例の占い師の所に行って来た。
怪しいニオイがプンプンしたが、逆にそのニオイに惹かれてしまった。

電話をかけると『北千住のミニストップの前』と待ち合わせ場所を指定された。
『私ははがきを持って待っています!』

時間ちょうどに着くと、女性がはがきを遺影のようにしっかりと持っていた。
女『運勢診断の方ですね?案内させて頂きますね〜』
とあるマンションに連れて行かれた。

その占いの店の看板がない。
というか、占いをやっている事すら感じさせない普通のマンションだ。
僕『看板ないんですね?』
女『....』
僕『あの〜看板ないんですね?』
女『....ありますよ!』
僕『どこにあるんですか?』
女『....こちらの部屋になります。入って少々お待ちください。』
結局看板の事については一切応えてくれなかった。
....怪しい。

しばらくすると、男の人が入って来た。
僕の部屋に来て占いをした『後藤』という男性だ。

後藤『いやーやっぱり来ましたか!?今人生の分岐点で一番大事な時期ですからねー!』
後藤という男は僕の目の前の席には座らず、僕の隣に座った。
後藤『あなたはとても運がいいんですね〜今日は僕もとてもお世話になっている凄い先生に運勢を見て貰える事になったんですよ。いつもは忙しくて絶対に見てもらえないんですが、あなたが人生の分岐点という事でわざわざ時間をつくって下さったんですよ〜運勢がいい方向に向かって来てますね〜』
僕『はぁ〜。ありがとうございます。』

部屋の中に変な曲が流れはじめた。
ヒーリングミュージックの様な、クラシックの様な...しかし気持ちの悪い音だ。
この音で洗脳するつもりかもしれない。
...怪しい。

ドアが開いて30代後半位の女性があらわれた。
結構な美人さん。
後藤『先生今日はありがとうございます!』
先生『人生の分岐点ですから、運勢を良くしていい方向に進んで行きましょう!』
先生は僕に手を差し出し握手を求めて来た。
先生『よろしくお願いします!わきぞうさん!』

いきなり名前を間違えられた。
...これは怪しい。

先生はまず運勢について説明を始めた。
先生『運勢というものは変わりやすいものです』
『はぁ』と僕は軽くうなずいた。
先生『だからと言ってビクビク怖がる必要もないんです』
『ホ〜なるほど!へぇ〜!』と後藤は深く感心していた。
(お前も先生と呼ばれてるんだからこれ位知ってるだろ!?)

「(コンコン)失礼します!」
先ほど案内してくれた女性がお茶を持って入って来た。
僕の前に日本茶が入った湯のみが置かれた。
まさかこのお茶を飲んだら意識が朦朧としてくるんじゃ!?
...怪しい。

そのお茶を後藤と先生が口を付けるのを見てからこちらも動こうと思ったが、一向に口を付ける気配がない。
やっと後藤がゴクゴクと飲みはじめた。
...と思ったら、お茶の入った湯のみはそのまんまだ。
後藤は自分の鞄からお茶のペットボトルを取り出して飲んでいる。
何故湯のみに入ったお茶は飲まない!?
....やっぱり怪しい。

その後、先生の運勢に関する話が続いた。
その度に『ホ〜!!へぇ〜!!』とうるさい後藤。
そして僕の名前診断へと進んでいく。

先生『とてもいい画数ですよ!今までとても苦労されたんですね〜!』
これはお決まりの台詞なのだろうか?
先生『ただ今後は、もっと苦労されるかもしれません。画数から見ると親子関係に難がありますね!ご両親と仲が悪いんじゃないですか?』
僕『いや、特にそういう事はありません。』
先生『ご両親とは会話はありますか?』
僕『はい。』
先生『本音で喋ってますか?』
僕『...言いたい事は言ってます。』
先生『悩み事は話しますか?』
僕『いや、そんなには話しませんよ。』
先生『それだ!!もうあなたとご両親の仲は崩壊してますね!』

質問をたくさんすればいずれ『NO』という答えもあるでしょ?
それで仲は崩壊って安易すぎない?

先生はその後これからの生き方のアドバイス。
運気のアップの仕方等を教えてくれた。
意外にもいいアドバイスばかり。
(あれ!?なにか違うぞ!俺はこんないい話を聞きに来たんじゃない!ここは絶対に怪しい場所のはず!俺の勘がハズレたかな?)

そんなこんなで3時間経過。
(今回はまともな占い師だったかぁ)
っと、がっかりした時だった。
先生の様子が変わった。
先生『今のままじゃあなたの運勢は落ちる一方です!』
僕『...はぁ』
先生『それもこれも家庭運が安定してないのが原因です!』
僕『...そうですか?』
先生『このままではあなたの人生は駄目になってしまいます!!!私と会えてよかった!運勢には時間、時期がとても大切なんです!』
僕『...時間?』
先生『そうです!時間すなわち今この時!!!この時を逃してはいけません!私とあなたの出会いこれも偶然ではないのです!後藤さんとの出会いも偶然ではないのです!』
後藤『そうだったんですね!!!運命!!!』
先生『そう!運命!!!運命を逃しては駄目なんです。運命を逃さない為には....お金を惜しんではいけないのです!』

(....キタ〜〜〜!!!!お金の話を始めたぞ!これは怪しい!!!)

先生『運勢を上げる為にお金を投資する気持ちはありますか?』
僕『お金ですか?』
先生『はい。ここで少しのお金を出せないようなら運勢を上げるなんてできるわけがありません。その気持ちがない人は人生も成功できないんです!』

よく考えたら全然理にかなってないのだが、僕はのってあげる事にした。

僕『そうですよね!その気持ち僕にはあります!』
先生『わかりました!ではこちらをご紹介しましょう!』

先生はとある資料を取り出した。

先生『あなたは家庭運が低いですから、まずは家庭運を固めて安定させなければなりません。その為にはいい印鑑が必要なんです!今あなたはどんな印鑑を使っていますか?』
要するに印鑑を買えという事らしい!

先生『認印、銀行印、実印、印鑑は三つ必要なんです。』
僕『はい!三つの印鑑ですね!?』
先生『一本30万円!三つセットで100万円です!』
セットで100万?値段がおかしい!?

先生『三つセットで値段が上がるのは特別の小箱をお付けするからです!山梨の山奥に住んでいる能力のある方が21日間お酒を飲まず煙草も吸わず念を込めた小箱ですから、運勢が上がる事間違いありません。』
最初から酒もタバコもやらない人だったら普通の事なんじゃないだろうか?

後藤『うわ〜安いですね〜!!これで運勢が上がるなんてわきぞうさん、なんて幸運なんだろう!』
また僕の名前を間違えた。

先生『どうしますか?買うお気持ちありますか?』
僕『行ったん家に帰って考えてもいいですか?』
先生『駄目です!今決断しないと全てが無駄になります。ここで決めて下さい。』
僕『う〜ん。でもお金がないしなぁ...』
先生『ローンで大丈夫ですよ!』
僕『生活が厳しくなるしなぁ』
先生『運勢が上がれば、収入も増えます!』
僕『印鑑三つで100万かぁ...』
先生『特別にお香と運気アップの数珠、そして対人関係を円滑にする石もお付けしますよ!』
通販の特典の様な...

その後、僕はしばし考えるフリをして先生をじらしてやった。
僕『う〜ん、悩むなぁ。』
すると先生は立ち上がり声を荒げて言い出した。
先生『だからあなたはいつも駄目人間なんですよ!グレイな気持ちじゃ何も進まない。白か黒かハッキリ決めなさい!今ここが人生の分岐点なんです!!!』
僕『....そうですよね!僕、先生の言葉でなんか凄くスーっとしました。今ハッキリと決めました!』
先生『では?』

僕『はい!僕は...印鑑を...』
先生『うん!』
僕『印鑑を......買いません!』

先生『.....う゛ぇ!!!!?』
先生の口から変な声が出た。
そして先生は立ち上がり扉を指差して言った。
先生『お帰りください!』

見ると先生はもの凄い表情で後藤を睨んでいる。
(こんな奴を連れてきやがって、後てシバイたる!)とでも言っている様な。
後藤は下を向いたまま何も言わない。

僕は無事にその場を脱出できた。
しかし、診断料として5000円はしっかり取られてしまった。
まぁ無事で良しとするか!