今晩(2016年10月4日)配信した「メルマガ金原No.2589」を転載します。

司法に安保法制の違憲を訴える意義(3)~東京・差止請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告訴訟代理人による意見陳述

 去る9月2日の国家賠償請求訴訟に続き、先週の9月29日(木)午後2時から、場所も同じ東京地方裁判所で最も広い103号法廷において、安保法制違憲・差止請求事件(原告52名)の第1回口頭弁論が開かれました。
 原告の主張と被告・国による認否・答弁のうち、被告の「答弁書」は、まだ「安保法制違憲訴訟の会」ホームページに掲載されていませんので、ここでは、訴状の「請求の趣旨」及び「請求の原因」の骨子(目次)のみ引用しておきます。

東京地方裁判所(民事第二部) 
平成28年(行ウ)第169号 安保法制違憲・差止請求事件
原告 志田陽子、石川徳信ほか(計52名)
被告 国
 
請求の趣旨
1 内閣総理大臣は,自衛隊法76条1項2号に基づき自衛隊の全部又は一部を出動させてはならない。
2 防衛大臣は,重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律の実施に関し,
(1) 同法6条1項に基づき,自ら又は他に委任して,同法3条1項2号に規定する後方支援活動として,自衛隊に属する物品の提供を実施してはならない。
(2) 同法6条2項に基づき,防衛省の機関又は自衛隊の部隊等(自衛隊法8条に規定する部隊等をいう。以下同じ。)に命じて,同法3条1項2号に規定する後方支援活動として,自衛隊による役務の提供を実施させてはならない。
3 防衛大臣は,国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律の実施に関し,
(1) 同法7条1項に基づき,自ら又は他に委任して,同法3条1項2号に規定する協力支援活動として,自衛隊に属する物品の提供を実施してはならない。
(2) 同法7条2項に基づき,自衛隊の部隊等に命じて,同法3条1項2号に規定する協力支援活動として,自衛隊による役務の提供を実施させてはならない。
4 被告は,原告らそれぞれに対し,各金10万円及びこれに対する平成27年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は,被告の負担とする。
との判決並びに第4項につき仮執行の宣言を求める
請求の原因(目次)
第1 本件訴訟の概要と意義
 1 新安保法制法の制定とその憲法違反,立憲主義違反
 2 原告らの権利の侵害と本件訴訟の意義
第2 集団的自衛権の行使,後方支援活動の実施及び協力支援活動の実施の違憲性
 1 新安保法制法の制定
 2 集団的自衛権の行使が違憲であること
 3 後方支援活動等の実施が違憲であること
第3 集団的自衛権の行使等による原告らの権利の侵害
 1 集団的自衛権の行使等によってもたらされる状況
 2 各事態においてとられる措置と国民の権利制限・義務等
 3 平和的生存権,人格権及び憲法改正・決定権
 4 集団的自衛権の行使等による平和的生存権等の侵害
第4 差止めの訴えによる差止請求
 1 本件処分
 2 集団的自衛権の行使等の処分性
 3 原告適格について
 4 重大な損害を生ずるおそれについて
 5 補充性について
 6 処分が行われる蓋然性について
 7 違法性
第5 原告らの損害と国家賠償責任
 1 加害行為
 2 原告らの損害
 3 公務員の故意・過失
 4 加害行為と損害との因果関係
 5 結論
第6 おわりに
別紙 原告らの権利侵害の具体的内容
第1 戦争体験者
 1 空襲被害者
 2 広島・長崎の原爆被爆者
 3 その他の戦争体験者
第2 基地周辺住民
 1 厚木基地周辺住民
 2 横須賀基地周辺住民
第3 公共機関の労働者
 1 航空労働者
 2 船員
 3 鉄道労働者
 4 医療従事者
第4 その他の特徴的な被害者
 1 学者・教育者
 2 宗教者
 3 ジャーナリスト
 4 母親等
 5 障がい者
 6 在日外国人
 7 自衛隊関係者
 8 原発関係者

 29日の第1回口頭弁論では、原告訴訟代理人の弁護士が3名、そして、原告本人が3名、意見陳述に立ちました。
 今日は、その前半として、3人の弁護士による意見陳述をご紹介します。これらの陳述内容は、口頭弁論終了後、参議院議員会館で行われた報告集会で資料として配付され、その後、「安保法制違憲訴訟の会」のホームページの「裁判資料」のコーナーに掲載されています。
 また、報告集会の模様は、IWJ及びUPLANによって中継されました。
 

20160929 UPLAN 安保法制違憲・差し止め請求訴訟の第1回期日(報告集会)(1時間15分)


司会 杉浦ひとみ弁護士
冒頭~ 寺井一弘弁護士 あいさつ
9分~ 原告 山口氏
11分~ 黒岩哲彦弁護士 第1回口頭弁論の裁判の様子
21分~ 伊藤 真弁護士 裁判の法的な展開について
31分~ 福田 護弁護士 訴訟の今後の展開
42分~ 原告 志葉 玲氏
53分~ 原告 富山正樹氏
1時間08分~ 支える会 藤本氏 

 冒頭、寺井一弘弁護士(「安保法制違憲訴訟の会」共同代表)が「あいさつ」の中で、東京地裁103号法廷に用意された記者席(普通、背もたれに白いカバーがかけられているものですよね)に座って取材していたのが1社だけだった(別の情報では共同通信だったとか)という、ある意味「衝撃」の事実を取り上げ、「忘却」に抗うことの難しさと重要性を強調しておられたのが印象的でした。
 私たちも、我が身自身や周辺を見渡して、「忘却」へと向かう流れを自覚することはないでしょうか。
 そのような意識を持ちながら、原告訴訟代理人3人の意見陳述に耳を傾けていただければと思います。
 

原告ら訴訟代理人 弁護士 伊 藤   真

―差止めの意義、法律家の職責等について―
 昨年9月19日に国民、市民、そして圧倒的多数の憲法学者など法律専門家が反対する中で、新安保法制案の採決が強行されて1年余りが経過しました。いよいよ南スーダンのPKO派遣のための自衛隊訓練など新安保法制の適用、運用が始まり、また先日も、日米物品役務相互提供協定の改定がなされたとの報道がありました。立憲民主主義国家においては絶対にあってはならない前代未聞の違憲の事態が次々と引き起こされ、許されない既成事実が積み重ねられようとしています。
 こうした政府、国会の行為によって、原告らはすでに重大な苦痛と損害を被っており、今後、その被害がさらに拡大しようとしています。こうした原告らの声を法律家としてどう受け止め司法的救済を図るか検討を重ねた結果、ことが起こってしまった後では遅い、これ以上の事態の悪化をくい止めるには、違憲の国家行為を差し止めるしか方法がないと考えるに至り、提訴しました。

1 差止めの意義

 原告らは多大な精神的苦痛を受け、すでに損害賠償に値するほどの損害を被っています。今後、新安保法制の下で、請求の趣旨に掲げたような自衛隊の防衛出動、物品・役務の提供すなわち本件処分により、原告らはさらに重大な損害を被ることになります。その場合の損害は、ある者は生命等の人格権を害され、ある者は平和の中で生存する権利を侵害され、ある者は国の形を変えてしまうような重大な憲法体制の事実上の変更により、憲法制定権者たる国民にのみ与えられている憲法改正・決定権が侵害されます。本件処分によるこうした損害の回復は限りなく困難であり、損害の性質及び程度も極めて重大です。こうした重大かつ深刻な被害を避けるためには、本件処分を事前に差し止めるしか方法はありません。
 新安保法制法の立法を急いだ理由は、我が国を取り巻く安全保障環境の変化にあるとされました。すなわち、一刻も早くこの法律を成立させ新安保法制を発動させなければならない緊迫した安全保障環境にあるという政府の主張が仮に正しいのであれば、政府の総合的判断により、集団的自衛権の行使や後方支援活動等の実施が容易かつ安易に行われてしまう危険性・蓋然性は極めて高いものと言わざるを得ません。
 
2 法律家の職責
 原告らは皆、この新安保法制によって誰もがひどく苦しんでいます。この苦しみは決して単なる不快感、不安感として切り捨てられるものではありません。その苦しみを具体的な損害として言葉にし、形にして、裁判所に理解してもらうことが私たち弁護士の職責であることは、十分に理解しております。そのために代理人もすべての者が最大の努力をします。ですが、ぜひ、裁判所におかれましても、想像力、共感力を発揮していただいて、原告の、ときに言葉にならない強い思いをくみ取っていただきたいと思っています。
 違憲の新安保法制による既成事実が積み重ねられ、違憲の状態が司法によっても放置されてしまうようなことがあると、憲法で政治権力を拘束するという立憲主義など絵空事であり、憲法は為政者によって都合のいいように解釈される単なる紙切れにすぎないことになってしまいます。そうした事態はなんとしても避けなければなりません。しかし、現在の日本でこれを政治部門によって是正していくことは極めて困難と言わざるを得ません。
 特定の政策についての国民投票が認められていない憲法の下では、ある政策について、選挙を通じて民主的コントロールを及ぼすことは極めて困難です。ましてや最高裁が5回も違憲状態と判断した選挙で選ばれた国会議員によって構成される国会には民主的正統性が全くありません。手続的にも、実体的にも違憲の法律によって国家権力が行使されるという前代未聞の事態がこの瞬間にも起こっています。これ以上の事態の悪化を防ぎ、憲法秩序を回復するためには、なんとしても司法部門がその役割を果たさなければなりません。法律家の職責は極めて大きいと考えます。
 今回の提訴にあたり、私は一部の市民から「日本の司法は政治部門の判断を追認するばかりで独自の存在意義などない、そんな司法に期待をしても無駄だ」と厳しい批判を受けました。しかし、私は、「いや、裁判官も被告側の訟務担当検事も法律家であり、憲法を学び実現するために法律家になったのだから、日本を真の立憲民主主義国家にしたいという思いにおいて違いはないはずだ。だから、政治に失望しても司法には失望しないでほしい」と言い続けてきました。
 また、法曹養成に35年以上、携わってきましたが、法曹三者は立場を越えて、憲法価値を実現する仕事であり、政治部門とは異なる独自の存在意義があるのだから極めて魅力的な尊い仕事だと学生達にも訴え続けてきました。
 
3 国民 ・ 市民の司法への信頼と期待
 今回、新安保法制違憲訴訟は、現在までに全国10カ所の地裁で提訴され、3300人以上の原告が声をあげ、今後もさらに全国各地での提訴が予定されています。これは国民・市民が司法を信頼し期待を寄せていることの証です。
 私は、裁判所にはこうした国民・市民の信頼と期待に応える責務があると考えています。そして、この訴訟を通じてこの国の憲法秩序を回復する重大な職責があると考えます。
 この裁判では、多岐にわたる論点を争うことになりますが、憲法秩序を破壊する政治部門に対して司法がどうあるべきか、その姿勢と司法の存在意義が問われていることは間違いありません。
 この裁判を多くの国民・市民が注視している中、国民・市民の司法への期待と信頼を裏切ってはならないこと、そしてこの国の立憲主義を護り、司法の威信を示す責任が、日本の法曹全体にあることを、この裁判の冒頭に申し添えて、私の意見陳述を終えたいと思います。
                                        以上
 

原告ら訴訟代理人 弁護士 角 田 由 紀 子

―被害の実態について―
 原告ら市民 ・ 国民は安保法制法の制定によって甚大な被害を受けており、 今後さらに受け続ける蓋然性が高いことについて
 本件の原告らには様々な人が含まれおり、年代も経験もさまざまです。第2次世界大戦での被害を経験した人々も含まれています。それらの人々にとっては、安保法制が現にもたらしている苦痛は言葉にできないものがあります。それらの人々が実際に経験した地獄を、71年後に再び目の当たりにさせられるものだからです。
 原告ら戦争被害体験者の語る恐怖や苦痛は、戦争によって実際に生命の危機に直面させられた者としてのそれです。今回の安保法制法の制定によって、これらの原告が感じる苦痛は、自分たちの過去の筆舌に尽くしがたい悲惨な体験に基づいたものです。空襲被害や原爆被害による心身の苦痛は、今も癒えることがありません。
 そのような原告たちにとっては、トラウマ体験を再来させる行為が今回の法制定です。集団的自衛権の行使等によって、原告らは再びかつて経験した事態に見舞われることを覚悟しなければならないのです。子ども時代に戦争被害を体験したある原告は、「この法制は、もう一度私たちを殺すものです」と述べています。 
 次に注目しなければならないのは、現に戦争と隣合わせで暮らすことを余儀なくされている原告たちです。日本各地でアメリカ軍や自衛隊の基地周辺で暮らしている人々です。安保法制法制定以前からこれらの基地周辺に住んでいる人たちは、常に危険と恐怖と隣り合わせで生活することをいわば強制されてきております。しかし、安保法制制定によってその恐怖と危険はさらに強いものとなりました。例えば、原子力空母が配備されている横須賀基地では、戦争と原発被害との2重苦が現実化することを考えざるを得ないのです。日本がアメリカとともに他国間で戦争になった場合、横須賀は真っ先に攻撃対象となることは、火を見るよりも明らかです。安保法制法は、その危険性をより確かなものにしました。
 航空機関で働く労働者、船舶で働く労働者、鉄道で働く労働者らは、いったん事があれば、自分の意思に反しても、戦争行為に協力することが求められる立場にあります。これらの労働者は、すでに危険と背中合わせの現場にいます。安保法制法により、その危険がさらに増すことを実感しております。
 教育に携わる市民・国民は、安保法制法の制定により、自分の信念に反することを教えることを求められています。例えば、憲法について教える者は、今までの自分が正しいと信じてきたことと政府の立場との大きな違いに戸惑い、学生にどう教えればよいのか悩んでいます。教育者が自分の良心に反することを教えることはできません。しかし、安保法制法はそれを求めるのです。教育者がこのように自分の良心を封印することを求められることは、この上ない精神的苦痛です。それがすでに起きており、集団的自衛権の行使等はそれをさらに強めるのです。
 その他の市民・国民もそれぞれに苦痛を味わっております。ごく普通の市民・国民にとっては、生命の危険が現実のものとなっても、この国で生きるしか選択肢はありません。ある原告は「優しい心の持ち主である息子が、銃を担いでいる姿を想像しただけで涙が出る」と述べております。平和主義を捨てたとみなされる国に属していることが、外国でのテロの対象になることは、本年7月のバングラデシュでのテロ事件が証明しました。
 多くの市民・国民には、憲法とともに生き、憲法に育てられてきたという確かな実感があります。憲法は、多くの市民・国民の文字通り人間としての骨格を形作ってきたのです。それを、昨年、多くの市民・国民が目にした理不尽な方法で奪われ、集団的自衛権の行使や後方支援活動等の実施によって、戦争に連なる恐怖や不安にさらされ続けることで、原告たちは深く傷つけられております。原告らは、司法こそが、この人権の危機において本来の任務を果たすことを切望しております。
                                        以上
 

原告ら訴訟代理人 弁護士 福 田   護

―新安保法制法の違憲性について―
1 新安保法制法が動き出した
 政府は、去る8月24日、11月中旬以降に南スーダンPKOに派遣予定の陸上自衛隊の部隊について、新安保法制法で導入された「駆け付け警護」などの新任務を付与する場合に備えた訓練を開始すると発表し、現在実働訓練が行われています。駆け付け警護とは、他国の部隊が武装集団に襲われたときなどに、武器を使用して助けに行く任務であり、そこで戦闘行為が行われることになる危険性は否定できません。
 また、後方支援の訓練も視野に入れた日米共同訓練なども、今後実施していくとされています。
 いよいよ、新安保法制法の適用、運用が始まりました。
 小泉・安倍・福田・麻生政権の下で、安全保障・危機管理担当の内閣官房副長官補を務めた柳澤協二氏は、国際平和支援法や改正PKO法によって自衛隊の任務が拡大し、戦場近くで活動することになれば、「戦争で一人も殺していないし、殺されてもいない」という戦後70年間に確立した日本の平和ブランドを、簡単に葬り去ることになるのは確実だと、警鐘を鳴らしておられます(『新安保法制は日本をどこに導くか』2015年6月・かもがわ出版)。
 
2 憲法9条は、政府が戦争を起こさない防波堤
 憲法9条は、戦後70年間、この国が「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうに」するための、大きな防波堤でした。
 憲法9条は、戦争の放棄からさらに進んで、戦力を持たない、交戦権を否認するという、戦争の違法化を徹底した規定です。この規定の理解に様々な立場はありますが、少なくとも9条は、日本が直接攻撃を受けた場合の自衛のために自衛隊を保有するにしても、他国の戦争に参加して戦争当事国になることはできないという一線で、政府に歯止めをかけてきたのです。それが、自衛権発動の3要件であり、集団的自衛権の行使の禁止という政府の憲法解釈として、現実的な枠組を作ってきました。山口繁元最高裁長官は、この政府解釈を、「単なる解釈ではなく、規範として骨肉化したもの」と表現されました。
 自衛隊の海外派遣の禁止の原則も、これまで、自衛隊のイラク派遣のように危険なきわどい状況もありましたが、それでもその活動を「非戦闘地域」に限定し、他国軍隊への武器・弾薬等の提供を禁止し、他国の武力行使と一体化して日本が戦争当事国とならないための枠組を、制度的な担保として設定してきました。
 こうして憲法9条は、自衛隊創設以来60年にわたって積み上げられてきたこれらの政府解釈を通じて、政府と自衛隊の行動を制約し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないための大きな防波堤になってきたのです。
 
3 新安保法制法は、 憲法9条の堤防に大きな穴を開けた
 新安保法制法は、こうして積み上げてきた政府の憲法解釈の安全弁、制度的保障を、ことごとく突き崩そうとするものです。集団的自衛権の行使の容認はもちろん、後方支援活動や協力支援活動も、「現に戦闘行為が行われている場所」以外なら、戦争中の他国に弾薬の提供までもできるようにするなど、自衛隊が他国の武力の行使と一体となってしまい、敵国の攻撃にさらされかねない極めて危険なものに変貌しました。
 新安保法制法は、自衛隊が世界中で、アメリカなど他国の戦争に参加し、あるいは戦争を支援できる体制を作り、日本が戦争当事国となったりテロ攻撃にさらされたりする機会と危険を大きく拡大したのです。 
 それを超えたら違憲だという一線を、新安保法制法は明らかに踏み超えました。憲法9条の堤防は、大きな穴を開けられてしまいました。
 国際情勢の水位が上がれば、堤防は決壊を免れません。私たちが現在直面しているPKOの駆け付け警護は、戦後70年を超えて初めて、この国を、武力紛争の犠牲者が生ずるという現実に、直面させるかもしれないのです。
 
4 新安保法制法の制定過程での立憲主義 ・ 民主主義の蹂躙
 新安保法制法の制定過程は、憲法9条の内容を変えただけではありません。安倍内閣は、閣議決定と法律の制定という方法で解釈改憲をするいわば下克上により、憲法の根本理念である立憲主義を蹂躙しました。国会審議では、国民の理解を得られていないことを自認しながら、採決を強行しました。速記も残らない大混乱の中での参議院特別委員会の採決に象徴されるように、言論の府における代表制民主主義も蹂躙されました。
 内閣が暴走し、国会もこれに追随し、立憲主義と民主主義が危機に瀕する状況のもとで、新安保法制法が施行されました。その適用による国民・市民の権利の侵害に対し、司法による積極的な憲法解釈が、この国のためにどうしても必要であると考えます。
                                        以上