む
何もないから
無
ただ、黙ってここにいる
なすすべもなく
からだをゆるめて
まるで生まれたての命のように
待っている
風が肌にさわる
鳥がさえずっている
足裏が土に濡れる
どこかでひとの声がする
車の走り去る音
瞼を閉ざして
唇を合わせて
呼吸
ふいに悲しみがこみ上げる
なぜここにいるのか
なぜ生きているのか
涙を流すと
新しい む
やってくる
そうやって
たくさんの む
塗って塗って
塗り込めて
む に射し込む
小さな小さなキラメキを探す
生まれた時にいただいたはずの
約束
きっと
む
の中にある
と信じる
「む」を声に出すと、静かになって、自分の中へと入っていく。忘れかけていた、いや、見ないようにしていた本当の気持ちに触れる。
時々「む」の中にいたくなる。