2019年03月

2019年03月01日

難関中学が合否をウェブで発表しない理由


超難関といわれる名門中学は、いまだに合格発表をウェブではなく掲示板で行っている。今回、女子学院、桜蔭、開成、麻布、筑駒の都内5校の合格発表を取材した受験ジャーナリストの末木佐知氏は「掲示板の前では歓喜と落胆が交錯していた。その様子を大手の塾関係者が熱心に撮影しているのが目立った。こうした商用利用は残念だ」という――。


■合格発表ツアー「女子学院→桜蔭→開成→麻布→筑駒」

 2019年の中学校受験が終わった。近年は、景気回復の傾向を受けてか、受験人口が増え競争率も高くなっている。受かるか、落ちるか。その結果は、子供の人生を大きく左右するだけでなく、親の人生にも影響を与える。筆者はそんな受験親子の人生のワンシーンをウオッチするべく、都内超難関校5校の合格発表の現場に出向くことにした。時系列で報告していこう。


 ▼2月2日土曜11:00@女子学院

 東京と神奈川の場合、中学受験は例年2月1日から始まる。特徴は、高校・大学受験と異なり合格発表がとても早いことだ。通常、受験日から1~2日後、学校によっては当日発表というケースもある。筆者が2月2日に訪れたのは、前日に受験のあった「女子御三家」のひとつ、女子学院(千代田区)だ。

 10:40、学校近くに到着。学校へ通じる路上では、チラシを配る塾関係者が列をなしている。母親に見えるのだろう。筆者にも差し出された。一枚受け取ったら最後、あっという間にチラシの山となる。合格発表の11:00を前に、校舎の入り口前には行列ができている。2月2日は午前に他校の試験もあるからか、子供の姿は少ない。

 11:00になった。列が少しずつ動きだす。「60人ずつご案内しています」という学校関係者の声。まるで大入りの美術展の鑑賞のように人々の群れはおごそかにすすみ、合格番号が貼られた掲示板が近づく。歓喜の声が少しずつあがる。後続の列の親は平静を装っているが、「お願い、わが子の番号もあって」と心が波立ち、鼓動が早くなっているに違いない。受験番号が何とか見える距離になると、親はわが子の受験番号がないか前のめりになって探す。その必死さには、無言の迫力がある。

 確認後は、合格者は手続き書類を受け取りに学校の事務局へ立ち寄る。事務局へとつづく道は、いわば「合格者ロード」。一方、不合格者はそそくさと立ち去るのみ。たかが書類、されど書類。持つ者と持たざる者の「格差」はそのまま人生の格差となる……というのは言い過ぎだろうか。

 筆者はそうした一部始終を見守って、思った。「あれ、合格発表ってこんなにもあっけなかった? 」。わざわざ学校まで来て、数分で終了。不合格者には徒労以外の何ものでもない。11:16に校門の外へ出た。筆者自身、緊張から解放された感じでどっと疲れが出たが、次の目的地である桜蔭学園(文京区)へ移動する。



■NHKまでが掲示板合格発表を取材するワケ

 ▼2月2日土曜14:00@桜蔭

 12:00、JR水道橋駅から学校に通じる通称「桜蔭坂」の近くにあるカフェの窓際でしばらく待機する。後ろの席には、私と同じように女子学院からハシゴをしたと思われるスーツ姿の大手塾関係者2人組。

 13:20、合格発表は14:00なので、まだだいぶ時間があるが、坂を登りはじめる親子がちらほら。午前に別の学校で試験があったようで、その後、親子連れが急増する。その頃から、坂の両側に大手塾関係者が並び、チラシ配りを始めた。

 14:00、模造紙サイズの白い紙が1枚ずつ合格発表の掲示板にはられていく。「やったー! 」という女の子の声。無言で立ち去る女の子。「うおー! 」と低い声を発するお父さん。声を出さず破顔一笑、もしくはくちびる真一文字のお母さん……。

 反応はぞれぞれだが、大騒ぎにはならない。やはり小さな歓喜と落胆が静かに同居している。ただ桜蔭は先ほどの女子学院と違い、発表後もざわざわとしている。見ればメディアの取材が多く、合格者の喜びの表情を撮ろうとカメラが並ぶ。民放のワイドショーだけでなく、NHKまでいる。

 テレビカメラは、入学関係書類をもらった子供を待ち構え、「ヒーローインタビュー」をする。「今の気持ちは? 」「毎日、何時間勉強した? 」。多くの子供は小学4年からの3年間、勉強に打ち込んできた。その成果が出たのだ。取材に当惑しながらも、笑みがこぼれるのは無理もない。



■「(お前は)これで胸はって、一生、生きていける! 」

 筆者もある合格者の女の子に話を聞いた。

 「発表の瞬間が怖くて、お父さんに掲示板を見に行ってもらいました。お母さんと校門あたりで、まだかまだかと待っていると、メールで『あったよ』と連絡がありました。すごくうれしくて、涙が出ました」

 別の父親は、隣にいる娘に「お前はよく頑張った、おめでとう」と声をかけ、頭をなでていた。そして、最後にこう言い放ったのだ。

 「(お前は)これで胸はって、一生、生きていける! 」

 いやいや。「それは、お父さん、あなたでしょ! 」と筆者は心の中でつっこんだ。娘を難関女子校に合格させたのは、俺。そんな本心が垣間みえる気がした。

 掲示板前では、メディア以上に大手中学受験塾の腕章をつけたカメラマンが目立っていた。塾講師はスーツ姿だが、カメラマンの服装はラフ。おそらく映像制作会社のスタッフなのだろう。子供の表情を撮り逃がさんと追いかけまわしている。塾のPR動画に使用するのだろう。

 ほかの大手塾関係者は合格掲示板をくまなくチェックする者もいた。その手元には「お茶の水校舎」「受験番号」などと記入されたリスト。どうやら所属する校舎別に生徒の合否チェックをしているようだ。

 15:00、発表から1時間もたつのに合格した子がまだうろうろしている。ある大手塾に所属する合格者は、30人ほどが集まって記念撮影をしていた。撮影を終えると、大きな拍手で親と塾関係者が子供たちをたたえる。いささか派手な演出だが、塾としてはお約束なのだろう。

 合格発表当日は、生徒や親だけではなく大手塾にとっても1年で最大のイベントといっていい。合格者と喜びを分かちあうという側面だけでなく、塾としては「新規の生徒獲得につながる映像素材を撮る」というイベントなのだろう。




開成、麻布、筑駒の合格発表現場の「歓喜と落胆」

 ▼2月3日日曜 13:00@開成

 2月3日は難関男子校の合格発表が重なっている。昼すぎの12:15。JR山手線・西日暮里駅からすぐの開成(荒川区)へ。東京大学の合格者数で37年連続1位の名門だ。発表の瞬間まで小一時間あるので、大手の塾関係者と報道陣くらいしかいない。

 12:30、親子がぞろぞろやってくる。この日は日曜だったので父親の参加率が高い。祖父母の姿も見うけられる。ある父親が息子に「あの入り口のオブジェは、この角度からみると『門』という文字になっているんだよ」と説明していたので、確認したら本当だった。開成OBの父か、開成マニアの父か、どちらかだろう。

 12:45、掲示前は黒山の人だかり。筆者と同じように集団に入らず遠巻きで見ている母子が数組。来年の受験に備えて、予行練習をしているようだった。ある子が母親に言っていた。「ママ、ここの中学に入れたら、もう塾行かなくていいんでしょ? 」。母は息子の発言が予期せぬものだったのか、無反応。本当は「いいえ、今度は東大合格を目指して、鉄緑会という塾へ通うのよ」と言いたかったかもしれないが……。

 12:52、まだ発表時刻13:00にならないのに、「よっしゃ」という父親の声が聞こえた。どうやら最初の1枚がはられたらしい。開成は、合計で6枚。全部はられるまでタイムラグがある。しかし、他校と同じように大騒ぎをする人はいない。塾の友達などが不合格かもしれないので、配慮して大声を出さないのだ。13:12、すでにあたりは落ち着いてきた。

 筆者は現地で偶然ママ友に会った。下の息子さんが受験したのだが、結果は不合格。その場合でも、塾の先生に結果を伝える決まりになっているらしいのだが、息子さんは「行きたくない」と下を向いていた。合格者が記念撮影のために続々と集まる中、わざわざ生徒に不合格を伝えさせるというのはあまりに酷ではないか。


 ▼2月3日日曜 15:00@麻布

 次は開成と並ぶ男子御三家、麻布(港区)だ。14:40に到着。案内には「15:00から中庭にて掲示」と書いてあったが、到着時にはすでに貼られていた。麻布には報道陣がほとんどきていないので静かだ。塾からきたスーツ姿のスタッフが嬉々として合格した子を撮影している。


 ▼2月5日火曜 15:00@筑波大学付属駒場中

 2月5日は開成と並ぶ最難関校として知られる国立の男子校、筑波大学附属駒場(世田谷区)だ。14:15、発表時刻の45分も前にもかかわらず4、5組の親子がいた。見たところ、「合格の自信あり」といった雰囲気。5校目ともなると塾の顔ぶれも一緒。14:50、予定より10分早く番号が貼られた。

 数百人の合格者を出す私立と異なり、ここは139人。だから、紙は1枚だけ。近くにいたお父さんが、合計何人か数えて「例年と一緒だね」と。合格者数の少なさに「これはすごいね」と苦笑いしながら帰る親子。おそらくチャレンジ校として受験し、不合格だったのだろう。他の不合格の親子も落ちこみはさほど大きくない様子だった。開成などほかの学校に合格している子も多いのだろう。



■掲示板のみで発表をするのは「学校の宣伝のため」

 5校の合格発表を見て、この5校はなぜ掲示板のみの発表にこだわっているのか、と思った。この数年で、ウェブと掲示板の両方で合格発表する学校が増えているからだ。

 確かに、2月の寒空の下、掲示板で受験番号を見つけた瞬間の感動はひとしおに違いない。だが、そこには不合格者もいる。そのことを思うと、掲示板発表は残酷だ。親はともかく、小学6年生の子供にはつらいのではないか。

 なぜ掲示板の前に親子を集めるのか。桜蔭に問い合わせたところ、「試験は2月1日の1回のみで、合格発表日に、合格者の皆さんに合格証や入学手続きの各種書類も直接お渡ししています。また、その場で制服の採寸をすることも可能です」(教務課)との回答だった。とはいえ、ウェブでチェックした合格者だけ学校にいけばいいだけである。

 私立中学の合格発表では、ウェブを使うこと主流になりつつあり、いまや掲示板に貼り出すほうが珍しいという。ある進学塾の代表は「合格番号を貼りだすことで、メディアを集め、学校の宣伝につなげたいという狙いがあるのかもしれない」といぶかる。



■「合格者の動画」は大手塾の新規生徒募集のPRに使われる

 今回の取材では「掲示板発表」が商業利用されていることもわかった。筑駒の発表の際、ある大手塾が、合格した生徒をつかまえて「合格した瞬間の動画をとりたいから、初めて見た感じで演じて! 」と頼んでいたのを目撃した。この映像はいったい誰のためのものだろう。少なくとも合格した家族のためのものではない。

 掲示板発表がなくなったら一番困るのは大手の塾だ。この映像が、この新規塾生の入塾説明会で編集されて使われる。そのため、例年、説明会で「感動ビデオを見て涙するお母さん続出」となるのだ。それも、私が目撃したような「ヤラセ映像」を見て、その気になる可能性もある。中学受験のための平均的な塾費用は300万円。子供が勉強をやる気になればラッキーだが、そうでなかったら金をドブに捨てることになる。

 塾選びは難しい。どんな基準で選べばいいかわからないという人は多い。となると、塾選びの決め手となりがちなのは「数字」だ。受験が終わった2月半ば以降、大手塾がCMや広告、ウェブページで「開成合格者100人」などと打ち出す人数を見て「ここはいい塾だ」と判断してしまうことがある。

 そうやって説明会に行けば、塾が合格発表の場にカメラマンを投入して作り込んだ「合格感動ストーリー動画」を見ることになる。そしてほとんどの親はメロメロになる。これは危ない。塾選びは、塾と子供の相性や教育投資のコストパフォーマンスを熟考した上で行ってほしい。



プレジデントオンライン から転載
2019.3.1




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