今晩(2016年11月24日)配信した「メルマガ金原No.2640」を転載します。

新任務を付与されて南スーダンに派遣された陸上自衛隊と「5党合意」

 以下は、去る10月29日に配信した「10月29日の冒険~『法華経』、『標的の村』、木村草太氏講演会」という、謎めいた三題噺のようなタイトルの記事の一部をスピンオフさせつつ、新たな視点から書き足したものです。

 この三題噺の3つ目、木村草太首都大学東京教授(憲法学)による和歌山市での初めての講演会(主催:和歌山県保険医協会)を聴講した私が、[辺野古新基地建設と日本国憲法]という論点(これについては、3日前に、「立憲デモクラシー講座・第Ⅱ期」第2回・木村草太首都大学東京教授「泣いた赤鬼から考える辺野古訴訟」は視聴できないけれど」で再び取り上げました)と、もう一つ取り上げた論点が、安保関連法制についてのいわゆる[5党合意]でした。
 木村さんが和歌山での講演会で「5党合意」を取り上げたのは、主には、存立危機事態における防衛出動に例外なく国会の事前承認を要するとした「5党合意」2項前段を紹介するためでしたが(この合意から、例外なき国会承認を要すると解釈するのは無理ではないかと私は思っていますが)、今日、私が「5党合意」を振り返っておこうと考えたのは、その合意の中に、「駆け付け警護」に関する条項が含まれているからです。
 まず、「5党合意」についてのおさらいをしておきましょう(以下は、10月29日に書いた私自身の文章をほぼそのまま再掲しています。
 
[5党合意について]
 2015年5月15日に内閣から衆議院に提出されたいわゆる安全保障関連法案(「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律」及び「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律」の2法案)は、7月16日に衆議院を通過して参議院に送られました。参議院では、「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」(鴻池祥肇委員長)で審議が行われてきましたが、9月27日の会期末を控え、与党による強行採決が取り沙汰される中、9月15日には中央公聴会、翌16日には地方公聴会(横浜市)が行われるという日程が確定しました。
 以上のような緊迫した情勢の中、自民・公明の与党と一部少数野党との間で修正協議が行われてきましたが、修正案を可決しても、会期末までに衆議院での再議決を行う時間的余裕はなく、結局9月16日、自由民主党、公明党、日本を元気にする会、次世代の党、新党改革の5党は、「平和安全法制に関する合意事項」を内容とするいわゆる「5党合意」を締結し、これを踏まえ、翌17日の参議院特別委員会において「附帯決議」を付した上で安保関連2法案を可決し、9月19日未明の参議院本会議における採決によって両法案が成立したことを受け、持ち回りにより、閣議決定「平和安全法制の成立を踏まえた政府の取組について」が行われました。
 参議院における「附帯決議」に法的効力はありませんが、この「5党合意」の特徴は、合意事項を担保する方法として、「附帯決議」の他に「閣議決定」を行うことも合意されたことであり、この合意に基づき、9月19日に行われた閣議決定において、「4 政府は、本法律の施行に当たっては、上記3の5党合意の趣旨を尊重し、適切に対処するものとする。」とされました。
※基本文献
「平和安全法制についての合意書」(5党合意)
「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案及び国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律案に対する附帯決議」
閣議決定「平和安全法制の成立を踏まえた政府の取組について」

 さて、以上の「5党合意」が行われてから1年半が経過し、ついに、新安保法制に基づく新たな任務を付与された陸上自衛隊が南スーダンに派遣されました。
 本来であれば、このような場合に、独自の立場から「5党合意」の履行と慎重な運用を政府に迫るべき野党3党(日本を元気にする会、次世代の党、新党改革)が、とてもそのような状況でないことは確認しておかねばならないでしょう。
 この「5党合意」でおそらく野党側の中心となったのは「日本を元気にする会」(当時の代表は松田公太参議院議員)でしょうが、松田氏自身、今夏の参院選に出馬せずに政界を引退し、政党要件も喪失した上に、参議院会派としての「日本を元気にする会」も解散となり、結局、実体としての「日本を元気にする会」はほぼ消滅した、と言うべきでしょう。
 また、「新党改革」は、もともと「5党合意」当時から、荒井広幸参議院議員1人しか国会議員のいない政党でしたが、その荒井氏も今夏の参院選で落選し、「新党改革」は解散ということになりました。
 結局、残るは「次世代の党」あらため「日本のこころを大切にする党」だけですが、そもそも、同党があの「5党合意」で主導的な役割を演じたとはとても思えず、当時も現在も、政府与党の暴走にブレーキをかけることなど期待する方が無理でしょう・・・と思わないでもありませんが、本当はそういう決めつけはよくありませんね。
 公党として国民のために行った「合意」なのだから、しっかりとその履行を政府に要求すべきだと声援(というか叱咤)を送るべきなのだと思います。
 もっとも、そういう声援のしがいのある「合意」なのかどうかが問題です。
 
 そこで、「駆け付け警護」です。この点については、「5党合意」3項第2文が以下のように定めています(第1文と併せて引用します)。
 
3 平和安全法制に基づく自衛隊の活動については、国会による民主的統制を確保するものとし、重要影響事態においては国民の生死に関わる極めて限定的な場合を除いて国会の事前承認を求めること。
 また、PKO派遣において、駆け付け警護を行った場合には、速やかに国会に報告すること。

 PKOに特化した「合意」は、実はこの3項第2文だけです。この条項については、私がメルマガ(ブログ)に10回連載した「安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか」の「(4)~逐条的に読んでみた③(3項)」で詳しく検討していますので、やや長くなりますが、第2文に関する部分のみ再掲(引用)します。

(引用開始)
 重要影響事態法についてはこの程度とし、5党合意の合意事項3項第2文「また、PKO派遣において、駆け付け警護を行った場合には、速やかに国会に報告すること。」を検討しましょう。
 とはいえ、PKO協力法(国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律)についての概略をおさらいするだけの余力はありませんので、とりあえずは、いわゆる駆け付け警護を含む新たな業務を定めた規定を見ておきましょう。

(定義)
第三条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一~四 略 
五 国際平和協力業務 国際連合平和維持活動のために実施される業務で次に掲げるもの、国際連携平和安全活動のために実施される業務で次に掲げるもの、人道的な国際救援活動のために実施される業務で次のワからツまで、ナ及びラに掲げるもの並びに国際的な選挙監視活動のために実施される業務で次のチ及びナに掲げるもの(これらの業務にそれぞれ附帯する業務を含む。以下同じ。)であって、海外で行われるものをいう。
イ・口 略
ハ 車両その他の運搬手段又は通行人による武器(武器の部品及び弾薬を含む。二において同じ。)の搬入又は搬出の有無の検査又は確認
二~へ 略
卜 防護を必要とする住民、被災民その他の者の生命、身体及び財産に対する危害の防止及び抑止その他特定の区域の保安のための監視、駐留、巡回、検問及び警護
チ・リ 略
ヌ 矯正行政事務に関する助言若しくは指導又は矯正行政事務の監視
ル リ及びヌに掲げるもののほか、立法、行政(フに規定する組織に係るものを除く。)又は司法に関する事務に関する助言又は指導
ヲ 国の防衛に関する組織その他のイから卜まで又はフからネまでに掲げるものと同種の業務を行う組織の設立又は再建を援助するための次に掲げる業務
(1)イから卜まで又はワからネまでに掲げるものと同種の業務に関する助言又は指導
(2)(1)に規定する業務の実施に必要な基礎的な知識及び技能を修得させるための教育訓練
ワ~ソ 略
ツ イからソまでに掲げるもののほか、輸送、保管(備蓄を含む。)、通信、建設、機械器具の据付け、検査若しくは修理又は補給(武器の提供を行う補給を除く。)
ネ 国際連合平和維持活動又は国際連携平和安全活動を統括し、又は調整する組織において行うイからツまでに掲げる業務の実施に必要な企画及び立案並びに調整又は情報の収集整理
ナ イからネまでに掲げる業務に類するものとして政令で定める業務
ラ ヲからネまでに掲げる業務又はこれらの業務に類するものとしてナの政令で定める業務を行う場合であって、国際連合平和維持活動、国際連携平和安全活動若しくは人道的な国際救援活動に従事する者又はこれらの活動を支援する者(以下このラ及び第二十六条第2項において「活動関係者」という。)の生命又は身体に対する不測の侵害又は危難が生じ、又は生ずるおそれがある場合に、緊急の要請に対応して行う該活動関係者の生命及び身体の保護

 上記3条5号ラに定められた業務がいわゆる「駆け付け警護」です。ちなみに、同号トによる治安維持のための「監視、駐留、巡回、検問及び警護」は、実は「駆け付け警護」よりもはるかに危険性が高いのではないかと言われている業務です。
 これらの危険性の高い新業務については、武器使用基準も大幅に緩和されています。

(武器の使用)
第二十六条 前条第三項(同条第七項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)に規定するもののほか、第九条第五項の規定により派遣先国において国際平和協力業務であって第三条第五号卜に掲げるもの又はこれに類するものとして同号ナの政令で定めるものに従事する自衛官は、その業務を行うに際し、自己若しくは他人の生命、身体若しくは財産を防護し、又はその業務を妨害する行為を排除するためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で、第六条第二項第二号ホ(2)及び第四項の規定により実施計画に定める装備である武器を使用することができる。
2 前条第三項(同条第七項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)に規定するもののほか、第九条第五項の規定により派遣先国において国際平和協力業務であって第三条第五号ラに掲げるものに従事する自衛官は、その業務を行うに際し、自己又はその保護しようとする活動関係者の生命又は身体を防護するため、やむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で、第六条第二項第二号ホ(2)及び第4項の規定により実施計画に定める装備である武器を使用することができる。
3 前二項の規定による武器の使用に際しては、刑法第三十六条又は第三十七条の規定に該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならない。
4 (略)

 26条1項が治安維持活動における、同条2項が駆け付け警護における、それぞれ武器使用基準を定めた規定であり、「その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で」武器を使用することができるとされています。
 ところで、PKO協力法において、実施計画や国際平和協力業務についての国会への報告義務について定めた規定は7条であり、これは改正されておらず、従来のままです。
 
(国会に対する報告)
第七条 内閣総理大臣は、次の各号に掲げる場合には、それぞれ当該各号に規定する事項を、遅滞なく、国会に報告しなければならない。
一 実施計画の決定又は変更があったとき 当該決定又は変更に係る実施計画の内容
二 実施計画に定める国際平和協力業務が終了したとき 当該国際平和協力業務の実施の結果
三 実施計画に定める国際平和協力業務を行う期間に係る変更があったとき 当該変更前の期間における当該国際平和協力業務の実施の状況  

 5党合意の3項第2文「駆け付け警護を行った場合には、速やかに国会に報告する」とあるのは、7条に追加して(横出しして)別途報告義務を課した合意と解することができます。
 私は、個人的には、「駆け付け警護」(3条5号ラ)よりも、「治安維持活動」(3条5号ト)の方がはるかに危険な業務だと思っており、どうせなら、そちらを抑制するような合意はできなかったのか、などと思ったりもします。
 結局は、国会の事前承認でしっかりチェックできるかどうかなのですが。 
(引用終わり)

 さて、今回のいわゆる新任務「駆け付け警護」の付与は、「実施計画の変更」にあたりますから、PKO協力法7条1号に基づき、「当該決定又は変更に係る実施計画の内容」を「遅滞なく、国会に報告」しなければなりません。
 ただ、求められている報告は「実施計画の内容」に過ぎません。
 今回の「駆け付け警護」任務付与を含む「実施計画の変更」については、11月15日の閣議により、以下のとおり決定されました。

(引用開始)
2.変更内容
・国際平和協力業務の種類及び内容
国際平和協力法第3条第5号ラに掲げる業務に係る国際平和協力業務を追加

・同意の安定的維持について、UNMISSの活動内容、期間等に関して安保理における決議がなされる場合その他の必要な場合においては、速やかに国家安全保障会議を開催し再確認する旨を追記
・いわゆる参加5原則が維持されている場合でも、安全を確保しつつ有意義な活動を実施することが困難と認められる場合には、国家安全保障会議における審議の上、南スーダン国際平和協力隊及び自衛隊の部隊等を撤収する旨を追記
(引用終わり)

 そこで、「5党合意」に戻ってみれば、「駆け付け警護を行った場合には、速やかに国会に報告すること」とあり、これは、PKO協力法7条各号に規定のない事項ですから、実際に「駆け付け警護」を行ったなら、特定秘密に指定して頬被りなどせず、必ず国会に報告するように約束させた、という意義はありますが、それ以上のものではなく、「駆け付け警護」任務の遂行を抑制させる効果があるとは思えません。
 
 陸上自衛隊ホームページによると、「派遣される第11次要員は、第9師団隷下の第5普通科連隊長、田中仁朗(たなか よしろう)1等陸佐を隊長に、第9師団主体とした隊員約350名が派遣され、約6か月間にわたり、アフリカの南スーダン共和国の首都、ジュバ市及び同周辺において国連施設の整備、道路補修、給水支援などの活動を行うことを予定しています。」とありました。
 350名の派遣部隊を統率する田中仁朗1等陸佐の肩にのしかかる重圧を、どれだけの日本人が具体的に想像しているでしょうか。政治の無責任さによるしわ寄せがあげて現地派遣部隊に押しつけられているのです。

 従って、ここで想起すべき「5党合意」は、以上に紹介した3項第2文ではなく、「国会が自衛隊の活動の終了を決議したときには、法律に規定がある場合と同様、政府はこれを尊重し、速やかにその終了措置をとること。」という5項の規定ではないかと思います。
 PKO協力法は、2年ごとに国会の承認を要求していますが(6条7項、10項)、上記「合意」は、2年の期間の経過を待つことなく、国会が活動終了の決議を行って撤収させる道を開いた規定と解釈できるだろうと考えています(安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(6)~逐条的に読んでみた⑤(5項))。
 与党が衆参両院で圧倒的な議席を保有する状況では、現実に発動される見込みはないかもしれませんが、派遣自衛官全員の生命に対して全ての国会議員が責任を負っているのだということは、どうあっても自覚してもらわなければなりません。

 私は、昨年の連載「安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか」の最終回「(10・完)~私はこう読んだ(総集編)」の末尾において以下のように書きました。
 陸上自衛隊南スーダンPKO第11次要員派遣という事態を受け、その気持ちはますます強まっています。

(引用開始)
3 おわりに~5党合意をどう活かすか
 参議院・我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会で、安全保障関連2法案が強行採決される前日の9月16日に、自由民主党、公明党、日本を元気にする会、次世代の党、新党改革の5党間で締結された「平和安全法制に関する合意事項」については、締結直後の冷ややかな雰囲気も過ぎ去り、いまやほとんどの国民が忘れてしまっているのではないかと思える今日この頃である。
(略)
 もちろん、5党合意と一口に言っても、様々な内容を含んでおり、各条項の解釈にしても、必ずしも断定しかねる曖昧さを残すものも少なくない。それに、私自身、浅学非才の故に、思わぬ検討不足や勘違いをしている可能性も十分にある。従って、多くの人が「5党合意を自分はこう読んだ」という意見を次々と発表してくれることが一番良いと思っている。
 安保関連法制自体を廃止できる時がくれば、「5党合意」はその意味を失うが、それまでにあとどれだけの期間を要するのか誰にも分からない。それまでにも、生身の自衛官が危険な戦地に派遣される可能性は(法律の施行後は特に)常に存在する。そうである以上、自衛隊の戦地派遣を阻止する、あるいはせめて抑制するために使える手段はどんなものでも総動員しなければならない。私が5党合意の注釈をしつこく続けたのはそのためであった。
 このまことに中途半端と言えば中途半端な5党合意が、もしかすると将来、思わぬ効力を発揮する場面があるかもしれない(それが良いことなのかどうかは別論として)。
(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2015年10月4日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(1)~とにかく読むだけは読まなければ(資料編)

2015年10月5日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(2)~逐条的に読んでみた①(前文・1項)
2015年10月7日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(3)~逐条的に読んでみた②(2項)
2015年10月9日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(4)~逐条的に読んでみた③(3項)
2015年10月11日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(5)~逐条的に読んでみた④(4項)
2015年10月13日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(6)~逐条的に読んでみた⑤(5項)
2015年10月15日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(7)~逐条的に読んでみた⑥(6項)
2015年10月18日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(8)~逐条的に読んでみた⑦(7項、8項)
2015年10月20日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(9)~逐条的に読んでみた⑧(9項)
2015年10月25日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(10・完)~私はこう読んだ(総集編)