2020216日配信(予定)のメルマガ金原No.3445を転載します。

東京高等検察庁検事長定年延長問題について(3)~論点は出そろった(渡辺輝人氏、園田寿氏、海渡雄一氏の論考を読んで)

 私は、東京高等検察庁検事長定年延長問題について、このブログで過去2回、自らの考えをまとめるための(頭の整理をするための)文章を書きました。

2020年2月8日
東京高等検察庁検事長定年延長問題について~法律の規定は読み間違えようがない

2020年2月11日
東京高等検察庁検事長定年延長問題について(2)~政府の解釈はこういうことだろうか?

 そして、その後の事態の推移を踏まえ、昨日(15日)・今日(16日)の休日を利用して、以上の続きを書かねばならないかなと思っていました。
 そう考えた主な理由は以下のようなものでした。

 2月10日の衆議院予算委員会において、山尾志桜里議員(立憲民主党)が質問に立ち、一般職国家公務員に定年制度(「定年による退職の特例」としての勤務延長を含む)を導入するための国家公務員法改正案が審議されていた第94回国会(衆議院内閣委員会)において、当時の立法担当者が、既に別の法律で定年が定められている検察官には、国家公務員法改正案に定める定年制度(現在の第81条の2以下の諸規定)は適用されないということを明言していたことを明らかにしたところまでは、2月11日のブログでご紹介しました。

第94回国会 衆議院 内閣委員会 第10号 昭和56年4月28日
(引用開始)
○斧誠之助政府委員(人事院事務総局任用局長) 検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております。今回の法案では、別に法律で定められておる者を除き、こういうことになっておりますので、今回の定年制は適用されないことになっております。
(引用終わり)

 その後の「事態の推移」の中で、私が「ブログに続きを書かなければ」と思った主な「事態」は以下の2点です。

○2月12日の衆議院予算委員会における後藤祐一議員(国民民主党)の質問に対し、人事院の給与局長が、人事院として、昭和56年4月28日答弁の見解は変更していない旨答弁した。

○2月13日の衆議院本会議において、安倍晋三首相が、昭和56年当時の政府見解(検察官に国家公務員法の定年制は適用されないという)の存在を認めながら、今般、検察官に国家公務員法の規定を適用できると解釈するに至ったと答弁した。

 以上の答弁は、衆議院インターネット審議中継で確認できます。以下に、その書き起こしを掲載しますが、人事院給与局長の答弁については、後にご紹介する渡辺輝人弁護士の論考「東京高検検事長の定年延長はやはり違法」(2月14日)において、渡辺弁護士が文字起こしされたものを引用させていただき、動画を視聴しながら、一部修正を加えたものであることをお断りします。

 まず、はじめの松尾恵美子人事院給与局長の答弁です。

衆議院インターネット審議中継 2020年2月12日 (水) 予算委員会
問:過去の国会答弁の「定年制」に法81条の3の定年延長の規定が含まれるか
3時間02分30秒~
松尾恵美子人事院給与局長  お答え申し上げます。人事院といたしましては、国家公務員法に定年制を導入した際は、委員ご指摘の昭和56年4月28日の答弁の通り、検察官については、国家公務員法の勤務延長を含む定年制は検察庁法により適用除外されていると理解していたものと認識をしております。
問:現在もその解釈は変わりないか
3時間04分26秒~
松尾人事院給与局長  お答え申し上げます。先ほどご答弁した通り制定当時に際してはそういう解釈でございまして、えー、現在までも特にそれについて議論はございませんでしたので、同じ解釈を引き続いているところでございますが、他方、検察官も一般職の国家公務員でございますので、検察庁法に定められている特例以外については、一般法たる国家公務員法が適用されるという関係にございます。従いまして、国家公務員法と検察庁法の適用関係は検察庁法に定められている特例の解釈に関わることでございまして、法務省において適切に整理されるべきものというふうに考えております。
※金原注 後半の答弁で最も重要な部分、渡辺輝人弁護士の書き起こしでは「現在までもそれについて特に議論はございませんでしたので、同じ解釈を続いている訳ですが」となっていましたが、何度も聞き直した結果、「現在までも特にそれについて議論はございませんでしたので、同じ解釈を引き続いているところでございますが」と修正しました。文脈から考えると、「同じ解釈を引き継いでいる」とした方がスッキリするのですが、どうもそうは聞こえないので。

 次に、2月13日の衆議院本会議における安倍首相の答弁です。

衆議院インターネット審議中継 2020年2月13日 (木) 本会議
1時間35分18秒~
まず、幹部公務員の人事については、内閣人事局による一元管理の下、常に適材適所で行っており、内閣人事局制度を悪用し、恣意的人事を行ってきたとのご指摘は全くあたりません。検察官については、昭和56年当時、国家公務員法の定年制は検察庁法により適用除外されていると理解していたものと承知しております。他方、検察官も一般職の国家公務員であるため、今般、検察庁法に定められている特例以外については、一般法たる国家の公務員法が、国家公務員法が適用されるという関係にあり、検察官の勤務延長については、国家公務員法の規定が適用されると解釈することとしたところです。ご指摘の黒川東京高検検事長の勤務延長については、検察庁の業務遂行上の必要性につき、検察庁を所管する法務大臣からの閣議請議により閣議決定されたものであり、何ら問題はないものと考えております。
※金原注 問題の黒川検事長の勤務延長を決定したという1月31日の定例閣議については、2月16日現在、まだ首相官邸ホームページに議事録がアップされていません(いつものペースに比べて遅くないですか?)。

 当初の構想では、以上の「事態」を踏まえ、「検察官に国家公務員法を適用して定年延長することが法的に可能なのか?」という問題についての3本目の記事を書くつもりでした。
 国家公務員法上の定年制度(くどいようですが、「定年による退職の特例」としての勤務延長を含む)は検察官には適用されないという(当たり前のというか、それ以外に解釈のしようがない)解釈を人事院がとり続けている中で、一内閣が閣議決定において、「検察官の勤務延長については、国家公務員法の規定が適用されると解釈することとしたところです。」って「一体何なんだ、これは」ということを書かねばと思ったのですが、それを書いたところで、ボヤキか鬱憤晴らしにしかならない可能性が高いなという懸念もありました。

 そう考えていた14日から15日にかけて、よくぞ書いてくださったという論考が3本、あいついでネット上に出現しましたので、これらの論考を1人でも多くの方に読んでもらえるように「拡散」に務めることが大事と思い至りました。
 その3本の論考というのは以下のとおりです。

2020年2月14日(金)12:04
渡辺輝人氏(弁護士)「東京高検検事長の定年延長はやはり違法」

2020年2月15日(土)10:26
園田寿氏(甲南大学法科大学院教授、弁護士)「検事長定年延長問題は、なぜこんなにも紛糾しているのか」

2025年2月15日(土)11:21
海渡雄一氏(弁護士)「法務大臣と検事総長が持たなければならない緊張関係 伊藤栄樹「新版逐条解説検察庁法」を読む」(Facebook)
2025年2月16日(日)7:54
上記投稿の再アップ(Facebook)

 渡辺輝人(わたなべ・てるひと)弁護士の論考は、以下の5つの項目につき、帝国議会や国会における会議録など、立法者意思を知るための基礎資料を豊富に引用し、安倍政権による解釈が「非」であり、黒川検事長の定年延長を行った閣議決定は違法はであることを論理的に立証したものであり、現時点での「決定版」だと思います。

(「東京高検検事長の定年延長はやはり違法」の構成)
1 検察庁法の退官(定年)の規定は例外的延長制度を置かない趣旨
2 国家公務員法と検察庁法の特例の関係
3 検察官には国家公務員法の定年制度は適用されないこと
4 今国会で示された「解釈の変更」
5 安倍政権による「解釈の変更」は成り立たない

 渡辺弁護士は、論考の末尾において、国家公務員法第1条の規定を引用しながら以下のように述べておられます。


(引用開始)
 国家公務員法1条3項は「何人も、故意に、この法律又はこの法律に基づく命令に違反し、又は違反を企て若しくは共謀してはならない。又、何人も、故意に、この法律又はこの法律に基づく命令の施行に関し、虚偽行為をなし、若しくはなそうと企て、又はその施行を妨げてはならない。」と明記しています。内閣が法律違反をする行為はそもそも許されませんが、憲法15条1項の「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」、2項の「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。」という規定に由来する国家公務員法を内閣が勝手に解釈変更することは、なおさら許されないでしょう。
(引用終わり)

 次に、園田寿(そのだ・ひさし)教授の論考は、「検事長の定年延長問題が紛糾しています。この混乱の背景にはさまざまな問題がありますが、ここでは法の解釈運用という技術的な観点から問題を整理したいと思います。」という意図をもって執筆されたものであり、とりわけ、、法解釈の技術として最も重要な「後法優先原理」と「特別法優先原理」が分かりやすく解説されていますので、前記渡辺弁護士の論考と併せ読めば、一層理解が進むものと思います。
 なお、園田教授は、その論考の末尾で以下のように述べられています。

(引用開始)
 報道によると、事前に「内閣法制局、人事院とも相談し異論はないとの回答を得ている」とのことですが、正直言って驚きを禁じえません。このような極めて軽い、説得性のかけらもない理由で、閣議決定によって数十年の法的安定性を覆すことができるということに、日本という国が足元からグラグラと揺れるような恐怖を感じました。
(引用終わり)

 3つめの海渡雄一(かいど・ゆういち)弁護士の論考は、前二者とは趣を異にし、法務大臣による検事総長に対する指揮権の問題にフォーカスし、検察官のトップたる検事総長に求められる資質を、元検事総長であった伊藤栄樹氏(19251988)の著書『新版 逐条解説 検察庁法』(良書普及会)を読み解くことによって明らかにしようとしたものです。
 伊藤氏が検事総長に在任中の昭和61年(1986年)に刊行された新版(これが最後の版となった)において、法務大臣による指揮権発動についてどのように書いているか、誰しも興味深いものだと思います。海渡弁護士の文章からの孫引きですが、引用してみます。

(引用開始)
 本書旧版において、わたくしは、「しかし、このような事実上の措置にもかかわらず、不幸にして、終局的に相互の意見の対立をみた場合においては、検事総長のとるべき態度として、(1)不服ながらも法務大臣の指揮に従うか、(2)指揮に従わず、自らこれに反する取扱いをし、または、部下検察官に対して法務大臣の指揮に反する指揮をするか、(3)官職を辞するか、の三つが考えられる。(1)の態度をとる場合、ことがらの性質上、国民の前に、法務大臣の指揮を不当と考えるゆえんを発表して、検察の態度を明らかにすることは、許されるものと考える。また、(2)の態度をとる場合、法務大臣は、検事総長の任免権者である内閣に対してその懲戒を申し出て、内閣が懲戒権を行使することとなろう(国家公務員法第八二条)が、もし、検事総長がその懲戒を不服とすれば、国家公務員法所定の公開の口頭審理の手続(同法第九一条)等が行なわれることとなろう。これを要するに、検事総長が(1)(2)(3)いずれの態度をとったとしても、ことは、当然政治問題化し、国民の批判にさらされることとなろう。」と述べた。検事総長の対処ぶりとして考えられるのは、こんなところであろう。
(引用終わり)

※参考条文
検察庁法(昭和二十二年法律第六十一号)
第十四条 法務大臣は、第四条及び第六条に規定する検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督することができる。但し、個々の事件の取調又は処分については、検事総長のみを指揮することができる。

 以上の伊藤栄樹元検事総長の見解などを踏まえ、海渡弁護士が論考の「まとめ」として主張された部分をご紹介しましょう。

(引用開始)
 伊藤氏が、半生をかけて考え抜いた、法務大臣と検事総長の関係について、みてきた。結局のところ、検察の独立性を守るのは最終的には指揮権発動を受ける可能性のある検事総長の識見、人物、独立不羈の精神に帰着することがわかった。だからこそ、検察組織は検事総長に清廉で権力に阿らない人材を配し、政治権力による検察権に対する不当な介入の防波堤を築こうとしてきた。そして、歴代自民党政権も、検事総長人事は聖域として、前任の検事総長の推薦をそのまま受け容れてきたのである。
 森法務大臣と内閣によって任期を延長してもらい、異例な形で検事総長になることが想定されている黒川検事長と森法務大臣あるいは官邸の間には、検察庁法が想定していたような厳しい緊張関係がないことは明らかだ。黒川氏が検事総長に任命されることは検察組織の独立性の根幹を脅かす危機をもたらすだろう。そして、それは政治権力にある者がどんな違法を繰り返しても、裁かれることのない法体制を招いてしまう。なんとしても、そのような事態は食い止めなければならない。
(引用終わり)

 以上、一昨日及び昨日公表された3つの論考をご紹介しました。法律の解釈という、法律家ならざる一般市民にとって、「縁遠い」とか「難しい」と思われるテーマについて書かれたものであり、分かりにくい点もあるかと思いますが、是非辛抱して読み通していただきたいと思います。
 3つの論考は全て筋の通った論理的な文章ですから、理解できないはずはありません。

 そして、読み通していただければ、3人の執筆者の皆さんの、「これ(政府による違法な措置)を黙視はできない」「許してはならない」という法律家としての使命感をひしひしと感じていただけると確信します。
 ご一読の上、是非周りの方にも広めてくださるよう、切にお願いします。


(関連法令)
国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)
 (定年による退職)
第八十一条の二 職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。
〇2 前項の定年は、年齢六十年とする。ただし、次の各号に掲げる職員の定年は、当該各号に定める年齢とする。

一 病院、療養所、診療所等で人事院規則で定めるものに勤務する医師及び歯科医師 年齢六十五年

二 庁舎の監視その他の庁務及びこれに準ずる業務に従事する職員で人事院規則で定めるもの 年齢六十三年

三 前二号に掲げる職員のほか、その職務と責任に特殊性があること又は欠員の補充が困難であることにより定年を年齢六十年とすることが著しく不適当と認められる官職を占める職員で人事院規則で定めるもの 六十年を超え、六十五年を超えない範囲内で人事院規則で定める年齢
○3 前二項の規定は、臨時的職員その他の法律により任期を定めて任用される職員及び常時勤務を要しない官職を占める職員には適用しない。

 (定年による退職の特例)
第八十一条の三 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。
○2 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項の事由が引き続き存すると認められる十分な理由があるときは、人事院の承認を得て、一年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、その期限は、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して三年を超えることができない。

  附  則
第十三条 一般職に属する職員に関し、その職務と責任の特殊性に基いて、この法律の特例を要する場合においては、別に法律又は人事院規則(人事院の所掌する事項以外の事項については、政令)を以て、これを規定することができる。但し、その特例は、この法律第一条の精神に反するものであつてはならない。

検察庁法(昭和二十二年法律第六十一号)
第二十二条 検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。

第三十二条の二 この法律第十五条、第十八条乃至第二十条及び第二十二条乃至第二十五条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。