―悪夢―

運営者情報
ワンワールド。それは、1年間FIXの世界一周航空券である。一年で世界一周するのは時間的にかなり厳しい。しかし、その時間制限が有ってこそ光り輝く何かがある。いわば、ワンワールドで旅をするということは、ある一つの作品を作り上げるのと同じこと。みんなそれぞれの旅がある。これはそんなワンワールドを利用し、どこまでできるかチャレンジした365日間の記録である。
WAiのワンワールド世界一周365日の旅の記録@2007トップ > ブラジル > ―悪夢―

―悪夢―  2007年02月16日

強盗に遭いました。

サルバドールのカーニバル2日目。
23時過ぎ。カーニバルで賑わう何万人の群集のど真ん中で、黒人に側頭部を思いっきりぶん殴られた。
まさか外国で救急車に乗るとは思わなかった。さすが危険と言われるサルバドールのカーニバル。身をもってその危険を味わった。

事の成り行きは、以下の通り。
22時半からのプログラムのカマロッチ(観客席)のチケットを持っていたので、そこまで宿から海沿いの道を歩いていったのだが、カーニバル中のメイン通り近くで、あまりの人ごみ渋滞で歩けなくなった。
人ごみを掻き分け、なんとか進んでいる時、後ろから、

「俺のバッグ盗るなよ!!!!!」

という悲鳴のような叫び声がした。振り返った瞬間、これはヤバイと思った。
僕の後ろを歩いていたタカシ君が、黒人5,6人に後ろから羽交い絞めにされている。
歩く隙間もなかったはずの人ごみに、ぼっかりと半径3m程の穴が開いた。
周りの人間を沢山の黒人が抑え、群集を遠ざけていた。

その瞬間、その穴の中に居るのは、黒人十数名とショルダーバッグを剥ぎ取られそうになっているタカシ君と僕、だけ。
カーニバルの歓喜の叫び声と、激しい音楽に、タカシ君の叫びは完全に掻き消された。
たまたま前を歩いていた僕だけ気がついてしまった。

その刹那、0.0001秒

一瞬時が止まった。
あれだけ鳴り響いていた音楽も聞こえなくなった。
ただ、タカシ君のバッグが剥ぎ取られて、それを奪い返して必死にそれを抱き抱えているタカシ君に、黒人のガキ(多分中高生)が大量に飛びつき、羽交い絞めにされ、その黒人の群れに吸い込まれていく。
それだけが、止まっている時の中で、スローモーションのように写し出された。

タカシ君は、26歳の大学院生。
一浪、一休学したが、春から新卒で大手企業に就職が決まり、一週間程前から、卒業旅行でブラジル一人旅に来ていた。
一昨日まで泊まっていた宿で会って、それから行動を共にしている。
その旅は一ヶ月間の予定らしい。来週はジャングルだと楽しそうに話していた。
しかし、僕達が宿を変えるということで他の宿に引っ越してから散々な目に遭っている。
まずいきなり初日、宿の部屋(二段ベッドが14個も有る大部屋。鍵なし)で、荷物から財布を抜き取られ、全財産と唯一のクレジットカードが入った財布を盗まれた。
目撃者の話によると、帽子を目深にかぶった黒人がさっと部屋に入ってきて、二段ベッドの上に置いてあったバッグを持って出て行ったらしい。
バッグは部屋を出てすぐのところに落ちていた。
海外で無一文&カードなし。帰りのチケットもなし。
最悪の状況。下のフロアでみんなで牛丼を作って食べていたシーンを撮影していた為、先月買ったばかりのカメラは盗まれなかったのがまだ救い。
僕ら旅行者は、思い出を盗まれるのが、盗難事件の中でも最大のダメージだ。
その後、友達7人で奔走。英語、スペイン語堪能な人材がそろっていたおかげで、あっという間に仕事が片付いていった。
クレジットカードは次の渡航先のマナウスで緊急カードを再発行(1万円ほど費用かかる)。
保険の手配。警察でドキュメント作成。南米旅行者は特に旅慣れている人物が多く、それなりに経験を積んで来ている。
おろおろする者も一人もおらず、事件が発覚した瞬間、みんなそれぞれの知恵を出し合って、一瞬で的確な答えを見つけ出す。
そんな大勢の中に居たのは、彼も不幸中の幸いだった。
とりあえず、現金はジク○君が1000R$程貸してあげれたので、勉強になったね、ってことでひとまず解決した。彼は何度も頭を下げていた。
次の日、一緒にネットカフェに行っていた時、また事件が起きた。彼が「ちょっとこれ!」と言ったので見てみると、

「卒業単位が2単位足りません。早く帰国して確認して下さい」

とのメールが。
・・・これは悲惨。就職決まってるのに卒業できない。
しかも、その2単位とは、他学部の科目で、それも卒業必須単位として認められるか事務に確認した上で履修したはずだったのに、それが認められないということになっている、との知らせだった。
物盗まれるより災難だ。
日本時間だと深夜だったので、とりあえずもうそれは忘れて、昨日の事件も片付いた事だし、今日はもうカーニバルでハジケようぜ!ってことで会場に向かっていた。
その矢先の事件。
つまり、2日間で3度目の大きな災難で有り、彼がこんな危険なカーニバルに手荷物を持参したのも、前日の鍵の無い部屋での盗難事件のせいであり、そして、そんなことが有ったから、絶対に荷物は死守したかった。

話は戻る。

これはヤバイ

一瞬で思った、さっきのそれの意味は、

「助けないとヤバイ」と「助けたらヤバイ」

この二つ。

しかし、その選択肢を選ぶ間はなかった。

次の瞬間、外人の群れに飛び込んでいた。

「行くよ!!」

大声で叫び、引っ張り込まれるタカシ君の腕を掴み、一気に引っこ抜いた。
そのまま連れ去ろうと数歩進んだ時、左側頭部にガツンという衝撃を受けた。

「馬っ鹿ヤロウ…」

ぼそっと言うのが精一杯だった。メガネが地面に落ちた。
何か大きな石を頭に投げつけられたのかと思った。

「無茶しやがって…むかつく!」

そう思いながらも逃げなくてはならない。あの黒人の群れに引き込まれたら、間違いなく、死ぬ。
頭の中は驚く程冷静だった。落ちたメガネも一瞬で拾った。
右腕と真っ白な今日初めて着たカーニバルのユニホームにべっとりと血がついている。

おいおい、酷でえことするなぁ。

半端じゃない出血。

これ、旅続けられるのかな?くそ、

そう思いながら、殴られたところを触って確認。しかし、不思議なことに出血はない。
頭中触ってみるも、出血なし。

もしや…

恐る恐るシャツの腹の辺りをめくってみた…

…全然なんともない

なんだ?

答えは一瞬で分かった。その血はタカシ君の物だった。
タカシ君の顔面が血で真っ赤に染まっていた。
こんなに血って出るんだ?
っていうくらい鼻の辺りから流血。
バケツ一杯と言ったら言い過ぎと思われるかも知れないが、本当にそんな勢いで流血していた。
そのあまりの出血のせいで、大騒ぎになるとみてか、賊どもは一気に消え去った。
辺りにはポリスが大量に配置されているのだ。
すぐ近くに緊急ポリスステーションが有り、他の友達二人でタカシ君を抱えて急いで駆け込んだ。
群集の波が、モーセのそれのように割れていく。辺りはまたカーニバルの大騒音と狂った叫び声とビールと汗の匂いで充満していった。

タカシ君を見た瞬間に、ポリスも真剣な顔になり、すぐさまどこかに彼を連れて歩き出した。
ポリス数名とタカシ君の後を、僕と連れ二人もついていく。
その後姿は、ドキュメンタリーさながら。
カーニバルの歓声とその仰々しい非日常な光景がアンバランスに交わり、それが妙にマッチしていた。
タカシ君の流血で、警察には気付かれなかったが、実は僕もかなりダメージを受けていた。
連れの話では、石ではなく、黒人が横から突然思いっきり殴って逃げていったらしい。
石でなくて良かった。しかし、さすがさすがは黒人。今まで喰らったパンチの中で確実に一番の衝撃だった。
みんなについて行きながらも、横から頭を揺らされたことによる脳震盪でふらふらして目が霞む。
やけに頭は冴えて、この後、5時半に宿を出て朝の便でリオに飛ばなくてはならないのに、この状態で気圧の影響を受けても平気なんだろうか?
そんなことを考えて、ジク○君にに金を渡し、屋台で水を買って、氷をもらってくれ、と頼んだ。
それを買って、ジク○君がお釣をもらっている時、
「先行ってていいですよ!」
と言ってくれたので、一人歩き出した。

もう既にタカシ君とポリスらの姿は無く、群集の中、どっちに行ったか分からない。
ポルトガル語が話せる友達ともはぐれた。こんな状況で一人になってしまった。
道行く黒人がみんな怪しく見える。意識も朦朧とする。そんな状態だが、友達を追いかけないといけない。
カーニバルの大音響で頭が割れそうだ。
片言のスペイン語と(ポル語とスペ語はかなり似ていて、結構通じる)ジェスチャーで必死に友達を見かけなかったか聞くも、まったく分かってもらえない。
僕も血まみれなので、聞かれた方も驚いている。

すると、突然日本人の方が

「大丈夫っすか!?」

と言って来てくれた。
近所の有名な日本人宿「なお宿」に泊まっている方だ。
なお宿はカーニバル一ヶ月前くらいから滞在して、みんなで太鼓とかの練習をしてカーニバルに参加する方も多く、何故か可愛い子が多い気がした。

「どこでやられたんすか?」

「海沿いの、あのカーブのところで、いきなり黒人に…」

「あ〜」

残念そうな顔をしながら、その人が言うには、そこは有名な危険地帯だったそうだ。
黒人が待ち伏せしてターゲットから物を奪うらしい。
全く他の場所と同様、盛り上がってるところにしか見えなかった。先に情報が有れば…。
その人が周りの人にスペイン語でいろいろ聞いてくれた。

「あっちとあっちにやられた人が連れて行かれる緊急救護施設が有るそうです。片方は、こんなカーニバルのど真ん中で有るはずないから、あっちだと思います」

そういって、施設の場所を教えてくれた。お礼を言って去る。
しかし、南米の人は親切心なんだろうけども、知らなくても適当なことをいうから、正誤の判断は自分でしなければならない。

もうろうとしながら、人ごみの中を歩き、ショッピングセンターバハというところに有るという、救護施設に向かった。
途中、とりあえず一服していると、タバコのたかりが来た。鬱陶しい。

「バハはあっちか?」

そう聞くと、「そうだ」と言ってまだ「タバコくれ」と言ってしつこい。
「ない」とどう言えば良いか分からない。
面倒だから、くわえていたタバコをくれてやると、「ありがとーう」と日本語で言って去っていった。

「ありがとう」「さよなら」「日本じーん!」とか言ってくる外人がサルバドールはやたら多い。
何回も道を聞いて確認しながら、なんとかショッピングセンターバハにたどり着くも、友達の姿は見えない。
ただ、他にも同じような目に有ったのか、顔面血だらけで泣き喚く白人の女の子とか、入り口でバターン!と倒れる酔っ払いとかがたくさん居て、現場は混沌としていた。
とりあえずふらふらしている僕を見て、スタッフがいろいろ聞いてきたので、
「殴られた」
とジェスチャーすると、僕があれこれ調べられた。
あまりにも話が通じないでいると、少し英語を話せるという人が出てきたが、「トイレット」すら通じなかった。
スペイン語で「ドンデ エスタ エル バーニョ?」も通じない。やっぱりここはブラジルなのだ。
結構な時間をかけて、中に通された。血だらけの人間やらアル中の人間が大量に運ばれていた。
白衣の女性が突然注射を取り出した。おいおい。

「僕殴られただけですけど!」

通じない。

「やめてくれ!」

通じない。

大勢医者が集まってきて、やれやれといった感じで見ている。
多分痛み止めだと思うが、これから飛行機に乗るのに変なもん注射されたくない。
必死の思いが通じたのか、ピルを一個出された。
飲まないとしつこいので、思い切って飲んでやった。
一応例を言って、タクシーを呼んでくれと頼むと、OK!といいながらも、外を指差して、

「あそこにいるよ」

と。
ぼったくりタクシーがやたら多いから、呼んでくれと言っているのに通じない。
行き先を言って、紙に書いてくれと頼むと、快く了承してくれた。
しかし、ただ紙切れにアバウトな住所を書いただけで全く役に立ちそうにない。
”公園までお願いします”これじゃなんのことだかさっぱり分からない。

もう自力で帰ろう。そう思ったが、僕がいきなり居なくなって、みんなで探したりして飛行機乗り遅れたらたまったもんじゃないので、やっぱり友達を探すことにした。

24時を回り、祭りはさらにヒートアップしていた。
ぎゅうぎゅうの群集と耳が張り裂けるような爆音の中をさ迷い歩いた。
いくつもの警察署に駆け込み、ひたすら探し回って、とうとうそれらしい救護施設を発見。

「ミ アミーゴ、ジャポネス!」

そういうと、「良く来た!」といった感じで中に通された。

居た。

全身血まみれでベッドに横たわっているタカシ君と、その写真を撮るその二人。
とりあえず無事なようだ。本人の希望で写真を撮っていたらしい。
僕が到着すると、すぐに救急車で病院に搬送された。ブラジルの救急車は相当揺れた。
タカシ君が検査されている間、痛み止めが効きすぎたのか、気持ち悪くなってベンチに倒れていると、「お前も検査する」と医者が言い出した。
タカシ君に結構な料金がかかって、みんなの金をかき集めて払った。
保険で金は出るけど、申請とか面倒だし、もしこれで入院とかなって飛行機に乗れなかったら最悪。
めちゃくちゃ断った。それでもしつこく「NO」と言われたので、「超元気!」とすごいハイテンションでアピールして、勝手に外に出てタバコを吸いに行った。
すると、中から医者が出てきて、「これを飲め」とコップを渡された。

「オブリガード」

水かと思って飲もうとすると、なんかどろどろしている。薬溶かしてやがる!

「いらない」
「飲め」
「だから、いらない」
「飲め」

押し問答が続いた。

「さっき痛み止め飲んだから気持ち悪くなってんだよ!」

とジク○君に言ってもらっても許してくれない。一粒で気持ち悪くなってるのに、さらに痛み止め飲んだらどうなることか分からない。
また医者が集まってきたが、「治った!」としつこく言い続けたら、やっと諦めてくれた。
ホント疲れた。最終的には綺麗な女医が通ったら医者達がふざけだして、

「可愛いだろう」

とかなんとか言っていたから

「ガッチーニョ!」

とナンパ用語を使ったら大うけ。医者と写真まで撮ってさようなら。

本当に適当。これがブラジル流ってやつか。

やっとのことでタクシーで岐路に着けた。
タカシ君も鼻を殴られたが骨に異常はなかったようで(本当かどうかは不明。医者超適当)、一緒に帰宅した。
真っ暗闇のホテルの部屋に戻り、ジク○君に焼きそばを作ってもらって、それを食べて一服して、3時間ほど寝た。
朝5時前に起きて、タクシーで空港へ。
一眠りしたおかげで、さっきの事件が昨日のことになった。
興奮していたT先輩とジク○君二人は寝なかったので、タクシーでは乗った瞬間爆睡していた。

僕は夜が明けだした祭りの後の景色をぼんやり眺めながら、
カーニバルの表と裏を味わった余韻に浸りつつ、いろいろなことが有ったサルバドールを後にした。

いやあ、とりあえず生きてて良かった。


_安罎離瓮

02161



屋台のメシを頬張る面々。02162


こんな微妙なユニホームで出陣する02163


こ甲罎罵戮訖諭后チームとは関係ないが、いたるところで踊っている02164


コ甲罎罵戮訖諭坑02165



Τ甲罎罵戮訖諭坑02166


賑わう街中02167


┐△凌佑瓦澆涼罎濃件が…02168


無残な姿のタカシ君02169


調子に乗る医者。なんなんだ、このノリは…021610


カーニバル明けの街は、何事もなかったかのように静か…021611


一夜明けて。昨日のことが夢のよう…021612





トラックバックURL

この記事へのコメント

1. Posted by kichi   2009年07月17日 07:04
5 私も(67歳)来年女房連れでカーニバル見に行こうと思ってます。しかし怖くなったなぁ。少しは安全な方法などありますか?それともやめておいた方がいいのかな。でも一度は見てみたい。しかし貴君はよくやりました。読んでるだけで参考になりましたよ。
2. Posted by waiy   2009年07月30日 00:03
返信遅れてすみません

ホットメールを送りましたので、ご覧下さい♪

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔