今晩(2017年6月5日)配信した「メルマガ金原No.2834」を転載します。

「共謀罪」法案の衆議院における修正案(可決)を読む

 2017年2月6日からスタートした共謀罪シリーズの第28回です。
 5月19日に衆議院法務委員会を、同月23日に衆議院本会議を通過して直ちに参議院に送られたいわゆる共謀罪法案(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案)ですが、当初の内閣提出法案のまま採択された訳ではなく、日本維新の会との修正合意に基づいた修正案が採択されたこと自体はご存知のことと思います。けれども、「修正案」そのものを読まれた方はそう多くはないでしょう。今日は、その修正案を皆さんとご一緒に読んでみようと思います。
 
朝日新聞デジタル 2017年5月23日16時24分
「共謀罪」法案、衆院通過 自公維の賛成多数

(抜粋引用開始)
 犯罪を計画段階から処罰する「共謀罪」の趣旨を含む組織的犯罪処罰法の改正案が23日、衆院本会議で自民、公明、日本維新の会などの賛成多数で可決され、衆院を通過した。政府・与党は今国会での成立
を目指す考え。民進、共産など野党4党は採決に反対した。
(略)
 自公維3党は、取り調べの可視化(録音・録画)やGPS(全地球測位システム)捜査の制度化の検討を盛り込むなど法案を一部修正したが、内心の自由などを制約しかねない法案の本質部分は変わっていない。民進、共産、自由、社民の野党4党は、内心の自由を侵し、捜査権限の拡大で社会の監視が強まるな
どとして法案に反対している。
(引用終わり)
 
 上記朝日新聞デジタルの記事も、いささか正確性を欠きます。「取り調べの可視化(録音・録画)やGPS(全地球測位システム)捜査の制度化の検討を盛り込むなど法案を一部修正した」とありますが、強いて「法案を一部修正した」と言い得るのは、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」第6条の2(当初の法案では1項、2項だけであったが、3項、4項を追加することにした)第4項として、「4 第一項及び第二項の罪に係る事件についての刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第百九十八条第一項の規定による取調べその他の捜査を行うに当たっては、その適正の確保に十分に配慮しなければならない。」という規定が置かれたことくらいです。
 「刑事訴訟法第百九十八条第一項の規定」というのは、「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。」というもので、要するに、捜査機関による取調べ権限の根拠規定なのですが、このような「捜査を行うに当たっては、その適正の確保に十分に配慮しなければならない。」というありがたい(?)
「訓示規定」が置かれたことにどういう意味があるのでしょうか?
 そもそも、警察職員や検察官が犯罪捜査を行うにあたって、「適正の確保に十分に配慮しなければならない。」って、別に共謀罪に限ったことではなく、全ての犯罪捜査がそうでなければならないものであっ
て、結局、この規定は、単なる「訓示規定」ですらなく、「無意味規定」と言うべきでしょう。
 あるいは、立法者自身が、共謀罪については、「捜査が不適正に行われる恐れがある」ことを自認した規定と解釈できますので、そういう観点から見れば、一定の意味がある規定とも言えるのですが。

 それでは、朝日新聞デジタルの記事にある「取り調べの可視化(録音・録画)やGPS(全地球測位システム)捜査の制度化の検討」というのはどうなっているのかというと、法案の「附則」にその趣旨の条
項が追加されています。
 衆議院ホームページに掲載されている(立法情報⇒議案情報⇒閣法⇒第193回国会 64「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」⇒本文及び修正案⇒修正案1:第193回提出(可決))修正案を全文引用します。
 
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案に対する修正案
(引用開始)
 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案の一部を次のように
修正する。
 第一条のうち組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第二条第二項に一号を加える改正
規定のうち第五号中「第六条の二」を「第六条の二第一項又は第二項」に改める。
 第一条のうち組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第六条の次に一条を加える改正規
定中第六条の二に次の二項を加える。
 3 別表第四に掲げる罪のうち告訴がなければ公訴を提起することができないものに係る前二項の罪は
、告訴がなければ公訴を提起することができない。
 4 第一項及び第二項の罪に係る事件についての刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第百九十八条第一項の規定による取調べその他の捜査を行うに当たっては、その適正の確保に十分に配慮しなけ
ればならない。
 第一条のうち組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第十二条の改正規定中「第六条の
二」を「第六条の二第一項及び第二項」に改める。
 第一条のうち組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第二十二条第一項の改正規定中「
改める」を「改め、同条第六項中「(昭和二十三年法律第百三十一号)」を削る」に改める。
 第一条のうち組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第七十四条の改正規定中「同条」
を「同項若しくは同条第二項」に改める。
 第一条のうち組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律別表の改正規定のうち別表第一第
一号中「第六条の二」を「第六条の二第一項又は第二項」に改める。
 附則に次の一条を加える。
 (検討)
第十二条 政府は、刑事訴訟法等の一部を改正する法律附則第九条第一項の規定により同項に規定する取調べの録音・録画等に関する制度の在り方について検討を行うに当たっては、新組織的犯罪処罰法第六条の二第一項及び第二項の規定の適用状況並びにこれらの規定の罪に係る事件の捜査及び公判の状況等を踏まえ、特に、当該罪に係る事件における証拠の収集の方法として刑事訴訟法第百九十八条第一項の規定による取調べが重要な意義を有するとの指摘があることにも留意して、可及的速やかに、当該罪に係る事件
に関する当該制度の在り方について検討を加えるものとする。
2 政府は、新組織的犯罪処罰法第六条の二第一項及び第二項の罪に係る事件の捜査に全地球測位システムに係る端末を車両に取り付けて位置情報を検索し把握する方法を用いることが、事案の真相を明らかにするための証拠の収集に資するものである一方、最高裁判所平成二八年あ第四四二号同二九年三月一五日大法廷判決において、当該方法を用いた捜査が、刑事訴訟法上、特別の根拠規定がある場合でなければ許容されない強制の処分に当たり、当該方法を用いた捜査が今後も広く用いられ得る有力な捜査方法であるとすれば、これを行うに当たっては立法措置が講ぜられることが望ましい旨が指摘されていることを踏まえ、この法律の施行後速やかに、当該方法を用いた捜査を行うための制度の在り方について検討を加え、
必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
(引用終わり)

 上記修正案において
「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」と指示されている法案は、法務省ホームページで確認する必要があります。

 いわゆる、自民・公明と日本維新の会の合意と報道されるものの実態は、上記修正案の後半部分
 
「附則に次の一条を加える。
  (検討)
第十二条 政府は・・・」
です。
 過去、与野党対決法案と言われる法案に、野党の一部を取り込んで賛成させるツールとして愛用されて
きた「附則」のその後の運命について実証的に研究した論考があれば(誰かがやっているのではないかと
思うのですが)是非読んでみたいものだと思います。まあ、「附帯決議」よりはましだろうと思いますけどね。
 それはさておき、この附則の2項目についても、何も共謀罪に限った話ではないという一般論が妥当するばかりか、共謀罪の嫌疑を受けて逮捕・勾留されてしまうこと(及びそれを予想して国民の間に生じることが懸念されている萎縮効果)には、取調べが可視化されたところで何の役にも立たないという致命的な問題があることを指摘しなければなりません。

 ところで、私も衆議院ホームページで修正案を確認して初めて知ったのですが、この修正案は、与党と日本維新の会で修正合意された点を盛り込んだだけかと思っていたら、どさくさ紛れに、法案の欠陥を微
修正していたことが分かりました。
 「第六条の二」⇒「第六条の二第一項又は第二項」(第2条2項)
 「第六条の二」⇒「第六条の二第一項及び第二項」(第12条)
 「第六条の二」⇒「第六条の二第一項又は第二項」(別表第一)
などとあるのは、第6条の2(共謀罪の構成要件を定める規定)の1項と2項とは、別々の構成要件が定められた別犯罪であることを見過ごしていたことによる立法技術的な修正ですが、第6条の2に追加された3項「3 別表第四に掲げる罪のうち告訴がなければ公訴を提起することができないものに係る前二項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。」は、なかなか
黙って見過ごす訳にはいかない「修正」です。
 これは、要するに、別表に掲載された277の犯罪の中には、親告罪(告訴がなければ公訴を提起することができないもの)も含まれているが、当初の法案では、既遂でさえ告訴がなければ起訴できない犯罪についても、それが共謀(計画)段階で摘発されれば、告訴がなくても起訴できることになっていたということです。そして、どこかのタイミングで「さすがにこれはまずい」と気付いた法務省が、第6条の2に上記3項を潜り込ませることにしたということでしょう。私自身、修正案を読んで初めてこの欠陥に気がついたのですから、あまり偉そうなことは言えませんが、やはり一端白紙にして出直してもらうしかないと思うのですけどね。

 最後に、修正されて参議院に送られた「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」の内、組織的犯罪処罰法第6条の2が現時点でどうなっているか記載しておきます。
 
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律

第六条の二 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着
手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
一 別表第四に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定めら
れているもの 五年以下の懲役又は禁錮
二 別表第四に掲げる罪のうち、長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められているもの 二年
以下の懲役又は禁錮
2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、組織的犯罪集団に不正権益を得させ、又は組織的犯罪集団の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で行われるものの遂行を二人以上で計画した者も、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を
実行するための準備行為が行われたときは、同項と同様とする。
3 別表第四に掲げる罪のうち告訴がなければ公訴を提起することができないものに係る前二項の罪は、
告訴がなければ公訴を提起することができない。
4 第一項及び第二項の罪に係る事件についての刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第百九十八条第一項の規定による取調べその他の捜査を行うに当たっては、その適正の確保に十分に配慮しなければならない。

別表第三(第六条の二関係) 略
別表第四(第六条の二関係) 
一 別表第三に掲げる罪(次に掲げる罪を除く。)
 イ~へ 略
二~六 略

(付記/6月11日は新宮市で講演会)
 来る6月11日(日)午後1時30分から、新宮市福祉センターにおいて、くまの平和ネットワーク主
催講演会(後援:「大逆事件」の犠牲者を顕彰する会)にお招きいただき、「『共謀罪』って何?こんなにある問題点!」という演題でお話させていただくことになっています。
 6月13日にも参議院委員会採決などという情報が(多分、与党筋から「意図的」に)流布されている中での講演会で、どんな話をしたものかと最後まで悩んでいるところですが、新宮近辺の方はお誘い合わ
せの上ご参加いただければと思います。
チラシPDF
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/共謀罪シリーズ)
2017年2月6日
レファレンス掲載論文「共謀罪をめぐる議論」(2016年9月号)を読む
2017年2月7日
日弁連パンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連は共謀罪に反対します!!―」(五訂版2015年9月)を読む
2017年2月8日
「共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明」(2017年2月1日)を読む
2017年2月10日
海渡雄一弁護士with福島みずほ議員による新春(1/8)共謀罪レクチャーを視聴する
2017年2月21日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介
2017年2月23日
日本弁護士連合会「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む
2017年2月24日
「安倍政権の横暴を許すな!」連続企画@和歌山市のご案内~3/3共謀罪学習会&3/25映画『高江―森が泣いている 2』上映と講演
2017年2月28日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.3
2017年3月1日
ついに姿をあらわした共謀罪法案(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案)
2017年3月3日
「共謀罪」阻止の闘いは“総がかり”の枠組みで~全国でも和歌山でも
2017年3月4日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.4

2017年3月6日
共謀罪に反対するのも“弁護士”、賛成するのも“弁護士”
2017年3月8日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.5~「テロリズム集団その他」のまやかし

2017年3月9日
3月9日、和歌山で共謀罪に反対する街頭宣伝スタート~総がかり行動実行委員会の呼びかけで
2017年3月17日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.6~立憲デモクラシーの会が声明を出しました
2017年3月21日
閣議決定された「共謀罪」法案~闘うための基礎資料を集めました
2017年3月31日
2017年4月7日
2017年4月14日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.9~民科法律部会の声明を読む
2017年4月18日
声明「許せない「共謀罪」」~「「大逆事件」の犠牲者を顕彰する会」が引き継ぐ「志」
2017年4月26日
緊急開催!和歌山弁護士会「共謀罪法案(テロ等準備罪)を考える県民集会」(5/10@プラザホープ)
2017年4月27日
高山佳奈子京都大学大学院教授による共謀罪法案についての参考人意見陳述(2017年4月25日・衆議院法務委員会)を読む

2017年5月9日
「共謀罪」阻止のために~5/9WAASA学習会で話したこと、6/11くまの平和ネットワーク講演会で話すべきこと

2017年5月17日
「共謀罪」をめぐる5月16日の動きを動画で振り返る~衆議院法務委員会参考人質疑、日比谷野音大集会、立憲デモクラシーの会シンポ

2017年5月20日
闘いはこれからだ~5/19「安倍政治を終わらせよう5.19院内集会」&5/20「安倍政権に反対する和歌山デモ」
2017年5月22日
越野章史さん(和歌山大学教育学部)スピーチ全文「教育勅語と共謀罪がもたらす社会」~5/20「安倍政権に反対する和歌山デモ」から

くまの平和ネットワーク「共謀罪」チラシ