December 2017

December 31, 2017

マリーンラインズで打ち合わせ

大晦日の夕方、ムンバイ・マリーンラインズの海辺にて、Reemaと打ち合わせ。駅から徒歩3分で海辺に出る。建築学部を出ている彼女は、スタジオムンバイでインターンをしていた時に知り合った日本人の友人の紹介でWAF2014が開催されたアシュラムスクールを訪れた。それからnoco2015、2016とプロジェクトを応援してくれている。今は、子どもたちのショーシャルスキルやラーニングアビリティを伸ばすプログラムを提供する財団に所属している。聡明で、思慮深い女子だ。

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2017年、最後の夕日。

「漆と絵師」展のことをプレゼンすると、とても興味深そうに話を聞いてくれた。
「友人に木工をやっている子がいて、とても興味を持つと思う。あ、そうだ、もしレクチャーを考えているのなら、SEA(持続可能な環境と建築を志す学校)や私の母校でなら可能だと思う。そうそう、そういう志持った人たちが集まるワークショップがあってね・・・あ、私が関わっているハリヤナ州の学校とコンビを組んでいる学校も面白い活動をしていて・・・もちろん、私が働いている財団ともコラボレーションできたらいいよね。」と次々にアイディアが出てくる。 彼女の故郷であるカッチ地方は手仕事でよく知られる場所で、TSOMORIRIとも縁が深い。なのでなおさら、手仕事の背景にある時間や手間の積み重ねへの理解やリスペクトを持っている。

新年の目標は?と尋ねると、
「人が集まって、お互いの話を聞ける場所を作りたいと思っているの。アルコール中毒、若者の自殺、過剰な親からのプレッシャーで無気力になってしまう人・・・生に暗闇が立ち込めている人たちが、そこから出られるような対話が出来る場所。その土台作りをしていきたい」とのこと。

デリーよりもムンバイの方が、何となく居心地がいい気がするんだけど、どう?
「人が歩いている通りが多いからじゃないかな。もちろんムンバイも自家用車での移動がとても増えているけれど、デリーよりも通りで人とかかわる機会が多い。あとローカル線が発達しているから市内の移動が楽。だから人と人が直接会って話しやすい。それもひとつの要因かもね。でも私は月に何回かムンバイから出てダハヌのようなより自然の多いところへ行きたくなるけれど」

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 最後、Reema(一番右)のお母さんやおばさまたちが集まりカッチ地方のスイーツをいただく。
スパイスがほのかにきいたスイーツが、めちゃくちゃおいしかった。

海岸沿いには新年を祝おうとする人たちで賑わっていて、街中にも人が繰り出していた。
宿の近辺でも花火と爆竹がなっていた。
インド人の友人のFacebookのタイムラインには、

希望「みんなと大晦日のパーティではしゃぐ」
現実「ベッドの中で一人過ごす」

みたいな画像が何種類か回っていて、なんかどこかで見覚えがあるなぁ、と思った。

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年越し蕎麦的なものを食べようと、チャイニーズレストランへ。
スープヌードルがあるそうなので、それを注文。一応エビ入り。

今年もこのブログに遊びに来てくださった皆さん、ありがとうございました!
2018年もウォールアートプロジェクトは一歩一歩確かに、前に進んでいきます。
ご声援、どうぞよろしくお願い致します!

okazu 

wall_art at 12:05|PermalinkComments(0)ART PLUS BLUE 

December 30, 2017

ムンバイでアートスポットを巡る

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12月29日、敏腕コンサルタントで美術教師でもあるインド人女性SabinaさんにART PLUS BLUEの話を聞いてもらっていた。場所は、Cricket Club of Indiaという、クリケットスタジアムが併設されている会員制のクラブだ。

Sabinaさんに、「漆と絵師 URUSHI to ESHI」展のために会場を探しているんです」と尋ねると、
「Sassoon Dock というところでエキシビションが開催されているみたいで、友人が面白かったと言っていたの。今朝の新聞に載っていて、たまたま写真を撮ったのよ」と教えてくれた。翌日、12月30日、足を運んでみた。

Sassoon Dockは、昔ながらの漁港の一つらしく、その場所を活気づけよう、という取り組みのようだった。それと、会場のいろいろなところで"Art For All"という言葉が目についた。主催はST+ART INDIA FOUNDATION、デリーやバンガロールなどでもこういったパブリックアートプロジェクトを行っているそうだ。

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漁港には倉庫が立ち並んでいて、その外壁に壁画が展開されていた。
その中の一つがメイン会場になっていて、部屋を使った展示がされている。インド人作家が6割、海外の作家が4割ほど参加していた。

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この漁港にインスパイアされて制作された作品が多かった。

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インド人アーティスト・Shilo Shiv Sulemanさんのオーガンザ(布地の一種)とファイバーグラスを使った作品。刺繍はアーティスト自身が書いた詩をもとにしている。時間の制約のないSassoon DockとG. Nammalvarに書かれた讃美歌からインスピレーションを受け、彼女と恋人の秘密の恋愛を言語と刺繍を用い表現しているそうだ。


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この作品は、魚を売っている港のおばちゃんたちのポートレート。オーストラリアのアーティスト・Guido Van Heltenさんの作品。
3日間、いろいろな人から話を聞く中で3人のおばちゃんたちの会話や振る舞いに感じ取ったものがあったそうだ。

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おりしも最終日だったので、来場者も多かった。特に10代〜20代の若者たちが多かった。
作品の前でセルフィーをとったり、楽しんでいる。

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階段。


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メイン会場の最上階、メキシコのCuriotさんとウルグアイのRominaさんの作品。

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Jehangir Art Galley でも思ったのだけれど、見に来ている若者たちが楽しんでいる。とても明るい空気。見方によっては、何か楽しめそうな場所、というテーマパーク的なノリで若者が見に来ているという印象もある。だが、単純なエンターテイメントを求めて、というよりも、知的な刺激を求めているような気がした。アートが好きな人々ももちろん多くいるだろうし、そんなにアートが好きというわけではないけれど、何か面白いんだよね、と感じている、というか。
アーティストたちが本気を出して描き、制作した作品に触れる機会が日常の1ページにあるということは得難いことだと思うし、作品を見る敷居を低くして、誰でも見に来られるというのはとても良いことだと思った。作品を写真で見るのと、生で見るのでは全く経験が違う。アートの裾野が広がるだろうな。

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港を離れ、街中へ。すると、牛を発見。こんな場所で珍しい。


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結構暑くて、喉が渇いたのでモーサンビージュースを飲むことに。
このおじさんは、皮をむいたモーサンビー(この果物)にちゃんと布をかけていたのでおそらく大丈夫だろうと判断。

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しぼりたて100%、1杯30RS。
砂糖をいれるか、と聞かれたけど、NO。多分、十分に甘い。


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ギャラリー、Chemould Prescott Roadへ。Fort地区の歴史を重ねていそうな建物が並ぶエリアにある。
http://www.gallerychemould.com/

L N Tallurの作品展 「smoke out」が開催中だった。smoke out は、燻り出す、という意味合いで、
作者のコメントには、「ネズミは18ヶ月間の生命の中でどんどん数を増やしていきます。私たちの頭の中にある考えや欲望も、それと同じように次々に増えていきます。ネズミたちをあぶり出すように、私たちの中にある考えや、欲望もあぶり出してみよう」、というようなことがあった。(記録に残し忘れてしまったので、記憶の内容につき、過不足はご勘弁を!)

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道中で、エキシビション後の展開を考えて、幾つかのセレクトショップを回る。
店員に話しかけ漆器の話をすると、反応が良い。持参している漆器の器をみせる。
美しい、と目が輝くのがわかる。素材としての漆や職人さんのストーリー性にも心惹かれるようだ。
「もし、当店で扱うことを希望なされるのならば、本部の連絡先を渡しますので、連絡を取ってみては」とのこと。一歩前進。自分が作ったものではないけれど、作り手の方とその背後にいらっしゃる方々のことを思うと、その反応がとても嬉しい。

少し疲れたので足を休めたかったのだが、ちょうどいいカフェがないかな〜と探していたら靴磨きやさんが。ちょうど汚れてきていたので磨いてもらう。
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ぼーっと周囲を眺める。このあたりは小さな商店が立ち並んでいる。建物の上階には人が住んでいる様子。野菜を売っている人もいる。


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ムンバイには猫が多い。

もう一軒、調べていた写真専門のスペースがあり、アート専門学校、という看板も出ている。訪れてみると、玄関にガードマンの人が。中のことを尋ねてみると、「今は展示はしていないよ」とのこと。詳しく聞きたいのだけど、と粘ると事務所の人に電話をつないでくれた。「今はアートオークションの会場になっていて、美術教育はしていないんです。火曜日に集まりがあるので様子を知りたければその時にいらしてください」とのこと。「漆と絵師」エキシビションの時に、ワークショップも企画しているので何か組めないだろうか、と思ったのだが。

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暗くなってきたので、宿へ戻る。道中、強い視線を感じだので、振り向いてみると彼らが。


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海辺の道路にて。カップルや友人同士で楽しく時間を過ごすにはもってこいの場所。


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宿の近くに、一坪(?)ショップが立ち並ぶ。これはクローズの状態。


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歩道を歩いている、スクーターに乗った女の子がヴィーンと横切っていく。
ムンバイの女の子たちは、なんかたくましい。


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満月がまたやってこようとしている。

okazu


 

wall_art at 17:57|PermalinkComments(0)出会い | ART PLUS BLUE

December 29, 2017

Amrutaさんとのミーティング

駅から降りて、タクシーに乗る。宿は決めていなかった。
タクシーのおじちゃんを見極め、この人の知ってるところに泊まってみよう、という作戦をとってみた。嫌なところだったら別のところに行けばいいし、交渉の余地があればすればいいし。
タクシー(ムンバイのタクシーはメーター制で、デリーのオートリキシャ並みかそれよりも安い、気がする)に乗って周りを見渡す。まだ午前9時頃だから、街は本格始動する前でまだおとなしい感じがする。気温の暖かさもあってか、列車移動とデリー冷えで縮こまっていた体が伸びる。
なんとなく、本当に感覚的なことなのだけれど、ムンバイは風通しがいい。
海が近いことも理由だと思うけれど、人と少し話すだけでもそれを感じる。オープンな感じだ。

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猫と遊ぶおじさん。

「漆と絵師」エキシビションのリサーチで、Jahangir Art Galleryに行ってみた。Kala Godhaという南ムンバイの中心ともいえる場所だ。現代美術館や、歴史ある博物館もある。木曜の昼間だというのに、賑やいでいた。
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展示スペースはすべて埋まっていて、興味深い作品もあった。
30代の作家のグループ展がもっとも目を引いた。チェック。

「coffee&Teaはこちら」という張り紙に従って階段を上ると、このスペースとおじさんがいた。コーヒーマシーンが置いてある。あ、そういうことね。コーヒー、15RS(27円くらい)。悪くない。

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Terrace Gallery もあって、ここが一番向いているかなと思った。中では写真展をしていて撮影ができなかったので、外観。気持ちのいい12月の日差しが降り注ぐ。真ん中にあるのは、無造作に置かれた椅子で、特に作品というわけじゃない(笑)
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街中のスナップ。この建物は何か由緒あるらしく、外国人観光客を連れた学生らしきガイドが説明していた。
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走っている車に注目。日本で走っているの比べても遜色ない。(車は詳しくないけれど)
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服、靴、本・・・露店が立ち並ぶ。中にはちょっと目をうたがうようなものも・・・・。
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道路を渡るのに、バスとバスの隙間を縫う。
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この夕方は、ART PLUS BLUE Foundationのブログを書いて、広報を担ってくれているAmrutaさんとミーティング。元気そうだ。

大学で心理学を専攻した彼女は、発達障害を抱える子どもたちの学校で教えたり、心理学を生びたい高校生くらいの子の家庭教師をしている。日本語も勉強した彼女は、WAF2013からの心強い存在だ。

ブログも精力的に書いてくれている。佐々木禎子さんについて書いた記事には、折り鶴の作り方の動画が貼られていて、それを見て作った人から折り鶴の写真が送られてきたそうだ。
「ArtとLifeを切り口に書いたものが、プロジェクトのことをうまく表現できているのか、読み手にうまく伝わるのか不安でした。でも10本くらい書いてみた今、読み手からの反応も嬉しいし、自分にとっても新しい経験で楽しんでいます」とのこと。よかった。
ブログのリンク先はこちら。日本語訳がおいついていないが、初めの5本分は日本語訳があるのでぜひ読んでみてほしい。

https://artplusblue.wordpress.com

okazu

wall_art at 15:44|PermalinkComments(0)ART PLUS BLUE 

December 28, 2017

列車でムンバイへ。その道中。

インドでの列車(電車なのだけれど、あえてこう書きたくなる)旅は、もう何十回もしているので慣れっこなのだけれど、「明日乗るのか」と思うと心躍る。それは、相席になる人がどんな人かな、とか、田舎のどこまででも広がる水平線や一瞬目に止まる人々の暮らしが想像力をかきたてるからだろう。

今回相席になったのは、もう現役を引退しているというおじいさんだった。

南アフリカに3年勤めた銀行員の娘さん家族に会いに行くという。僕が席にたどり着いた時、彼の息子さん二人が見送りに来ていた。インド列車旅の見送りは、プラットフォームで終わらない。車内の席まで荷物を運んであげたり、出発まで時間をつぶしたりする。なので、「あれ、ここ自分の席なのに」と、席が一瞬満席に見えて驚く。息子さん二人は、有名どころのマスメディア関係者だった。一番下の娘さんはシンガポールで仕事をしているそうだ。

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「自分は普通の教育しか受けなかったのだが、子どもたちにはこれが彼らの人生のためになる、と良い教育を受けさせたんだ」と彼は言った。
途中、何回か家族らしい人たちから電話がかかってきて、おじいさんは旅の経過を伝えていた。席は通路側の上下二段で、僕の席は下だったのだが、上に代わってくれないか、とお願いされた。ご老体が上に上がるのはなかなか酷な仕組みなのだ(ちなみに隣のボックス席の老人も上に行くのが困難で、下の子連れ母がその様子を見て、「子どもを上に寝かせますから、貴方はそのまま下に」と譲っていた)。

「日本人の若者と相席なのだが、彼の下の席と変わってもらったよ。彼はインドの学校でアートプロジェクトをしていて、もうインドと日本を行き来して10年になるのだそうだ。まだ32歳の若者なのだよ」と一通り僕が話したことをムンバイの娘さんに伝えていた。

僕が読んでいた日本語の本も面白そうに眺めていた。右から左に、上から下に読むのは奇異に映るだろう。そういうちょっとしたことから仲良くなれる。ボックス席の少年少女も興味を持っていた。グジャラート語を話していた。

列車旅は、16:30〜8:45の約16時間、1385kmだ。上の席の天井にはクーラーが付いていて冷風が出ている。

そうだ、このことを忘れていた。冷風が直で当たるのだった。
虫の知らせがあったかのように、ムンバイに行くというのになぜかセーターを着たままにしていてよかった。
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 狭さはまぁ寝袋に寝ていると思えばいいのだけれど、一晩中(たまに途切れる時もある)吹き付ける冷風はキケンキケン。
 インドの列車は24時間走っているので、目的地着が午前4時、5時はざらだ。なので、「今何時だ?!」と瞬間的に目覚める癖が付いている。「次は〇〇〜、その次の停車駅は⬜︎⬜︎〜」なんてアナウンスはもちろん、掲示さえもどこにもでない。スタッフに聞いたり、窓の外を凝視したり自分で情報を取りに行かなければいけない。

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ムンバイ近郊。線路の脇に、バラックが。その陰にはレンガ・セメント製の家があり、その奥にはビルがある。
いずれにも人が暮らしている。

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Mumbai Central 駅。風が暖かい。日の光が差し込んでくる。
縮こまっていた体がよく伸びる。
プラットフォームに降りると、おじいさんの娘さんと孫が迎えに来ていた。
ふむ、銀行か。
と、僕はとあるアイディアを抱え、雑踏へ踏み出した。
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okazu
 



December 26, 2017

okazu通信 第56号 「バナナ売りの少年」をシェアします

Wall Art Project 応援団の皆さんへ。
インド農村部の学校を舞台に芸術祭を開催してきたWall Art Projectからのお便りです。現地コーディネーター・okazuが現地で活動する中で出会う人、もの、見たこと、聞いたこと、感じたこと、それらを伝える“okazu通信”。日本でのWAP報告会や、展覧会などの情報、プロジェクトの想いをお伝えする“わふわふNEWS”。Wall Art Projectがこの世界で巻き起こしていく活動のすべてを見守ってください。
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okazu通信 第56号 「バナナ売りの少年」

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「おい、にいちゃん」と呼ばれ脇を見ると、バナナが山盛りになった荷車のふちに手をかけた少年が、バナナを指差している。買ってけよ、という目力にとらわれる。隣にいた人がバラで買っていたので、「2本くれ」と言うと「20ルピーだ」。別の客の「20ルピー分くれ」、というリクエストには4本くらいを袋に詰めている。なんだかおかしいなと思ったけれど、そのときの僕にツッコミを入れる元気はなかった。風邪をひいていた。

 デリーに来て5日目の月曜、それは喉の違和感から始まった。毎日ART PLUS BLUE Foundationのプレゼンで外を移動していたので、デリーの大気汚染の影響かなぁ、と思いつつ、まぁマスクでもして気を付けようと、郵便局や銀行、工房を回っていた。プレゼンは好評で波に乗ろうとしていた。午後4時頃、あれ、何かが・・・と違和感を覚え宿へ戻った。そして夜から熱と頭痛と咳が出はじめた。冬のデリーは意外と寒く、底冷えがする。建材がレンガ、セメント、石だからどんな建物に入ってもうすら寒い。この「デリー冷え」と大気汚染とインドのワサワサ感に2ヶ月半日本にいた僕の免疫力がついていかなかったのだろう。

 翌朝、予想通り悪化する体調に午前はグロッキーになっていたが、このままではいけないと、割とちゃんとしたごはんを出してくれそうなレストランへ行く。(旅行者向け宿街にいるのであくまで割と)真っ先に頼んだのは、レモンジンジャーハニーだ。温かいお湯にレモン汁と刻んだ生姜とハチミツが入っているドリンクなのだが、インドで体調が良くないときはこれを飲む。まず飾りでグラスについているレモンを絞り、その輪切りを口に含む。・・・あぁ、この酸味が欲しかった。本体をスプーンで混ぜ、すくって口へ運ぶ。熱い。でも止まらない。喉の渇きが徐々に潤っていく。やたら美味しいので、お代わりをし、店を出る。自分の代謝回路に燃料を投入し、よしよしこの調子で体内の悪い細菌を熱で追い出してやる、フフフ、と思っていたところ、バナナ売りの少年に呼び止められ、バナナを買ったわけだ。

 水曜、この日は大事なアポイントがあったので絶対に治してやると気合を入れて寝たのだが、回復したのは50%だった。だるさで動きたくない。熱は上がったり下がったりを繰り返している。汗をかきすぎていて着替えのローテーションが間に合わない。ベッドの脇に昨日買ったバナナが見えた。藁にもすがる思いで、バナナの皮をむき、頰張る。うまい。うまいぞ、少年。甘さの奥にある酸味は村で食べる野生のバナナに近く、食感もふにゃっとせずしっかりしている。二口目、三口目と進み、あっという間に2本平らげてしまう。するとどうだろう、15分後、力が湧いてきた。相変わらず頭痛に寒気はするが湯浴みをしようという気力が出てきた。さっぱりして、調べてみると、バナナは風邪にいいらしいということがわかった。体を冷やしそうだなと思っていたのは僕の先入観で、バナナはどんな時でも元気をくれる心強いやつだった。少年よ、あのとき声をかけてくれてありがとう、と思いながら、同じレストランでレモンジンジャーハニーを頼む(ウェイターのおじさんはもう僕が何を頼むか承知してます、的な表情だ)。すると「フルーツヨーグルト」が目に止まった。なんのフルーツか尋ねたところ、バナナとリンゴとパイナップルというまさに僕が探し求めていたものたちだった。出てきたヨーグルトは2人前くらいの量だったが、ヨーグルト、フルーツがそれぞれ新鮮だったのか、とてもおいしい(インドではヨーグルトは大抵新鮮だ)。

 帰り道、バナナ売りの少年のところでバナナを3本買う。25ルピーだという。ははぁん。よく見ると、バナナの大きさや質が少しずつ違う。値段もそれに応じた設定なのだろう。僕のことを覚えていたのか、表情が柔らかかったので「出身はどこ?」と聞くと、「デリー」だと言う。「父さん、母さんは?」「U.P(ウッタルプラデーシュ州=デリーの東隣)」顔つき的に、そんな感じがした。自慢じゃないが僕はU.Pの人とさらに隣のビハール州の人を何千人と見てきている(誇張ではなく本気でそのくらいの数の人と目を合わせてきている。何せあっちから穴が開くくらい見つめてくるので)からなんとなくその特徴を感じることができる。ということは僕のヒンディも割と通じやすいはずだ(ビハール州で会得した僕のヒンディ語には訛りがある)。「学校には通っているの?」「いってるよ。だからお金の計算ができるんじゃん」なるほど。「にいちゃんはモントゥ(お坊さん)?」「いや違うよ」とても意外な質問だった。「どこに住んでんの?」「日本とムンバイのあたり」「ムンバイ?あぁボンベイね。ふーん。」別の客が来て会話が途切れる。

 食べるものを食べて得た元気を振り絞り、プレゼンの準備を整え、アプリを使ったタクシーサービスUberでアポイントの場所へ。ドライバーは中堅どころといった風貌だ。窓を開けていたので、閉めてくれるように言う。喉にこの空気はダメージが大きい。ふぅ、と思ったのもつかの間、車内がやけに暑い。暑すぎて、汗が大量に出てくる。サウナにいるのと大差ない。暑さの正体は単純に窓から差し込むデリーの午後の光。低い位置からじりじりと地上を照らす光は寒いときには安らぎの暖かさとなるのだが、今はいかんせん、暑い。ドライバーの首筋も光っている。だが、環状線を走る今、外の空気は吸いたくない。上着を脱ぎ、耐え切った。タクシー移動も一筋縄ではいかない。きれいな空気って大事だとしみじみ思う。大事なものは、失くしてから気づく。

 プレゼンは、インドの現代アートの支援をする財団FICAへだった。2010年当時から、インドのアート好きな人たちへ僕らの活動を発信してくれたり、インド・アートの最先端の指針を教えてくれる。ART PLUS BLUE Foundationで取り組んでいきたい事業について伝えると、「このアートのワークショップは、デリー州政府の教育省も興味を持つんじゃないかな。今、義務教育の充実にも比重が置かれているから」。なるほど、その方向性は考えていなかった。教育者たちとのアートワークショップにも積極的に取組んでいるFICAならではの意見だ。アプローチ先がまた一つ増えた。その時僕の頭に思い浮かんだのは、バナナ売りの少年だった。彼が通っているというのが公立校かどうかは分からないが、彼のような立場の子が公立校に多いことには違いないだろう。僕は空想した。彼が他の子たちと教室におり、その壁に壁画を描くワークショップに参加しているところを。それができたとしたら彼の記憶に一色の色が加わるだろうと。かつてN.S.ハルシャさんは僕たちに言った。「世界中の子どもたちがアーティストを待っている」。

 翌日、また少年のもとへバナナを買いに行った。ほんとに学校に通っているんだろうかという疑問は、まぁ日本にもそういう時代ってあっただろうし、と思い、これとこれとこれ、と美味しそうなものを3本指定する。「15ルピーだ(小ぶりだから)。」20ルピーを渡す。胸元を探る少年。お釣りがないから、ともう一本追加された袋をぐいっと渡された。手には僕よりも多くの皺がある。なかなか商売上手じゃないか。この強引さがインドで生きる強みなのだろう。見習わねば。少年は言った。「ねぇ、あそこに座っている女の人の写真、撮ってよ」「なんで?」「え〜・・・(照れるようないたずらっ子な笑顔)」思春期だな、うん。僕はこのバナナで冬のインドで動くための免疫力を強めるとするよ

okazu


☆**☆**☆わふのこNEWS☆**☆**☆
2017年、終わろうとしていますね。今年も一年、お世話になりました!2018年は7月に活動10年目が始まります。今後とも、ご声援をどうぞよろしくお願いいたします!
okazu@インドで年越し。

!速報!
世界を変える人になるための私塾シーズン3  勉強会 第2回
「ウォールアートプロジェクトとはなすお金にまつわるはなし」


資本主義の「そもそも」、右肩上がりを目指すのではない経済のこと、「TSOMORIRI」を通じて見えること、など俯瞰してみる視点と、足元から見る視点の両方からお金のことをみなさんと話したいと思います。

【とき】2018年2月24日 午後5:30 ~ 午後7:30
【ところ】いな暮らし(〒206-0811 東京都稲城市押立1744−46
【参加費】有料(インドご飯付き)*詳細は後日発表します。
☆同時開催:早春のツォモリリ展 午前11:00〜
早春の日々にぴったりなインドの手仕事ものを展示販売します。

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ウォールアートプロジェクト 2017年度

【助成】ポーラ美術振興財団 国際交流基金 東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京(アースアートプロジェクト in ラダック2017)

【協賛】貝印株式会社 株式会社コンピューターシステムハウス Blue Bear Inc. kai manufacturing India pvt. ltd. 

【協力】KOKUYO CAMLIN (アースアートプロジェクト in ラダック2017)

【後援】日印友好交流年記念事業認定(アースアートプロジェクトinラダック2017、第2回世界森会議)

WAP応援団2017 2017.12.27 現在

藤岡南中学校 星フミ子 林原裕子 角川真穂子 山崎春美 ツツミエミコ 山川真実 江川雄一 関口泉 田中鴻介 橋本琉ノ介 るつこ 諸戸里帆 石永仁子 田枝麻美 北辻ファミリー 市橋晴菜 細井藍子 工藤亜矢 枝元なほみ 唐沢絵美里 笹原花音 南加絵 大崎健太郎 高津友美 益田玲 ブーヴィエやよい 柴田風也 水野絵菜 猪瀬透 楠ファミリー Mariko Tanaka 真理 Maki Ohkojima SuiAyako 松岡亮 おりょう みえ 上條美香 柴辰夫 内野友稀 八木由紀子 一田萌里 S&R&H 香川大介 河鍋春恵 本田啓之



wall_art at 12:53|PermalinkComments(0)子どもの姿 | 出会い

December 16, 2017

12月、デリーの夕暮れワンシーン。

デリーのQutab Minar駅の夕暮れ。
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のぶた。


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フゴフゴお腹が空く時間?何食べてるのかな。


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こちらもおやつの時間。


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冬の風物詩・石焼き芋。


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「にいちゃん、にいちゃん、こっちの写真も撮ってよ」


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近くのATM。「あ、ここでお金おろせる」と思ったら、よくあるパターン。

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世界遺産のクトゥブ・ミナール。
塔の一部に錆びない金属が一部に含まれている。

okazu 

wall_art at 17:55|PermalinkComments(0)たべもの 

December 13, 2017

デリーに着いた夜

デリーに着いた夜、1食目をどうしようとタクシーで宿に向かっている間じゅう考える。
思いついたので、久しぶりに話すヒンディ語の肩慣らしをせねば、ということでタクシードライバーのおじさんに話しかける。
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O「最近デリーはどうですか?」
D「三日前に雨が降って、木々に積もっていた砂埃が地面に落ちて空気が少し澄んだよ」
O「(もうちょっと掘り下げてみたい)ご出身は?」
D「U.P州(ウッタル・プラデーシュ州)の州都ラクナウから29KM離れたところにある村だ。デリーに住んで15年になる」
O「当時と今で、何か違いがありますか?」
D「物価が上がっているね。同時に車の数も増えている。見ての通りの渋滞だ。まぁここはインドの首都だからな、各州から車がやってくる。GST(全国共通の新しい税制)も始まったな。今はまだ少し混乱しているけれどじきに落ち着くだろうさ。俺が感じているのは『インドとして一つになろう』という雰囲気でなくなってきている。(乗り合いになった後部座席に座っている女性に)おばさん、気分を悪くしたらすまんね。これまでにできた道路や経済的な発展の影には、ヒンドゥ教、イスラム教、シク教、仏教、ジャイナ教、いろいろな違いを持つ人々が一つになって、互いを認め合いながら進んできたということがある。だが、今はその風向きが変わっている。他国との協調ももちろん大事だが、国内での協調を優先しなければいけないのではないのだろうか・・・」
と、自論を30分ほど熱く展開。思うことがあるのだろう。
後部座席に座るムンバイから来たという女性も同意していた。
宿について、降り際に名前を聞く。彼はムスリムだった。

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おじさんとの会話を振り返りながら、宿近くの大衆食堂へ。
ジーラライスとパニールマサラ。170RS=約316円。 
チリパウダーも入っているとは思うけど、辛味の大部分は刻まれたグリーンチリ(青唐辛子)だった模様。
さて、明日は大きなプレゼン。

okazu 

wall_art at 18:41|PermalinkComments(0)出会い | たべもの

December 07, 2017

中川十内写真展「風に吹かれて」レポ

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西麻布の"gallery EM nishiazabu”にて開催中の中川十内写真展「風に吹かれて」へ。
galley EMでは、モノクロ写真のドゥンムリ村29の家族の肖像写真が展示。

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盛り上がる中川十内さんとWAP代表おおくにあきこ

galley EMにはこれまで100人の来場者。
昨日まで同時開催されていたgallery 403ではカラー写真の展示。
250人の来場者があったそうだ。
すごい!
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11月27日のGallery 403でのオープニングにうかがった時の写真。第一線で活躍する、元十内さんの歴代アシスタントの方々と。

十内さんは、ほがらかで飄々としているお人柄なのだけど、シャッターを押す瞬間、獲物を逃さないような気迫を感じていたことを思い出した。
gallery EMで展示されているモノクロ写真は、デジタル写真のデータをネガ化し、ゼラチンシルバー印画紙に印刷されている。モノクロ写真の魅力をズドン、と直球で受け取った、そんな美しさだった。それは被写体の力強さとの相乗効果だったのだと思う。大地と暮らしている人々だから。

「十内さんは、写真家という枠から出て、アーティストですよね」とギャラリーオーナーであり写真家でもある竹内さんと盛り上がる。普通の写真家はここまでやらないですから、と。デジタル写真のデータをネガ化することは、とても繊細で、納得するものができるまで根気の要る作業なのだそうだ。
 
メディアにも露出していて、
「日本カメラ」
「コマーシャルフォト」
「ミセス」
「エクラ」
「Tジャパン(https://www.tjapan.jp/ART/junai-nakagawa-2017)」
で取り上げられている。
 
反応も好評とのことで、とても嬉しい。両会場、作品たちが順調に旅立っていっているとのこと。
それは、東京での生活にないものが十内さんの写真にあって、空白だった場所にピースがはまった、ということではないだろうか。

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中川十内写真展「風に吹かれて」ドゥンムリ村29の家族の肖像
【会場】gallery EM nishiazabu 港区西麻布4-17-10
【会期】12月16日まで
【時間】12:00 - 18:00
【休廊日】日曜、月曜
【電話】03(3407)5075

*収益の一部は、ウォールアートプロジェクトの活動資金として寄附されるチャリティエキシビションでもあります。
 

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