「新聞奨学生物語」第5回。
私が日経育英奨学会を通じて配属された「日本経済新聞高円寺専売所」。
先輩に教えられ、一人で新聞配達を行えるようになるまでの過程は第3回「いざ新聞配達!…新聞奨学生物語3」で述べた。
私は一度も経験がなかったので多少の不安があったが、1週間は要しなかった。
アルバイトの経験もゼロ。
正直、拍子抜け。
今回は新聞配達の実際について述べよう。
正直、苦労した。

◆配達
自分が配達する新聞をすべて自転車に積み込み、新聞販売店を出発する。
前のかごは交互に差し込んだ新聞であふれた。
前方の視界がふさがれ、また重みでハンドルがふらついた。
後ろの荷台は積み上げた新聞であふれた。
自転車はがっしりとした業務用であり、新聞の総重量と合わせ、ペダルが非常に重かった。
が、1カ月を過ぎた頃から慣れていった。
人の能力は凄い。

配達は、自転車を飛ばす。
団地やマンションなどでは自転車を降りて走る。
いずれも現在は社会的に許されない猛烈なスピードだ。
自転車については、夕刊時は人通りが多くても構わず飛ばした。
通行人の後ろで急ブレーキをかけると凄まじい金属音が出て、道を開けてくれた。
そうでなくては配達の時間が延びる。
「コンプライアンス」という言葉がなかった。
いまや宅配便でもかつてのように駆ける人は減ったはず。
例えば、佐川急便のドライバーは走らないのでなく、走られないのだ。
まして台車をガラガラ鳴らしたら、すぐにクレームが来る。
奨学生は良識のあるスピードで新聞を配っているのでないか。
様変わり。

私が最初に担当した区域はそれでも2時間半を要した。
夕刊は自転車が軽くなるのでいくらか楽だったが、なかなか2時間を切れなかった。
懸命に頑張り、朝夕刊で4時間半。
天候が悪かったり体調が悪かったりすると、5時間。
入店後しばらくして人の手当てがつき、所長の指示により先輩がときどき“中継”をやってくれた。
配達ルートの途中1〜2カ所にあらかじめ新聞をまとめて置いておいてくれる。
これは助かった。
ただし、新聞の重い朝刊時に限られた。
この中継は専売所の事情により、配達の面積や部数により、徒歩や自転車、バイクといった配達手段により、まちまち。
また、夕刊の中継をやってくれるところもある。

記憶が曖昧だが、新人(奨学生)が入店して人が入れ替わる1年後に、私は配達区域が変更になった。
恐らく所長にかけ合って変更してもらった。
受け持つ部数は5割増くらいか。
ところが、配達は朝夕刊で3時間〜3時間半に縮まった。
1時間半も一気に浮いた。
新聞販売店の近くの区域で、面積もぐっと狭まった。
大手企業のほかに独身寮などもあり、まとまった部数を一括で置くところが含まれていたためだ。
平たく言えば、配達区域が住宅街から繁華街へ。
それまでが地獄だったので、天国のよう。
1年間、耐え抜いたご褒美?

当時、日本経済新聞高円寺専売所は計8区だった。
これは絶対に忘れない。
しかし、配達区域の線引きの仕方のせいで、奨学生の負担に極端な不公平が生じていた。
所長の問題だろう(感謝はしても、恨みはない)。
私は40年程を経た現在でも、「第7区」から「第2区」へ変わったことをはっきりと覚えている。
いかに嬉しかったか。
入店時は配達区域の運不運に左右される。
長く勤める奨学生ほど楽な区域へ回れる。
当然、顔つきも“主(ぬし)”になろう。

配達の大変さは、一人が受け持つ部数の多寡とあまり関係ない。
区域内の読者の密度が重大。
大部数の新聞ほど楽になる傾向が強い。
当時、日本経済新聞はようやく百万部に届いた?
朝日新聞や読売新聞と比べると、配達部数はずっと少ないのに配達時間はだいぶ長かった。
彼らは繁華街や住宅密集街では自転車をポイントごとに停めて徒歩で配ることが多かった。
そのほうが効率がよいからだ。
日本経済新聞は発行部数が当時の4倍前後に達した。
首都圏、とくに東京地区では読者の密度が濃くなり、先の2紙と大きなハンディはないのでないか。
都心、それもオフィス街では逆転している可能性もある。

もう一つ。
日本経済新聞は読者が固定していた。
一般紙は出入りが激しく、配達先がかなり変わるようだ。
そうすると、「順路帳」をしょっちゅう手入れしなくてならない。
書き込みが増えてくると、新たにつくり直すことに…。
面倒だ。
ただし、日本経済新聞は部数の増加につれて“一般紙化”している。
読者の変動は、当時はほとんどなかったが、現在はいくらかあるのでは?

続きは、あした。

以下は、新聞配達(新聞奨学生制度)に関する私の一連のブログ。
⇒11月24日「日経BP社・日経ビジネスの行く手」はこちら。
⇒11月29日「親を捨てる口実…新聞奨学生物語1」はこちら。
⇒11月30日「奨学金の今と昔…新聞奨学生物語2」はこちら。
⇒12月1日「いざ新聞配達!…新聞奨学生物語3」はこちら。
⇒12月2日「チラシ折り込み…新聞奨学生物語4」はこちら。

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