今晩(2017年7月4日)配信した「メルマガ金原No.2863」を転載します。
 
家庭教育支援条例のある「まち」に住んで~和歌山市家庭教育支援条例制定記念講演会参加記~

 去る7月1日(土)午後2時から、市立伏虎(ふっこ)義務教育学校において、和歌山市家庭教育支援条例制定 記念講演会~大人が変われば 子供も変わる~(主催:和歌山市、和歌山市教育委員会)が開催され、私も参加してきました。
 当初は参加しようかどうしようかと迷っていたのですが、某MLにこの動きを投稿して、「時間をやりくりして「視察」に行くべきか、悩んでいます。」と書いたところ、大先輩の梓澤和幸弁護士(NPJ代表理事)を含め複数の方から、「視察報告を楽しみにしています」と後押しされてしまい、行かない訳にはいかなくなってしまいました。
DSCN1663 そして行ってきました。原一起教育長の主催者挨拶の後、高橋史朗明星大学特別教授(一般財団法人親学推進協会会長)の講演が約1時間、10分の休憩をはさみ、第2部パネルディスカッションが約1時間というスケジュールでした。
 で、どうだったか?なのですが、講演会が終わった後、すぐに事務所に向かい、メルマガ(ブログ)の下書きを始めようと思ったのですが、パソコンの前ではたと思い悩んでしまいました。
 私の手控えメモには、「本来、学習は親の責任」「親への支援」「親の育ちを支援」「条例5条(保護者の役割)」「埼玉での発達障害児早期発見の取組」「横浜高校野球部監督 渡辺元智」「サッカー選手(ゴールキーパー) 川島永嗣」「カリスマ体育教師 原田隆史」「すみれと母ちゃん(詩を朗読)」「飯田蛇笏(妻に先立たれ長男戦死)」(以上、高橋氏講演)という走り書きが残っていますが、これで講演の流れが分かりますか?分かるわけないと思うけど。
 第2部パネルディスカッションは、コーディネーターの辻由起子氏が、旧知の(でしょう)2人の女性パネリストに話をふったり、高橋会長にまとめを依頼したりということで、和気藹々というか馴れ合いというか、そういう雰囲気で進みましたが、「子育て情報あり過ぎてどこに行けば良いのか分からない」「母子手帳も分かりにくい」「相談相手?」(M氏)、「経済から幸福の物差しを取り戻す」「共に育つ教育の場をどう作るか」「親になるための学び」(高橋氏)という私の手控えメモを読み返してみても、何か特筆すべきかという考えがまとまりませんでした。
 とはいえ、これ以上日数が経つと、レポートを書くこと自体断念することになりそうなので、いつもと違う「である調」の文体にして、和歌山市家庭教育支援条例そのものの紹介をメインに、講演会レポートは付け足しとすることによって、何とか書き上げたという次第です。何卒ご笑覧ください。

※注 講演・パネルディスカッションの模様を一般参加者が写真撮影することは禁じられていました。
 

     家庭教育支援条例のある「まち」に住んで
        
~和歌山市家庭教育支援条例制定記念講演会参加記~
      
                                       金 原 徹 雄

1 私の住む「まち」に家庭教育支援条例が制定されていた

 私は、和歌山市で生まれ、還暦を過ぎた今まで、司法試験受験のための一時期と、合格後司法研修所を修了するまでの一時期を除き、ずっと生まれ故郷の和歌山市で暮らし続け、おそらく、よほど特別なことがない限り、死ぬまで和歌山市民であり続ける可能性が高そうだと思っている。
 ところが、そんな和歌山市(県庁所在地で中核市)で、どうにも気になる動きがあり、今日はその簡単なご報告をしたいと思う。
 実は、和歌山市は、県と一体となって、市内のリゾート施設(和歌山マリーナシティ)に外国人専用カジノを誘致するという方針を打ち出しており、これも大問題だと思っているが、今日取り上げるのは、和歌山市家庭教育支援条例の制定と、同条例に基づく具体的な施策についてである。
 まことに恥ずかしながら、私は、和歌山市議会が昨年(2016年)12月15日に和歌山市家庭教育支援条例を可決成立させていたということ自体、今年の3月末になるまで全く知らなかった。なぜ知らなかったのかと問われても、問題関心が薄く、情報収集を怠っていたためというしかない。参院選(市民連合わかやま)、安保法制、原発、共謀罪などにかまけていて・・・というのは言い訳にはなるまい。
 遅ればせながらにでも知ることになったのは、青年法律家協会弁護士学者合同部会のMLに、東京の仲里歌織さん、岐阜の漆原由香さんなどの若手弁護士の皆さんが、家庭教育支援法案や、各地の家庭教育支援条例の問題点などを投稿されているのを読み、私のブログで取り上げようと思って少し情報を集め始めたことがきっかけであった。ネット検索により、昨年8月26日付パブリックコメント「和歌山市家庭教育支援条例(案)の概要に対する市民意見募集について」(募集期間1ヶ月)を読んだ時には呆然としたものである。
 現在までに、このような条例がどれくらいの自治体で制定されているのか、私自身は詳らかにしないが、今年の3月29日までに条例を制定したことが確認できる8県、5市の条例にリンクをはってくれているブログがある(ふぇみにすとの論考)。

2 始まりは教育基本法の全面「改正」
 和歌山市家庭教育支援条例が、第3条(基本理念)において、「家庭教育への支援は、保護者が教育基本法(平成18年法律第120号)第10条第1項に定めるところにより、子供の教育について第一義的責任を有しているとの基本的認識の下に・・・」とあるとおり、現下の家庭教育支援条例や、近々の国会上程が取り沙汰されている家庭教育支援法案は、第1次安倍晋三政権下の2006年12月に全面「改正」された新・教育基本法にその根拠を置いている。

(家庭教育)
第十条 父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。
2 国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。

 すなわち、上記第10条2項で規定された「国及び地方公共団体」の「務め」を具体化するための条例の制定であり、法案の準備であるということだろう。
 ちなみに、日本国憲法施行の直前に公布され、憲法を実現するための不可欠の付属法令であった旧・教育基本法にも「家庭教育」という用語は使われていたが、それは、あくまで「社会教育」の一部、その例示であって、保護者が「子の教育について第一義的責任を有する」というような価値観の押しつけなどしていなかった(旧法第7条1項(社会教育)「家庭教育及び勤労の場所その他社会において行われる教育は、国及び地方公共団体によつて奨励されなければならない。」)。
 家庭教育支援条例についても、家庭教育支援法案についても、その直接的な始まりは教育基本法の全面「改正」であり、教育に関する憲法とも言われた旧・教育基本法が書き換えられたことにより、我が国の実質的な意味における憲法は変容を被らざるを得なかった(事実上の改憲)という評価が必要なのだろうと思う。
 
3 和歌山市家庭教育支援条例の構成(特に親と市の役割)
 和歌山市家庭教育支援条例は、先に引用した第3条で(基本理念)を定めた上で、続く第4条以下において、市(第4条)、保護者(第5条)、学校等(第6条)、地域住民及び地域活動団体(第7条)及び事業者(第8条)の各「役割」を規定し、第5条ないし第8条には、その役割に応じた努力義務を課している(「・・・務めるものとする。」)。
 この内、第5条(保護者の役割)は、「保護者は、基本理念にのっとり、子供に愛情をもって接し、子供の基本的な生活習慣の確立並びに子供の自立心の育成及び心身の調和のとれた発達を図るとともに、自らが親として成長していくよう努めるものとする。」と規定する。
 他の自治体の同種条例に網羅的に目を通した訳ではないけれども、多くの家庭教育支援条例が、共通して(保護者の役割)として掲げている内容が、和歌山市条例にも書かれていることは確認できた。この種条例の先駆的存在である熊本県条例(くまもと家庭教育支援条例)の第6条(保護者の役割)は、以下のように規定する。
 「保護者は、基本理念にのっとり、その子どもの教育について第一義的責任を有するものとして、子どもに愛情をもって接し、子どもの生活のために必要な習慣の確立並びに子どもの自立心の育成及び心身の調和のとれた発達を図るとともに、自らが親として成長していくよう努めるものとする。」
 正直言って、和歌山市条例は「くまもと家庭教育支援条例」の引き写しである。もっとも、引き写しは他の自治体も似たようなものなのだろうが。かくして、コピペ条例が増殖しつつある実態はよく分かった。
 しかし、このような規定が全国に広がっていくことを想像すると、正直暗澹たる気持ちになる。私は、初めて和歌山市家庭教育支援条例を読んだ際、この第5条のところで目が点になり、「自民党・日本国憲法改正草案の第24条1項、『家族は、互いに助け合わなければならない。』と同じじゃないか。」と呟いたものである。

 和歌山市条例に戻り、とりわけ「市が何をするのか?」にフォーカスして読み進めてみよう。条例は、第4条(市の役割)で、「市は、前条に規定する基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、家庭教育を支援するために必要な体制を整備するとともに、家庭教育を支援するための施策を総合的に策定し、及び実施しなければならない。」(1項)という総括規定を置いた上で、第9条~第14条において、「市は・・・ものとする」という書きぶりにより、市が行う各種家庭教育支援行政の根拠規定を列挙している。
 以下、上記各条の具体的内容については条文自体にあたっていただきたいが、この種条例を初めて読むという方もおられると思うので、特徴的な第9条と第10条は全文引用し、それ以外は見出しのご紹介にとどめることとする(もちろん、特徴的といっても、和歌山オリジナルという意味では全然ない)。
 
(親としての学びの支援)
第9条 市は、親としての学び(保護者が子供の発達段階に応じた家庭教育に関する知識、子育ての知識その他の親として成長するために必要なことを学ぶことをいう。以下この条及び第14条において同じ。)を支援するための学習の方法を研究し、その研究結果に基づく普及を図るものとする。
2 市は、親としての学びを支援するための学習の機会を提供するものとする。
3 市は、学校等及び地域活動団体が親としての学びを支援するための学習の機会を提供することを支援するものとする。
(親になるための学びの支援)
第10条 市は、親になるための学び(子供が家庭の役割、子育ての意義その他の将来親になるために必要なことについて学ぶことをいう。以下この条及び第14条において同じ。)を支援するための学習の方法を研究し、その研究結果に基づく普及を図るものとする。
2 市は、親になるための学びを支援するための学習の機会を提供するものとする。
3 市は、学校等及び地域活動団体が親になるための学びを支援するための学習の機会を提供することを支援するものとする。
第11条(人材の養成)
第12条(連携した活動の促進)
第13条(相談体制の整備及び充実)
第14条(広報及び啓発活動の充実)
 
4 和歌山市家庭教育支援条例制定記念講演会に行ってきた
 和歌山市は、昨年12月の家庭教育支援条例の制定をうけ、平成29年度予算に、「条例の趣旨を市民の方に周知・啓発するための講演会開催やパンフレットの作成、担い手講座や親子食育講座等の実施」のために、78万5000円の新規予算を付けた(所管:生涯学習課)。
 その予算のかなりの部分を使ってと思われるが、去る7月1日(土)午後2時から、今春開校したばかりの市立伏虎(ふっこ)義務教育学校の第2体育館を会場として、和歌山市家庭教育支援条例制定 記念講演会~大人が変われば 子供も変わる~(主催:和歌山市、和歌山市教育委員会)が開催されたので、私も参加してきた。
 企画の内容として、事前にチラシで告知されていたのは以下のような内容であった。
 
第1部 
記念講演「家庭教育支援条例の意義と課題」
講師 高橋史朗氏(明星大学特別教授、一般財団法人親学推進協会会長)
第2部
パネルディスカッション
本音で語る!和歌山市の子育て「子育てしやすいまちって、どんなまち?」
コーディネーター 辻由起子氏(大阪不認定子ども家庭サポーター)
パネリスト 高橋史朗氏、原一起氏(和歌山市教育委員会教育長)、他2名

 なお、チラシには記載されていないけれども、若干補足しておくと、第2部・パネルディスカッションのコーディネーター・辻由起子氏の肩書きには、「一般財団法人親学推進協会理事、親学アドバイザー」(同氏のホームページの記載による)を付け加えるべきであろうし、チラシには「他2名」のパネリストと表記されていた和歌山市在住の2人の女性も、ヨガ教室を営むM氏は「親学を学んで救われた」と述べ、マナー講座講師などを務めるY氏は「親学アドバイザーである」と自己紹介されていた。
 
DSCN1661 本企画は、和歌山市と和歌山市教育委員会の共催ではあるが、会場として新設の市立小中一貫校が使われ、開会挨拶とパネリストを市教育長が務めるなど、どちらかというと、教育委員会主導なのか?という印象を持った。
 受付や会場整理などに動員された職員は、首長部局からも来ていたのかもしれないが、どちらかというと教育委員会が主力だったようであるし、そもそも、教職員が参加者の中のかなりの割合を占めていたのではないかと(何となくであるが)推測された。
 パネルディスカッションの中で、和歌山市における子育て支援施策を説明しようとして、原教育長が「和歌山市つれもて子育て応援ブック」という冊子(首長部局である福祉局子ども未来部子育て支援課が所管)を紹介した(新年度版が出たばかりという説明だった)のは、首長部局に気を遣ってのことかと想像しながら聞いていたところ、パネリストのM氏が、にべもなく「母子手帳と一緒に貰ったが、全く役に立たない」という趣旨の発言をしたのには驚いた。これが予定した発言なら、「首長部局に喧嘩を売っているのか?」ということになるが、まさかそこまでのことはないだろうとは思う。
 ちなみに、和歌山市のホームページで、2016年版の「和歌山市つれもて子育て応援ブック」が電子ブックとして読める。
 この「つれもて子育て応援ブック」の初版が刊行された時、編集を手伝った(というより中心となって担った?)知人の女性(もちろん民間人)から苦労話を聞いたりしていた私としては、仮に「情報が多すぎて使いにくい」という不満があるにしても(私自身は子どももいないので使ったことはないが)、たまたま自分の周りの何人かが「分かりにくい」という意見であったにせよ、それをもって「ほとんどのママが読んでいない」と飛躍した発言をすることも含め、率直ではあっても誠実さの感じられない発言に、「人選を誤った」という感想を持った。
 もっとも、登壇者の肩書きや属性を一見すれば明らかなとおり、本企画は「親学」関係者だけで固めたと言っても過言ではなく、そういう意味から、とても分かりやすく、意図の明瞭な「人選」であったと言うべきである。
 ここで「親学」について蘊蓄を傾けるだけの知識の持ち合わせはないので、「親学」批判は適任者に譲るとして、ここでは、2012年4月に発足した親学推進議員連盟の初代会長が、安倍晋三氏であったことを指摘するにとどめたい。
 
DSCN1662 第1部では、高橋史朗氏(一般財団法人親学推進協会会長)が約1時間講演したが、散漫なエピソードの羅列という印象しか残っておらず、詳しいレポートを期待した方には申し訳ない次第である。
 記憶喚起のために、講演中に走り書きしたメモを読み返してみると、「レイチェル・カーソン、ノーベル賞?」という記載があった。どういう文脈であったか記憶にないが、「ノーベル賞を受賞したレイチェル・カーソン」という言及があったように思い、『沈黙の春』の著者レイチェル・カーソンがノーベル賞を受賞していたというのは初耳だが?と思って走り書きしたのだろう。もしかしたら、全く別人の名前を聞き違えたのかもしれない。
 もう1点、特に記憶しているのは、和歌山市家庭教育支援条例(資料として、「くまもと家庭教育支援条例」とともに配布されていたが、コピペ条例の元ネタをばらす、思えば正直かつ大胆な配付資料である)第5条(保護者の役割)について、「親に対する価値観の押しつけという批判があるが、決してそんなことはない」という発言が、少なくとも2回あったということである。もっとも、「価値観の押しつけでなければ何なんだ?」という疑問に対する説明はなかったと思う。
 
 この講演会の参加者が、大きな感銘を受け、「親学」に目覚めたかは疑問である。だいいち、子育て真っ最中の世代、「親学」がターゲットとする世代の参加者もいたことはいたが、多数派でなかったことは間違いない。
 けれども、問題は今後の展開である。そういう意味で私が懸念しているのは、先に引用した和歌山市家庭教育支援条例の第9条(親としての学びの支援)、第10条(親になるための学びの支援)の他に、第11条(人材の養成)「市は、家庭教育の支援を行う人材の養成に努めるとともに、家庭教育への支援に関する人材のネットワークの構築及びその拡充に努めるものとする。」である。和歌山市(教育委員会)が主催する人材養成講座の講師が「親学アドバイザー」であるという近未来が私には予想されるのだが、和歌山市民ははたしてそれを「是」とするのだろうか?



(付録)
『For a Life』 作詞:中川五郎 作曲:PANTA 演奏:中川五郎