公立中高一貫

2012年04月08日

公立中高一貫 (5)進学実績 生徒集めの壁

「宮沢賢治を知ってる? 生まれた年と亡くなった年に、大地震があったんだよ」。2月27日の放課後、徳島県立川島中学・高校(吉野川市)の中学3年の教室で、「スペシャルアプローチ」と呼ばれる特別授業が行われていた。

 教えるのは、高校国語科の武田伊織主幹教諭(51)(4月から県立富岡東高校教頭)。同高への内部進学に先立ち、高校での授業内容や勉強の仕方を伝えるのが狙いだ。2008年度から、秋から冬にかけて20回程度実施している。

 安丸友耶(やすまるゆうや)君(15)は「内容の濃い授業だったけど、話は分かりやすかった。スムーズに高校へ進めそう」と満足げだ。

 川島高校は1925年、旧制中学校として創立された伝統校。吉野川市一帯の過疎化が進む中、地域を支える人材の育成を期待した地元が県に働きかけ、2006年、同高の中高一貫校化が実現した。

 しかし、同中の入学志願倍率は、初年度から1倍すれすれ。10年度には2回目の定員割れを起こしたため、翌年度から定員を80人から60人に削ったが、それでも今春、再び1倍を割り込んだ。

 県教委は「周辺地域の小学生が少なくなっていることや、川島高校の大学進学実績が十分でないことが影響しているのではないか」と見ている。

 同中は、ほぼ全入状態で入ってくる生徒の学力底上げに懸命だが、優秀な生徒の中には、卒業時に外部受験し、近隣の進学校へ流出する者もいる。このため、「スペシャルアプローチ」には、川島高への愛着心を引き出し、つなぎ留める狙いが込められている。

 そうした中、中学1期生が卒業した今春、24人が筑波、広島などの国公立大学に現役合格。昨春の10人から一気に倍増した。

 中原和人校長(57)は「教育内容をさらに充実させ、進学実績の向上に努めたい。地元の小学校や保護者には、この実績をPRして、志願者増につなげたい」と意気込む。

 香川県では、併設型の県立高瀬のぞみが丘中学校が昨春、思うように生徒を集められず、創立から9年で閉校した。新潟県や愛媛県などでも、志願倍率の低迷に苦しむ一貫校が出ている。総じて、中学受験熱が低い過疎地で、進学実績がさほどではない高校を母体に設置したケースが多い。

 文部科学省が打ち出した「生徒一人一人の個性を伸ばす」といった中高一貫教育の理念が、受験指導を望む保護者という壁に突き当たっている。

2012.4.7  読売新聞から転載)


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公立中高一貫 (4)寮生活で社会性養う

 「みんな家族みたいで、楽しかったです」。卒業する6年生(高3)が一人一人、時に涙を交えながら、寮生活の思い出を語った。3月14日の夜、広島県立広島中学・高校(東広島市)の寮「凌雲塾」。後輩たちへの感謝の気持ちを込めて、人気グループ、コブクロの「ミリオン・フィルムズ」を歌うと、「6年生を送る会」は最高潮に達した。

 会を取り仕切ったのは5年生(高2)。プログラムの立案から、記念品の買い出しまで、自分たちで相談して準備した。中心的な役割を果たした寮の保健体育委員長の佐々木尚也君(17)は、「みんなをまとめるのは責任が重かったけど、何とかうまくいった」と、ホッとしていた。

 同校は2004年、併設型の公立中高一貫校として新設された。県全域から入学を認めているため、自宅から通えない生徒用に、寮を校内に建てた。1、2年(中1、2)は4人部屋、3、4年(中3、高1)は2人部屋で、受験勉強が忙しくなる5年(高2)から個室になる。寮費は月額3万5000円。全寮制学校ではないが、昨年度は、全校生の1割を超える男女約130人が寮で共同生活を送った。

 「舎監」と呼ばれる教員らが管理にあたるが、「寮内の活動はなるべく自主的に運営させる」のが同校の方針。5年生から選ばれた寮長の下で、学習、美化、生活安全、保健体育、食堂衛生の5委員会が活動。毎朝の体操や掃除、球技大会などを運営している。

 舎監の積山昌典教諭(37)は「よくやっている。自主運営活動をもっと増やしていきたい」と話す。

 寮には普段使っていない部屋があり、自宅生が短期の寮生活を体験する際に利用する。毎年、運動会直前に、1~5年(中1~高2)が縦割りグループに分かれて合宿し、団結力を高める。

 榊原恒雄校長(60)は「共同生活を通じて社会性が養われる。我慢を覚え、思いやりが生まれる。それはリーダーに必要な資質でもある」と説明する。

 寮を設置する公立中高一貫校は、ほかにもある。全寮制の宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校をはじめ、北海道立登別(のぼりべつ)明日(あけび)中等教育学校や福岡県立輝翔館(きしょうかん)中等教育学校など、地方に多い。

 校地が広い環境を生かして建てた寮に、教育の新たな可能性が芽生えつつある。

 全寮制学校 生徒全員が寮で共同生活を送りながら学ぶ教育機関。日本では、私立の海陽中等教育学校(愛知県)や秀明中学・高校(埼玉県)など数は少ない。イギリスでも、全寮制はイートン校など一部になっている。



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公立中高一貫 (3)中だるみ防止に「入試」

「試験開始」の鐘が鳴った。生徒たちが緊張した表情で問題を解き始める。

 3月8日、香川県立高松北中学校(高松市)では、3年生たちが県内一斉の公立高校入試に挑んでいた。

 試験の結果にかかわらず、同じ敷地内に併設された県立高松北高校に自動的に進学できるが、「中学校で学ぶ内容をしっかり身につけてほしい」と、2008年から始まった“同日受検”。得点も本人の請求により開示している。

 夕方、試験を終えた大河智桃子(おおかわともこ)さん(15)は、「この日のために勉強してきた。力を出し切れたと思う。できなかったところは、高校入学までに復習したい」と話した。増田聖副校長(51)は「同日受検がよい刺激になっているようだ」と見ている。

 文部科学省が10年、全国の中高一貫校を調査したところ、「高校入試がないため学習意欲の向上で課題がある」と答えた公立の中等教育学校は68%、併設型は65%にのぼった。国立が4割、私立が5割に比べて、「中だるみ」が大きな課題になっていた。

 各地の中高一貫校で組織する「全国中高一貫教育研究会」が、09年に25校(公立21校、国立4校)を対象に実施した調査でも、教員と在学生の各7割、卒業生の6割が「中だるみがある」と回答。その時期は「中3」と見る教員が45%、次いで「高1」の19%が多かった。

 中だるみ防止のため、「校内実力テスト」を実施したり、英語検定や漢字検定に挑戦させたりする学校は多い。京都市立西京高校付属中学校は、毎年、入試があった翌日、難易度の高い同高独自の入試問題を3年生に解かせている。また、東京都立小石川中等教育学校は、2年で職場体験、3年でオーストラリアへ2週間の語学研修、3年と4年(高1)で課題研究などを実施し、中だるみの解消を図っている。

 一方で、「人間形成上、中だるみは無駄ではない」との声もある。研究会の調査でも、卒業生から「中だるみをして、じっくり自分と向き合えた」という意見が寄せられた。

 調査にあたった河合優年・武庫川女子大学教授(60)は「大切な時期を生かし切れていないのは、教育する側にも問題がある。どんな教育課程を設計するかだ」と主張する。

 6年一貫制で生まれた時間的ゆとりを、生徒の成長にどう役立てるか。「リーダー育成」を掲げる学校が多い公立ならではの実践が期待される。

2012.4.5  読売新聞から転載)


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