死と隣合わせの職業である格闘家──。伝説の大会ともいわれる『VTJ95』で、中井祐樹さんは対戦相手の反則行為により右目をえぐられて失明。それでも決勝に上がり「400戦無敗男」ことヒクソン・グレイシーに挑み敗れたが、今もなお語り継がれるレジェンド格闘家だ。現在は指導や日本ブラジリアン柔術連盟の会長として慌ただしい日々を過ごすが、毎週一度絶対欠かせぬ趣味がある、それは映画観賞である!
「学生時代にクラシック映画の魅力にどっぷりハマって。上京後もプロ格闘家として『生き残ること』に追われる中で、シェルターのような存在が映画でした。練習の合間にデレク・ジャーマンやセルゲイ・パラジャーノフの映画祭に行くなど、ミニシアター系に足繁く通ってましたね」
自身のSNSには、レビューや年間ベスト10を投稿するほどの映画狂ぶり。そんな中井さんだからこそ聞いてみたい、死ぬ前に観たい映画とは?
「1位に挙げたのは戦後文学を代表する作家・井上光晴を追った長編ドキュメンタリーの『全身小説家』です。虚飾と虚実を使い分け、死と向き合う生き方は、自分と重ねる部分が多分にあり、打ちのめされましたね……(苦笑)。2~3位も同様で、僕は人間の欲がトグロを巻き、心の襞を突きながらも鑑賞後に『明日もまた這いずり回りながら生きてやるぞ!』という気持ちを呼び起こしてくれる映画が好きなんです(苦笑)」
選んだベスト3は、奇しくも主人公が最期を迎える結末で終わる。多くの「生死」に触れる中井さんだからこそのチョイスと言えそうだ。
「僕はVTJ95で、いわゆる“死闘”をしましたが、結局生きている。今死んだら誰かが崇めてくれるかもしれないが、人生そんな都合はよくない。僕も身内・友人・知人、様々な死に触れたからこそ、逆風でも生きなきゃな、と思う。身近な死は、自分の今後の道筋を一つ示していると思います。でも、今回選んだベスト3は、あまりインパクト強くて『もう一度観たい』とはなかなか思わせないんですけどね(笑)」
中井祐樹
1970年生まれ。プロ修斗選手として王者になり、引退後は柔術選手兼指導者として広く格闘技の普及に務める。格闘技遍歴を描いたノンフィクション『VTJ前夜の中井祐樹』(著・増田俊也、イーストプレス社)が話題になり、多くの著名人からも生き方を崇拝されている。
※本記事は毎月25日頃、各店舗で配布している『VVマガジン』最新号からお届けしております



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