私たちは本当に言いたいことを言えないで、またそのことにも気づかずに生きてしまい、悲しみが喉元までたまって身動きがとれなくなることがあります。特に、子どもの頃からの親との関わりは、その後の人生を大きく変えてしまいます。
Nさんにボイスカウンセリングを行なうのは3回目です。
今日は『森の絵本』を読みあいました。Nさんは、「クッキーの焼ける匂いを忘れてはいけない」のページを選び、そこから子ども時代の食事風景を思い出しました。
子どもたちはワイワイとご飯を食べます。その中で存在感のないお母さん、さらにもっといないのと同じお父さん。
お父さんは確かに出張が多かったけれど、いつも対岸の火事のように、家族に何か起こっても遠くから声をかけるだけだった。そばまで来て、困っていることも、問いかけていることにも答えてはくれなかった。
奮闘したお母さん、でもお母さんは一人だから知恵が足りない。その中でどうやって生きたらいいかわからなくて苦しんだ子どもたち。そのお母さんを罵倒するお父さんには怒りがたまっている、とNさんは言いました。
Nさんにはお父さんに言いたいことをどんどん言ってもらうことにしました。
聞き役の私はいつの間にかお父さんそのものになって、2人で会話しました。お父さんは激しく乱暴な言葉を放ったり、自分の辛さを話したり、Nさんは怒ったり悲しんだりあきらめたり…。
会話が終わった頃、Nさんには、お父さんは彼の生い立ちから人に迫ることを避けて生きてしまったことを伝え、お父さんにみんなの気持ちを伝えられるのはNさんしかいないと話しました。
彼女はこの家族関係の中で、苦しみながら客観的な俯瞰的な見方を学んでいたからです。
カウンセリングの最後に、Nさんはお父さんに手紙を書くことを決心しました。
お父さんそのものではないけれどカウンセラーと擬似的に言い合ったことで、次には本人に話しやすくなります。
もしこれが初めからお父さんに話したなら、ただ怒りのままに感情的に言葉をぶつけることになってしまうでしょう。
すでにお母さんには、自分の今までの苦しみを話したことで、お母さんが変化を見せ始めていました。
今度はお父さん。Nさんは行動しながら、今急激に階段を登っています。
彼女の声は、この2ヶ月で、高く柔らかくなり、本人も自覚するほど、優しい声に変化しています。
ボイスカウンセリングでは、50音、絵本、詩を通して、その人の苦しみに向き合い、解放しながら、生き方を変えていきます。
使用するのは、声そのものです。