ハート・ロッカー
総論:”刺激ジャンキー”だから、爆弾処理という”人命救助”ができる。

戦時下のバグダッドに配属された凄腕の爆弾処理係・ウィリアム・ジェームズ二等軍曹を通じて、イラク戦争の様相と、極限状態に置かれた兵士の姿を描き上げた戦争映画。世界の主要映画祭を総なめにし、第82回アカデミー賞では作品賞をはじめとする計6部門を受賞。監督は「ハートブルー」「K-19」のキャスリン・ビグロー。

1秒先には死が待っているかもしれないという、言葉通り死と隣り合わせのEOD(爆弾処理班)の兵士を主役に据えるというこの設定はフレッシュでしたね。TVドラマなんかでわざとらしくカウントダウンのタイマーがピピピピ鳴ってる時限爆弾の解体シーンはありますが、それと違っていつ爆発するかわからない戦場の爆弾は緊張感があります。殺意を持った兵士が襲ってくるのも当然怖いのですが、自分から死の危険に歩み寄っていくEODの現場はまた違う種類の恐怖がありました。こういう新しい視点から戦争を知ることができたのはそれだけで収穫。関心いたしました。

今作はスター俳優が出演しない低予算映画(約16億円)だそうですが、ジェレミー・レナーは無鉄砲で我が強い主人公の人物造形にピッタリだし、規律と協調を重んじるサンボーン軍曹役のアンソニー・マッキーもいい塩梅。戦場に馴染めない兵士役のブライアン・ジェラティも絶妙な表情をしててGOOD。劇中何回かある爆弾処理シーンや、突然巻き込まれる遠距離の射撃戦も見ごたえ十分で。なかなか楽しく観れる映画です。

*以下、ネタバレ含みます

あるインタビューにて、キャスリン・ビグロー監督は「無数の人間の命を犠牲にしている終わりの見えない戦争の一部を見る人に体感してもらいたい」という発言をしていまして、ずいぶん普通なことを言うなぁと思ったのですが、その実、投げてきた球は結構なクセ玉でしたね。

というのも私、最後に戦場に戻っていく主人公の表情のせいで「あれ?コレ反戦映画じゃねーの?なんか戦争をカッコ良く描いちゃってない?」と首をかしげてしまったんです。確認のためこのシーンは2回観たのですが、戦場に舞い戻った飛行機から降りてすぐの表情も、ラストシーン手前の防護服越しの表情も、やはり楽しそうに微笑んでいるように見えた。

それに加えて、冒頭の「戦場での高揚感はときに激しい中毒となる。戦争は麻薬である」というメッセージに符合するような主人公の振る舞い。そして劇中のそちらこちらで蓄積してきた不穏感もあいまって、なんだかスッキリしない後味の映画だなぁと思ってしまったんです。ようするに不満だったんですね。

で、これはおそらく僕が戦敗国の子孫だからだと思うのですが、どうやら心の中に少なからず戦争へのコンプレックスがあるようで、ちょっとしたことでも「何をぬかすかコラ!」みたいな義憤を覚えがちでして、実は一回この映画を揶揄するような批評をアップしちゃったんです(苦笑)でも、上げた瞬間に「あっヤベ!なんか俺、戦争について知ったかぶりしたかもしんねー!」という後悔が襲ってきて速攻で下げました。いやはや、大変カッコわるい失態をカマしてしまいましたね(*他の作品の批評でもそういう気配があるんですが・・・まぁこの話はいいやw)

ということで、こーなったらしょうがない。「とことん観てやるぜ!」という意気込みでもう1回アタマから観たわけです。今度は「ん?」と違和感を感じる部分があったら巻き戻して、気になるところは何回でも観て、というやり方です。

で、わかった結論。

僕は最初、既存の戦争映画の大多数を占める”敵味方の殺し合い”をベースにした物語と混同してこの映画を観たため、あのラストに「戦争ジャンキーがこんなカッコイイ感じで戦場に戻るってどうなの?戦争プロパガンダかこれ?」って思ってしまったのだけど、この主人公は、戦場で戦う兵士ではあるものの”爆弾処理係”なんですよね。爆弾処理でしか”生”を感じられない”刺激ジャンキー”ではあっても、戦場で人をブッ殺すのが楽しくてしょうがない”殺人ジャンキー”じゃない。

っていうか主人公は人を一人も殺してないし、それどころか800個以上もの爆弾を解体して人の命を救いまくってる。これってスゴイことだよね。メチャクチャ偉いです。でも、そんな主人公は日常に帰ったら奥さんと上手くやれないし、雨どいの掃除も苦手だし、頼まれたシリアル一つ満足に選べない。戦場にしたって爆弾処理以外はダメダメで、イラク人の見分けもつかないし、銃を撃てば味方を撃っちゃったりする・・・。

人間には「やりたいこと」と「やるべきこと」と「やれること」があって、彼にとって「やるべきこと」かつ「やれること」は爆弾処理しかないわけで、ある種の「刺激ジャンキー」である彼の人生は、これからも無数の爆弾処理にチャレンジし、爆死する最後の1秒まで人の命を救い続ける運命なのだと思います。だから最後戦場に戻っていくあのラストシーンは全然オッケイっス!!


「ハート・ロッカー」
公開:2010年3月6日
配給:ブロードメディア・スタジオ
監督:キャスリン・ビグロー
脚本:マーク・ボール
出演:ジェレミー・レナー、アンソニー・マッキー、ブライアン・ジェラティ
上映時間:131分
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