【登場人物】

ショネル:ブランドショップ
和泉ポン子:女優

【物語】

ポン子:あらぁ、このバックいいわねえ。

ショネル:大変申し訳ございません。
     こちらは売約済みになっておりまして、
     来月には1点だけ日本に入荷する予定で
     ございますが。

ポン子:じゃ、それ買うわ。
    入荷したら取りに来るから連絡頂戴よ。
    支払いはさ、今度、取りに来たときでいいわね。

ショネル:はい、かしこまりました。


1ヵ月後、商品が届いたので店員がポン子に連絡すると…。


ポン子:今さ、ロケ中だからさ、あんたとっておいてよ。

ショネル:はい。ちなみに、いつごろお見えになれます
     でしょうか。

ポン子:あんたね、女優がロケやってるんだから、
    ロケが終わってからに決まってんでしょ。
    ぐだぐだクダラナイこと聞かないの。

ショネル:…これは失礼致しました。
     では、お待ちしておりますので。
     よろしくお願い致します。

しかし、2ヶ月たってもポン子は店に取りに来ない。

ショネル:和泉様、ご注文のバックをお取り置きして
     おりますが、あと2週間以内に、ご来店
     されないようでしたら、ご契約を解除させて
     いただくことになりますが。。。

ポン子:はぁ、契約の解除
    あんた、商品も渡してないくせに、いきなり
    契約の解除ってどういうことだい。
    商品さえ渡してくれれば、代金は即刻支うよ

ショネル:私どもといたしましても、いつまでもお取り
     置きできませんので、今、口頭でご提供させて
     いただいた次第でございます。

ポン子:へっ?
    口先だけで商品を提供したって言うのかい。
    おまけに解除するってどういうことだよ。

【過去問】
 取立債務の場合には、弁済の提供は、債務の履行に債権者の行為を要する場合なので、口頭の提供で足りる。(司H4−39)
【正解】「○」

【解説】

ポン子:あ〜ぁ。
    いったいどうなってるんだか、さっぱりわかん
    ないわ。

さくら:ポン子さんは、入荷したらお店に取りに行く
    ことになっていましたから、ショネル店が
    ポン子さんに対してバックを引き渡す債務は、
    取立債務ということになりますね。

ポン子:そうだよ。それがどうした。

さくら:取立債務は、債務の履行について債権者の行為
    が必要ですから、弁済の準備を通知し、受領
    催告をすると、弁済の提供をしたことになります
    (口頭の提供、493条但書)。

ポン子:でもさ、店員は「提供します」って言ったわけじゃ
    なくて、「解除させていただくことになる」って
    言ってきたんだよ。

さくら:口頭の提供と契約の解除の催告と一度に
    やったってことです。

ポン子:ショネルのやつ、随分と手を抜いてきたわけだ。

さくら:ここは詳しく説明しましょうね。
    代金の支払いと商品の引渡しは同時履行の関係に
    ありますから、ショネル店が履行遅滞を理由に
    契約を解除するには、弁済の提供をして同時履行
    の抗弁を封じる必要があります。
    そして、形式論をいえば、口頭の提供によって
    代金支払債務が履行遅滞となったところで、
    相当の期間を定めて催告すれば、契約を解除する
    ことができる(541条)、ということになります。
    しかし、判例は、口頭の提供と解除のための催告
    一度にやって構わないとしています。
    口頭の提供と解除するための催告を別々に要求
    しても二度手間になるだけですからね。

ポン子:ふん。
    こっちもあの店には二度と行きたくないね。


【条文】
(弁済の提供の方法)
第493条 弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。

(履行遅滞等による解除権)
第541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。