2018年8月25日配信(予定)のメルマガ金原No.3250を転載します。
 
再掲:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか~安保法制の「しばり」とするために
 
 「国会可視化」のために、先の常会(第196回国会)における枝野幸男立憲民主党代表による安倍内閣不信任決議案の趣旨説明(2時間43分!)を、衆議院会議録をもとに7回に分載してご紹介したのを機に、3年前にも同じような「国会可視化」の試みを私のブログでやっていたことを思い出し、昨日、「再掲:志位和夫日本共産党委員長による質疑を読み解く~安保法制をめぐる3年前の国会論戦を振り返る」をお送りしたのでした。
 
 昨日振り返った志位和夫委員長による質疑は、安保法案についての審議が始まったばかりの2015年5月27日・28日の両日、衆議院・我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会において行われたものであり、法案提出からそれほど間がない時点において、その問題点、違憲性が奈辺にあるかを明瞭に国民に示したものとして、非常に価値が高いものであったと思います。
 
 残念なことに、志位和夫委員長をはじめ、野党各党による厳しい追及により、次々と法案の問題点が明らかになる中、衆議院でも参議院でも委員会採決が強行され、同年9月19日には参議院本会議を通過し、いわゆる安保法制が成立するに至りました。
 
 ところで、皆さんは、この法案が参議院・我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会で採決強行か?と言われていた9月16日、自民・公明の与党と日本を元気にする会、次世代の党、新党改革の5党が、「平和安全法制に関する合意事項」を内容とするいわゆる「5党合意」を締結し、これを踏まえ、翌17日の参議院特別委員会において「附帯決議」を付した上で安保関連2法案を可決し、9月19日未明の参議院本会議における採決によって両法案が成立したことを受け、同日、持ち回りにより、閣議決定「平和安全法制の成立を踏まえた政府の取組について」が行われた、ということをご記憶でしょうか?
  そもそも、この「5党合意」に加わった3野党は、今や全て消滅し、わずかにこの「5党合意」にその存在した証跡を遺すのみとなっているのですから、うたた感慨を覚えざるを得ません。
 
 この「5党合意」が締結され、それを踏まえて翌9月17日に参議院特別委員会で強行採決が行われた(例の「人間かまくら」と揶揄されたあれです)こともあって、私は、当初はこの「5党合意」に好意的でもなければ大した関心を寄せることもありませんでした。
 そのような私の認識を大きく変えたのは、2015年10月3日にアップされたビデオニュース・ドットコムにおける神保哲生さんと宮台真司さんの対談を視聴したことでした。
 
ビデオニュース・ドットコム
ニュース・コメンタリー(2015年10月03日)
最後の最後にとても重要な付帯決議が付いていた(29分)

(番組案内から引用開始)
 集団的自衛権の行使を可能にする安保関連法案の参院の審議が大詰めを迎える中、最終局面で法案に重要な付帯決議がつけられていた。野党による問責や不信任案などを連発したぎりぎりの抵抗が続くなかで行われた修正協議に対しては、「野党の分断工作」「強行採決と言われないための姑息な小細工」などと批判を受けたが、実際は法案の核心に関わる重要な変更点が含まれていた。
 修正協議は自民・公明の与党と、次世代の党、日本を元気にする会、新党改革の3野党の間で行われた。合意した修正内容を法案に反映させるためには再度衆議院での採決が必要となることから、今回は付帯決議として参議院で議決したものを、閣議決定することで法的効力を持たせる方法が採用された。
 3野党といっても、いずれも議員が1名から5名しかいない弱小政党であり、その多くはもともと自民党から分派した議員だったこともあり、野党陣営から見れば敵に塩を送る行為との批判は免れない面はあったが、だとしても実効性のある修正を実現したことについては、名を捨てて実を取りにいったと肯定的に評価することもできるものだった。
 具体的な付帯決議の内容としては、武力攻撃には国会の例外なき事前承認が必要とされた点や、武力行使は国会の終了決議があれば速やかに終了しなければならないこと、提供できる弾薬は拳銃、小銃、機関銃などに限ること、自衛隊の出動は攻撃を受けた国の要請を前提とすることなどが含まれた。
 自衛隊の派遣には例外なく国会の事前承認が必要になったことで、来年の参院選で与野党が逆転すれば、事実上自衛隊の派遣や武力行使ができなくなることになった。
 また、存立危機事態という抽象的な概念では、何が達成されれば武力行使を終了するかの基準が曖昧で戦闘が泥沼化する恐れがあるとの批判があったが、付帯決議で国会が武力行使の終了を決議すれば直ちに終了することが定められたことで、少なくとも一つの客観的な出口が提供された。
 弾薬提供の規定についても、国会審議では「論理的には核兵器でも提供できる」などといった暴論が飛び交ったことから、あくまで緊急の場合に兵士の身を守るための拳銃や小銃の弾薬に限定することが盛り込まれ、大量破壊兵器はもとよりクラスター爆弾や劣化ウラン弾などの戦略的な弾薬は含まれないことも明記された。
 ただし、付帯決議に集団的自衛権の行使には攻撃を受けた国からの要請が必要となることが明記されたことで、国家の存立が危ぶまれるぎりぎりの事態で最後の手段として行使されるべき集団的自衛権が、その実は他国からの要請がなければ使えないという、「存立危機事態」という概念そのものの矛盾点も露呈することとなった。
 「敵に塩を送る行為」との批判を受けながらも、ある程度実効性のある妥協や修正を引き出した今回の付帯決議をどう見るべきかを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
(引用終わり)
 
 以上の文章を読み、30分弱の対談を視聴した私は、早速、「5党合意」を読んでみました。その結果、神保さん、宮台さんの理解とは異なる解釈をすべきと考えた点も含め、多くの人にその内容を知っていただきたいと考えました。
 その結果、私がやったことは、この「5党合意」の逐条解説を書く、という大胆不敵な試みでした。
 「浅学非才」というのが謙遜でも何でもなく、全くありのままの姿ですから、そんな私の解釈に権威も何もないのは当然です。従って、私の解釈はともかくとして、1人でも多くの方がこの「5党合意」に注目していただければ、それで私の目的は達成されるのでした。もっとも、ブログへのアクセスは連載のあいだ中、ぱっとしませんでしたけどね。無理もありませんが。
 
 実際、この2015年9月16日の「5党合意」に言及した識者は、私の見聞きした範囲では、木村草太首都大学東京教授(憲法学)くらいです(2016年10月29日に木村教授が和歌山市で行った講演の中で言及されました/10月29日の冒険~『法華経』、『標的の村』、木村草太氏講演会)。
 ちなみに、上記講演で木村教授が話された「存立危機事態における防衛出動に例外なく国会の事前承認を要する」との点については、私の解釈は木村教授のそれと微妙に異なるのですけどね。
 
 それでは、以下に、「5党合意」についての私の逐条解説(資料編と総集編を含めて全10回)にリンクをはるとともに、「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」の内、とりわけ重要な「5党合意」と「閣議決定」を全文引用します(「附帯決議」はリンクのみ)。
 
(金原徹雄のブログから)
2015年10月4日
2015年10月5日
2015年10月7日
2015年10月9日
2015年10月11日
2015年10月13日
2015年10月15日
2015年10月18日
2015年10月20日
2015年10月25日
 
(資料編)
1 5党合意(2015年9月16日)
(引用開始)
                            平成二十七年九月十六日
5党は以下の三点について合意した。
一、別紙「平和安全法制に関する合意事項」を合意する
二、別紙「平和安全法制に関する合意事項」を以下の手続きで担保する
   一 政府答弁
   二 附帯決議
   (三 国会決議)
   四 閣議決定
(注)閣議決定の内容は、「この政党間合意の趣旨を尊重する」「適切に対処する」ことを明らかにするものとする
三、別紙「平和安全法制に関する合意事項」において、今後検討すべき事項については、協議会を設置した上、法的措置も含めて実現に向けて努力を行う
 
内閣総理大臣 
自由民主党 総裁
    安 倍 晋 三
公明党 代表
    山 口 那津男
日本を元気にする会 代表
    松 田 公 太
次世代の党 代表
    中 山 恭 子
新党改革 代表
    荒 井 広 幸
 
(別紙)
平和安全法制に関する合意事項  
                            平成27年9月16日  
 
・日本国憲法の下、戦後70年の平和国家の歩みは不変。これを確固たるものとする。二度と戦争の惨禍を繰り返さない。不戦の誓いを将来にわたって守り続ける。
・国連憲章その他の国際法規を遵守し、積極的な外交を通じて、平和を守る。国際社会の平和及び安全に我が国としても積極的な役割を果たす。
・防衛政策の基本方針を堅持し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならない。平和安全法制の運用には国会が十全に関与し、国会による民主的統制としての機能を果たす。
 
 このような基本的な認識の下、政府は、本法律の施行に当たり、次の事項に万全を期すべきである。
 
1 存立危機事態の認定に係る新三要件の該当性を判断するに当たっては、第一要件にいう「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」とは、「国民に我が国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況」であることに鑑み、攻撃国の意思、能力、事態の発生場所、その規模、態様、推移などの要素を総合的に考慮して、我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険など我が国に戦禍が及ぶ蓋然性、国民がこうむることとなる犠牲の深刻性、重大性などから判断することに十分留意しつつ、これを行うこと。
 さらに存立危機事態の認定は、武力攻撃を受けた国の要請又は同意があることを前提とすること。また、重要影響事態において他国を支援する場合には、当該他国の要請を前提とすること。
2 存立危機事態に該当するが、武力攻撃事態等に該当しない例外的な場合における防衛出動の国会承認については、例外なく事前承認を求めること。
 現在の安全保障環境を踏まえれば、存立危機事態に該当するような状況は、同時に武力攻撃事態等にも該当することがほとんどで、存立危機事態と武力攻撃事態等が重ならない場合は、極めて例外である。
3 平和安全法制に基づく自衛隊の活動については、国会による民主的統制を確保するものとし、重要影響事態においては、国民の生死に関わるような極めて限定的な場合を除いて、国会の事前承認を求めること。
 また、PKO派遣において、駆け付け警護を行った場合には、速やかに国会に報告すること。
4 平和安全法制に基づく自衛隊の活動について、国会がその承認をするにあたって国会がその期間を限定した場合において、当該期間を超えて引き続き活動を行おうとするときは、改めて国会の承認を求めること。
 政府が国会承認を求めるにあたっては、情報開示と丁寧な説明をすること。
 当該自衛隊の活動の終了後において、法律に定められた国会報告を行うに際し、当該活動に対する国内外、現地の評価も含めて、丁寧に説明すること。
 また、当該自衛隊の活動について、180日ごとに国会に報告を行うこと。
5 国会が自衛隊の活動の終了を決議したときには、法律に規定がある場合と同様、政府はこれを尊重し、速やかにその終了措置をとること。
6 国際平和支援法及び重要影響事態法の「実施区域」については、現地の状況を適切に考慮し、自衛隊が安全かつ円滑に活動できるよう、自衛隊の部隊等が現実に活動を行う期間について戦闘行為が発生しないと見込まれる場所を指定すること。
7 「弾薬の提供」は、緊急の必要性が極めて高い状況下にのみ想定されるものであり、拳銃、小銃、機関銃などの他国部隊の要員等の生命・身体を保護するために使用される弾薬の提供に限ること。
8 我が国が非核三原則を堅持し、NPT条約、生物兵器禁止条約、化学兵器禁止条約等を批准していることに鑑み、核兵器、生物兵器、化学兵器といった大量破壊兵器や、クラスター弾、劣化ウラン弾の輸送は行わないこと。
9 なお、平和安全法制に基づく自衛隊の活動の継続中及び活動終了後において、常時監視及び事後検証のため、適時適切に所管の委員会等で審査を行うこと。
 さらに、平和安全法制に基づく自衛隊の活動に対する常時監視及び事後検証のための国会の組織のあり方、重要影響事態及びPKO派遣の国会関与の強化については、本法成立後、各党間で検討を行い、結論を得ること。
(引用終わり) 
 
2 附帯決議(2015年9月17日)
 
3 閣議決定(2015年9月19日)
(引用開始)
平和安全法制の成立を踏まえた政府の取組について
平成27年9月19日 国家安全保障会議決定 閣議決定
1 我が国は、戦後一貫して日本国憲法の下で平和国家として歩んできた。専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を守るとの基本方針を堅持してきた。また、我が国は、国際連合憲章を遵守しながら、国際社会や国際連合を始めとする国際機関と連携し、それらの活動に積極的に寄与している。こうした我が国の平和国家としての歩みは、これをより確固たるものにしなければならない。
 我が国を取り巻く安全保障環境の変化に対応し、政府としての責務を果たすためには、まず、十分な体制をもって力強い外交を推進することにより、安定しかつ見通しがつきやすい国際環境を創出し、脅威の出現を未然に防ぐとともに、国際法にのっとって行動し、法の支配を重視することにより、紛争の平和的な解決を図らなければならない。
 その上で、いかなる事態においても国民の命と平和な暮らしを断固として守り抜くとともに、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の下、国際社会の平和と安全にこれまで以上に積極的に貢献するためには、切れ目のない対応を可能とする国内法制を整備しなければならない。
2 このような認識は、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」(平成26年7月1日閣議決定)において示されたとおりであり、政府は、同閣議決定に基づいて検討を進めた結果、我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案及び国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律案を平成27年5月14日に閣議決定し、国会に提出し審議をお願いしたところである。
3 その結果、平成27年9月16日に、自由民主党、公明党、日本を元気にする会、次世代の党及び新党改革の5党により、別添の「平和安全法制についての合意書」が合意され、同月17日、参議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会において、同合意書の内容が附帯決議として議決された上で、同月19日、参議院本会議において可決成立した。
4 政府は、本法律の施行に当たっては、上記3の5党合意の趣旨を尊重し、適切に対処するものとする。
(引用終わり)
 
 最後に、安保法制成立のどたばたの中で締結された「5党合意」について、なぜ頼まれもしないのに逐条解説などしたのかをご理解いただくために、連載の最終回として書いた総集編の中から、「おわりに~5党合意をどう活かすか」を引用したいと思います。
 「安保関連法制自体を廃止できる時がくれば、「5党合意」はその意味を失うが、それまでにあとどれだけの期間を要するのか誰にも分からない。」という状況は、その後、2016年の参議院通常選挙、2017年の衆議院総選挙を経ても一向に変わっていないどころか、次の臨時国会にも、自衛隊明記を含む改憲発議(安保法制の“合憲化”は当然の前提です)がなされるのでは?と観測される事態にまで至っています。
 既に、安保法制に基づき、南スーダン派遣の陸上自衛隊に駆付け警護等の任務が発令され、海上自衛隊には米艦防護の任務が与えられています。幸い、後方支援(協力支援)や存立危機事態下の防衛出動などの事態は起こっていませんが、「安保法制の廃止」という政治日程を具体化できるだけの政治勢力の結集が実現しない間、単に「運を天に任せる」という態度はあまりにも無責任です。「自衛隊の戦地派遣を阻止する、あるいはせめて抑制するために使える手段はどんなものでも総動員しなければならない。」という理念に賛同していただける方には、是非、この「5党合意」(及びそれを裏付けた「閣議決定」)に注目していただきたいと思います。
 
(引用開始)
3 おわりに~5党合意をどう活かすか
 参議院・我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会で、安全保障関連2法案が強行採決される前日の9月16日に、自由民主党、公明党、日本を元気にする会、次世代の党、新党改革の5党間で締結された「平和安全法制に関する合意事項」については、締結直後の冷ややかな雰囲気も過ぎ去り、いまやほとんどの国民が忘れてしまっているのではないかと思える今日この頃である。
 実際、「5党合意」でGoogle検索をかけてみても、合意直後の当事者による発信や報道を除けば、私の連載「安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか」が上位でヒットするありさまである。
 私自身、神保哲生氏と宮台真司氏によるニュース・コメンタリーを視聴して、はじめて「これはしっかり読み込まねば」と気がついた始末であるから偉そうなことは言えないが。
 もちろん、5党合意と一口に言っても、様々な内容を含んでおり、各条項の解釈にしても、必ずしも断定しかねる曖昧さを残すものも少なくない。それに、私自身、浅学非才の故に、思わぬ検討不足や勘違いをしている可能性も十分にある。従って、多くの人が「5党合意を自分はこう読んだ」という意見を次々と発表してくれることが一番良いと思っている。
 安保関連法制自体を廃止できる時がくれば、「5党合意」はその意味を失うが、それまでにあとどれだけの期間を要するのか誰にも分からない。それまでにも、生身の自衛官が危険な戦地に派遣される可能性は(法律の施行後は特に)常に存在する。そうである以上、自衛隊の戦地派遣を阻止する、あるいはせめて抑制するために使える手段はどんなものでも総動員しなければならない。私が5党合意の注釈をしつこく続けたのはそのためであった。
 このまことに中途半端と言えば中途半端な5党合意が、もしかすると将来、思わぬ効力を発揮する場面があるかもしれない(それが良いことなのかどうかは別論として)。
 最後に、この5党合意が安保法制違憲訴訟にどのような影響を及ぼすのか(あるいは及ぼさないのか)については、違憲訴訟を準備しているグループの中で既に十分に検討していることと思うが、私自身はその点についての検討はまだ手つかずであることをお断りしておく。
(引用終わり)