2020211日配信(予定)のメルマガ金原No.3444を転載します。

東京高等検察庁検事長定年延長問題について(2)~政府の解釈はこういうことだろうか?

 今日は、2月8日に配信した「東京高等検察庁検事長定年延長問題について~法律の規定は読み間違えようがない」の続編です。
 前回は、2月3日(月)の衆議院予算委員会における、渡辺周氏(国民民主党)の質問に対する森雅子法務大臣の答弁をご紹介したところですが、その後も、この問題を追及する野党議員の質問が続き、それに対する政府側(森法相)の答弁をフォローしなければと考えた次第です。
 ただ、委員会審議の議事録が公開されるまでにはある程度の時間を要するので、それまでは、動画(インターネット審議中継など)を視聴し、必要であれば自分で文字起こしすることになります。

 まず、2月4日(火)の衆議院予算委員会において、統一会派「立憲民主・国民・社保・無所属フォーラム」の本多平直議員(立憲民主党)がこの問題について質問しており、法令の解釈にかかわる部分は短いものであったため(それが物足りなくもありますが)、文字起こししたものを以下に掲載します。

衆議院インターネット審議中継
2020年2月4日 予算委員会

※5時間05分経過頃

テレ東NEWS【ノーカット】前代未聞!高検検事長の『定年延長』は安倍政権の“守護神”だから?立憲・本多議員が追及(24分13秒)
※19分53秒~
 

(本多平直委員)
これね、専門的過ぎて分かんないかもしれないですけど、この(注:「逐条 国家公務員法」のこと)解釈によるとですよ、こういう解説本が、しかし今国会図書館に確認したら今出てるのは一個だけです。法務省の皆さんも裁判の時にはこれ持って使ってますよね。これにはどう書いてうかっていうと、「本条(注:国家公務員法第81条の3)の規定により勤務延長が認められる者は、前条(注:同法第81条の2)第1項の規定により、定年で退職することとなる職員である」と書いてるんですよ。ということは、検察官、東京高検検事長は含まれないですよね。延長ができないじゃないですか。違法じゃないですか。
(森雅子法務大臣)
はい、これにつきましてはですね、検察官は一般職の国家公務員でありまして、検察庁法は特例として定年の年齢と退職時期の2点を定めております。そうしますと、今ご指摘の条文があてはまり、勤務延長について一般法たる国家公務員法の規定が適用されるものと理解されます。
(本多平直委員)
そういう風に、森雅子法務大臣のような人が法律家であることを笠に着て素人をだまさないためにこういう本(注:「逐条 国家公務員法」)があるんですよ。この本には反しているということでいいですね。あの、大臣はそれを主張してください、今後とも。この今1冊しかない解説書のさっき読み上げたところにはあてはまらんまいっていうことでいいですね。だけど大臣は、この解説書の、色々あるから、ここは間違ってると、違う解釈をとるといういことでいいですね。
(森雅子法務大臣)
ただいまご説明したとおりでございますけれども、勤務延長につきましては、一般法たる国家公務員法の規定が適用されるものでございます。他方、勤務延長について検察法上規定が設けられているかと申しますと、特段の規定が設けられておりません。これについてですね、国家公務員、今ご指摘の国家公務員法ができたあとに、検察庁法に検察庁法32(条)の2であったかと思いますが、特別にその特例である条文があげつらわれております。その中に先ほど私がご指摘いたしました22条、つまり定年とその退職時期、これが誕生日ということになっておりますが、それが特例であると書いてあって、それ以外にですね、特例であるということであればここに条文が載るはずなんでございますが、そこに書いていない勤務延長については、国家公務員法の規定を使わないということが特に記載されておりませんので、一般法の国家公務員法に戻りまして、勤務延長が適用されると理解されます。

 弁護士その他の法律家の皆さまに、法相の説明の意味が分かりますか?とお尋ねしたいですね。少なくとも私には理解不能です。

 質問者が訊いているのは、定年延長を定めた国家公務員法第81条の3第1項は、勤務延長ができるのは、「定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合」であると限定しており、検察官はそれに含まれないのだから(検察庁法で別に定年が定められている)、黒川検事長の勤務延長は違法ではないか、というものであるのに、森法相の答弁は、その点には全く答えていないのですから議論になりません。

 さらに、森法相の(というか、答弁起案官僚のというか)検察庁法第32条の2の解釈も非常に特異なものです。この条文は、「国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めた」8箇条(その中に第22条も含まれる)を列挙しているのですが、その第32条の2に「勤務延長については、国家公務員法の規定を使わないということが特に記載されておりませんので」一般法たる国家公務員法第81条の3の規定を適用して、検察官にも勤務延長ができるというのですが、この論理(?)は筋が悪過ぎます。
 この答弁を視聴した後、検察庁法(昭和二十二年四月十六日法律第六十一号)に第32条の2がいつ追加されたのか調べてみたのですが、私の手持ちの六法を見ても分からず、現在調査中です。ただ、そもそも国家公務員法に定年(第81条の2)と定年延長(第81条の3)の規定が追加されたのが昭和56年、施行日が昭和60年3月31日なので(それまで一般職国家公務員には定年すらなかった)、どう考えても検察庁法第32条の2の方が先でしょう。ですから、森法相(起案官僚)の説明は時期的な先後関係からしてもおかしいし、さらに、「特例であるということであればここに条文が載るはずなんでございますが」と言うけれど、昭和22年の検察庁法制定以来、検事総長は満65歳、その他の検察官は満63歳を定年としてきた検察官については、昭和56年の国家公務員法改正時に、同改正によって新設される定年制度(ここには定年延長も含む)は適用しないという明確な立法者意思があればこそ、わざわざ検察庁法を改正して「国家公務員法第81条の3の規定は検察官には適用しない」というような規定を設けたり、その条項を検察庁法第32条の2に追加する必要などさらさらなかったのですから、「ここ(注:検察庁法第32条の2)に条文が載るはず」などということがあるはずがありません。

 国家公務員法第81条の3を素直に文理解釈すれば、勤務延長が出来るのは、「定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合」と限定されているのですから、昭和63年3月31日に施行された前条(国家公務員法第81条の2)の規定ではなく、昭和22年5月3日の日本国憲法施行と同時に施行された検察庁法に基づいて定年退職してきた検察官に適用がないことは一読して明らかなことです。第81条の3第1項の中には、また「同項(注:国家公務員法第81条の2第1項)の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。」との規定もあり、この「同項の規定」というのは、「(原則満60年の)定年に達したときは、(略)退職する。」という規定なのですから、63歳や65歳で定年となる検察官の勤務延長など想定していないことは明白です。

(追記・2020年2月12日)
 元和歌山弁護士会会員(現大阪弁護士会)の河内茂治先生から、検察庁法第32条の2が「昭和24年5月31日法律第138号で追加されています。」とFacebookのコメント欄でお知らせいただきました。河内先生、ありがとうございました。
 早速、衆議院ホームページの「第5回国会 制定法律の一覧」を閲覧したところ、「昭和24年5月31日公布/法律第138号/検察庁法の一部を改正する法律」の本文を読むことができました。
 以下、関連部分を引用します。

(引用開始)
検察庁法(昭和二十二年法律第六十一号)の一部を次のように改正する。
(略)
附則の前に次の一条を加える。
 第三十二条の二 この法律第十五条、第十八条乃至第二十条及び第二十二条乃至第二十五条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。
(略)
附 則
1 この法律は、昭和二十四年六月一日から施行する。
(引用終わり)

 以上により、検察官の勤務延長(定年延長)問題にかかわる関連法令(条項)施行日の先後関係が分かりました。

検察庁法第22条 昭和22年5月3日(日本国憲法施行の日)
国家公務員法附則第13条 昭和23年7月1日
検察庁法第32条の2 昭和24年6月1日
国家公務員法第81条の2 昭和60年3月31日
国家公務員法第81条の3 昭和60年3月31日

 ということで、国家公務員法に定年及び定年延長についての規定が新設されかつ施行される36年も前に検察庁法第32条の2が定められていたのですから、森雅子法務大臣の本多平直議員に対する「特例であるということであればここ(注:検察庁法第32条の2)に条文が載るはずなんでございますが、そこに書いていない勤務延長」云々という説明はいくら何でも無理でしょう(この点については、2月10日に山尾志桜里議員が指摘していましたけれどね)。
(以上で追記終わり)

 と、ここまで書いてきて、政府の見解がどういうものか、うっすらと分かってきたような気がします。黒川検事長の勤務延長を「合法化」するためには、以下のようなロジックをとるしかないと思います(森法相が明確にこのように言っているという意味ではありません)。


1 国家公務員法第81条の2第1項は、原則として検察官にも適用がある。同項に「法律に別段の定めのある場合を除き」とあるのは、定年制を採用しない特殊な国家公務員についての法律の規定がある場合と解釈する。
2 従って、検察庁法第22条の定年の規定は、国家公務員法第81条の2第2項の特例という位置付けとなる。
3 検察庁法第22条は、定年(満65歳または満63歳)及び退職時期(誕生日)を定めた国家公務員法の特例である。
4 検察庁法第22条は、検察官の定年を延長できるかどうかについては何も定めていない。
5 検察官も、国家公務員法第81条の3第1項にいう「前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合」に該当するのであるから(1参照)、要件を満たすと任命権者が判断すれば勤務延長は可能である。

 どうでしょう?森法相や法務省の官僚に尋ねた訳ではありませんから、この推測が正しいかどうかは分かりませんが、このように解釈しないと、勤務延長を合法だと主張することは不可能でしょう。
 もちろん、私はこれは無理筋の解釈だと思います。
 とりわけ、1の国家公務員法第81条の2第1項「法律に別段の定めのある場合」の解釈はアクロバティック過ぎますし、3、4の検察庁法第22条の解釈は、真っ当な論理解釈に耐えないだろうと思います。

 さて、以上が、2月4日の衆議院予算委員会における本多平直議員の質問に対する森雅子法務大臣の答弁を聴いた私の感想です。
 5日、6日、7日も衆議院では予算委員会が開催されていましたが、検事長勤務延長問題を質した議員がいたかどうか確認できていません。
 そして、昨日(2月10日)の衆議院予算委員会に、この問題を追及するための真打ちがいよいよ登場しました。4年近くの検事としての勤務経験を持つ山尾志桜里議員(立憲民主党)です。
 山尾議員は、皇位継承問題に次ぐ2つ目の質問項目として検察官定年延長問題を取り上げ、質問の冒頭で「誰かを念頭に置くというよりは、私は制度の話をしたい」と断ったとおり、豊富な資料博捜の成果を踏まえつつ、理詰めで、政府による勤務延長決定の違法性を浮かび上がらせていきました。
 会議録が公開されれば是非ご紹介したいと思いますが、まだしばらく時間がかかりそうなので、それまでは、以下の衆議院インターネット審議中継をご覧ください。

衆議院インターネット審議中継
2020年2月10日 予算委員会
※山尾議員は4時間36分から登場し、検察官定年延長問題については5時間00分頃から質問が始まります。

 ただ、私も30分近い質疑の内容を文字起こしするだけの時間も気力もないため、今日のところは、この問題を報じた東京新聞の記事の中から、山尾議員の質問に関する部分を引用させていただきます。

東京新聞 2020年2月11日 朝刊
検事の定年延長「違法」? 高検検事長の人事 検察からも疑義

(抜粋引用開始)
 十日の衆院予算委員会では立憲民主党の山尾志桜里氏が、国家公務員法に定年制を導入した一九八一年の国会審議を引き合いに「違法な措置だ」と追及した。
 当時の人事院幹部が「検察官と大学教官は、(検察庁法などで)既に定年が定められている。(国家公務員法の)定年制は適用されない」と答弁しており、「今回も適用できないはずだ」と指摘。森雅子法相は「その答弁は把握していない」とし、「定年延長は、一般法の国家公務員法が適用される」と従来通りの説明を繰り返した。
(引用終わり)

 山尾議員が指摘した人事院幹部(政府委員)の答弁というのは、昭和56年(1981年)4月28日の衆議院内閣委員会における神田厚議員(民社党)からの質問に答えたもので、早速、私も調べてみました。
 山尾議員が指摘したのは多分以下の部分です。

第94回国会 衆議院 内閣委員会 第10号 昭和56年4月28日
(引用開始)
○神田厚委員 指定職の高齢化比率が非常に高いわけでありますが、五十四年現在で六十歳以上の者の占める割合は約四〇・一%。定年制の導入は当然指定職にある職員にも適用されることになるのかどうか。たとえば一般職にありましては検事総長その他の検察官、さらには教育公務員におきましては国立大学九十三大学の教員の中から何名か出ているわけでありますが、これらについてはどういうふうにお考えになりますか。
○斧誠之助政府委員(人事院事務総局任用局長) 検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております。今回の法案では、別に法律で定められておる者を除き、こういうことになっておりますので、今回の定年制は適用されないことになっております。
(引用終わり)

 よく探し出したなと感心しますが、これは、国家公務員法第81条の2第1項にいう「法律に別段の定めのある場合」の解釈として、検察庁法など、既に国家公務員法よりも前から独自の定年制を定めている法律がある場合には、「法律に別段の定めのある場合」にあたり、国家公務員法第81条の2に基づく定年制は適用されないという当たり前の解釈を、当時の立法担当者も当然の前提にしていたことの裏付けとなる資料です。
 昭和56年の国家公務員法改正時には様々な議論があったのですから、当時の資料を博捜すれば、同趣旨の資料がもっと発見できるのではないかと思います。

 山尾志桜里議員は、以上の資料なども踏まえ、もしも立法者が、検察官にも定年延長の規定を適用できると考えていたのであれば、国家公務員法第81条の3第1項は、「任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、(略)引き続いて勤務させることができる。」などとは書かず、必ず「任命権者は、定年に達した職員が退職すべきこととなる場合において、(略)引き続いて勤務させることができる。」と規定したはずという、法律家なら誰でも分かるロジックで法相を追及しています。
 さらに付言すれば、先ほど指摘したとおり、もしも立法者が、検察官にも定年延長の規定を適用できると考えていたのなら、国家公務員法第81条の3第1項に、「同項(注:国家公務員法第81条の2第1項)の規定にかかわらず」というような文言は書きこまなかったはずです。

 とりあえず、今日のところはこれまでとします。多分、(続く)ということになるだろうと思います。

(関連法令)
国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)
 (定年による退職)
第八十一条の二 職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。
〇2 前項の定年は、年齢六十年とする。ただし、次の各号に掲げる職員の定年は、当該各号に定める年齢とする。
一 病院、療養所、診療所等で人事院規則で定めるものに勤務する医師及び歯科医師 年齢六十五年
二 庁舎の監視その他の庁務及びこれに準ずる業務に従事する職員で人事院規則で定めるもの 年齢六十三年
三 前二号に掲げる職員のほか、その職務と責任に特殊性があること又は欠員の補充が困難であることにより定年を年齢六十年とすることが著しく不適当と認められる官職を占める職員で人事院規則で定めるもの 六十年を超え、六十五年を超えない範囲内で人事院規則で定める年齢
○3 前二項の規定は、臨時的職員その他の法律により任期を定めて任用される職員及び常時勤務を要しない官職を占める職員には適用しない。

 (定年による退職の特例)
第八十一条の三 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。
○2 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項の事由が引き続き存すると認められる十分な理由があるときは、人事院の承認を得て、一年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、その期限は、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して三年を超えることができない。

  附  則
第十三条 一般職に属する職員に関し、その職務と責任の特殊性に基いて、この法律の特例を要する場合においては、別に法律又は人事院規則(人事院の所掌する事項以外の事項については、政令)を以て、これを規定することができる。但し、その特例は、この法律第一条の精神に反するものであつてはならない。

検察庁法(昭和二十二年法律第六十一号)
第二十二条 検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。

第三十二条の二 この法律第十五条、第十八条乃至第二十条及び第二十二条乃至第二十五条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。