ボクには今年自称54歳になる女性の親友がいる。
彼女の名は『ガースー』
レモンハイをこよなく愛するおばちゃんだ。
ボクはよくガースーと酒を飲みに行く。
とある駅のガード下、そこがガースーのオアシスだ。
先日ガースーと、その店に飲みに行った。
例に違わずレモンハイを飲みまくるガースー。
『今日のレモンハイは、わんぱくね!活きがいいわ!』
レモンハイに対する独自の理論は相変わらずわからない。
しばらくバカ話をしながらガースーと飲んでいると、カウンターの一番奥に一人で座っていた男性のお客さんが立ち上がり
『すいません、トイレどこ?』と店員さんに尋ねた。
声が小さかったのか、忙しく気が付かなかったのか、店員さんから何も応答はない。
それを目にしてしまったのが、ガースー。
お節介の血が騒いでしまい
ガースー『トイレはね、ほらあそこよ!その奥のあそこよ!』
お客さん『えっ、何処ですか?』
ガースー『今言ったばかりじゃないの、ちゃんと聞いてなさいよ!あそこの奥よ!』
お客さん『えっと…まっすぐ行って突き当たりですか?』
ガースー『あんたバカじゃないの?』
お客さん『え…!?』
ガースー『ほらあそこにハゲた男が座ってるでしょ!あのハゲた男の先。』
お客さん『…!?』
ガースー『あんた本当にカンガ鈍いわね。毛細血管詰まってんじゃないの。あそこにハゲがいるでしょ!あのハゲよ!てっぺんにちょぼちょぼしか髪が残ってない、ハゲた男!』
お客さん『…はぁ。』
ガースー『ほら、あそこよ!あそこ!ハゲた男!』
ガースーはその男性を指差した。
その男性はこちらを見た。
何故かボクが目があってしまった。
お客さん『…』
ガースー『あんたそれも何処だかわからないの?集中力切れてんじゃない。緊張感持ちなさいよ!』
リラックスするために居酒屋に飲みに来て、集中力なんていらないでしょ。
ガースー『ハゲた男はあのテーブル、あのカツラの男の隣のテーブルよ!』
お客さん『…』
きっちり七対三に分け目を作っている男性の肩がビクッと動いた。
店内は変な空気になり、トイレの場所を聞いたお客さんはトイレにも行かず、お会計をして帰っていった。
そしてハゲた男性ときっちり七対三に分けた人も店を出ていった。
ボクはお店に申し訳なくなり、ガースーに説教をはじめた。
ボク『何であんな事言うんだよ。』
ガースー『アタシはトイレの場所教えてあげただけよ。ただの親心よ。』
…親心?
ボク『親切で言うのはいいけどさ、人を指差してハゲとか言うのはまずいだろ!』
ガースー『事実じゃないのよ!ハゲに向かって髪の毛フサフサですね、なんて言ったらイヤミじゃないの!もっと気悪くするわよ!』ボク『そういう事じゃねーよ!人としてそういう事いうのは間違ってんだよ!』
ガースー『間違っちゃいないわよ!もし、アタシがトイレ教えてあげなかったら、あの人ここでオシッコ漏らしてたわよ!こんなところで漏らしちゃう方が、人として間違えてるじゃない。』
ボク『そんな事聞いてんじゃねーんだよ。話、誤魔化すなよ!』
ガースー『誤魔化してんのはカツラの男よ!』
ボク『…。』
その後、僕らはしばらく言い合いになってしまった。
ボク『ガースーお前いい加減にしろよ、この野郎!』
すると、その店のママが止めに入ってきた。
ママ『もうやめなさいよー!うちはいいからさ、あのお客さんもそんなに気にしてないわよ!』
ガースー『そうよね!あんなんで気にしないわよ!』
…お前が言うな。
ママ『わくちゃん、だいたいねあなた、言葉遣い悪いわよ!年上に対して、お前とか、この野郎なんて言葉はダメでしょ。』
ボクは普段、目上の方には敬語を使うがガースーだけにはこんな言葉遣いになってしまう。
ママ『私はお客さまに対してはもちろん、目上の方に対しての話し方には細心の注意を払っているわよ』
ガースー『ママは偉いわね!』
ママ『もう今日はお店終わりなんだけど、もう一杯ずつ飲んでいって。これは私のおごりよ!』
ガースー『さすがママ!わかってるわね!』
ママはサービスのつもりでレモンハイを出してくれたのだろうが、この『おごり』という言葉がガースーを増長させてしまった。
ガースーはおいしそうにレモンハイを喉に流し込んだ。
ガースー『ぷはぁー五臓六腑にイカスわね!』
レモンハイのグラスには溶けかけの氷だけが残った。
ガースー『ママー!まだ終電まで時間あるからさ、もう一杯だけご馳走してくれない?』
ママ『えっ?…ええ。じゃあ、あと一杯だけご馳走するわ!』
ガースー『ありがとう!これ飲んだら帰るわ!』
ガースーはレモンハイを吸い込むように飲み干した。
ガースー『この店のレモンハイはレモンハイを超えてるわね!もうレモンハイと言うより、あれね!…あれよ!ほら…ね。うん…ハイリキよりいいわ!』
…何が言いたいのかさっぱりわからない。
ガースーは空っぽになったグラスをママに差出し
『ママー!終電まであと少しだけ時間あるから、あと一杯だけご馳走してくれない?』
ママ『…』
ガースー『あと一杯だけ。ね!これで帰るから!ねっ!』
ママ『…じゃあ、これで最後ね。お願いしますよ。』
ガースー『わかってるわよ!別にワタシも飲みたいから言ってんじゃないのよ!終電まで時間あるから仕方ないのよ!』
…終電まで10分もない。
ガースーはレモンハイをあっと言う間に飲んでしまった。
そして空になったグラスをじっと見つめて、グラスの中の氷を一つ口に含みバリバリと噛み砕いた。
ボク『ガースー、もう終電の時間だよ!』
ガースーは席を立ち上がった。
ガースー『ママ、ワタシ決めたわ!今日タクシーで帰る!』
ママ『えっ!?』
ガースー『だからさ!もう一杯ご馳走になるわ!ね!一杯も二杯も一緒よね!あとお新香と塩辛とホタルイカとか、ちょっとした物もお願いね。アタシ、タクシーで帰るからさ、タクシー代は自分で払うんだけどさ、焼き鳥の二、三本お土産で焼いてくれない?あっ、それはもちろんご馳走になるからさ!ヨロシク〜〜〜〜!』
ママ『…オマエいい加減にしろよ!』
やっぱりこうなった。
本当にガースーはしょうがない。
でも憎めない、それがガースー。
彼女の名は『ガースー』
レモンハイをこよなく愛するおばちゃんだ。
ボクはよくガースーと酒を飲みに行く。
とある駅のガード下、そこがガースーのオアシスだ。
先日ガースーと、その店に飲みに行った。
例に違わずレモンハイを飲みまくるガースー。
『今日のレモンハイは、わんぱくね!活きがいいわ!』
レモンハイに対する独自の理論は相変わらずわからない。
しばらくバカ話をしながらガースーと飲んでいると、カウンターの一番奥に一人で座っていた男性のお客さんが立ち上がり
『すいません、トイレどこ?』と店員さんに尋ねた。
声が小さかったのか、忙しく気が付かなかったのか、店員さんから何も応答はない。
それを目にしてしまったのが、ガースー。
お節介の血が騒いでしまい
ガースー『トイレはね、ほらあそこよ!その奥のあそこよ!』
お客さん『えっ、何処ですか?』
ガースー『今言ったばかりじゃないの、ちゃんと聞いてなさいよ!あそこの奥よ!』
お客さん『えっと…まっすぐ行って突き当たりですか?』
ガースー『あんたバカじゃないの?』
お客さん『え…!?』
ガースー『ほらあそこにハゲた男が座ってるでしょ!あのハゲた男の先。』
お客さん『…!?』
ガースー『あんた本当にカンガ鈍いわね。毛細血管詰まってんじゃないの。あそこにハゲがいるでしょ!あのハゲよ!てっぺんにちょぼちょぼしか髪が残ってない、ハゲた男!』
お客さん『…はぁ。』
ガースー『ほら、あそこよ!あそこ!ハゲた男!』
ガースーはその男性を指差した。
その男性はこちらを見た。
何故かボクが目があってしまった。
お客さん『…』
ガースー『あんたそれも何処だかわからないの?集中力切れてんじゃない。緊張感持ちなさいよ!』
リラックスするために居酒屋に飲みに来て、集中力なんていらないでしょ。
ガースー『ハゲた男はあのテーブル、あのカツラの男の隣のテーブルよ!』
お客さん『…』
きっちり七対三に分け目を作っている男性の肩がビクッと動いた。
店内は変な空気になり、トイレの場所を聞いたお客さんはトイレにも行かず、お会計をして帰っていった。
そしてハゲた男性ときっちり七対三に分けた人も店を出ていった。
ボクはお店に申し訳なくなり、ガースーに説教をはじめた。
ボク『何であんな事言うんだよ。』
ガースー『アタシはトイレの場所教えてあげただけよ。ただの親心よ。』
…親心?
ボク『親切で言うのはいいけどさ、人を指差してハゲとか言うのはまずいだろ!』
ガースー『事実じゃないのよ!ハゲに向かって髪の毛フサフサですね、なんて言ったらイヤミじゃないの!もっと気悪くするわよ!』ボク『そういう事じゃねーよ!人としてそういう事いうのは間違ってんだよ!』
ガースー『間違っちゃいないわよ!もし、アタシがトイレ教えてあげなかったら、あの人ここでオシッコ漏らしてたわよ!こんなところで漏らしちゃう方が、人として間違えてるじゃない。』
ボク『そんな事聞いてんじゃねーんだよ。話、誤魔化すなよ!』
ガースー『誤魔化してんのはカツラの男よ!』
ボク『…。』
その後、僕らはしばらく言い合いになってしまった。
ボク『ガースーお前いい加減にしろよ、この野郎!』
すると、その店のママが止めに入ってきた。
ママ『もうやめなさいよー!うちはいいからさ、あのお客さんもそんなに気にしてないわよ!』
ガースー『そうよね!あんなんで気にしないわよ!』
…お前が言うな。
ママ『わくちゃん、だいたいねあなた、言葉遣い悪いわよ!年上に対して、お前とか、この野郎なんて言葉はダメでしょ。』
ボクは普段、目上の方には敬語を使うがガースーだけにはこんな言葉遣いになってしまう。
ママ『私はお客さまに対してはもちろん、目上の方に対しての話し方には細心の注意を払っているわよ』
ガースー『ママは偉いわね!』
ママ『もう今日はお店終わりなんだけど、もう一杯ずつ飲んでいって。これは私のおごりよ!』
ガースー『さすがママ!わかってるわね!』
ママはサービスのつもりでレモンハイを出してくれたのだろうが、この『おごり』という言葉がガースーを増長させてしまった。
ガースーはおいしそうにレモンハイを喉に流し込んだ。
ガースー『ぷはぁー五臓六腑にイカスわね!』
レモンハイのグラスには溶けかけの氷だけが残った。
ガースー『ママー!まだ終電まで時間あるからさ、もう一杯だけご馳走してくれない?』
ママ『えっ?…ええ。じゃあ、あと一杯だけご馳走するわ!』
ガースー『ありがとう!これ飲んだら帰るわ!』
ガースーはレモンハイを吸い込むように飲み干した。
ガースー『この店のレモンハイはレモンハイを超えてるわね!もうレモンハイと言うより、あれね!…あれよ!ほら…ね。うん…ハイリキよりいいわ!』
…何が言いたいのかさっぱりわからない。
ガースーは空っぽになったグラスをママに差出し
『ママー!終電まであと少しだけ時間あるから、あと一杯だけご馳走してくれない?』
ママ『…』
ガースー『あと一杯だけ。ね!これで帰るから!ねっ!』
ママ『…じゃあ、これで最後ね。お願いしますよ。』
ガースー『わかってるわよ!別にワタシも飲みたいから言ってんじゃないのよ!終電まで時間あるから仕方ないのよ!』
…終電まで10分もない。
ガースーはレモンハイをあっと言う間に飲んでしまった。
そして空になったグラスをじっと見つめて、グラスの中の氷を一つ口に含みバリバリと噛み砕いた。
ボク『ガースー、もう終電の時間だよ!』
ガースーは席を立ち上がった。
ガースー『ママ、ワタシ決めたわ!今日タクシーで帰る!』
ママ『えっ!?』
ガースー『だからさ!もう一杯ご馳走になるわ!ね!一杯も二杯も一緒よね!あとお新香と塩辛とホタルイカとか、ちょっとした物もお願いね。アタシ、タクシーで帰るからさ、タクシー代は自分で払うんだけどさ、焼き鳥の二、三本お土産で焼いてくれない?あっ、それはもちろんご馳走になるからさ!ヨロシク〜〜〜〜!』
ママ『…オマエいい加減にしろよ!』
やっぱりこうなった。
本当にガースーはしょうがない。
でも憎めない、それがガースー。