今晩(2017年4月18日)配信した「メルマガ金原No.2786」を転載します。

声明「許せない「共謀罪」」~「「大逆事件」の犠牲者を顕彰する会」が引き継ぐ「志」

 私がこのメルマガ(ブログ)で、いわゆる「大逆事件」を取り上げたことが、少なくとも2回ありました。
 一つは、2013年12月8日に、和歌山市で映画『100年の谺 大逆事件は生きている』(企画:白井堯子・富田玲子・藤原智子 脚本:藤原智子 演出:田中啓)を自主上映するために結成された「映画「100年の谺」を観る会」の呼びかけ人に私自身が名前を連ね、開催案内の記事を書いた時です。

 うっすらとしか認識していなかった「大逆事件と和歌山」について、映画の上映を機に、勉強するための素材を少し探してみたというものでした。
 もっとも、「大逆事件と和歌山」という言い方はやや正確性を欠き、「大逆事件と熊野・新宮」と言うべきところでした(いずれも紀州藩領であった熊野地方の牟婁郡が、明治以降、西牟婁郡・東牟婁郡が和歌山県に、北牟婁郡・南牟婁郡が三重県にそれぞれ編入されました)。
 大逆事件(いわゆる幸徳事件)によって1911年1月18日、24名に死刑が宣告され(内12名は翌日無期に減軽)、幸徳秋水、管野スガ、大石誠之助ら12名に死刑が執行され、減軽された者の内5名までが獄中死しましたが、死刑を宣告された24名の実に1/4にあたる大石ら6名が「紀州グループ」であったのです(三重県在住者も含まれていました)。
 上記記事に書いたことを繰り返すことはしませんが、是非参照いただければと思います。
 ここでは、映画の予告編のみ再掲します。

映画「100年の谺(こだま)-大逆事件は生きている」予告編(ポレポレ東中野ver.)(3分07秒)


 もう一度、私が「大逆事件」を取り上げたのは、映画『100年の谺 大逆事件は生きている』上映後、実行委員会で話し合った結果、熊野・新宮と「大逆事件」についてさらに認識を深めるための企画をやろうということになり、新宮市の佐藤春夫記念館館長である辻本雄一さんを講師にお招きした講演会「熊野・新宮の「大逆事件」」を、2014年5月31日に開催することを告知した時でした。
 

 長らく新宮高校などで教鞭をとられ、中上健次さんが始めた熊野大学にも当初から関与されてきた辻本さん(本当は「しんにゅう」の左上の点が1つです)は、1980年代から積み重ねられてきた熊野・新宮の「大逆事件」についての研究をまとめられた著書『熊野・新宮の「大逆事件」前後 大石誠之助の言論とその周辺』(論創社)を、2014年2月に刊行されたばかりでした。
 熊野・新宮の「大逆事件」を考える上で、最も基本的な文献として推奨させていただきます。

 
 さて、私があらためて「大逆事件」を想起することになったのは、4月12日付・朝日新聞朝刊の和歌山版を読んだ(正確に言えば、三重県紀宝町在住の知人から、掲載されたことをメールで教えていただいてあわてて読んだのですが)ことによります。
 
朝日新聞デジタル 2017年4月11日03時00分(和歌山)
「共謀罪」に反対声明 大逆事件犠牲者顕彰の会
 
(引用開始)
 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織的犯罪処罰法改正案は、明治時代に社会主義者らが不当に弾圧された「大逆事件」のような冤罪(えんざい)を生みかねないとして、新宮市を中心に活動している「『大逆事件』の犠牲者を顕彰する会」が10日、市内で記者会見し、法案に反対する声明を発表した。
 会は声明の中で、「共謀罪」は人権侵害や冤罪を増やし、表現の自由や人の心の内の自由をも脅かすことが可能になると指摘し、廃案を求めている。今後、親交のある社民党の福島瑞穂・参院議員を通じて多くの国会議員にこの声明を伝えていくほか、高知、岡山県など大逆事件犠牲者ゆかりの地の顕彰団体に届け、連携を呼びかける。
 1910~11年の大逆事件で、新宮グループとして医師や僧侶ら6人が死刑や無期懲役となった。新宮市議会は2001年に6人の名誉回復を決議している。会長の二河通夫さん(86)は「大逆事件は自由闊達(かったつ)に論議していた人たちが犠牲になった。彼らのことを思えば、いろんな問題を自由に議論できる今の平和な世の中を、守っていかなければならない」と語った。(東孝司) 
(引用終わり)
※部分引用にとどめようと思ったのですが、どこもカットできるところが見当たりませんでした。それだけ、無駄のないすぐれた記事だということでしょう。

 先述した紀宝町の知人からのメールによると、地元紙には「『大逆事件』の犠牲者を顕彰する会」による声明が全文掲載されており、大変感銘を受けたということでした。
 そこで、是非その声明全文を私のメルマガ(ブログ)でご紹介したいものだと考え、「顕彰する会」に掲載の許可とデータの提供をお願いしたところ、快くご了解いただくことができました。
 以下に、その全文をご紹介します。
 
(引用開始)
「共謀罪」に反対する声明
 
許せない「共謀罪」

 過日、テロ対策を名目に「共謀罪」(「テロ等準備罪」)という法案が閣議決定され、国会に上程されました。これは、犯罪行為が発生する以前から人を逮捕できるという、刑法の原則を完全に無視したもので、人権侵害や冤罪事件を増やし、表現の自由や人それぞれの心の内の自由をも脅かすことが可能になる、問題を多く含んだ法案です。私たちは強い危機意識の下にこの法案が廃案になる事を強く求めるものであります。
 私たちが生きる熊野新宮の地では、明治時代の一大冤罪事件であった「大逆事件」の犠牲者の志を継ぐために顕彰する会を立ち上げ、彼等一人ひとりに寄り添い、その志を現代から未来へと生かすべく、学習し、運動に取り組んでまいりました。当地の犠牲者6人は、悩み多き者として真摯に考え、煩悶し、ごく普通に生活をしていた市民でした。そうした人たちを襲ったのが、まさにこの「共謀罪」のような、国家による謀略です。熊野川での単なる舟遊びが「天皇暗殺謀議」に仕立て上げられたのです。担当の検事は、行為ではなく考え方を裁くのだと公言してはばかりませんでした。
 さらに戦時下の治安維持法で断罪された「横浜事件」の犠牲者のひとり、木村亨氏がやはり熊野新宮の出身であったことも忘れてはなりません。出版祝賀の酒宴が非合法活動と目され、逮捕・死者が出たのです。私たちは「大逆事件」と「横浜事件」の真実を共に学んでまいりました。
 そして今、「平成の治安維持法」とも言われる「共謀罪」法案がまたもや持ち出されています。オリンピックを安全に催すためという「大義」など、国際的にみれば妄言に過ぎません。
 この法案に反対する全国の人たちと共に、国会での議論を見極め、廃案への動きに連動出来ればと強く思う次第です。
 「大逆事件」の犠牲者と遺族の方々の無念の思いを改めて噛みしめ、彼等の志の高さを今一度想起しなければならないと思います。

2017年4月10日
「大逆事件」の犠牲者を顕彰する会
会長 二河通夫
(引用終わり)

 いかがでしょうか。「オリンピックを安全に催すためという「大義」など、国際的にみれば妄言に過ぎません。」という箇所に、思わず「至言だ」と叫びたくなりませんでしたか?
 厳密に言えば、第一段落の「これは、犯罪行為が発生する以前から人を逮捕できるという、刑法の原則を完全に無視したもので」とある部分は、もう少し言葉を足さないと、言わんとするところが伝わりにくいのではないかという気がしますが、それは瑕瑾に過ぎません。
 新宮市内にある大逆事件犠牲者顕彰碑には、「志を継ぐ」という決意が刻されています。
 今回の「「大逆事件」の犠牲者を顕彰する会」による声明「許せない「共謀罪」」は、この「志を継ぐ」ための実践に他なりません。
 共謀罪法案に反対する声明は様々な団体から出されていますが、「顕彰する会」の声明は、「国家による謀略」の犠牲者の視点から反対の声を上げたことに特色があります。
 共謀罪が必要と主張する人たちの視野の中に、「国家による謀略」の犠牲者など存在しないのだろうと私は思っています。
 その意味からも、私は「「大逆事件」の犠牲者を顕彰する会」が上記声明を発表されたことに大変勇気付けられました。
 是非多くの人々にお読みいただきたいと思います。
 なお、本稿は、本メルマガ(ブログ)における共謀罪シリーズの第21回でもあります。

(参考サイト)
 上に引用した朝日新聞の記事に、「今後、親交のある社民党の福島瑞穂・参院議員を通じて多くの国会議員にこの声明を伝えていく」とあるのを読んで、なぜ特に「福島瑞穂」さんなのか?と思われた方もいらっしゃるでしょう。
 私もそんなに詳しい訳ではないのですが、福島みずほさんは、大逆事件の現代的意味を考える院内集会を、過去何度か主催しておられるようです。以下に、目に付いた集会概要(文字起こし)あるいは動画をご紹介しておきます。
 
大逆事件百年後の意味 院内集会
2011年1月24日(月)参議院議員会館講堂にて

※和歌山からも、辻本雄一さんがリレートークで発言されており、また、「「大逆事件」の犠牲者を顕彰する会」の二河通夫会長がメッセージを寄せておられます。
 
20130124 UPLAN 102年後に大逆事件を問う(1時間46分)
2013年1月24日 参議院議員会館講堂にて

※講演
「大逆事件の意味」山泉進氏(明治大学大学院教授)
「不逞の復権」田原牧氏(東京新聞記者)
「自民党改憲案、国家安全保障基本法案の問題点を斬る」伊藤真氏(伊藤塾塾長・弁護士)
  
(追記)
 本稿の下書きを終えた後、高知県四万十市の「幸徳秋水を顕彰する会」も、去る4月15日に「共謀罪に反対する声明」を発表していることを知りました。同会公式WEBサイトにPDFファイルがアップされています。
 「「大逆事件」の犠牲者を顕彰する会」の声明と併せ、この声明も是非お読みください。

(引用開始)
共謀罪に反対する声明

 1910年(明治43年)の「大逆事件」では、幸徳秋水ら26名が逮捕され、うち24名が死刑判決を受けました(12名は翌日無期懲役に減刑)。理由は、天皇暗殺や社会転覆を企てる「謀議」をおこなったというものでした。
 明治政府の狙いは、朝鮮侵略に反対し平和と自由平等を訴えていた幸徳秋水らの運動を弾圧、根絶やしにすることにあり、その口実となる「事件」をつくりだし、フレームアップしたものでした。
 「大逆事件」以降、言論の自由は完全に封殺され、日本は侵略戦争の道をひた走り、その結果、国民は塗炭の苦しみを味わっただけでなく、周辺諸国にも多大の被害を与えました。
 戦後、「大逆事件」をリードした元検事は、秋水らの「思想を裁いた」ものであったことを認めています。
 このほど、テロ対策、オリンピック対策を名目に共謀罪(「テロ等組織犯罪準備罪」)という法案が閣議決定され、国会に上程されました。
 これは、犯罪行為が発生する以前から人を逮捕できるという法律であり、「未遂」「予備」「共謀」を例外とするわが国刑法の原則を無視したものであることから、過去の国会でも三度廃案になったものです。
 共謀罪では、人と人のコミュニケーションそのものが犯罪の対象となることから、捜査機関の判断によって恣意的な検挙が行われたり、日常的に市民一人一人の人権やプライバシーが監視される怖れがあります。
 政府は共謀罪がないと「国際組織犯罪防止条約」を批准できないと言っていますが、この条約はマフィアなどの国際経済犯罪対策であり、テロとは明確に区別されており、真の狙いを隠すカモフラージュであることは明らかです。
 戦後憲法で認められた内心の自由、言論の自由などのわれわれの大切な基本的人権が侵害されることがあってはなりません。
 私どもは、再び「大逆事件」をつくりだす暗黒社会に逆戻りするような共謀罪には反対であることを、ここに表明します。

                          2017年4月15日
                          幸徳秋水を顕彰する会

(引用終わり)

(弁護士・金原徹雄のブログから)
2016年2月18日
2017年2月6日
レファレンス掲載論文「共謀罪をめぐる議論」(2016年9月号)を読む
2017年2月7日
日弁連パンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連は共謀罪に反対します!!―」(五訂版2015年9月)を読む
2017年2月8日
「共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明」(2017年2月1日)を読む
2017年2月10日
海渡雄一弁護士with福島みずほ議員による新春(1/8)共謀罪レクチャーを視聴する
2017年2月21日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介
2017年2月23日
日本弁護士連合会「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む
2017年2月24日
「安倍政権の横暴を許すな!」連続企画@和歌山市のご案内~3/3共謀罪学習会&3/25映画『高江―森が泣いている 2』上映と講演
2017年2月28日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.3
2017年3月1日
ついに姿をあらわした共謀罪法案(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案)
2017年3月3日
「共謀罪」阻止の闘いは“総がかり”の枠組みで~全国でも和歌山でも
2017年3月4日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.4

2017年3月6日
共謀罪に反対するのも“弁護士”、賛成するのも“弁護士”
2017年3月8日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.5~「テロリズム集団その他」のまやかし

2017年3月9日
3月9日、和歌山で共謀罪に反対する街頭宣伝スタート~総がかり行動実行委員会の呼びかけで
2017年3月17日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.6~立憲デモクラシーの会が声明を出しました
2017年3月21日
閣議決定された「共謀罪」法案~闘うための基礎資料を集めました
2017年3月31日
2017年4月7日
2017年4月14日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.9~民科法律部会の声明を読む


(付録)
『僕らは熊野(ここ)で歌っていく~笠木透さんに捧ぐ~』 作詞・作曲・演奏:松原洋一

※紀宝9条の会、くまの平和ネットワーク、そして「わがらーず」の松原洋一さんによる『僕らは熊野(ここ)で歌っていく』は、既にご紹介していましたが、今回のテーマにまことにふさわしいということで、再度登場していただきました。

水平線に朝日が昇り 山の緑が動き出す
伝え切れない想いを胸に 今この時と弾けるように
 心豊かに 自由を語れ
 僕らは現在(いま)を 歌いたい
 あなたの歌を こころに留めて
 僕らは熊野(ここ)で 歌っていく

青い空に雲が往き 海と山とを繋いでいる
語り切れない言葉に替えて もう大丈夫と囁くように
 心静かに 平和を祈れ
 僕らは現在を 歌いたい
 あなたの歌を 胸に抱いて
 僕らは熊野で 歌っていく

山の連なり夕日に染まり 風が止んだ不思議な空間
納め切れない今日一日の 喜び哀しみ癒すように
 心解いて 自然と遊べ
 僕らは現在を 歌いたい
 あなたの歌を 思い出かさね
 僕らは熊野で 歌っていく

夜の静寂(しじま)に星が流れる 赤く輝く銀河の果てに
押さえ切れない見果てぬ夢を いつかこの手で届けよう
 心許して 友と歌え
 僕らは現在を 歌いたい
 あなたの歌を 希望に染めて
 僕らは熊野で 歌っていく

 心広げて未来はどっちだ 私は現在を歌いたい
 あなたの歌に 出会えて良かった
 私は熊野で 歌っていく
 あなたの歌に 出会えて良かった
 私は熊野で歌っていく

※非売品CD『僕らは熊野(ここ)で歌っていく 「帰ってきた新曲たち」LIVE from FOLKS』(松原洋一/2016年1月20日)ライナーノートより
「14年12月22日に亡くなった笠木さん。あなたのような曲を作りたいと思ってきましたが、まだまだです。天頂の星の上からどうぞ見守っていてくださいね。」