2006年04月

2006年04月25日

タンピーニャ

えらく長い間、更新していませんでした。

PTの連邦区知事立候補者がついに決定。
去年から今週まで、同じPT党から数人が候補者として乱立する状況を避けるために調整が続けられていた。一人、また一人と降りていき、最終的に一人の女性候補者Arlete Sampaioに。ただ、PTと連帯しているPCdoB党からも現スポーツ省大臣が立候補するため、票が割れるのではないかと心配されている。
どちらかが折れて、副知事として組めば問題ないのだが。



市場はいつもどおり騒々しくも平穏。

先週、一人の男が市場に放火しようとしたことで現行犯逮捕された。
前回の火事で燃えた部分とは反対側にガソリンを撒いているところを目撃された。
男は前回の火事との関連は語っていない。うわさによると、彼はバス停を中心に活動する詐欺師グループの一人。仲間が市場の警備員と喧嘩したことがあり、その腹いせに市場の放火を行おうとしたらしい。

彼らは、タンピーニャと呼ばれる詐欺師である。
要するに簡単な賭け事をやるグループで、主にバス停でバスを待っている人たちを標的に詐欺を行う。
手口は古典的だ。
メインの男が、数個の駒(ペットボトルの蓋など)と不透明のコップを置いた30センチ四方の板を手にカモを探す。で、カモの側で「ほら、ちょっとご覧よ」といいながら鮮やかな手つきで駒を動かす。そしてコップで駒を隠しコップの中に何個駒があるか、もしくはどのコップの中に駒があるかを当てさせる。
カモがなんとなく興味を示したところで別の男がやってくる。
「面白そうじゃないか。ちょっとなら賭けるよ」
メインの男とこの男、もちろん仲間である。
当然のこと、賭けにきた男が勝ち、お金をもうける。男は「おー!勝っちゃったよ!」といいながら周囲の注意を引く。そうして何度も勝っている様子をみて、カモは「なんだ簡単じゃないか」と思い、賭けに乗る。
しばらくはカモが勝つが、どんっとお金を賭けたところで最後に負ける仕組みになっている。

さすがは詐欺師。
非常に口が上手く、カモがお金がなくなれば銀行にまで付いていってお金を下ろさせるらしい。「若い女の子がタンピーニャと腕を組んで銀行に連れて行かれるのを見たわ」と市場の露店主は語る。「テレビや新聞で何度か特集があったのに、それでも引っかかる人はいるもんだ」。

注意してみていると、街の大通りにあるバス停でブラブラしている数人の男がいる。バス停にいる人は普通、バスが来る方向を見ながらそれぞれのバスの行き先を読み取ろうとしている。その人びとに紛れ、ゆっくりと歩き回りながら人々の様子を観察しているのが、タンピーニャたち。
もちろん詐欺なので取締りの対象にはなるはずだが、以前、市場で働く友人が、タンピーニャが警察に10レアル(500円)を渡しているのを目撃。
ため息をつきながらいった。
「10レアルだよ、10レアル。この国では警察までもが安売り中だ。」

wakanalivedoor at 09:38|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2006年04月07日

路上からの脱出

市場で開店準備も終え、ひと段落ついた頃。
友人に勧められた新聞記事の見出しをみて、ノエミアは息をのんだ。
しばらく黙って目を通した後、「鳥肌が立ったわ」と目を潤ませていった。

Jornal de Brasilia紙の一面に紹介されたその記事は、市場の多くの人の関心を引いた。

「路上生活の青年、ブラジリア連邦大学に受かる」

ブラジリア連邦大学(UnB)はサンパウロ大学と並んでブラジルで有数の大学で、日本でいえば東大や京大にあたる。優秀な教授陣を抱えているだけでなく、ブラジルでは国公立大は学費が無料なため、競争率も高い。
道行く車の後部に、「UnB出身」と書かれたシールが貼られているのをよく目にするほど、UnBに在籍していること、卒業することは一種の誇りとなっている。

そのUnBに、路上生活者が合格した。

彼、SRF(頭文字)は27歳。プラノピロット(ブラジリア中心部)の路上で生活しており、これまでの職業はホットドッグ売り、洗車、駐車場での見張りなど。どれも正式雇用の職ではない。

彼はミナスジェライス州で生まれ、二人の兄弟がいた。
父親は知らない。母親からは虐待を受け、熱湯をかけられそうになったことがあるという。そうして虐待の通報をうけた行政に保護される。その後、兄弟は孤児院に残るがSRFはリオデジャネイロに新しい里親とともに引っ越していく。
が、そこでも養母が暴力を振るい始め、彼は逃げ出した。

12歳でドラッグ売買の下っ端として働き、一度は母親の元に戻るが、母親の夫と上手く行かずブラジリアに19歳でやってきた。

職もなく家もない生活。
それでも彼は自分が働き者であることを誇りに思っている。
「ずっと働いてきた。物を乞うたことはない。」

路上生活を続けながら、彼は中等教育を修了する。

そしてある日、道端で当時の教育大臣であるCBに出会う。
彼はこの出会いを無駄にしなかった。
「UnBに入りたいから支援をしてほしい、と彼に頼んだ。CBは“自分の娘もUnBには受からなかった。予備校に行きなさい。奨学金はなんとか工面してあげるから”と言ってくれた」

予備校に一年半通った後、三度目の挑戦で彼は自分の名を合格者リストにみつける。

彼はいう。
「UnBに通るのはそう難しくはないよ。ここには大学がたくさんあるから、皆、UnBを諦めてしまう。他よりちょっと多く努力をすれば受かる。僕にとっては、合格するか、路上生活者を続けるか、の二者択一だった。自分の人生を変える、ほぼ唯一のチャンスが今だったんだ。」

今の彼の夢はUnBの学生寮(超割安の家賃)にはいること。現在、議員をしているCBは彼に特別な配慮をするよう、大学に求めている。
予備校に通う間、そして現在も彼は勉強道具をマンホールの中に収納している。
「僕がとても悲しくなるのは、ゴキブリと共有しているこの湿気の多い空間で、勉強道具がネズミにかじられてしまうことだ。」

彼の挑戦は実を結んだ。
すでに学生寮に入居する見込みもあり、TAの仕事も確約されている。

念願の路上生活脱出を実現する日は、もう目の前に迫っている。


wakanalivedoor at 09:23|PermalinkComments(1)TrackBack(0)

2006年04月06日

放火で燃える生活

3月30日深夜、調査地の市場で火事が起こりました。
たまたま通りがかった知り合いの電話でそれを知り、すぐに市場へ。
消防車は着ていたものの、まだ放水も始まっていません。

市場では、鉄枠の露店をビニールシートやシャッターで締めて中に商品を置きっぱなしにしています。
燃えやすいものが山のようにある市場で火は燃え広がっていきました。
火事を知り駆けつけた露店主のなかには、泣き崩れる人も。
「全部、全部燃えてる。全部灰になっている。」と叫びながら座り込む女性。あまりの壮絶さに私と一緒にいった元市場労働者も体を震わしながら立ちすくんでいました。

この不法市場はもともと設備が整っていない場所にあるため、鎮火には4時間かかり、その一帯にあった約300の露店のうち147露店が灰となりました。
朝になって初めて火事を知った人々もいて、露店が灰になっているのを見て状況を把握した人のショックは計り知れません。
商売人は常に借金を背負っています。買ったばかりの商品が燃えるなどし、50万から60万円相当、もしくはそれ以上の損害を各露店が背負うことになりました。

私の調査している露店は火事現場から道を挟んだところにあるため、被害は受けませんでした。が、狭い市場のこと。顔見知りも多く、明日はわが身という気持ちから翌日の市場には涙があふれています。何よりも、燃えなかった露店も盗難の被害にあったことに腹立たしさを覚えます。火事という状況を利用して商品の盗難が多発したのです。

火事の原因は放火といわれ、噂の域を出ないいろいろな説が飛び交っています。

市場関係者以外からは市場の撤去を支持する声も出始めました。もともと不法占拠の市場だけに、行政などからの支援も得られにくく、今後の再建は非常に困難です。
約150露店ということは、それぞれに2人程度の売り子がいたとして相当数の失業者を生むことになり、また、彼らに弁当や軽食を売って生計を立てていた人にも打撃を与えます。

火事から一週間。
燃えた部分の市場の復興が始まりました。
燃え残った数点の商品を広い露店に並べている人や、燃えて茶色くなった鉄枠をペンキで塗りなおしている店、それを眺めながら完全になくなってしまった露店跡地にたたずむ人など。
足を止めればすぐに生計が成り立たなくなる人々。
すでに市場は動き出しつつあります。

wakanalivedoor at 21:30|PermalinkComments(0)TrackBack(0)