時代設定は中世だろうか。それともずっと未来の話ともとれる。舞台はかつて戦場であった「呪われた大地」シェーラカーン半島。
現在は、かつて侵略戦争を仕掛けた側であるイシュターン帝国の領土となっている。
 いつの世も、利権の奪い合いをくり返している人間。その営みが物語の随所に表れている。

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ただし、もっとも影響力を発揮しているのは精霊の存在だ。一方では“ジン”と呼ばれ、また一方では“パナ”と呼ばれている。その精霊が人々の思惑にどう関与してくるのか。物語は第一話からにわかに動き出していく。

 見どころは次の3点だ。

 1点目は、主人公の少年ラズリと友人(?)の女の子ネルの存在である。

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ラズリは自由奔放で快活だが「よそ者」と呼ばれていたり、呪術の心得がないなど立つ瀬がない場面が目立つ。一方でネルは、若くして呪術師になれるほどの才能と、精霊や呪術への豊かな知識を持っている。子どもからは羨望の眼差しだ。
 対照的な二人だが、時代を動かすのは案外前者のような存在である。そのことを考えれば、彼らがどのように物語に絡んでくるのかワクワクさせられるのも無理はない。
平凡な人間の活躍は心躍るものだ。


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 2点目は、イシュターン軍の存在だ。彼らがラズリらの村に訪れた目的、そして「勇者狩り」が何を指すのかはまだ謎であるが、軍の中にも呪術師が存在するなど、「呪術×呪術」の構図が垣間見える展開となっている。先の大戦で猛威を奮った“ジン”とも何か関係があるのだろうか。そしてラズリとネルが見た金髪の女性(?)の正体は。
 序盤から伏線が多くて食傷気味になってしまう方もいるかもしれないが、丁寧に読みこめばその世界観に惹かれることだろう。キャラクターの豊富さもまた魅力のひとつである。

 3点目は、物語を覆う人間模様だ。基本的に子どもは大人に対して無力だが、そこに呪術や魔法のようなものが絡むとその構図は短絡的な強弱ではなくなる。

物理的なパワーに匹敵する、あるいは凌駕するだけの力が呪術にあるなら尚更だ。その力をズル賢い大人たちがどのように利用するのか。策謀渦巻く攻防が期待できる。

 また、呪術師を前にして呪術を使えないものはどうやって立ち向かっていくのか。その方法論も気になるところである。前提として、主人公は呪術を使えないことになっている。
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 蛇足だが展開を予想するなら、物語は「呪術の無い世の中」へと進んでいくのではないか。まるで、現実世界で言うところの「核の無い世界」を人々が目指すかのように。
もちろん、それを先導するのはラズリとネルである。未来を切り拓くのは、いつの世も子どもたちなのだ。

 最後に絵について。濃いブルーとオレンジが特徴的で、目に優しく、読んでいて飽きない。コマ割りが分かりにくい嫌いもあるが、好みの問題だろう。また、登場する女の子がとにかく可愛いのは特筆すべき点である。

 

  署名:フリーライター 山中 勇樹

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