キュウリ、インゲン、トマト、ピーマンの成長には目を見張られるけれども、自分の文章はなかなか伸びずまた実りもつけないと嘆いていると、夏休みも後半に入り、そろそろ例年通り、作文の生徒が数多く訪れるが、いきなり見事な作文2連発でノックダウンされてしまう。
二つともまだ抽象構成法の手ほどきをしたばかりの小学生の少女の手によるものだが、「作文」というより「作品」と呼んでも差し支えないと思えてしまう水準である。
小学4年生の少女が書いたものは「ピアノの世界」。ピアノコンペに参加するための練習の様子が詳しく書かれている。課題曲のイメージと説明、大好きなピアノの先生についての描写、演奏の出来映え、会場で出逢ったお友達のこと。細部の描写の瑞々しさとピアノの世界の楽しさへの直裁的な表現が読むものの心を打つ。何度でも読み返したくなってしまう。
もう一人は小学6年生の女子。実はこの子もピアノを弾くが、作文の内容は初めての単独乗馬のこと、題して「元気くん」。元気くんは白毛のポニーで、彼女を乗せて斜面をどんどん駆け上がる。他の馬に追いついて前の馬のしっぽが鼻に当たるとヒヒ〜ンと鳴く。かと思うと今度は「道草」。急に立ち止まって草を食み始める。と思ったらまた急激に走り出すのでしがみついているのが超大変。あまりに元気なのでお尻が痛くなるまで1時間以上乗馬。最後に元気くんに「ありがとう」とお礼を言う話。最初のこわごわとした様子や、途中での面白い馬の観察。速く走るときの焦った様子。心から馬と一体になった快感を歌い上げる。そして馬への自然な感謝。これも繰り返し読ませる作文だ。どんな私立でもこれが書ける女の子は採りたいと思うだろう。
彼女たちにこれを書かせている元は、各々、音楽の営みの実際体験と、自然とのナマの接触体験であるが、忘れてならないのは彼女たちの純粋な感受性であろう。
で、私はと言えば、相変わらずだらだらちんたらと書き続け、調子が悪いと野菜の見回りを行い、そしてその成長ぶりのスゴさに繰り返し驚きあきれる日々である。

夏安居 木瓜実れど 筆立たず (冗)