今晩(2015年6月10日)配信した「メルマガ金原No.1「2117」を転載します。

政府統一見解(2通)と自民党・議員啓発文書を読む(付・村上誠一郎議員の気概)

 6月4日(木)の衆議院憲法審査会での参考人(掛け値なしに著名な憲法学者)3人全員が、集団的自
衛権行使を容認する安保法制法案を違憲と断じたことの余波を記録しておきます。
 昨日(6月9日)の動きを伝える報道です。
 
時事ドットコム(2015/06/09-20:35)
集団的自衛権は合憲=「従来解釈と論理的整合」-政府見解

(抜粋引用開始)
 政府は9日午後、集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法案について、「合憲」とする見解を野党側に提示した。
(略)
 政府見解は、1959年の最高裁の砂川事件判決に言及するとともに、必要最小限度の範囲で自衛権の発動は認められるとした72年の政府見解を引用しながら「従前の憲法解釈との論理的整合性が十分保たれている」と結論付けた。
 横畠裕介内閣法制局長官が9日、衆院特別委の民主党理事を務める長妻昭代表代行らに対して直接説明した。この後、長妻氏は記者団に「説得力がある説明はなかった。本当にひどい論理展開だ」と批判。維
新の党の柿沢未途幹事長も「従来見解の繰り返しだ。なお説明が求められる」と語った。 
 憲法審で自民党が参考人として推薦した早大教授の長谷部恭男氏が安保法案について、「従来の政府見解の基本的な論理の枠内では説明がつかない」などと指摘したことを受け、民主党が政府見解を示すよう
要求していた。
 政府見解の提示に先立ち、自民党も砂川判決を根拠に「合憲」とする文書を党内に配布。これを踏まえ、9日の同党総務会では、谷垣禎一幹事長が「丁寧に説明しながら、反論すべきところはしっかり反論し
、広く国民の理解が得られるようにしていきたい」と呼び掛けた。
 これに対し、村上誠一郎元行政改革担当相が「学者の意見を一刀両断に切り捨てることは正しい姿勢なのか」「(法案成立後に)違憲訴訟が連発される危険性がある。それに耐え得るか」と党執行部を非難し、法案採決で党議拘束を外すよう求めた。丹羽雄哉元厚相は「国民の理解をなかなか得られていない」と
指摘した。
(引用終わり)

 以上の記事にある政府の「見解」は、内閣官房と内閣法制局の連名による2つの文書なのですが、内閣官房のホームページを見ても、内閣法制局のホームページを見ても、全然掲載される気配がなく、発見で
きませんでした。
 ただ、民主党の求めに応じて提出されたものであるだけに、すぐにこれを全文掲載したサイトがいくつかありますが、ここでは、上記時事ドットコムの記事に「自民党も砂川判決を根拠に「合憲」とする文書を党内に配布」とある文書もまとめて掲載している「荻上チキ Session-22」をご紹介しておきます。

内閣官房・内閣法制局
 「新三要件の従前の憲法解釈との論理的整合性等について」
 「他国の武力の行使との一体化の回避について」
自由民主党
 「平和安全法制について」

 昨日、長妻昭民主党代表代行らに直接説明したのが横畠裕介内閣法制局長官であったということなので、上記2文書は内閣法制局が起案にあたったのだろうと推測しますが、「官房長官から統一見解を書けと言われたので、とにかく書くだけは書きました」というものであり、長谷部泰男教授に本気で反論しようなどと(あるいは、できるなどと)考えていないことは、誰が読んでも分かります。
 法制局の起案担当者がまずやった作業が、1972年政府見解と2014年7月1日閣議決定の文書データを呼び出してきて文書作成画面に貼り付けることだったことは間違いなく、とても全文引用する気にもなりませんが、ただ、少し気になる部分(「語るに落ちた」と言ってもいいのですが)だけ引用しておきます。

「新三要件の従前の憲法解釈との論理的整合性等について」
(抜粋引用開始)
 憲法の解釈が明確でなければならないことは当然である。もっとも、新三要件においては、国際情勢の変化等によって将来実際に何が起こるかを具体的に予測することが一層困難となっている中で、憲法の平和主義や第9条の規範性を損なうことなく、いかなる事態においても、我が国と国民を守ることができるように備えておくとの要請に応えるという事柄の性質上、ある程度抽象的な表現が用いられることは避け
られないところである。
(引用終わり)
 
「他国の武力の行使との一体化の回避について」
(抜粋引用開始)
 今般の法整備は、従来の「非戦闘地域」や「後方地域」といった枠組みを見直し、
(1)我が国の支援対象となる他国軍隊が「現に戦闘行為を行っている現場」では、支援活動は実施しない。
(2)仮に、状況変化により、我が国が支援活動を実施している場所が「現に戦闘行為を行っている現場
」となる場合には、直ちにそこで実施している支援活動を休止又は中断する。
という、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」(平成26年7月1日閣議決定)で示された考え方に立ったものであるが、これまでの「一体化」についての考え方自体を変えるものではなく、これによって、これまでと同様に、「一体化」の回避という憲法上の要請は
満たすものと考えている。
(引用終わり)

 前者は、「抽象的な表現が用いられることは避けられない」という言い方で、長谷部教授の「一体どこまでの武力の行使が新たに許容されることになったのか、この意味内容が、少なくとも従来の色々な先生方のご議論を伺っている限りでは、はっきりしていない。文言を見ただけで分からないから、意味を明確にするために解釈をしているはずなんですが、解釈を変えたために、意味がかえって不明確化したのではないかというふうに私は考えております」という指摘に、実は起案担当者が(腹の中では)同意している
としか読めませんけどね。
 後者についても、「これまでの「一体化」についての考え方自体を変えるものではなく、これによって、これまでと同様に、「一体化」の回避という憲法上の要請は満たすものと考えている。」は、結局、「一体化」ではないという論理的説明など出来ません、という開き直りでしょう。そうは思いませんか?
 とはいえ、それだけで済ますわけにもいきませんので、真正面から反論を加えてくれた集団的自衛権問題研究会のコメントをご紹介しておきます。

 それから、自民党が所属議員に配布したた文書についても、問題だらけですが、とりわけ問題の箇所を引用しておきましょう。
 
自由民主党「平和安全法制について」(所属国会議員に配布)
(抜粋引用開始)
 みなさん、そもそも憲法判断の最高の権威は最高裁です。最高裁だけが最終的に憲法解釈ができると、憲法81条に書いてあるのです。その最高裁が唯一憲法9条の解釈をしたのが砂川判決です。そのなかで、日本が主権国家である以上、自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために自衛権の行使ができるとしたのです。最高裁のいう自衛権に個別的自衛権か集団的自衛権かの区別はありません。複雑化する世界情勢のなかで、他国が攻撃された場合でも日本の存立を根底から覆すような場合があります。そのよう
な場合、集団的自衛権を行使することはなんら憲法に反するものではないのです。
(引用終わり)

 自民党は、6月4日に一般向けの政策ビラ「平和安全法制の整備」を公表しています。
 この政策ビラ自体、とんでもない内容ですが、その中でさえ、さすがに最高裁砂川事件判決には触れら
れていませんでした。
 6月4日憲法審査会ショックがあったとはいえ、子どもだましの論理をまたぞろ引っ張り出してくるとは呆れます。そういえば、この文章自体、のみこみの悪い子どもに教え諭すような上から目線の文体で書
かれており、自民党の議員もなめられたものです。そうか、だから村上誠一郎議員が激怒したのか。

 ちなみに、9日の総務会で安保法制法案の採決について党議拘束を外すように要求した村上誠一郎議員が、今日の昼間、衆議院第二議員会館で開かれた日本弁護士連合会主催の
院内集会「「安全保障法制」を問う」に参加し、感動的なスピーチをされたことが話題となっています。
 最後に、その全発言文字起こしをご紹介しておきます。
 

IWJ 2015/06/10 日弁連院内集会「安全保障法制」を問う(ダイジェスト)
※ダイジェストですが、村上誠一郎議員の発言の前半部分が聞けます。 
(あしたの朝 目がさめたら 弁護士・金原徹雄のブログ2 から)
2012年6月6日
志位和夫日本共産党委員長による安保法制特別委員会質疑(まとめ)