【登場人物】

金山欲男 大王金融 社長
黒腹銀造 大王金融 営業マン

貧獄小太郎 倒産寸前の自営業者


【物語】

資金繰りがつかない貧獄小太郎
やむにやまれず、大王金融をたずねた。

黒腹:ようこそ大王金融にいらっしゃ〜い。
   ブラックOK、即日融資
   他店で断られた方、大歓迎

貧獄:あ、あのぉ、10万円ほど借りたいのですが。

黒腹:どれどれ、あんた、今どれぐらい借りてるの?

貧獄:え、えーと、12社で300万ちょっとです。。。

黒腹:(コイツ、終わっとるなぁ)
   じゃ、8万円渡すから、10日後に10万円を
   返してもらうよ。

貧獄:えっ、10万円をお借りしたいんですが。。。

黒腹:あぁ、うちは利息を先にもらう方式だから。
   あんたに貸すのが10万円。
   んで、8万円渡してぴったりや。

貧獄:お願いします。あと2万円、どうしても必要
   なんです。
   なんとか10万円、今、欲しいんです。

金山:おい、黒腹。別枠であと2万円渡してやれ。
   別枠だから、10日後に3万円の返済や。

黒腹:社長、さすがにそれ危ないんと違いますか。

金山:いざとなったらアイツを銭黒金融に行かせて、
   ウチに返させれば、エエってことよ。

黒腹:しかし、こいつ夜逃げするかもしれませんぜ。

金山:おう。そしたら、貧獄さん。
   あんたには念書を書いてもらおうか。

「私、貧獄は、大王金融に対し、時効を援用することは
一切いたしません。誠心誠意、全額を返済いたします
                 貧獄小太郎(印)」

金山:ええか。太陽は東から昇って西に沈む。
   借りた金は返す。これが世の法則や。
   あんさんしっかり気張ってや。

――――――――――――――――――――――――――
しかし、案の定、返済日を前に貧獄は夜逃げ。
そして、5年の歳月が流れた―。
――――――――――――――――――――――――――

黒腹:やれやれ貧獄さん。やっと見つけましたでぇ。
   ほな、5年前の借金、全額、返してもらいましょか。

貧獄:しょ、しょっ、商事時効は5年で完成ですから、
   時効を援用させていただきます!

黒腹:ふん。そんなこったろうと思ったよ。
   あんたに時効を援用しないって念書を書かせたの
   忘れたかね。

貧獄:そ、そ、そんな念書、無効のはずです。

黒腹:なにぃ、貴様

【過去問】
 時効の利益は、時効完成後にこれを放棄することは許されるが、時効完成前にあらかじめこれを放棄することは許されない。(H7−28)
【解説】

正解「○」

貧獄:時効完成前は、時効の利益を放棄できないって
   ことで、本当にいいんですね。

さくら:はい。
   時効の利益は、時効完成後は放棄できますが、
   時効完成前に時効の利益を放棄することはでき
   ません(146条)。
   そうでないと、お金を貸す人が、借りる人の窮状に
   付けこんで、無理やり時効の利益を放棄させて
   しまうおそれがあるからです。

貧獄:まさに、その通りです。
   あのときお金を借りるには、時効が完成しても
   援用しないという念書を書くしかなかったんです。

さくら:でも、それは時効完成前に時効の利益を放棄する
    というものですから、その念書は無効です。

貧獄:あー、これで本当に助かります。
   5年間、必死で逃げた甲斐がありました。

さくら:債権者と債務者のいずれかが、商行為として
    行ったものであれば、「商行為によって生じた
    債権」として、5年で時効が完成しますからね
    (商法522条)。

貧獄:やっと、これで借金から開放されました。
   人生、晴れて再出発です


【条文】

(時効の利益の放棄)
民法第146条 時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。

(商事消滅時効)
商法第522条 商行為によって生じた債権は、この法律に別段の定めがある場合を除き、5年間行使しないときは、時効によって消滅する。ただし、他の法令に5年間より短い時効期間の定めがあるときは、その定めるところによる。