春浅い日 
母と北鎌倉を巡り歩いた 
円覚寺、明月院、葉祥明美術館… 
古びた喫茶室でお茶を飲み 
父に小さなお土産を買った 
まだ何も始まっていなかった 
まだ何も終わっていなかった 
すべてが 
春らんまんに向かっていた 

は 
時が来ると 
萌えだす命 
燃え尽きる命 
は 
と 息を吐き 
息を呑み 
初めて感動する 
初めて慟哭する 
そして ふたたび 
はるのように 
新しい命にぬりかえられる 
新しい朝に出会っていく 

は 
息を吐くたび 
ピンクに尖ったカプセルが弾けて 
沈丁花が香りだす 
は 
息を呑むたび 
雲が割れて 
あたたかい雨がこぼれ出す 

はるかな宇宙のみなもとへ 
息を投げ 
息を受け取り 
は 
いまあるかぎりの 
いのちを燃やす 
いのちが羽ばたいていく 


あの喫茶室はまだあるのだろうか。 
母と巡った北鎌倉の光景は、心に焼きついている。 
静かな葉祥明美術館、坂に沿って可愛い小物の店が並んでいた。 
春の息吹の中で。 
自分の中に蓄えられているたくさんの風景。 
「は」は呼吸の音。そして過去や高次元のエネルギーとつながる音。 
きっと取り出されるのを待っているのだろう。やり残した風景は。はっとつながるその時を。 
今日はとても父のことを思い出している。 
季節は秋へ向かっているのに。 
父が亡くなって、母は寂しくなってしまった。 
それがとても気になる日。