2010年11月14日に9条ネットわかやまMLに投稿した文章を転載します。
 その後、豊下楢彦氏は、2012年11月、今のところ最新刊となる『「尖閣問題」とは何か』(岩波現代文庫)を刊行され、2013年、関西学院大学を退官されました。

「尖閣問題」とは何か (岩波現代文庫)「尖閣問題」とは何か (岩波現代文庫) [文庫]
著者:豊下 楢彦
出版:岩波書店
(2012-11-17)

 なお、豊下氏が2012年9月に行った講演「北東アジアの非核平和の展望-尖閣諸島問題を中心に-」及び上記新著をご紹介した文章を「弁護士・金原徹雄のブログ」に掲載しましたので、そちらの方も是非お読みください。
 


 金原です。
 「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」会員ならよく知っているでしょうが、ここ2~年、「弁護士の会」が企画を考える際には、いつも私から「豊下楢彦(とよした・ならひこ)関西学院大学教授の講演会」を提案しながら、いまだに採用されたことがなく、「出演打診」すら一度もしたことがありません。
 「弁護士の会」で見込みがないのなら、他の団体で検討してくれるところはありませんかね?
 「憲法九条を守るわかやま県民の会」、「くまの平和ネットワーク」、「核戦争防止和歌山県医師の会」、「憲法九条を守る和歌山市共同センター」の事務局長の皆さん、来年の企画にどうですか?

 ・・・という企画の売り込みはさておき、
私自身、豊下教授には一面識もないので
すが、その3冊の著書を読み、非常に深い感銘を受けましたので、是非、ML登録の皆様にもお読みいただきたく、ご紹介することとしました。
 もっとも、それぞれ、発行時から非常に高い声価を得た著書ですから、何も私から推薦するまでもなく、既に読んでい方もおられるでしょうが。

 まず、豊下教授の経歴概略については、以下のサイトをご参照ください。

関学ホームページ教員情報

 そこで、私が全日本人(というのが無理でも、せめて各地「9条の会」の役員には)
「必読の書」と考えているのが以下の3冊です。
 
安保条約の成立―吉田外交と天皇外交 (岩波新書)安保条約の成立―吉田外交と天皇外交 (岩波新書) [新書]
著者:豊下 楢彦
出版:岩波書店
(1996-12-20)

集団的自衛権とは何か (岩波新書)集団的自衛権とは何か (岩波新書) [新書]
著者:豊下 楢彦
出版:岩波書店
(2007-07-20)

昭和天皇・マッカーサー会見 (岩波現代文庫)昭和天皇・マッカーサー会見 (岩波現代文庫) [文庫]
著者:豊下 楢彦
出版:岩波書店
(2008-07-16)

 この内、『昭和天皇・マッカーサー会見』は、『安保条約の成立』で提示した「豊
下仮説」、すなわち、1951年に吉田茂が署名した旧日米安保条約の成立過程には、天皇制を共産主義の脅威から守ため、どうしても米軍に駐留してもらわねばならない、そのためには沖縄を長期に米軍占領下に置くこともいとわないという昭和天皇の強い意向と、場合によっては、吉田茂やマッカーサーをバイパスするチャネを利用してまで米国政府に働きかけるという「天皇外交」が存在した、という「仮説」をさらに補強する書であり、この2冊は一体として読むべきものです。

 さらに、『集団的自衛権とは何か』は、安倍晋三内閣当時に世に出た本で、
安倍の祖父・岸信介が締結した1960年の新安保条約の成立過程とその後の我が国の国家体制を、「集団的自衛権」という視点から読み解く著書であって、日本の真に目指すべき方向性について非常に有益な示唆を得ることができます(『集団的自衛権とは何か』については、以前にもMLや勉強会で推奨したことがあったの記憶している方がおられるかもしれませんね)。

 関学HPで紹介されている業績の残り2冊が、
   1984年 『イタリア占領史序説』(有斐閣)
   1992年 『日本占領管理体制の成立』(岩波書店)
ということでも分かるとおり、国際政治学者としての豊下教授の研究の本格的な出発点は、イタリア占領史だったようです。そこから、日本占領史へ、そして占領終了(平和条約と旧安保条約の同時締結)にともなう新たな国家体制へ、という風に研究が発展してきたことが、戦後の日本と米国の関係史について、比較国際政治学の視点も踏まえた広い視野からの分析を可能とさせたのではないかと思います。

 今まさに我が国政治の焦点となっている沖縄と日本との関係を考える時、日米安
保体制という「戦後『国体』」(豊下教授の表現)の成立過程を避けて通る訳にはいかない、というのが現在の理論状況の到達点だろうと思います。
 その象徴が、豊下教授の著書でも触れられている、有名な昭和天皇による「沖縄メッセージ」(1947年/その存在が明らかになったのは1979年)です。
 
 
 ところで、豊下教授の上記3冊の著書の中には、私の読んだ限り、「日本国憲法9条を守るべき」というようなことは一言も書かれていませんでした。
 しかし、『昭和天皇・マッカーサー会談』の最終章において、昭和天皇が何故「靖国神社」への参拝を行わなくなったかについての「富田メモ」に言及しつつ(昭和天皇を訴追から免れさせ、東條以下に責任を負わせた東京裁判体制こそが、戦後の天皇制を支える基礎であるのに、そのA級戦犯を合祀することにより、「東京裁判の受諾と安保体制の構築を不可分離とする昭和天皇の構図の根幹を揺るがす」こ至ったため、昭和天皇が靖国神社に2度と参拝しなくなった、というのが豊下教授の推論で、非常に説得力があります)、昭和天皇のあとを嗣いだ今上(明仁)天皇夫妻のサイパン等への慰霊の旅や6月23日に皇居で沖縄戦犠牲者への慰霊に尽くしているというエピソードなどを紹介した上で、
(引用開始)
憲法をひたすら遵守し、戦争の過去を痛切に反省し、「アジアの中の日本」を何よりも重視し、さらには「国際社会の友好と平和、人類の福祉と繁栄に寄与する」ことを切望する明仁天皇の基本的立場は、戦後の日本が歩むべき道であったばかりではなく、今後の日本が進むべき方向性をも示す文字通りの「象徴」であり、皮肉な表現を使うならば、昭和天皇が残した“最も重要な遺産”と言うべきではなかろうか。
(引用終わり)
という高い評価を考えれば、「9条」に対する豊下教授の考えも自ずから明らかでしょう。
 実際、2005年に結成された「関学9条の会」の呼びかけ人にもなっておられます。

 豊下教授の3冊の著書が出版されてから、既にかなりの期間が経っていますが
最新の『昭和天皇・マッカーサー会談』が出てからでも2年以上)、全く古びることがありません。
 周到な資料の博捜、分析を踏まえた上で、緻密に一つ一つ論理を積み重ねていき、最後に大胆な(しかし説得力ある)「仮説」を提示するという、「学者とはこうありたい」という理想を見る思いです・・・と、著者の3冊の文章(あとは雑誌「世界」への寄稿や、札幌弁護士会主催のシンポ報告書での発言)を読んだだけの私ですが、そのように敬服し、ご紹介することとしました。