野の小さな花たちのように 
私の暮らしの隙間を 
ハープが埋めてくれる 
どこまでも広がる野の 
ののののの 
伸びていく 
心を指で引っ掛けていく 

さざめく葉の花びらの 
こすれあう音色のように 
日常のささいな音 
弦のうえをすべらせる 
の 
かつて私は指の曲がった 
哀しいハーピストだった 
やがて泣きながらハープを捨てた 
そんな前世も受け入れられる 
さびしい日のたそがれ 

の 
見開いた部屋の隅に腰掛けて 
ハープを奏でてみる 
誰のものでもない 
たったひとりの 
野に 
かそけき哀しみを 
ひとときで消え去るよろこびを 
ののののの 
空と風に揺らぎながら 
ハープの調べに 
流れる時間(とき)の指先に 
はかない夢を託していく 

……………………………………………… 
ハープと出会えて本当によかったと思う。 
もしハープがなかったら、私はとても寂しかっただろう。 
「の」は、所属を表す音。漢字の乃からできた文字。乃は胎児を表す象形文字とのこと。 
誰にもどこにも所属しない「の」の中で、ゆったりとハープを弾いていたい。 


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