰める」というポイントを意識していくとよいでしょう。内村さんの鉄棒のほうは落下(1点減点)がある種目ですので、まぁ「1回でも落下したら終わり」と言っていいと思います。世界で数えるほどの選手しかできない技を1回も落下せずに5本決めないといけないというのは痺れる話ですが、それでこそキング・オブ・スペシャリストでしょう!

↓そんなすごいことをしながら、本人的には「普通です」だそうです!


↓「1回も落下できない」ので確実にバーをつかむために、あえて鉄棒近くに跳んでいるようですね!


手放し技でヒジが曲がると0.1点減点ですが、「0.1点払っても、確実に落下を防いでいる」演技のようです!

つまり、本番ではさらに一段階上の「美しい体操」があるということ!

期待して見守りましょう!



仕組みがわかりにくいので「明確で」「公明正大な」説明PDFをください!