クロッシング
総論:邦題が植え付けるバイアスの解除が最優先事項。

「トレーニング デイ」のアントワン・フークア監督が、リチャード・ギア、イーサン・ホーク、ドン・チードルら実力派キャストを迎えて贈るクライム・サスペンス。ニューヨーク、ブルックリンの犯罪多発地区に勤める3人の刑事。退職を目前に控え、孤独と虚無感に苛まれるベテラン警官エディ(リチャード・ギア)。家族を養う金に困窮し、正義感が揺らぐ麻薬捜査官サル(イーサン・ホーク)。仕事と友情の狭間で葛藤し、精神的に追い詰めらている潜入捜査官タンゴ(ドン・チードル)。決して交わるはずのなかった3人の”正義”が、ある日起きた殺人事件をきっかけに交錯する―。

「クロッシング」という邦題から多くの観客はバラバラだった3人の運命が最後にクロスするような”良く練られた脚本”を期待すると思いますが、今作には題名にする程の物語的な”クロス感”はありませんでした。

この邦題が植え付けてくるバイアスに支配された僕は、ラストの展開に肩透かしを喰らいましたが、この映画の主旨は原題である「BROOKLYN'S FINEST」が示す通り、ブルックリンに勤める警官達(=FINEST)のリアルな生き様をスクリーンに叩きつけるところにあります。純粋な映画体験を奪うこの改変が無ければもっと楽しめたのでは?と考えると残念でなりません。これから観賞なさる方はこの点に注意してご鑑賞ください。

しかしまぁ、この映画が描き上げる群像劇の緊張感はハンパなかった。ニューヨークはブルックリンというハードな街で、不条理に苛まれる3人の男達が葛藤し、疲れ果て、魂を擦り減らした果てに、ギリギリの限界点に追い詰められていく。そんな男の生き様を、娯楽要素やケレン味を一切排して硬派に描いていく今作は俺の心にはグサッと刺さるモノがあり、人生を振り返らされるような感慨を受ける作品となりました。

*以下、ネタバレ含む

「BROOKLYN'S FINEST」の”FINEST”を辞書で調べると、「警官」という意味の他にも「精鋭」という意味があるらしいのですが、この映画に登場する3人の男達は”精鋭”という言葉とはかけ離れた存在で、三者三様に”終わってる”人生を歩んでいます。そんな彼らの人生がある事件を契機に弾けます。

リチャード・ギア扮する退職目前のベテラン警官エディは、覇気が無くひたすら面倒を避けてきたために、警察官として誇れる業績は一切なし、署内からは村八分で、後輩からも臆病者扱いされている老警官。毎朝起きぬけに拳銃を口につっこみ、今にも自殺しそうな状態で、唯一の心の支えは黒人娼婦との儚い一時。そんなエディが退職後に取った行動とは?

イーサン・ホーク扮する麻薬捜査官サルは、子供が大勢いるために経済的に困窮しており、さらに双子を妊娠中の妻はハウスダストで喘息を患っている。このままでは母子共に命にかかわるが、引越しの頭金が無い。困った挙句に麻薬の情報屋から金を強奪し、事件現場で毎日目にする大金にも手をつけそうな状態。そんなサルが引越しの頭金支払期限の日に取った行動とは?

ドン・チードル扮する潜入捜査官タンゴは、ギャング組織の潜入捜査で何年間も実績を挙げているが、上司からは傲慢な態度を取られ、妻からも愛想をつかされ離婚を迫られている状態で、心の拠り所はギャング仲間と培った友情になっている。そんなタンゴがギャング組織のボスの危機に瀕して取った行動とは?

それぞれが皮肉に満ち、後味のスッキリしない結末が浮かび上がらせる”生”の重荷。私はどんよりした気分で劇場を後にしましたが、こういう胸が潰れそうな衝撃を受ける映画も時々は観たいです。公開館は少ないですが、一度ご覧になってみてはいかがでしょうか。映画「クロッシング」オススメです。

P.S.
娼婦にフェラチオされながら新人警官の愚痴を言うリチャード・ギアの演技は神だった。


「クロッシング」(原題:BROOKLYN'S FINEST)
公開:2010年10月30日(土)
配給:プレシディオ
監督:アントワン・フークア
出演:リチャード・ギア、イーサン・ホーク、ドン・チードル、ウェズリー・スナイプス
上映時間:132分
⇒公式ホームページ
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